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小鳥だったのに

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第五章


第五章

「だから今はね」
「僕達だけか」
「遠慮なく食べて」
 妻は夫にこうも言ってきた。
「あなたの誕生日だから」
「忘れてなかったんだな」
 和彦は自分の席に座りながら愛生に述べた。
「僕の誕生日」
「そんなの忘れる筈ないじゃない」
 これが妻の返答だった。
「私あなたの奥さんだから。そんなことはないわよ」
「ないんだ」
「絶対にないから」
 こう言うのである。
「夫婦でしょ、私達」
「だからか」
「そうよ。それでね」
 愛生は彼の向かい側の席に座っている。いつもの席だ。そうして向かい合っている夫に対してだ。今度はこう言ってきた。
「これからもね。何かあればね」
「何かあれば?」
「こうしてお祝いしようね」
「ああ、そうだな」
 和彦も妻のその言葉にだ。笑顔で頷くのだった。
 これはこの時だけではなかった。何かあればいつもだった。愛生は和彦の為に何かをしてくれた。彼はこのことを課長に話した。
 話をする場所は同じだ。休憩所で紙コップのコーヒーを飲みながらだ。彼に話すのだった。
「ほらな、言った通りだろ」
 課長はどうだ、といった顔で彼に言ってきた。
「俺の言った通りだろ」
「ええ、そうですね」
 和彦はコーヒーを飲みながら彼の言葉に頷いた。この時も横に二人座ってだ。そのうえで話をしているのである。
「まさかって思いましたけれど」
「女房は確かに子供が大事さ」
 それは揺ぎ無い事実だというのだ。
「けれどそれでもな」
「それでもですね」
「旦那のことは絶対に忘れないんだよ」
 そうだというのである。
「そういうものなんだよ」
「ですね。雌鶏ですけれど」
「小鳥でもあるんだよ」 
 その二つが一緒になっているというのだ。
「そういうものなんだよ」
「そうですね。確かに息子にべったりですけれど」
「旦那も忘れないからな」
「ですね。それが本当にわかりました」
 穏やかで、そして満ち足りた笑顔で課長に話す。
 
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