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ロックマンX~5つの希望~

作者:setuna
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第二話 エックスSIDE1

 
前書き
エックスSideです。 

 
イレギュラーは増加の一途を辿っていた。
コロニー破片落下事件により、イレギュラーハンターは組織解体・再編成され、極少ないハンターが働いているのみ。
イレギュラーの増加により拠点を放棄せざるを得なくなったルナもイレギュラーハンターとなり、エックス達の負担はかなり減ったが焼け石に水程度にしか緩和出来ていない。
レプリフォースは先の大戦で壊滅状態となっていた。
イレギュラーを倒せる巨大組織は今やまともに機能していない。
そんな中、バウンティハンターと呼ばれる非正規の戦闘集団が台頭してきた。
高額な賞金と引き換えにイレギュラーを撃破する。
元は裏社会で活動していた者達。
だが、ハンターや軍隊が弱体化した今となっては、非合法ながらイレギュラーを処分する彼らは民衆に支持される存在となっていった。
そのバウンティハンターの中で、特に注目される存在があった。

レッドアラート。

大鎌の戦士・レッドをリーダーとする戦士達は乱暴な手段ながらも人々を守っていた。
しかし…。

エイリア『ポイントRE7521でイレギュラー発生!!エックス、出動して!!』

エックス「了解した」

エイリアの指示の元、エックスは戦場に向かう。
いつもと変わらない戦いになるはずだった。
だがその出撃がエックスの運命を変えることになるとは誰も知る由もなかった。



































ポイントRE7521は中規模の都市である。
大都市のそれより背の低いビルが並んでいて、街の中央部には広場がある。
レプリロイドや人間の憩いの場は暴動が起きた今は閑散としていた。
ビルの狭間から煙が昇り、焼け焦げた空気が流れて来る。
エイリアの通信で示された場所はそんな所だった。

ビートブード「エックス隊長!!」

到着してすぐに、先に駆け付けていたビートブードがエックスを呼んだ。

エックス「ビートブード、市民の避難は?」

ビートブード「市民の避難は完了しています。負傷者はいますが全員隣町のシェルターにいます」

ルイン「エックス!!イレギュラーはこの先にいるよ!行こう!!」

エックス「分かった。ルイン、ビートブード。行くぞ」

ルイン「うん」

ビートブード「了解しました」

かつてあった17部隊の最強の戦士達が現場に急行しようとすると、その時腕にピリッと痛みを感じた。

エックス「(何だ?)」

ビートブード「隊長、どうしました?」

エックス「いや、何でもない。大丈夫だ」

振り返ったビートブードに答え、進む。
腕にはまだ違和感はあるものの、気に留める程ではない。
先を行くルインとビートブードを追い掛ける。



































イレギュラーはすぐに見つかった。
最新型巡回監視用メカニロイド、ガーディアン。
ちなみにガーディアンはコンビナートに出現する雑魚敵である。
ガーディアンは地面を叩き、エネルギー波を出して街を破壊している。

ルイン「行くよビートブード!!」

ビートブード「了解!!グラビティホールド!!」

ガーディアンに向けて重力波を放つ。
凄まじい威力を誇る重力波は、ガーディアンの動きを完全に止めた。

ルイン「はあっ!!」

セイバーによる斬撃を見舞い、装甲を破る。
露出した箇所にフルチャージショットを喰らわせようと腕を構えた瞬間。

エックス「っ!!?」

腕に雷で打たれたような衝撃が走る。
腕から電力が迸しり、エックスの腕を、青白い火花が包んでいる。
バチバチッと弾ける音がしてエックスは思わず腕を押さえた。
目の前が真っ暗になり、脳天から爪先を貫かれたような感じがする。
ガーディアンからエネルギー波が放たれ、回避もままならないエックスは直撃を受けた。

エックス「ぐあああああ!!」

ルイン「エックス!?」

ビートブード「隊長!!野郎、よくも…グラビティホールド…重力万倍!!」

エネルギー出力を限界まで引き出し、重力を万倍まで上げるとガーディアンは瞬く間に潰された。

ビートブード「隊長!!」

ルイン「エックス!!」

2人がエックスに駆け寄り、意識がないことに気づくと簡易転送装置でハンターベースに戻る。



































暗闇の中に誰かの声が聞こえた。
それらが朧げな意識を引っ張り上げる。

エックス「う…」

苦痛の呻きを上げて、目を開けるとぼやけた視界にライフセーバーとルイン、ビートブードの3人が自分を眺めていることに気づく。

ルイン「エックス!!」

ビートブード「隊長…気がついたんですね……」

2人は安堵の表情を浮かべた。
エックスは事態が把握出来ず、虚ろな表情で彼らを見た。

「あなたが倒れたと聞いて驚きましたが…どこにも異常はありませんでした。過労でしょう」

1人冷静なライフセーバーの説明により、今度こそ意識がはっきりした。
自分はガーディアンの攻撃を受けて気絶したのだと。

ビートブード「ゼロ隊長」

ゼロ「エックス。お前、倒れたんだってな」

青い瞳が針の如しだ。
低く押し殺した声にライフセーバーが穏やかに答える。

「何ともありませんよ。これから治療の説明をしたいのですが…」

ルイン「あ、うん。分かった」

そういえばイレギュラー処分の報告もしていなかったことを思い出し、立ち上がろうとするルインをビートブードが止める。

ビートブード「報告は俺がします。副隊長は隊長についていて下さい」

ルイン「ありがとうビートブード。」

ビートブードは報告のために医務室を出ていく。
ルインとゼロはライフセーバーを見つめる。
2人はライフセーバーの胸中を見抜いていた。
彼が穏やかなのは、事態が重いことを意味するからだ。

「…確かに外傷以外の異常はありませんでしたよ」

レントゲン写真を傍らのボードに張り付ける。

「腕部の回路、電圧は正常そのものです。しかしバスターに変形しないのです。原因は恐らく精神的な物かと」

ルイン「精神的…ですか?」

ゼロ「お前がそんなことを言うなんてな。」

「他に原因が思い当たらないのだから仕方ないでしょう」

声は何時にも増して冷静で、その静けさが逆にエックス達の不安を扇いだ。

エックス「…それで?いつ治るんだ?」

「分かりません。あなたの心がバスターを封じている。封印を解けるのはあなたしかいないんです。私にはどうすることも出来ません」

エックス「そんな…」

エックスは呆然となり、使えなくなった腕を見つめる。
空気が耐えられない程に重さを増す。
そこに危急の報せが割り込んできた。

エイリア『ルイン、聞こえる?ポイントAX54でイレギュラーが暴れているわ。至急現場に向かって!!』

ルイン「…了解。出撃します。心配しないでエックス。すぐに帰るから」

ルインが出ると同時にエックス、ゼロ、ライフセーバーの3人が残された。

エックス「ルイン…」

ゼロ「あいつなら大丈夫だ。それより腕は?」

エックス「腕は…」

腕に神経を集中させると激痛が走る。

「やはり“心”があなたを苦しめているのですね。あなたはゆっくり休んで下さい」

エックス「…ああ」

逆らいたいがそうせざるを得ないためスリープモードに切り替える。
彼はあっという間に眠りに落ちた。

「さて、せっかく医務室に来てくれたのですからあなたもメンテナンスを受けてもらいましょうか」

ゼロ「何?俺はエックスの見舞いに…」

「あなたはここ最近メンテナンスを受けていませんね。総監に報告しても?」

ゼロ「ぐっ…分かった」

観念したように言うゼロにライフセーバーはエックスを見遣る。
彼は気の遠くなるような痛みをどれだけ耐えて来たのだろうか?



































一方ルインは夜のハイウェイを見て一人ごちる。

ルイン「またここに来ることになるなんてね。一体何があったのかな?」

大きな道路のいたる所にはメカニロイドが配備され、破壊活動を行っていた。
このハイウェイは自分達の戦いの原点。
最初のシグマの反乱。
そう、全てはこの場所から始まった。
ルインは勢いよく跳躍する。



































エックスは夢を見ていた。
レプリロイドはスリープモードに入ると過去の記憶が掘り起こされたり入り交じったりしたものを見ることがある。
だから殆ど人間のものと変わらない。

シグマ『エックス、ルイン』

隊長だった頃のシグマが自分と新人時代のルインを呼び、街を見るように促す。

シグマ『これが、我々が守るべきものだ』

自分とルインに市街を見せてくれた。
人々の笑顔に溢れる、平和な街並み。

シグマ『これが、我々が守るべき街、人々、笑顔、命、心だ。』

エックス『はい、シグマ隊長』

ルイン『はい!!』

シグマ『私もただ1体のレプリロイドに過ぎぬ。いつかイレギュラーに敗れる日が来るかも知れん。だが、意志を継ぐ者がいれば、我々イレギュラーハンターは滅びぬ。エックス、ルイン。よく見ておくのだ…これが我々が守る物なのだということを……』

そう言っていた当の本人が、それまで一員として務めてきたイレギュラーハンターに反乱し、その日まで守ってきた街の平和を、破壊と殺戮で塗り潰そうとした。
自身の言葉にまで背いて。
自分のバスターに貫かれ倒れるまで、暴れ、企み、破壊して、イレギュラー・シグマは世の災厄となり続けた。



































気がつけば医務室のメンテナンスベッドにいた。
スリープモード前に見た風景が迫る。
確かに現実の世界だった。

「もう起きてしまったのですか?」

エックス「…ああ。懐かしい夢を見ていた……俺が寝ている間に何があった?」

「ルインが帰還しましたよ。今、総監に報告に行っています。何でもアクセルという少年を連れてきたとか」

エックス「アクセル?」

聞き返そうとした時、ルインから通信が入る。

ルイン『起きてるエックス?入っていいかな?』

「噂をすればですね」

エックス「待っててくれ。今開ける」

部屋のロックを解除すると、ルインを迎えようとした時。
エックスは目を丸くしてしばし立ち尽くした。
1人はルイン。
もう1人は見知らぬ少年。
恐らく彼がルインが連れてきたアクセルという少年なのだろう。

ルイン「エックス…、大丈夫?」

エックス「ああ…大丈夫だ。君がアクセルなのか?」

アクセル「エックス…!!何があったの?医務室なんて…何でそんな酷い怪我してるのさ!?」

その問いにエックスは微かに笑う事情を説明する。

エックス「バスターが壊れていたらしくてね…それでイレギュラーから攻撃を受けてこのザマだ」

アクセル「…大丈夫なの?」

エックス「…大丈夫だ。バスターさえ修理すれば今まで通り戦えるはず」

自分自身に言い聞かせるように言うエックス。

ゼロ「おい」

メンテナンスを終え、今まで黙っていたゼロが口を開く。

ルイン「何?」

ゼロ「何?じゃない。そいつは今回の騒動の関係者だろう。何者だ?」

ルイン「あ、うん…この子はアクセル。元はレッドアラートの戦士で、最新型の戦闘用メカニロイド、メガ・スコルピオに追われていたの」

ルナ「メガ・スコルピオだって?何でレッドアラートがそんなもんを…」

医務室にルナが入って来た。

アクセル「誰?」

エックス「彼女はルナ。つい最近正式にイレギュラーハンターとなった特A級ハンターだ。」

ルナ「よろしくなアクセル」

豪快に笑いながら言うと彼女はアクセルに問う。

ルナ「それにしても追われてるってのはどういうことだ?」

アクセル「…逃げ出して来たんだ。レッドが…レッドアラートが変わっちゃったんだ。昔は悪い奴にしか手を出さなかったのに、今はただの殺し屋集団…もう耐えられなかったんだ。」

悲しみと怒りで拳が震えている。
エックスはレッドアラートが狂暴化したのは知っている。
一般人も無差別に襲っていると。
殺戮を強いられた彼にエックスは何と声をかければいいのか分からなかった。
その時、モニタがザッと砂嵐を映した。

エックス「何が起こった!?」

エイリア『発信源不明の通信よ。画像全モニタに出力するわ』

即座にエイリアから通信が入ると、砂嵐の画面に画像が映し出された。
右目に深い傷が走り、精悍で堂々とした戦士。
その男の名は誰もが知る所。

ルナ「レッドアラートのリーダー…」

アクセル「レッド!!」

エックスはアクセルの叫びに驚愕した。

レッド『聞こえているかハンター共、俺はレッド。ご存知の通り、レッドアラートのリーダーだ。わざわざ表に出て来たのは他でもない。逃げ出しやがった俺達の仲間が、事もあろうにお前らの所に転がり込みやがった。そう、そこにいるアクセルだ』

エックスは思わずアクセルの方を見遣る。

アクセル「レッド、僕は帰らないよ。レッドとレッドアラートが変わった今、もう僕の居場所はない。僕は僕の心に従ってここに来たんだ。絶対に戻らない!!」

迷いなき眼で言い放った。
エックスはアクセルの言葉に胸を打たれた。
昔の自分にはなかった強い意志が彼にはある。

レッド『そうか。帰らない、か…ならばハンター対決ってのはどうだ?真のイレギュラーハンターを決めてみないか?最後まで生き残った方が勝ちだ。悪いがこっちは、今まで捕まえてきたイレギュラーを仲間として使わせてもらうぜ、文句は無しだ。俺達が負けたら、アクセルはお前らにくれてやる。当然だが、俺達が勝てば…』

その言葉にエックスは全身が沸騰するような怒りを感じた。
アクセルの意志を無視するだけでなく争いを引き起こそうとすることに。

エックス「ふざけるな!!彼の意思を無視した挙げ句、そんな理由で戦いを引き起こすつもりか!!?」

レッド『そんな理由か…』

彼は遠い目でぼそりと言う。

レッド『俺にとっちゃ、大事なことなんだがな…』

ゼロ「…?」

レッド『とにかく、アクセルは意地でも取り返す…絶対にな!!』

レッドは一同を見遣ると、笑って通信を切った。

エイリア『早速動き出したようね。各地でイレギュラー発生!被害の出たエリアを調べてみるわ。』

即座にモニターに世界地図が映し出された。
被災地が赤くポイントされている。

アクセル「ごめん、僕のせいで…」

エックス「(君のせいじゃない…)」

俯くアクセルにエックスは本心からそう思う。

ゼロ「面倒なことになったな。ハンターも人手不足でまともに機能していない。奴らを止められる実力者も少ない…」

ルナ「だな、さて…どうするかねえ…」

エックス「(バスターが使えないこんな状況では、みんなの足を引っ張ってしまう…)」

ハンターベースにある装備は低ランクのハンター達でも扱える出力しか持たない。
エックス専用の武器を作ってもらおうにも時間が圧倒的に足りない。
その時である。

アクセル「そうだ、僕をイレギュラーハンターにしてよ!!ルインとのコンビネーションもバッチリだし、なんと言ってもレッドアラートのことなら任せてよ!!」

エックス「ルインとのコンビネーション?」

ゼロ「どういうことだ?」

訳が分からず、エックスとゼロはルインを見遣る。

ルイン「ああ、そういえば言ってなかったね。メガ・スコルピオは私とアクセルの2人掛かりで倒したんだ」

ルナ「へえ、ルインと2人掛かりとはいえよく倒せたな。特A級ハンターでも苦戦は免れないのに」

ルイン「うん、部隊制があった頃なら17部隊入りは確実だね」

第17番精鋭部隊は、このエックス、ゼロ、ルインが以前所属していた部隊だ。
読んで字の如く、腕利き揃いだった。エックスは隊長を勤めた時期もある。
余談だが、ゼロは17を抜けた後、第0特殊部隊、通称忍び部隊の隊長になっていた。
ハンターの激減で部隊制が解体された今となっては、3人共“元”がつくが。

エックス「………」

エックスはアクセルを見定めるように見る。
実力は確かにある。
彼の何気ない動作から戦士としての隙のなさがある。

エックス「そう、だな…彼はとてもいい目をしている。」

アクセル「エックス…!!」

エックス「だが、アクセル。ハンターというのは簡単に務まるような仕事じゃない。非常時にも最善の判断が出来る冷静さと敵に屈しない強さ。そして命をかけて人々を守る心が無ければ務まらない。君にそれがあるか?」

同時にエックスは彼には欠けている物があると思った。
ハンターか否かを分かつ決定的な何かが。
鋭い視線で言うエックスにアクセルも強い視線で返す。

アクセル「分からないよ…でも、僕はエックス達に憧れてここまで来たんだ。僕の罪滅ぼしのためにもイレギュラーハンターになりたいんだ!!」

アクセルの言葉にエックスは溜め息を1つすると苦笑を見せた。

エックス「(分からない…か…アクセルはまだ子供だ。彼に足りない物があれば教えればいい。時間がかかっても少しずつ…)覚悟はあるか…分かった。シグナスに掛け合ってみる。ただし今はイレギュラーハンターにしようにも試験を受けさせる暇がないから保留の形にして民間協力者という立場になるけど、構わないな?」

アクセル「勿論!!エックスはバスターが直るまでゆっくり寝てていいよ!!」

無邪気に喜ぶ、アクセルにエックスは苦笑すると自分に歩み寄るルインに視線を遣る。

ルイン「エックス…今は私達に任せてゆっくり休んで…今の君に必要なのは休養なんだから……」

エックス「…分かっているよルイン。君も気をつけてな」

ルイン「うん…」

ゼロ「…そろそろ行くぞ」

ルナ「はいはい。イチャイチャしてるバカップルは放って行こうぜ」

アクセル「え?え?エックスとルインって恋人同士って奴なの?」

ルナ「そうだぜ?周りを憚らずイチャイチャして甘ったるいオーラを撒き散らす。ある意味シグマウィルスやナイトメアウィルスよりも遥かに厄介なレプリロイド破壊砂糖製造機だ。耐性がないハンター達が何人も犠牲になっている。ブラックコーヒーは必需品だぜ…」

ゼロ「それからあいつはエイリアとも恋仲だ。ハンターベースの危険地帯は指令室とエックスの部屋だということを覚えておけ、耐性がつかないうちに近寄ると胸焼けを起こすか砂糖を吐くことになるぞ」

アクセル「うわあ、エックスって大人なんだね」

尊敬の視線を自身に向けてくるアクセルにエックスは何となく恥ずかしい。
自分は普通にしているつもりなのだがそうではないようだ。

ルナ「さあ、行こうぜ。お喋りの時間はここまでだ」

格納庫に向かう4人に、エックスは無事を祈ることしか出来ない自身に憤る。 
 

 
後書き
エックスSide終了 
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