小鳥だったのに
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第二章
第二章
風呂からあがった和彦はだ。トランクス一枚で妻のところに来て尋ねた。
「なあ、俺のシャツ知らないか?」
「あっ、そこにあるから」
箪笥を指差しての言葉だ。息子に自分の胸で乳を与えている。あまり大きいとは言えなかった胸も今はそれなり以上に大きくなっている。
「そこにね」
「そこにって」
「自分で取ってね」
こう夫に言うのだった。
「今豊彦ちゃんにおっぱいあげてるから」
「ああ、わかった」
一応頷く夫だった。しかしだ。彼はここでまたこう思うのだった。
「子供が生まれるまでは手渡してくれたのにな」
少し呟いた。しかし妻には聞こえない。我が子に集中していた。
そんなことが続いた。食事もだ。
「えっ、俺の朝御飯は?」
「はい、だからこれよ」
妻がにこりと笑って出してきたのはだ。バナナだけであった。
「これなの」
「バナナか」
「朝の果物って身体にいいじゃない」
「それは知っているけれどな」
それでもだとだ。まだ寝惚けている顔で妻に言うのだった。
「バナナだけが」
「ミルクもあるけれど」
「牛乳じゃないのか」
「そうよ。豊彦ちゃんも飲むし」
「ミルクか」
和彦は困った顔で言った。
「それはなあ」
「嫌?美味しいよ」
「いや、嫌いじゃないけれどさ」
実は牛乳も子供用のミルクも対して変わりがないと思っている。それでもだった。
「全部豊彦だよな、最近」
「えっ、だって私達の子供じゃない」
素っ頓狂な声で返す愛生だった。
「じゃあ当たり前じゃない?」
「うん、それはそうだけれど」
「そうそう。それでだけれどね」
愛生は夫の言葉に構わずこう言ってきたのだった。
「今日のお仕事の帰りだけれど」
「ああ、帰りに?」
「おむつ買ってきて」
こう言ってきたのである。
「御願いね」
「おむつ!?」
「そう、おむつ」
また夫に告げた。
「おむつ少なくなってきたのよ。だから」
「そっちが買えないか?」
「ちょっと無理なの」
妻は困った顔になって夫に返した。その間もずっと豊彦を抱いている。
「今日病院に行かないといけないし。それに」
「それに?」
「実家からお母さんが来るの」
こう言うのである。
「お母さんにね。豊彦ちゃん見せないといけないから」
「買い物の時間はないのか」
「そうなの。行きたいけれど」
実は彼女が行っている病院はスーパーとは反対側にあるのだ。だからスーパーに行くには時間がかかるのである。それでなのだ。尚愛生は今は車を乗らないようにしている。豊彦がもう少し大きくなって安定してからだというのだ。ここでも我が子であった。
「だからね。今日は」
「ああ、わかったよ」
和彦も遂に頷いた。
「それじゃあな」
「うん、御願いね」
こうしてだった。彼は夫婦水いらずの関係から完全に我が子第一の状況になった。それで暗くなることが多くなった。それを見てだ。
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