少年少女の戦極時代Ⅱ
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運命の決着編
第122話 知るべきでなかった者たち
凌馬に案内されるままに舞を運び込んだのは、街の中でも古い病院だった。
ペコとチャッキーは即席担架の前後を持って、凌馬に言われるがまま舞を病院の奥の、診察室らしき部屋に運び込んだ。
診療台に舞を寝かせると、凌馬はてきぱきと計器の電極を舞の体のあちこちに繋いだ。心電図を示す計器が、ぴっ、ぴっ、と鳴り始める。
凌馬はあれこれ舞を診察し、最後にパソコンのキーを叩いた。
「間違いない。やはり舞君の体に黄金の果実が埋め込まれてる」
「黄金の、果実? それって、オーバーロードの王様が持ってんじゃないのか?」
紘汰から聞きかじっただけだが、ペコは事情を知っているフリをした。無知だと知られると、凌馬に話から弾き出されかねない。
「問題はそこだ。ロシュオは何故、舞君に渡したんだろう――」
「そいつは“はじまりの女”になるんだよ」
唐突に割り込んだ第三者の声に、ペコの心臓が跳ねた。
第三者は、DJサガラだった。
「はじまりの女に選ばれた男こそが、黄金の果実を手に取る英雄となる。はじまりの女に黄金の果実を渡す。それが、この俺の務め」
「あなた、一体何なの……?」
チャッキーの口を突いて出た疑問は、部外者であってももっともなものだった。
「“我ら”は永遠に蔓延るもの。空を越えて茂るもの。旧き民に変革をもたらすものであり、あるいは、ただ単に“蛇”と呼ばれたこともある。そうだ。お前たちがくれた呼び名で名乗るのもいいかもしれない。となると、我が名は――ヘルヘイム、ということになる」
「サガラ――キミは、ヘルヘイムそのものなのか」
ペコもチャッキーも息を呑んだ。
ただのラジオDJだと思って来た者が、ヒトですらなく、ただの“意思”――バケモノと同じカテゴリのものだなどと、考えたこともなかったのだ。
サガラと凌馬がいくつか問答しているが、ほとんど意味が分からず、ペコの頭に入って来なかった。隣のチャッキーの困惑具合を見るに、彼女もペコと変わらないだろう。
「もうあいつらは引き返せない。葛葉紘汰、駆紋戒斗。あいつらは運命を選んでしまった。奴らが最後にどこに辿り着くか――俺はいつでも見守ってるぜ」
言いたいだけ言ったからか、サガラは緑の粒子となって消えた。
チャッキーが適当なパイプ椅子を持ってきてくれたので、ペコは彼女と二人で、舞を囲むようにベッドサイドに座っていた。音は、計器が告げる舞の拍動だけ。
窓の外では、雨が降り始めていた。
舞は目覚めない。さながら眠り姫のように。眠り姫と異なるのは、紘汰や光実や戒斗が口づけても起きないだろうというところ。
チャッキーは舞の手を上から握っていた。体温を分け与えようとしているようだ、とペコは思った。
――ペコもチャッキーもヘルヘイム関係については、紘汰や戒斗などの事情通から説明を受けただけだった。ヘルヘイムの植物は街の至る所に生えているので分かるが、それ以外はほぼ無知と言ってよかった。
そんな彼らに唐突に明かされた、世界の裏側。
黄金の果実。知恵の実。
はじまりの女。
舞のオーバーロード化の危険性。
世界を支配し、変革しうる力。
人類の未来を懸けた戦い。
「……なあ」
「なに?」
「チャッキーはさ、どう、思った? あいつらの話」
チャッキーは舞の手を離し、その手を膝の上で握りしめた。
「正直、よく分かんないことのが多かった。けど、やっぱ、舞が舞じゃなくなっちゃうのだけは、イヤ」
「俺もそれはイヤだ。イヤだけど、さ。俺たちに何ができるってんだよ……」
戒斗たちのように変身して戦えるでもなし、そもそも非力なペコには、こうして悩む時間さえ苦痛だった。
「でも、あたしたちで何とかしなきゃ。だって、紘汰さんたち、今、いないんだもん。あたしたちしかいないんだもん」
「それでいいのかよっ。俺らほとんど部外者みたいなもんなのに」
チャッキーは両腕で自身を抱くようにした。
「だって、世界の命運が懸かってるんだよ? 最初から、部外者なんていなかったんだよ」
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