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統一されたが

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第三章

「ここと同じくな」
「ドレスデンもかなり復興してきたわね」
「ああ、けれどな」
「それでもね」
「全く、何時かまたな」
 西の方を見て言うオスカーだった、彼もそうしたのだ。
「兄貴と会いたいな」
「今は無理でも」
「フランクフルトにも行きたいな」
「そうね、またね」
「俺達が生きている間は無理か」
 彼もこう言うのだった。
「統一は」
「それはもうね」
「無理だな」
「出来るとは思わないわ」
「そうだろうな、けれど俺達の後は」
 その後の世代は、というのだ。
「またな」
「一つになりたいわね」
「昔みたいにな」
 彼も心からドイツの再統一を願っていた、これはドイツ人達にとって切実な願い、まさに悲願であった。だが。 
 時代は無情だった、冷戦は続きベルリンも東西に分かれたままで。
 ベルリンの壁が敷かれ東西ドイツは言い合いを続けていた、だがそれがだった。
 西ドイツにグラントが出て対話路線に切り替えて下地が出来た、やはり彼等は同じドイツ人であり冷戦の間対峙していても干戈を交えてはいなかった。それでだ。
 対話は出来た、そうして余計に再統一を望む様になっていた。
 西ドイツは西側で最も豊かな国になっていた、東ドイツは東側の優等生と呼ばれる様になっていた。彼等は双方の欧州における柱になっていた。
 それ故に余計にだった、彼等は思うのだった。
「本当に何時か」
「また統一したい」
「離れ離れになった家族に会いたい」
「また一緒に暮らしたい」
「ドイツは一つなんだ」
「今は完全じゃないんだ」
 東西に分かれていてはというのだ、それはカールとオスカーも同じだった。
 それでだ、カールはオスカーへの手紙を書いて黄色いポストに入れてからだ、一緒に街を歩いてポストまで来た妻に言った。
「時代は動くか?」
「その気配はないわね」
「ああ、分裂してもうな」
「三十年になるわね」
「長いな、三十年か」
 その歳月についてだ、カールは忌々しげに述べた。
「その間ドイツも復興してな」
「豊かになったわね」
「ああ、けれどまだな」
「統一はされてないわね」
「あいつは相変わらず元気だよ」
 今手紙を送った彼はというのだ。
「こうして手紙を送ったら絶対に返事が来るよ」
「本当にいつもよね」
「ああ、けれどな」
「ドレスデンに行くのは難しいわね」
「ベルリンの壁を超えることだってな」
 東ドイツの指導者ホーネッカーが築かせたこの壁を超えることさえだ。
「命賭けだからな」
「この前亡命してきた人は何とか助かったけれど」
「射殺される人も多いからな」
「あの壁が」
「今のドイツそのものだ」
 まさに、というのだ。
「あんな壁なくなってな」
「統一出来ればいいのに」
「そうだな、若し統一出来たらな」
 その時はと言うカールだった。
「あいつと会って直接色々話したいな」
「三十年分のお話を」
「積もり積もってるからな」
 是非にというのだった、彼はオスカーが去った頃よりも豊かになっているフランクフルトで彼の妻と話した、そしてオスカーも。
 ドレスデンにおいてだ、妻に小声で言っていた。
「まあ滅多なことは言えないがな」
「そうね、何処に目や耳があるかわからないわね」
 言論統制と監視だ、彼等は東側独特のそれを警戒しているのだ。
 その警戒の中でだ、オスカーは自分の妻に言った。 
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