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浪漫ゴシック

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第四章


第四章

「期待しています」
「そうさせてもらうよ。息子も連れて来るからね」
「はい、では息子さんも」
「コーヒーを飲むからね」
「はい、それでは」
 こう話してであった。数日後。
 先生は実際にだ。息子を連れて来た。黒髪がさらさらとしており目が爽やかなだ。背の高い実に素直そうな少年が先生と共に店の入り口をくぐった。
 そしてだ。少年は先生に対して尋ねるのだった。
「このお店だよね」
「ああ、そうだ」
 先生はその少年に言葉を返した。
「このお店だぞ」
「ふうん、いいお店だね」
 少年はそのお店の中を見回しながら言った。
「こういうの何て言うのかな」
「浪漫主義か」
「ロマンじゃなくて?」
「浪漫だ」
 そちらだというのである。
「こういうのは浪漫と言うんだ」
「何で漢字なの?」
「片仮名だとそれは欧州のそれになって漢字だと日本のそれになる」
「ああ、そういうことだね」
「これでわかったな」
「まあそれでね」
 わかったと。少年は先生に答えた。
「わかったけれどね」
「ならよしだな」
「それでコーヒーだけれどさ」 
 話は本題に入った様である。少年は先生にこのことを尋ねるのだった。
「お父さんが飲んでよかったんだよね」
「その味は保障するぞ」
「楽しみにしてるよ。じゃあ何処に座ろうかな」
「そこ、空いてるわよ」
 柚子がだ。二人のところに来て声をかけた。
「そこはどう?」
「ああ、有り難う」
 少年は柚子の言葉に対して彼女に顔を向けたうえで礼を述べた。
「それじゃあそこに座らせてもらうね」
「うん、ところでお兄さん」
「何かな」
「お兄さん先生の息子さん?」
「うん、そうだよ」
 その通りだとだ。少年は柚子の問いに答えた。
「名前は修治っていうんだ」
「修治さんね」
「太宰治の本名でね」
 太宰治の本名は津島修治という。彼の家は青森で大地主だった。今も政治家を輩出していることで有名な家である。その彼の名前だというのだ。
「父さんがさ。国語の先生だから」
「それでなんですか」
「いい名前なのかな」
「選んだんだぞ」
 先生がここでその修治に言う。
「どの名前がいいか悩んでそれでだ」
「太宰になったんだね」
「そうだ。まあ他にも鏡太郎やそういったものもあったがな」
「まあそうなんだ。それで僕の名前は修治なんだ」
 修治は柚子に顔を戻してまた話した。
「覚えてくれたかな」
「はい」
 柚子は修治の言葉にこくりと頷いた。
「とてもいい名前ですから」
「いい名前かな」
「凄くいい名前です」
 そうだというのである。
「素敵ですね」
「素敵かな」
「あの、それで」
 柚子の態度が何処か気恥ずかしそうなものになった。そしてだ。
 彼女はだ。こう修治に尋ねてきたのである。
「修治さんお歳は」
「歳?十四だよ」
「十四歳ですか」
「うん、今なったばかりだよ」
「私は今年七つになります」
 柚子は自分の年齢も話した。
 
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