浪漫ゴシック
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第七章
第七章
そして就職活動をしようという時期にであった。
柚子、中学三年になった彼女がだった。
既に少女、それもかなり整っている顔立ちになって背も高くなった彼女がだ。店の奥で皿洗いをしている修治に対してこう言ってきたのである。
「あの」
「うん、お客さん?」
「お客さんじゃないです」
それではないというのである。
「あの、私高校は」
「ああ、あの高校受けるんだよね」
ここでだ。最初にこの店に来た時と同じくだ。
店の扉の向こうにある学校を見た彼だった。しかしだ。
朋子はだ。その彼にこう話すのだった。
「私、あの高校受けますから」
「そうするって。いつも言っているよね」
「はい。それで」
「それで?」
「就職、ここじゃ駄目ですか?」
こう修治に言うのであった。
「このお店で」
「喫茶店のウェイターにだね」
「はい、それで」
「それで?」
「よかったらですけれど」
柚子の言葉のトーンが落ちた。小さくなってしまった。
その小さくなった声でだ。修治に話すのであった。
「ずっと。ここにいてくれませんか」
「このお店に?」
「私と一緒に」
こう修治に言うのである。
「本当に。修治さんさえよかったらですけれど」
「まさかそれって」
ここでやっとだ。修治もわかった。柚子が自分をどう思ってきたかだ。
それでだ。こう彼女に問うのであった。
「僕とだよね」
「そうです。駄目ですか?」
見れば柚子の顔は真っ赤になっていた。柚子でなくだ。
苺の様になっている。その顔で修治に言っていた。
「御願いできますか?」
「ずっと。このお店に通ってきてアルバイトしてきたけれど」
修治はすぐに答えずにだ。こう前置きした。
「それでもね」
「それでもですか」
「気付かなかったよ。御免ね」
こう柚子に話すのだった。
「柚子ちゃんの気持ち。けれど」
「けれど?」
「今気付いたから」
もう仕事の手は止めていた。そのうえで柚子に話すのだった。
「気付いたから。だから」
「だから、そして」
「御願いしていいかな」
微笑んでだ。彼もこう言うのであった。
「このお店に。ずっといていいかな」
「御願いします」
その苺の様になった顔での言葉だった。
「まだ。先になりますけれど」
「高校を卒業してからだよね」
「はい、それからです」
大切なことはだ。それからだというのである。
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