小出しにしていって
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第一章
小出しにしていって
早坂智秋は目立つ、何故目立つかというと。
そのルックスだ、かなりの美人だ。二重のあだっぽい目に白い顔の頬が微かに赤らんでいる。眉は細く綺麗なカーブを描いている。大きめの口の唇は厚く薄いピンクだ。長く細い髪は長く伸ばされ胸がかなり大きい。少し見ただけでは銀座にいてもおかしくない感じだ。
しかし智秋の仕事は普通のOLだ、流石に社内では膝までのタイトスカートにブラウスとベストという大人しい服装である、だが。
社内の男連中は誰もが口々に言うのだった。
「早坂さんはな」
「また特別だよな」
「綺麗だしな」
「美人だね、はっきり言って」
「スタイルもいいし」
「性格もあっさりしていて」
男前と言われる性格だ、だから女子社員の中でも人気がある。
「意外と料理上手らしいし」
「ちょっと派手だけれど」
「いい人だね」
「普通のOLなのが不思議な位に」
そこまでの美人だというのだ、しかしまだ結婚はしておらず彼氏もいない。だが彼女と親しい同僚達はこう本人に自分達だけになった時に言うのだった。
「もう言っちゃいなさいって」
「お互いいい歳じゃない」
「課長さんまだ独身だし」
「コクっちゃえば?」
「智秋だったら大丈夫よ」
「課長さんもオッケーしてくれるわよ」
「そうしたいけれどね」
智秋は色気のある声で彼女達に返すのだった。
「これがね」
「言えないっていうのね」
「中々」
「そう、こういうのってあれじゃない」
どうかというのだ、智秋自身は。
「タイミングっていうか駆け引きっていうか」
「まあね、恋路っていうのはね」
「一気呵成に行ったら駄目な場合も多いわね」
「それで逆にこけるっていうのも」
「確かにあるわね」
「私もそうしたことあったし」
「私もよ」
同僚達も言う、そしてだった。
智秋自身もだ、こう言うのだった。
「だからなのよ、今やり方を考えてるのよ」
「そう言ってもう五年だけれど」
「智秋が入社してから」
「もうそろそろいいじゃない、動いても」
「そうしても」
「まあね、私もそう思うから」
それでと答える智秋だった。
「自分でも思ってるのよ」
「そろそろね」
「動くべきって」
「さて、どうしたものかしら」
「智秋なら何でも使えるじゃない」
「そう、何でもね」
同僚達は笑って智秋に言った。
「顔も胸も」
「それにお料理も」
「それこそ何でもよ」
「智秋はカード一杯持ってるわよ」
「そうなの、じゃあ」
智秋も周りの言葉に頷いた、そしてだった。
とりあえず動くことにした、その彼女がまずしたことは。
想い人である福園優斗課長、眼鏡をかけた端整というよりはまさにサラリーマンといった外見の彼にだ、あるものを差し出した。それは。
「あの、課長」
「あれっ、これは」
「実はこの前実家に帰った時の」
「ええと、早坂さんの実家は」
「はい、三重です」
智秋はにこりと笑って答えた。このことは本当のことだ。
「三重の赤坂です」
「ああ、それでなんだ」
優斗はその赤福餅を見て応えた。
「お土産はこれなんだね」
「はい、課長さんにもどうかと思いまして」
「有り難う、実は僕好きなんだよ」
優斗はにこりとして智秋に答えた。
「甘いものがね」
「そうですか、それじゃあ」
今気付いたふりをしているが最初から調べている、そのことを隠したうえで優斗にその赤福を差し出したのである。
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