インフィニット・ストラトスの世界にうまれて
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番外編 乙女の矜持 その一
時は西暦千五百五十二年の秋。
この頃の日本は群雄割拠の戦国時代。
数年後、尾張の隣国美濃を手中にし天下布武を唱えることになる織田信長が、父信秀が死去したことにより織田家の家督を継ぐことになって間もなくの頃――などではなく、今は一風変わった演劇のシンデレラやらファントムタスクの襲撃事件が起こったあの学園祭の日から数日が過ぎたとある日の昼休み。
俺は一夏を昼食に誘うため一年一組を訪れていた。
一組の教室を覗いては見たものの一夏の姿はすでになく、仕方がないので俺は一人で食堂へと足を運んだ。
食堂についた俺は、今日の昼食にと選んだラーメンをカウンターで受け取り空いた席に腰かける。
一夏はいったいどこにいるんだろうな。
今日は屋上あたりで女子の手作り弁当でも食べているのか? 羨ましいヤツめ、などと思いながら自分の目の前に置いてある湯気を立てる熱々の琥珀色をしたスープの中に浮かぶラーメンの麺を何本か箸でつまみ上げた。
「アーサー、なんで一人で飯食ってんだよ。俺を誘えばよかっただろ?」
なんて声が聞こえてくる。
後ろを振り返るとそこには昼食が載ったトレイを両手で持つ一夏とシャルロットの姿があった。
「俺もそう思ったさ。一夏に声をかけに一組の教室に行ったんだが、一組の教室に一夏の姿はなかったからな。だからこうして食堂で一人飯してんだろ」
「なんだそうなのか。そりゃあ悪かったな」
一夏は軽く謝りながら俺の隣に座ると、
「今日は暇か?」
と聞いてくる。
「暇といえば暇だな。今日はなにかあるのか? 俺に暇かと聞くくらいだから……なんか用事があるんだろ」
「ああ。アーサーに手伝って欲しいことがあるんだ」
一夏のこの一言がすべての始まりだった。
この日の夜、俺は埠頭にある港湾施設、いくつもの輸送用コンテナが積み上がった場所にいた。
「アーサーまで来ることはなかったんだよ――」
なんてことをシャルロットは言っているが、ここまで来てそんなことを言わないでくれよ。
「それに一夏なんて、最近ファントムタスクに襲われたばかりなのに」
シャルロットはそう言った後、心配そうな顔を一夏に向ける。
「だからって、ISの試作装備の護衛任務をシャルロットだけに押しつけるわけにいかないだろ。なあ、アーサー」
俺は暇なら手伝ってくれとしか言われてないぞ? 気がついたらこの場所にいたという状況だ。
子供のお使いじゃないんだから、なにをするのかくらいは俺に話してくれてもよかったんじゃないか? まあ、単に一夏が俺に話し忘れただけだろうとは思うが。
「まあな。でも、ISの試作装備の護衛任務と言ったって、なにかあっても俺のISって遠距離射撃型の装備だろ? こんなコンテナだらけの港湾施設じゃ融通が利かない。なにかあったとしても俺は一夏たちの援護にまわるからな」
俺の言葉を聞いたシャルロットは頭を縦に傾けた。
こんなことを話しながらも俺たちはハイパーセンサーで周囲を警戒していたんだが、前振りも、前触れもなく、唐突に爆発音が俺の耳に届く。
「なんだ?」
と一夏。
俺は爆発音がした方角へと顔を向けた。
爆発のあった場所は港湾施設のほど近くにある倉庫街。
ハイパーセンサーで警戒していたが、爆発のあったあたりは動く物の反応がなかった。
ということは、事前に仕掛けられた時限式の爆発装置の類かもしれない。
オレンジ色の炎とともに黒々とした積乱雲のような煙が空に向かってたかだかと舞い上がっていた。
俺たちは埠頭に停泊しているコンテナ輸送船の周囲の見晴らしのきく操舵室の上でISを装備した状態でいたが、IS三機では対処に困る事態も起こりうるだろうと俺たち以外にも銃を手にした十人程度の人間も地上で警戒にあたっていた。
その人間たちがコンテナの間を縫うようにして爆発があった方角へと走る姿が確認できる。
それを見たからなのか一夏が、
「俺も見てくる」
と言ったがシャルロットに、
「ちょっと待って」
と止められた。
ハイパーセンサーに反応。
金網の柵で仕切られた港湾施設の敷地外、倉庫街の道を箱つきのトラックがこちらに向かって猛然と突っ込んでくるのが見える。
トラックを目視できるくらいだから、俺の位置からそう遠くはないだろう。
せいぜい数百メートルといったところか。
ここまで近づかれるまで気づかないなんてハイパーセンサーに異常でもあるのか? それとも、まさかとは思うが、あのトラックはステルス仕様なんじゃないだろうな。
実際、あのトラックがステルス仕様なのかは解らないが、ISの試作装備があるこんな場所に襲撃をかます連中だ、トラックになにか対策をしていたとしても不思議はないだろう。
トラックはブレーキをかけることなくそのまま直進、金網の柵を突き破り港湾施設へと侵入した。
しばらく敷地内を走っていたトラックだが、ようやく停車したかと思ったら今度はトラックの箱が開き出す。
見れば、箱の中には二機のISが載っているのが確認できる。
ラファール・リヴァイブに見えるそれはトラックから港湾施設の敷地へと降り立ちあたりを警戒し出す。
この様子を見た一夏がいくぶん小さめの声で、
「何者だ?」
と言っている。
「国籍、識別コードがない」
とシャルロット。
「いくぞ、シャルロット、アーサー」
「OK、一夏」
「了解。俺は一夏たちとは離れた場所に位置する。そこで他に侵入者がいないか警戒しつつ援護する」
「ああ」
「うん」
二人から短い返事が返ってきた。
俺が一夏とシャルロットとは少し離れたコンテナの上に陣取ると、間もなく二機のラファール・リヴァイブが一夏たちと戦闘を開始した。
ラファール・リヴァイブはマシンガン系の武器を装備しているらしく連続した発射音が聞こえてくる。
が、戦闘といっても俺はあまり不安を感じてはいない。
シャルロットのIS操縦技術はIS学園の中でも指折りだろう。
それに加えて、一夏は物覚えが良いこともありIS操縦技術がメキメキと上達しているしな。
もっと言えば、今回は俺にとって不測の事態ではないということもある。
今俺が目にしている光景は、アニメ第二期六話のシャルロットのおパンツが消える話だろう。
であるなら、戦闘は一夏たちが襲撃者を制圧し終了するはずだ。
ただ問題があるとすれば戦闘終了直前に起こる爆発に巻き込まれるとISが展開出来なくなったり、おパンツが消えるなんてハメに陥りそうだが、結果が解っているんだ、なんとかなるだろう。
シャルロットが侵入者のラファール・リヴァイブの一機を上手く空中へと誘き出す。
『アーサー、援護お願い』
とシャルロット。
シャルロットの実力なら俺の援護も必要ないだろうに。
戦闘中に俺のことまで気にする余裕があるのはさすがだなんて思う。
俺は構えたライフルから青白い光を放つレーザーを三連続発射。
定点射撃ということもあり命中するかと思ったが、俺の放ったレーザーはすべて交わされていた。
襲撃してきた連中は演習で使う的じゃないしな、IS相手の射撃じゃそうそう上手くは当たらないか。
『すまん、シャルロット』
『ううん、いいよ』
俺の作り出した時間などわずかなはずなのに、シャルロットはもう体制を整え侵入者のラファール・リヴァイブに向かって飛んで行く。
まるで氷上を優雅に舞うスケート選手のような動きを見せるそんなシャルロットを見ていると、俺は絢爛とか華麗とか表現できそうな武踏を見ている気になっていた。
一夏はどうなっているかと見てみれば、
「うおぉぉぉぉおおおおぉおぅ!!」
という気合いの入った声とともに絶賛突撃中であった。
一夏も援護してやりたいところではあるが、近接格闘型である一夏は常に侵入者のラファール・リヴァイブの近くにいるため俺の射撃の腕では今のところ援護出来そうにない。
周りはコンテナだらけだしな。
護衛しているはずの試作装備を俺自ら破壊しまくるのはマズイだろう。
そこで俺は、
『がんばれよ、一夏』
と声援を送っていた。
『声援はいらないから俺にも援護くれよ』
という一夏の声が聞こえた気がするが……たぶん、気のせいだろう。
気のせいだと思っていてもちゃんとライフルは構えているし狙いも定めてはいる。
一夏が相手しているラファール・リヴァイブが一夏から離れコンテナの上を飛び跳ねるようにして移動する。
俺の位置からは遠ざかる感じだ。
コンテナは全部が全部同じ高さに積んであるわけではない。
だから、積んであるコンテナの高さより上、背後に空が見えるあたりまで飛んだ瞬間、俺は引き金を引いた。
当たりはしなかったが思わぬ方向からの攻撃に意表はつけただろう。
俺に注意を向けたラファール・リヴァイブは一夏の接近を許し、左側の物理シールドを一夏に切り飛ばされていた。
この展開なら早々に戦闘が終了しそうだと俺は感じた。
シャルロットにパイルバンカーで吹き飛ばされたラファール・リヴァイブは俺の近くにあるコンテナに激突、気絶でもしているのか機能を停止している。
それを見たシャルロットは地上に降りてくる。
一夏が相手していたラファール・リヴァイブの方はどうなっているかというと、捕獲出来たようだ。
一夏に頭を捕まれ観念したのか武器を手から離す。
手から離れた武器はアスファルトの敷かれた地面へと落ち、武器は重厚な音を周囲に響かせた。
ホッとしたのもつかの間、シャルロットが倒したはずのラファール・リヴァイブが再び動き出す。
銃を構えたラファール・リヴァイブ。
銃口はこちらに向いているように見えた。
おいおい、冗談じゃないぞ。
このままここでじっとしていたら俺の足元で爆発が起きるのか? そんな現実ありえねえと俺は思いたかった。
『シャルロット、そこから離れろ!』
俺は咄嗟に叫び、すぐさまコンテナから離れシャルロットの元に飛んでいく。
俺の声でなにかを感じたのだろう一夏も動き出す。
ラファール・リヴァイブの放ったいくつもの弾丸が足元を通り過ぎるのが見える。
後ろからは弾丸がコンテナに当たり甲高い金属音が聞こえ……そして、爆発音。
シャルロットの元に到達するのは一夏の方が早そうだと感じた俺は、スラスターを吹かし軌道を修正、上空へと退避を開始した。
上空へと退避を終えた俺は、地上にいるであろう一夏とシャルロットを探す。
「二人は大丈夫なんだろうな?」
空中で静止し爆発のあったあたりを眺めながら俺はそう呟いていた。
結果だけ言えば一夏もシャルロットも無事だった。
事後の後始末をしている時、俺のそばにきたシャルロットが、
「ボクを庇おうとするなんて思わなかった」
なんて言っていた。
「一夏の方がシャルロットとの元に着くのが早そうだから上空に退避したけど、俺の方が早かったら庇っていたと思うぞ」
なんて言ったら、シャルロットはちょっと意外とでも言いたげな顔をする。
今まで俺はシャルロットにどんな男子だと思われていたんだ? 死地に女子を置き去りにして逃げるような男子だと思われていたんだとしたらさすがの俺でもヘコむぞと思っていた。
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