FAIRY TAIL ―Memory Jewel―
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序章 出会い
Story5 鼠人間
前書き
紺碧の海です!
今回はFTMJに、何とアイツが登場!久々の登場なので、上手く書けてるか自信が無いんですが・・・
それでは、Story5・・・スタート!
―妖精の尻尾―
「乾ぱァ~い!」
真昼間からコップとコップをぶつけ合って豪快に酒を飲むカナ、マカオ、ワカバ。
「ルーちゃん、新しい小説書き始めたの!?」
「えぇっ!?何でもう知ってるのォ!?」
「ナツが教えてくれたんだよ。」
その近くでレビィがルーシィが書き始めたばかりの新しい小説に食いつき、その情報をまだ誰にも知らせていないはずだったルーシィが目を見開いた。
「ア?今何つった、変態垂れ目パンツ!」
「ごちゃごちゃ喚くんじゃねェっつったんだよ、燃えカス吊り目単細胞!」
その近くで新しい小説の情報を流した当の本人であるナツは、上半身裸のグレイと喧嘩をしていた。
「ナツさん、グレイさん、喧嘩はダメですよ~!」
「ほっときなさいよ、いつもの事なんだし。」
「しばらくしたら治まってるか、エルザに1発殴られてるかどちらかだからね。」
「・・・と、噂をしたら来たよ。」
喧嘩を止めようとするウェンディをシャルルとハッピーが止め、噂通りやって来たエルザの姿を見てコテツが指差しながら呟いた。
もちろん、苺のショートケーキを食べている最中だったエルザがやって来た理由はただ1つ―――――。
「静かにしないかーーーっ!」
「うがっ!」
「ぐォはっ!」
至福の一時を満喫する為、ナツとグレイの喧嘩を止める為である。
ナツとグレイはエルザに思いっきり殴り飛ばされた。
「ぐ~・・がー・・・ぐ~・・がー・・・」
「バンリ、コーヒーのお代わりはいる?」
「・・・もらう。」
「分かったわ。」
デカい鼾をかきながらテーブルに突っ伏して昼寝をしているイブキと、同じテーブルで分厚い魔道書を読んでいたバンリの空になったコーヒーカップを見てミラが声を掛け、ミラの言葉に魔道書から目を離さずにバンリは短く呟いた後、ミラは殻のコーヒーカップをお盆に乗せてカウンターの方へ行った。
「ラクサス、雷神衆、久しぶりだね。」
「リン!?」
「3年ぶりか。相変わらず、変わってないな。」
花時の殲滅団のリンがラクサス、フリード、エバーグリーン(通称エバ)、ビックスローに声を掛けると、ラクサスが驚いたようにリンの名前を呟き、フリードが口元に小さく笑みを浮かべる。
「ティール達も大きくなったわね~。」
「な・・撫でるな・・・!」
「も、もう私は、18歳よ・・・!エバと2つしか変わらないんだから!」
「18歳でも、私にとっちゃまだ皆幼い子供よ。」
エバが母親のようにティールとレーラの頭を優しく撫でる。
恥ずかしそうにティールとレーラがエバの手を払うが、それでもエバはティールとレーラの頭を優しく撫で続ける。諦めたのか、ティールとレーラはそれ以上抵抗しなかった。
「まだまだ大きくなるぜ、俺達は。」
「ビックスローの事も、あっという間に抜かしちゃうからね!」
「おぉ!それは楽しみだなぁ。」
「楽しみだー、楽しみだー。」
ビックスローの横に並んだジーハスとサーニャが言い、黒い妖精の尻尾の紋章が刻まれた下を出しながらビックスローが豪快に笑いながら言い、鸚鵡返しのように5体のトームマンが棒読みでビックスローの言葉を繰り返した。
「エメラ、“記憶の宝石”何個集まったんだ?」
「16個だよ。この調子なら、残りの84個の“記憶の宝石”も、あっという間に見つかっちゃうと思うんだ。」
「“思うんだ”じゃなくて、“必ず”だ。」
「そうだね。」
テーブルの上に16個の“記憶の宝石”を並べながら、エメラとアオイが楽しそうに会話を弾ませていた。
食べて、飲んで、騒いで、笑って―――――。
いつもと全く変わらない日常を繰り広げている妖精の尻尾の魔道士達。
「!」
エルザに殴り飛ばされ、頭にデカいたんこぶをつくったナツがギルド内を見回した。
「どうしたナツ?」
同じくエルザに殴り飛ばされ、頭にデカいたんこぶをつくったグレイがきょろきょろとギルド内を見回しているナツに気づき声を掛ける。
「何か聞こえねェか?」
ナツはギルドを見回しているだけでなく、耳を澄ましている。
ナツに言われてグレイも同じようにギルドを見回しながら耳を澄ます―――が、
「いや・・何も聞こえねェぞ。お前耳いいからな。」
滅竜魔道士は通常の人間と比べて視覚、聴覚、嗅覚が優れている。竜と同じくらい―――――。
そしてナツと同じ、滅竜魔道士であるウェンディとガジルも、
「・・ねぇシャルル、何か聞こえない?」
「え?何も聞こえないけど・・・?」
「オイラも聞こえないよ。」
「何だ、この音・・・?」
「どうした、ガジル?」
聞こえていた。だが、ウェンディとガジルの近くにいるシャルル、ハッピー、パンサーリリー(通称リリー)には何も聞こえていない。もちろん、他のメンバーにも―――――。
「こっちの方から聞こえんぞ。」
「ナツ?何やってるの?」
四つん這いになって床を這いながら音のする方へ近づいていくナツ。
それを見たルーシィが首をかしげながらも後に続く。
「あっちの方から聞こえる・・・」
「ちょっとウェンディ!」
「待ってよ~、シャルル~!」
音のする方へ駆けて行くウェンディをシャルルが追いかけ、シャルルの後をハッピーが追いかける。
「そっちからか?」
「おいガジル、どこに行くんだ?」
頭を掻きながら音のする方へ歩いていくガジルの後をリリーが着いていく。
「あ。」
「あれ?」
「ん?」
ナツ、ウェンディ、ガジルが同時に同じ場所に顔を合わせた。
「お前等も聞こえたのか?」
「ナツさんも?」
「んで、その音が聞こえるのが・・・」
音が聞こえてきた場所は、ギルドの隅っこからだった。そこには、拳が1つ嵌まるくらいの大きさの穴が開いていた。喧嘩の最中に、誰かが壊したりして出来たものだろう。
「真っ暗だ。」
穴の中を覗き込んだナツが呟く。
「でも、音はここから聞こえるのは間違いねェ。ハッピー、覗いてみろ。」
「あい。」
ナツに言われてハッピーも穴の中を覗く。
カリカリ、カリカリカリ―――――。
「何か聞こえるよーっ!」
「さっきからそう言ってるじゃない。」
「何の音だ?」
「分かんないけど、何かを削ってるような・・・?」
リリーに問われてハッピーが曖昧に答えたその時―――――
「チュー。」
小さな鳴き声が聞こえたのと同時に、穴から鼠が飛び出して来た。
「ぎゃああああああっ!」
ルーシィが悲鳴を上げ、一目散にその場から走り去る。
1匹や2匹、数匹ではない。数え切れないくらいの大量の鼠が穴の中から次から次へと飛び出してきた。
「うわぁっ!」
「な、何だ何だァ!?」
「キャアアアアッ!」
「ヒィイイィィイ!」
ウォーレンが飛び上がり、マックスが驚嘆の声を上げ、ラキとキナナが抱き合いながら悲鳴を上げる。
「・・ったく、うるっせーなぁ・・・人が気持ち良く昼寝してるっつーのに」
「イ、イブキ!し、下!下ァ~!」
「下?下がどうかし―――――!!?」
気持ちよくテーブルの上で突っ伏して昼寝をしていたイブキが周りの騒がしさに文句を言いながら目を覚ました。すると、青ざめた顔をしたコテツがイブキの足元を指差す。
イブキは吊り気味の紫と赤のオッドアイを足元に移した瞬間、顔から血の気が失せ、大粒の冷や汗が額から流れ出した。
「うあああああああああああああああっ!」
悲鳴を上げながら必死にテーブルの上に攀じ登り身体を縮める。
「イブキは鼠が嫌いだったな。」
「何でそんなに冷静でいられるんだよお前はーーーっ!?」
表情を一切変える事無く、魔道書から視線を離す事無くバンリが呟いた。
そんなバンリを見てイブキが透かさずツッコミを入れるが、鼠の姿が視界に入るとすぐにまた身体を縮めてしまった。
「マ、マスター・・・」
「これはちょっと、不味いんじゃ・・・?」
青竜刀を構えたアオイと、その後ろに隠れるエメラがバーカウンターに座って呑気に酒を飲んでいたマスターに声を掛ける。
すっかり酔ってしまい、赤みを帯びた顔をしたマスターが「ふひゃひゃひゃひゃ」と妙な声を上げて笑うと、
「心配せんでいい。この鼠達は、恐らくアイツの友達じゃろ。それに見よ。」
マスターが鼠達を指差した。ギルドメンバーは全員恐る恐るという感じでマスターが指し示した方に視線を移した。
よく見ると、鼠達は木の実や鳥の羽、綺麗な小石やアンゼンピンなどを持ってギルドのドアへ向かって走っていた。
「あの穴を通路として、引っ越しでもしとるんじゃろ。邪魔せずに、しばらくじっとしていれば大丈夫じゃよ。」
マスターの言葉に従い、ビクビク震えながらも鼠達に危害を加える者は誰一人としていなかった。イブキが「早く出てけ・・・早く出てけ・・・」と呪いをかけるように繰り返し呟いていたのは余談だ。
300匹以上の鼠達の大半はギルドを出て行き、最後に出て来た6匹の鼠達が穴から飛び出した。6匹の鼠達は、薄ピンク色の宝石を抱えていた。
「あーーーっ!」
「“記憶の宝石”だーーーっ!」
ルーシィとハッピーが声を上げる。
その間に“記憶の宝石”は6匹の鼠達と共にギルドを出て行ってしまった。
「なぜ鼠が“記憶の宝石”を持っているのだっ!?」
「もしかして、“記憶の宝石”って食えるのかっ!?」
「んな訳ねーだろっ!」
苺のショートケーキを食べ終えたエルザが驚嘆の声を上げ、ナツの言葉にグレイがツッコミを入れた。
「ていうか、追わなくていいの?」
「“記憶の宝石”って、エメラの記憶なんでしょ?」
「早くしねェと、取り戻せなくなっちまうぞ。」
レーラとサーニャが首を傾げながらナツ達に問い、ジーハスが頭の後ろで腕を組みながら言った。ナツ達はしばらくその場に佇んでいたが―――――
「た、た、た・・大変だーーーっ!」
「あの鼠を急いで追うんだっ!」
「鼠待ってぇ~!」
コテツとアオイが声を荒げ、エメラを先頭にナツ、ハッピー、ルーシィ、グレイ、コテツ、アオイと続いてギルドを飛び出して行った。
駆け出そうとしたエルザとウェンディとシャルルが、まだ魔道書を読んでいるバンリと、まだテーブルの上で小さくなって怯えているイブキに気づいた。
「おいバンリ、魔道書なんか読んでる場合かっ!行くぞっ!」
「イブキさんも早くっ!」
「鼠くらいで怯えてどうすんのよっ!ほら、行くわよっ!」
「あ。」
「え・・お、俺も・・・?」
読んでる途中の魔道書を取り落としたバンリの首根っこをエルザが引っ張り、まだ怯え気味のイブキの手をウェンディとシャルルが引っ張り、ナツ達の後を追いかけてギルドを飛び出して行った。
「リンさん、俺達はどうします?」
ティールが隣に座って煎茶を飲んでいたリンに問い掛けた。リンはズズズズ・・・と美味しそうに煎茶を啜った。
「あんだけ人数がいれば大丈夫だよ。私達は、ここにいよ。」
「分かりました。」
花時の殲滅団は遠ざかっていくエルザ達の背中を見送っていた。
―マグノリアの街 商店街―
「ひゃあ!」
「何だ何だっ!?」
「ね、鼠だーーーっ!」
「きゃあああ!」
“記憶の宝石”を持った6匹の鼠達は商店街を駆け抜けていく。身体が小さい為、人の足の下を潜り抜けていく。
「待てゴラァァア!」
「ど・・どうしたナツ!?」
「顔怖ェよっ!」
「スミマセン、通して下さーい!」
「急いでるんです!」
鼠を追うナツ達は人込みを掻き分けながら進んでいく。ナツの顔を見て街の人々は驚嘆声を上げる。胸が大きいルーシィやエルザ、エメラは人込みの中を進むのは一苦労だ。
「ハッピー!シャルル!飛んで鼠達を追ってくれーっ!」
「あいさーっ!」
「分かったわ!」
アオイが人込みを掻き分けながら肩越しから叫ぶ。それとほぼ同時に白い翼を広げたハッピーとシャルルが飛んでいった。
「ぷはぁ。」
「やっと出れた~・・・」
商店街をやっとの思いで通り抜けたルーシィとエメラがその場に座り込む。
「ハッピーとシャルルは?」
「見当たらないよ。」
グレイとコテツが辺りを見回すが、ハッピーとシャルルはもちろん、鼠達の姿も見当たらない。
「あ。」
「どうしたバンリ?」
小さく声を上げたバンリを振り返ってエルザが問うと、バンリは静かに右手の人差し指で空を指差した。バンリが指差した方に視線を移すと、ハッピーがこっちに向かって飛んで来ていた。
「ハッピー!」
「シャルルはどうした?」
「今鼠達を見張ってもらってるよ。オイラが案内するから、着いて来て!」
そう言うとハッピーはくるりと方向転換し、ナツ達に背を向けると今飛んで来た道(航路?)を戻り始めた。ハッピーの後を追う為ナツ達も走り出した。
―とある空き家―
「あ、シャルル!」
ハッピーに案内されてやって来たのはとある空き家の正面。その空き家の窓を覗き込んでいたシャルルがウェンディの声に気づいてこっちに駆け寄って来た。
「鼠達はあの空き家に入って行ったわ。」
「中に誰かいるのか?」
「顔は見えなかったけど、男が1人。その男を取り囲むように、300匹以上の鼠がいたわ。」
「ヒィィ・・・!」
シャルルの言葉を聞いたイブキが情けない声を出す。
「んー・・・?」
「どうしたのルーシィ?」
「・・男で、鼠・・・何か誰かと似ている気がするのよ。」
左手の人差し指を頭に当てて考えるようにルーシィが呟いたのとほぼ同時に、ナツの鼻がヒクヒクと動いた。
「このニオイ・・・誰かと似てるぞ。」
「誰かって誰だ?」
「うーん・・・よく、思い出せねェや。」
「肝心なところで諦めないでよ。」
アオイが問い掛け、ナツは頭を捻って思い出そうとするがあっさり諦めた。あまりの呆気なさにコテツがツッコミを入れた。
「とにかく、あそこに“記憶の宝石”がある事には変わりない。乗り込むぞっ!」
「そんな一方的にィ!?」
エルザの言葉にルーシィはツッコミを入れるが、反対する者は誰一人としていない。“反対してエルザに怒られたくないから”という理由が大半を占めているのは余談だ。
ガシャ、ガシャッと鎧を軋ませながらエルザは空き家に近づき、ドアを思いっきり蹴り飛ばした。
「たのもーっ!」
「どこの時代の人間だよっ!?」
古風すぎる言葉を言うエルザに今度はイブキがツッコミを入れた。
中に入った瞬間、ナツは拳に炎を纏い、グレイは両手に冷気を溜め、エルザは別空間から剣を取り出し、アオイは青竜刀を構え、バンリは腰に差している小刀を取り出した。ルーシィ、ハッピー、ウェンディ、シャルル、エメラ、コテツ、ドアから顔を覗かせたままその場で硬直し、イブキはドアから顔を覗かせようともしない。
最初にナツ達の視界に飛び込んできたのは灰色の毛に黒い目、小さな手足に長い尻尾を持った大量の鼠達。次に鼠達が運んでいた木の実や鳥の羽、綺麗な小石やアンゼンピン。そして最後に、木製の椅子に腰掛け、緑と赤茶色の石のブレスレットを左手首に着けた、灰色の髪の毛に赤い瞳の少年の姿―――――。
「え?」
エメラを除いた一同が、揃いも揃ってマヌケの声を出した。
「ナツ達じゃねーか!久しぶりだなっ!」
そこにいたのは、妖精の尻尾の魔道士の1人、シン・バンギだった。
「シン!?」
「何でお前がここに・・・?」
「ていうか、旅はどうした、旅は?」
「なんだシンか・・・脅かすなよな。」
グレイ、バンリ、アオイの順に言う。シンの声を聞いたイブキが安堵をしながら中に入って来た。
「ちょっとこの空き家に一晩だけ隠れ住んでたんだ。旅はもちろん続けてるぜ。お前等こそ、何でここにいるんだ?」
ナツ達はここまでの道筋を細かくシンに説明した。
鼠達を追ってここまで来た事も、その鼠達が“記憶の宝石”を持っていた事も―――――。
「なるほどな。つまりお前等は・・・“記憶の宝石”だっけ?それを奪う為に俺の友達鼠を追いかけていたって事か。」
「と・・友達鼠・・・?」
「ここにいる鼠全員、俺の友達なんだ。皆、挨拶しろ。」
ウェンディが不思議そうに首を傾げ、シンの言葉に続くように300匹以上いる鼠達が一斉にナツ達に向かって一礼をした。
「ね・・鼠が、一礼した・・・」
「すごーい。」
「ホントに鼠なの?」
ハッピー、コテツ、シャルルの順に言う。
「ね・・ねぇ、話の意味が分かってないのって・・・私、だけ?」
エメラがおどおどとした様子で自分を指差す。
「見慣れない顔だな、新人か?」
シンもエメラを見て不思議そうに首を傾げる。それとほぼ同時に、300匹以上いる鼠達も首を傾げたのは余談だ。
「この子はエメラルド・スズラン。皆からは“エメラ”って呼ばれてるわ。つい最近ギルドに入ったばかりなの。」
「エ、エメラルドです!初めまして!」
ルーシィからの紹介が終わった後、エメラはもう一度名乗りぺこっ、と頭を下げた。
「俺はシン・バンギ。今は旅をしていてギルドに顔を出す事はほとんどねェけど、列記とした妖精の尻尾の魔道士だ。よろしくな、エメラ。」
「よ、よろしく、です!」
差し出された手を握ってエメラとシンは握手を交わす。
「ところで、さっき言ってた“記憶の宝石”って何だ?」
エメラの手を離した後再びシンが首を傾げながら問う。
「簡潔に言えば、エメラの記憶が封じられている宝石の事だ。」
「はっ?」
「簡潔」と言いながら、エルザの言葉を聞いてマヌケの声を出すシン。
今エルザが言った言葉だけで、“記憶の宝石”の事を理解出来る人はそうそういないだろう。
「エメラは何らかの理由があって、記憶が無いんだよ。」
「!?」
コテツの言葉にシンは目を見開いた。
「そのエメラさんの記憶は、100個の宝石に封じられているんです。理由は、分かりませんが・・・」
「エメラの記憶を封じている宝石を、俺達は“記憶の宝石”って呼んでいるんだ。」
ウェンディとグレイが最後を締め括った。
シンはしばらく放心状態になっていたが、両手で自分の頬をペチン!と叩いた後、深緑色のハーフパンツの右ポケットに手を突っ込み、中から“記憶の宝石”を取り出した。
「これが、エメラの記憶を封じている“記憶の宝石”なのか?」
「そうだ。」
「“記憶の宝石”が100個集まれば、エメラの記憶は全て戻るのよ。」
シンの問いにアオイが頷き、ルーシィが更に説明を足す。
すると、ナツとハッピーがシンに頭を下げて顔の前で手を合わせていた。
「その宝石は、エメラにとって大切のモンなんだ。頼むシン!その宝石を、エメラに譲ってくれっ!」
「オイラからも、お願いします!」
ナツとハッピーが口々に言うと、それに続いてグレイ、コテツ、ルーシィ、エルザ、アオイ、ウェンディ、シャルル、イブキ、バンリが頭を下げた。
「頼む、シン!」
「シン、お願い!」
「エメラの為にも、頼む!」
「お願いします!」
グレイ、ルーシィ、エルザ、ウェンディが言った。
「皆・・・」
エメラが申し訳無さそうに小さく呟き、スカートの裾をギュッと掴んだ。
シンはしばらく“記憶の宝石”を持ったまま放心状態になっていたが、
「・・・ぶっ、ぶはっ・・ぶはははははっ!」
「へっ?」
突然腹を抱えて大爆笑をするシンを見てナツ達はマヌケな声を出した。
「あはははははっ!だははははははっ!」
「ちょ・・ちょっと、シン・・・?」
「人が真剣に頼んでるって言うのに、大爆笑するなんて。」
笑い続けるシンを見てルーシィは目をパチクリさせ、シャルルは胸の前で腕を組む。
笑いすぎたせいか、シンの赤い瞳には涙が溜まっていた。
「ははは・・悪ィ悪ィ・・・ひひっ、だって・・似合わなすぎなんだよ。お前等が、頭下げるの・・・特に、ナツとグレイとアオイとイブキ・・・似合わねェ!だははははははっ!」
シンはまた大爆笑し始めた。
ナツとグレイとアオイとイブキは顔を見合わせる。
ようやく笑いが収まったシンは「ふぅ~」と一度息を吐くと、
「仲間が困ってるのに、協力するのは当然の事だろ?なーに堂々と頭下げてんだよ。」
鼻で笑いながら言った。
「じゃあ!」
エメラの顔がパァ!と明るくなった。
「もちろん、この宝石はエメラに渡すぜ。」
そう言いながらシンはエメラに“記憶の宝石”を渡した。
「!」
エメラの脳裏に眩い光を放つ閃光がよぎった。
深緑色の屋根に白い壁の家。その家の中で、赤ちゃんが母親らしき人物に抱かれていて、父親らしき人物に頭を撫でられていて、5~6歳ぐらいの女の子が赤ちゃんの右手を、3~4歳ぐらいの男の子が赤ちゃんの左手を握っている―――――。
また脳裏に眩い光を放つ閃光がよぎり、5人家族の情景は消えた。
「エメラ?」
「どうしたんですか?」
「大丈夫か?」
心配そうに顔を覗き込んできたイブキ、ウェンディ、ナツの声で我に返った。
「また何か見たのか?」
「家族・・・」
「え?」
「深緑色の屋根の家に5人家族が住んでいて、お父さんとお母さんと、女の子と男の子と、赤ちゃんがいたの。」
問い掛けてくるグレイの瞳を真っ直ぐ見つめながら、エメラはゆっくりと今見た情景を言葉にして紡ぎ出す。
「もしかして、エメラの家族なんじゃ・・・」
「!!!」
バンリの言葉に一同は目を見開いた。
「もしバンリが言った事が事実だとすれば、女の子か赤ちゃんが、エメラだという事だな。」
「・・そういう事に、なるわね・・・」
エルザが呟き、ルーシィが納得したように頷いた。
「まぁとにかく、これで“記憶の宝石”は17個になった訳だ。」
「順調だね。」
アオイとコテツが言った。
「ねぇ、次は私からシンに質問してもいい?」
「良いぞ。と言っても、質問の内容は大体検討がついてんだけどな。」
エメラの言葉にシンは頷いた。
「シンはどうして、鼠と仲が良いの?」
「やっぱり聞くよな、それ。」
エメラの質問の内容が検討していた事と同じ事だったらしく、面白可笑しそうにシンは笑った。
「その答えは・・・」
そう言うと、シンは左手首に着けていた緑と赤茶色の石のブレスレットを外した。
ボワワワワワァンと白い煙が部屋中に立ち込めた。
「ケホッ、ケホッ。」
「ゲホッ、ったく・・ゲホッ、相変わらずゲホッ、すごい・・煙、だな・・・ゲホッ、ゲホッ。」
ウェンディが咳き込み、ナツが煙を手で掃いながら愚痴を吐く。
ようやく煙が晴れると、そこにシンの姿は無かった。
「あれ?」
「エメラ、下を見てみろ。」
エルザに言われてエメラは視線を下に移した。そこにはシンを取り囲んでいた黒い目の鼠達とは違う、赤い瞳の鼠がいた。
「俺が、十二支の“子”の血が流れているからだ。」
赤い瞳の鼠が言葉を喋った。
エメラは翠玉色の瞳を丸くした。
「うあああああああああああああああっ!」
イブキが悲鳴を上げ、バンリの後ろに身を隠す。
「あーそういえば、イブキは鼠が大の苦手だったな。すっかり忘れてたぜ。ていうか、鼠が嫌いなら、何で友達鼠の後着けて来たんだ?」
“子”の姿になったシンが首を傾げた。
「し・・仕方ねェ、だろ・・・ウェンディに、無理矢理・・連れて来られたんだから、よぉ・・・」
「スミマセン、イブキさんが大の鼠嫌いだという事に、私も今思い出しました。」
「そんな大事な事忘れるなよ・・・」
ウェンディが申し訳無さそうにイブキに謝罪する。
「十二支の、“子”の血・・・?」
「その言葉通りだ。バンギ家は代々人間と“子”の混血族だ。俺はそのバンギ家の、10代目なんだ。まぁ分かり難かったら、俺の事は“鼠人間”って覚えてくれればそれで良い。」
「はぁ・・・」
目の前にいるシン―――“鼠人間”を見て、エメラは納得したようなしてないような反応をする。するとボワワワワワァンと再び白い煙が立ち込めた。
「コホッ、コホコホッ。」
「ゴホッ・・ったく・・・ゴホッ、鬱陶しい煙、だな・・ゴホッ、ゴホッ。」
ルーシィが咳き込み、アオイが咳き込みながら愚痴を吐く。
ようやく煙が晴れると、人間の姿に戻ったシンがいた。
「姿が戻るタイミングは一貫してないから、いつ戻るのかが分からないのが欠点で困るんだ。因みに、こっちの姿が本当だからな。」
シンは肩に上って来た1匹の友達鼠の頭を人差し指で優しく撫でながら言った。
「あ、もう日が暮れ始めてる。」
窓の外を見てコテツが言った。空は鮮やかな水色からオレンジ色に変わろうとしていた。
「“記憶の宝石”も手に入れた事だし、そろそろ帰るとするか。」
「あい。オイラお腹ペコペコだよ~。」
頭の後ろで腕を組みながらナツと、腹の虫が「グゥ~」と鳴るお腹を両手で押さえながらハッピーが言った。
「ちょいっと待て。」
家を出て行こうとするナツ達をシンが止めた。
「お前等も、エメラの“記憶の宝石”探しを手伝ってるんだろ?」
「当たりメェの事聞いてどうすんだよ。」
「ちょっとイブキ。」
シンの問いにイブキが乱暴に答え、ルーシィが宥める。
「私達だけじゃないですよ。」
「花時の殲滅団や、妖精の尻尾の魔道士のほとんどが協力してくれてるんだ。」
「1人で探すより、大勢で探した方が断然良いからな。」
ウェンディ、グレイ、エルザの順に言う。
「“妖精の尻尾の魔道士のほとんど”、なんだな?」
「そうだけど、それがどうかし―――!まさか・・・!」
「シン、お前も・・・!」
鸚鵡返しのように聞き返すシンを不思議そうに見つめた後、ハッピーとアオイの顔がパァ!と明るくなった。
「俺も協力するぜ、“記憶の宝石”探し!」
シンは得意そうに鼻を擦った。
「ホント!?」
「あぁ。でも、旅を止める訳じゃない。」
「はっ?じゃあどうやって・・・?」
エメラが嬉しそうに聞き返し、頷いたシンの言葉にイブキは首を傾げる。
「旅の途中で見つけた“記憶の宝石”は、3ヶ月に一度ぐらいのペースで友達鼠に持たせてギルドに運んでもらう事にするよ。俺の友達鼠は、皆賢いんだ。な?」
シンの後ろにいる300匹以上の友達鼠は一斉に首を縦に振った。
「そういう事なら、頼んだぞシン!」
「おう!」
広げたナツとシンの掌がパァン!と軽快な音を響かせた。
「それじゃあな。」
「元気でね、シン!」
「旅、頑張ってねーっ!」
エルザ、ルーシィ、コテツの順にシンに向かって手を振る。
「皆によろしくなーっ!」
「チュー!チュー!」
大きく手を振り返すシンの後ろで、友達鼠も手を振り返していた。
後書き
Story5終了です!
紺碧の海の2作目、FT真鼠の主人公、シン登場~!
ずーーーっと更新が止まったままのFT真鼠。そのせいでシンの存在は影のように薄くなっていくばかりだったので、FTMJに特別ゲスト(?)として登場させてみました。
本文に書いたとおり、シンも“記憶の宝石”探し手伝いますよ。
さてさて、この話を読んでくれた読者様の中にも思った方はいるはずです。「FT真鼠のシンが登場したなら、もしかして・・・」と。ふふふ、それはまだ未定でございますが、もしかしたら・・・ですよ。
次回は遅くなりましたが、FTMJの主要キャラ、エメラ、コテツ、アオイ、イブキ、バンリのキャラ説を書きたいと思います。
それではSee you next!
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