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遊戯王GX~決闘者転生譚~

作者: Blue
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初年度
学園編
  TURN-03『ファーストデュエル』

 
前書き

今回は予告通りデュエルです。

以前の後書きやキーワードタグにも書いたように、本作のデュエルは現実的ではありません。

アニメなどでも議論されるように、「ここでこうすれば勝てた」、「この手札なら1killできる」等があるかもしれません。

そういった旨を踏まえた上でお読みくださいm(_ _)m
 

 
【章刀side】

「さてと‥‥」

荷物の整理を終え、ヴェール──俺の精霊(相棒)であるエフェクト・ヴェーラー──との絆を深めた‥‥のかは微妙だが、兎にも角にも俺は歓迎会までの時間を自室で寛いで過ごしていた。

そして現在、その件の歓迎会の時間を向かえ──‥‥た訳ではないが、俺はベッドに預けていた身を起こし、部屋を出るために簡単な身支度をする。

《ん? もう時間ですか?》

「‥‥いや、ちょっと野暮用と言うか‥‥まぁ、〝フラグ〟を建てにな‥‥」

いつの間にか俺の横を陣取って一緒に寛いでいたヴェールの問いに、俺は曖昧に、そして少し意味深に答えた。

‥‥まぁ、わざわざ語るほどの深い意味は無いのだが。

寛いでいる間に思い出したのだが、歓迎会前と言えば十代と万丈目の間に一悶着があるタイミングだった筈。

〝転生二次〟のテンプレとしては、大体そこから原作に介入して行くのが鉄板。

原作に介入せず、自由気儘に進むのんびりルート‥‥と言うのもそれはそれでアリかも知れないが、俺の場合は実技試験でクロノス先生相手にワンキルを決めている為、そう言う訳には行かないだろう。

遅かれ早かれ、否が応でも原作側から接触を図られると思う。

だがそれをわざわざ待っているというのも面倒だ。

元々原作には介入するつもりではあったのだし、だったら下手に先送りにするよりは素直にテンプレに従っておくのも悪くない‥‥と言うよりもその方がむしろ良いだろうと言うのが俺の最終的な結論である。

「よし‥‥行くか‥‥」

ある程度装いを整えた俺は、目的地に向かう為に部屋を後にした。

その後ろからヴェールが『待ってくださいよぉ~』なんて言いながら追いかけて来る。

そんなヴェールを横目に、俺は先刻配給されたばかりの携帯端末『PDA』を懐から取り出し、学園内の地図を画面に映す。

ながらスマホならぬ〝ながらPDA〟をしてしまうのもなんなので、一応立ち止まる。

このPDA、生徒の学生証代わりになるだけではなく、通信機能やメール機能、今し方使用した地図機能なんかも付いていて、とても便利な代物である。

『一学生にこんな便利な物‥‥』とも思ったが、現実とは違いってこの世界において〝決闘者(デュエリスト)〟と言う存在は立派な職業であり、それを育成する為の機関なのだからこれくらいの投資は普通なのかも知れない。

そんな事を考えながらも目的地を確認した俺は、PDAを懐にしまい、その場所に向かって歩き出す。

いきなり歩き出した事に驚いて出遅れたのか、またしても背後からヴェールの『待ってくださいよぉ~』と言う声が聞こえてくる。

‥‥が、俺はあまり気にせず、目的地に向かって歩みを進めた。



「ここだな‥‥」

辿り着いたのは、オベリスクブルー専用のデュエルフィールド。

原作通りなら、ここでは十代と万丈目が今正に悶着を起こしている筈。

俺がデュエルフィールドに足を踏み入れようとすると、タイミング良く万丈目の『ビークワイエット!!』と言う声が聞こえて来た。

どうやらタイミング的には十代が『俺が一番』宣言をした所らしい。

デュエル場には来たばかりだが、会話にするりと入るなら今だろう。

「そうそう‥‥」

俺はさも今までの話を聞いていたような感じで、当事者達の会話に割り込む。

その所為で、俺は一同の視線を一手に受ける事となった。

少し恥ずかしい気もする‥‥。

が、その感情を押し殺し、俺は言葉を続ける。

「この学園には『カイザー亮』って言う無敗のデュエリストがいるんだってさ。そんな人を差し置いて入学したての1年坊が一番ってのは、さすがに無理があるだろ? 少なくとも、その人を倒さない限り、一番とは言えねーな」

俺の言葉に万丈目の表情が顰められたのが見えたが、カイザーの事を否定することが出来ないのか、黙ったままで口を開かない。

「最も、俺も腕にはかなりの自信があるから、カイザーの前に俺も倒さないといけないけどな」

少し表情を作り、不敵な笑みで一同に言う。

その時、俺の事に気づいたのか、翔が声を上げる。

「ア、アニキ! この人、入学試験でクロノス先生にワンターンキル決めた人っスよ!」

「おお! あの見た事無いドラゴン使ってた奴か!」

翔の言葉を聞いた途端、十代の双眸が爛々と輝き出した。

その様子を見ると、つくづく思う。

もし原作側からの接触を待っていた場合でも、十代は間違いなく俺に接触して来ただろう。

所属は違うが同じ1年で、授業などでも顔を合わせる機会が多い。

実技試験であれだけ目立ったんだ、これは避けられない運命だな‥‥と、俺は内心で苦笑する。

「フン! 偶然とはいえ、クロノス教諭を破った奴にワンターンキルを決めた奴か‥‥。だが、新入りがあまり調子に乗るなよ。貴様等は所詮運が良かっただけだ」

俺と十代を見下したように──実際見下しているのだろう──言う万丈目。

「偶然じゃない、実力さ」

「右に同じだ」

広く見れば俺は十代の左側にいるから、〝同意〟という意味的にも〝立ち位置〟という状況的にも合っている。

我ながら上手いと思うが、どうだろう?

座布団は頂けますか?

「ほう‥‥。だったらその実力、ここで見せてもらおうか!」

「いいぜ!」

「まぁ、別にいいけど‥‥」

万丈目の挑発に揚々と乗る十代だが、対照的に俺はあまり乗り気ではない雰囲気を出す。

しかし、この場にはフラグを建てに来たのだから、デュエルをする気は当然ながらある。

ただそれを表に出してないだけである。

表に出していないだけ──‥‥ではあるのだが、もっと素直に言えばこういう奴等とのデュエルは、フラグ建ての為とはいえ正直気乗りしないと言うのが本音。

いつの時代もどこの次元も、自信過剰なエリート類の相手は精神的疲労が半端じゃない。

相手が自分を見下している場合はなおさらだ。

「万丈目さん! こいつは俺にやらせてください!」

万丈目の隣に立っていた眼鏡を掛けている方の取巻き、取巻きA──確か名前は『取巻太陽』だった筈だが、面倒だから〝A〟──が俺を睨む。

別にコイツに喧嘩を売った訳ではないんだけど‥‥。

その時、

「あなた達、ここで何してるの!」

デュエル場の入り口の方から女性の声が挙がる。

まぁ、当然の事ながら明日香だ。

「わぁ~、綺麗な人‥‥」

翔が明日香に見蕩れている。

確かに美人だとは思うけど、俺の初対面での感想は『綺麗だけどちょっと怖そう』だな。

明日香の見た目はかなり凛々しい。

ちなみに俺はどちらかと言うと、女の子らしい可愛さを持ち、その中にも凛々しさを感じさせてくれる子が好みだ。

明日香が可愛くないとは言わないが、例えば、そうだな‥‥ヴェールみたいな?

そんな考えが頭を過ぎった瞬間、デッキケースがカタッと僅かに揺れた様な気がしたが、まさかヴェール(あいつ)、また心読んだのか?

プライバシーの侵害もいいところだ、出るとこ出ようか?

「やあ、天上院君。ちょっと新入りにこの学園の厳しさを教えてあげようと思ってね」

中等部からのエスカレーターとはいえ、お前も同じ1年坊だろうに‥‥。

そんなツッコミを内心に抱きつつも、口には出さない。

「もうすぐ寮で歓迎会が始まるわよ」

「‥‥引き上げるぞ、お前達!」

明日香に言われ、万丈目は取巻き達を引き連れてその場を去って行った。

「あなた達、万丈目くん達の挑発に乗らない事ね。あいつ等、ロクでもない連中なんだから‥‥」

万丈目達が見えなくなると、明日香は俺達にそう忠告した。

確か万丈目は明日香の事が好きだった筈だけど、これは〝脈無し〟とかそんなレベルじゃないな。

そう思うと、なんだか万丈目が若干可哀想に思えるが、まあそれは自業自得だ。

俺には関係無い。

「そうだな、歓迎会に遅刻してもアレだし、そろそろ戻った方がいいだろ」

万丈目へ抱いた僅かな同情をスルーし、話を元に戻す。

「そう言えば、自己紹介してなかったな。俺は光凪章刀。よろしくな」

「俺は遊城十代。よろしくな!」

「僕は丸藤 翔 っス」

「天上院明日香よ」

俺達は取り敢えず自己紹介を済ませ、歓迎会の為にそれぞれの寮へと戻って行った。

その際、

「なあなあ章刀! 俺とデュエルしようぜ!」

「そうだな‥‥1500年くらい経ったらな」

俺も十代(主人公)とはデュエルしてみたいが、今はスルー。

と言うか会っていきなり呼び捨てとは、いささかフレンドリー過ぎではないだろうか‥‥。

──まあ、こういう奴が1人いると、学園生活は楽しくなるけどな。


◆◇◆◇◆◇◆◇


「ふぅ~‥‥」

デュエル場でのゴタゴタから数時間後‥‥。

歓迎会が終了し、俺は自室のベッドに身を預けながら、ちゃんとフラグが建ったかどうかの結果を待っていた。

ちなみに、歓迎会のすぐ後に三沢とも接点を持っておいた。

‥‥と言っても話し掛けてきたのは向こうからだったけど。

デュエル理論がどうのこうのとか言っていたが、会話がほとんど頭に残ってない。

雑学とか豆知識とかは割と好きな方だけど、理屈っぽいのは苦手なんだよなぁ~‥‥。

《マスター‥‥暇です》

「ああ、俺も暇だよ」

またしてもいつの間にか俺の横を陣取っていたヴェールの言葉に、俺も同意見だ。

特にする事が無い。

荷物の整理はとっくの昔に終わってるし、かと言って暇つぶしのゲーム的な何かをしようにも、そう言ったものも荷物の中には無い。

いや、まぁ〝カードゲーム〟なら十分過ぎる程あるのだけれど‥‥。

「どうせこの後やる事になるんだしなぁ~‥‥」

そう、この後、()るのである。

《‥‥イマイチよくわかりませんがマスター、漢字が違うと思います》

「気にしたら負けだ、ヴェール」

《そういうものなんですか?》

「そういうもの」

どうでもいいような会話をヴェールと交わしていると、その時がやって来た。

「お! 来た来た」

どうやらフラグ建ては成功したようで、予想通り招待状が送られてきた。

万丈目からではなく、取巻きの眼鏡野郎から。


from取巻きA
『身の程知らずのお前にオベリスクブルーの実力を教えてやる。午前0時にデュエルフィールドで待っている。互いのベストカードを賭けたアンティルールだ。勇気があるなら来るんだな』


‥‥正直アレがブルー寮を代表する程の実力なんだとしたら、この学校は恐らく〝教育機関〟たる意味を成さないと思う。

《え~と、よくわかんないんですけど‥‥これで〝フラグ〟って言うのが建ったんですか?》

「ん? まあな」

肩越しにPDAのメール画面を覗き込んで来たヴェールに対して俺は──意味が読み取れるかどうかは別として──含み笑いを見せる。

まぁ、案の定ヴェールは首を傾げ、頭に疑問符を浮かべていた。

その雰囲気も可愛らしい。

そう思った瞬間、ヴェールの頬が僅かに紅潮したのが見えた。

コイツまた人の心を‥‥。

まぁ、もういいや。

「別に今すぐ理解する必要は無いさ。どうせすぐにわかる」

今度は意味深に言ってみるが、この言葉にもさほど大した意味は無い。

──ホントにすぐにわかるしな‥‥。

それから俺は上手く時間を見計らって、机の上に置いていたデッキとデュエルディスクを手に、ちゃんと電気を消してから部屋を後にした。

節電は大事‥‥。


◆◇◆◇◆◇◆◇


「オッス、章刀!」

「ん?」

誰かに見つからないように、ひっそりと目的地に向かっていた途中、タイミング良く(?)十代、そして翔と出くわした。

「章刀くん、数時間ぶりっス」

「おう、数時間ぶり」

〝数時間ぶり〟なんて挨拶は初めて聞いたが、一応返す。

「お前も万丈目に呼び出されたのか?」

「いや、俺はその隣にいた眼鏡野郎にな」

「ふ~ん‥‥」

納得したような雰囲気の十代だが、その視線が心なしか俺の背後へと向けられている気がする。

俺はその視線を追って振り向く。

そこには、俺の相棒である半透明の少女──ヴェールの姿。

「何で出てんだよ‥‥」

《いいじゃないですか、別に♪》

小声でツッコむ俺に、ヴェールは満面の笑みで返してくる。

‥‥これでは強く言えないじゃないか。

ま、仰るとおり別にいいのだけれど。

「1人で何ぶつくさ言ってるんスか?」

「あ、いや‥‥何でもねーよ。ハハハ‥‥‥‥」

俺のことを不思議そうに見る翔に対し、取りあえず誤魔化しておく。

ふとその横を見ると、十代も俺のことを不思議そうに見ていた。

──なんでそんな顔してんだよ。お前もコイツのこと見え‥‥。

そこまで考えて、思いだした。

そういえば十代はこの時はまだ精霊が見えていないんだった。

微かに存在を感じる程度だったか‥‥。

だから俺の後ろにいたヴェールに対して、認識はしなくても微妙に反応していたんだ。

十代がハッキリと精霊を視認するのは確か‥‥タイタン戦のあとか。

タイタンが仕掛けた偽闇のデュエルのあと、ホントの闇のデュエル──正確にはデュエルではなかったと思う──が起こり、そこで初めて相棒である《ハネクリボー》の姿を見る‥‥という流れだったハズだ。

こんな重要な情報を忘れてるとは‥‥。

ここへきて再び原作知識の曖昧さに不安を覚える。

女神様に頼んで思い出させてもらうべきだったか?

サービス精神旺盛な人(神)だったから、それくらいは叶えてもらえそうだしな‥‥。

とはいえ、こっちからどう連絡すればいいのかもわからないし──

「さっきから黙って何か考えごとっスか?」

「早く行こーぜ!」

沈思黙考に(ふけ)っていた俺を、翔と十代の言葉が現実へと引き戻す。

「あ、ああ悪いな」

‥‥まあいい。

かなり重要な課題だが、今すぐ大事件が起こったりする訳じゃない。

〝セブンスターズ編〟までに何とかなれば大丈夫だろう。

「じゃあ行くか。(やっこ)さんが待ってるしな」

「おう!」

色々と考えるのは後にするとして、俺達はオベリスクブルー専用のデュエル場へと向かう。



「到着っと‥‥」

あまり無駄口を叩かずに歩みを進めた為、案外早く目的地であるデュエル場に到着した。

デュエル場の中央にあるフィールド上には、万丈目と2人の取巻きがこちらを見下すようにして立っている。

「よく来たな、新入り共」

「デュエルと聞いちゃ、来ない理由はないぜ!」

「まぁ、せっかくの招待だからな」

歓迎会前の時同様、十代は乗り気、俺は仕方なく、的な雰囲気で返す。

対し、万丈目達は俺達を一瞥した後、顎で自分の対面(といめん)を指す。

リングに上がれ、という事だろう。

どこまでも上から目線な奴だ。

やっぱりこの頃の万丈目より、アニメ後半のギャグキャラと化した奴か漫画版のクールな奴の方が断然好感が持てる。

つーかそっちの方が絶対良いって‥‥。

関係無い事を色々と考ながらも、俺と十代はフィールドに上がる。

どうやら十代vs万丈目、俺vs眼鏡のデュエルを同時進行で行うらしい。

フィールドを半々に分けて、2組で対峙する。

「アニキー! 章刀くーん! 頑張れー!」

俺は翔の声援を背に受け、目の前の対戦相手を見据える。

「フン! 入試デュエルで運良くワンターンキルしたからって、調子に乗るなよ。お前にオベリスクブルーの実力を教えてやる!」

取巻きの眼鏡がデュエルディスクを起動させる。

正直クロノス先生にワンキルしたからって調子に乗る訳は無い。

俺の世界来てみる?

ワンキルする奴なんてわんさかいるぞ。

特に近年は強すぎるカテゴリー──いわゆる〝壊れテーマ〟が頻出しているからな。

俺は内心で思うが、口には出さない。

というか言えない。

「それじゃあ教えてもらおうか!」

どうでもいい考えを捨てて、俺もデュエルディスクを起動させる。

「俺が勝ったら、入試デュエルでお前が使っていたドラゴンをもらう!」

そう言えば〝アンティ〟だったな。

入試で使ったドラゴン‥‥〝聖刻龍〟か。

別に数枚くらいなら譲ってもいいのだけれど、こいつには使いこなせないだろう‥‥と俺は思う。

「別にいいよ。じゃあ俺が勝ったら、そうだな‥‥。アンティは要らないから、お前、俺のパシリな」

そもそもアンティ自体が校則違反だから要らない。

面倒事はキライだ。

けどパシリなんかもっと要らない。

変な噂が立っても嫌だ。

ただ、お高くとまったエリート思考をズタズタにする為に言ってみる。

「減らず口を! 行くぞ!」

「来い! 取巻きA!」

「〝A〟じゃない! 俺は取巻太陽だ!」

「デュエル!」

「オイ無視するなっ!!」


章刀 LP4000
手札5枚

取巻きA LP4000
手札5枚


「俺の先行! ドロー!」

入試デュエルとは変わって、俺は先攻を取る。

「俺はモンスターを裏守備でセット、さらにカードを1枚セット!」

俺のフィールドに裏向きのカードが2枚現れる。

「これで俺はターンエンドだ」


章刀 LP4000
手札4枚
モンスター1体
《セット》
魔法・罠1枚
《セット》1枚

取巻きA LP4000
手札5枚
モンスター0体
魔法・罠0枚


「ハッ! 調子に乗って先行を取った割には、守備固めか。情けないな、臆病者め!」

取巻きAの発言にちょっとムカつく俺。

裏守備セットのどこが情けないんだ?

リバース効果とかもあるだろうに。

()()()()()()()()()

それに、

「けど、お前らが崇拝する万丈目さんも初手は守備だぜ?」

俺は横で十代とデュエルする万丈目を指差しながら言う。

その先では、万丈目が《リボーン・ゾンビ》を守備表示で召喚し、カード1枚をセットしていた。

俺の初手と大差は無い。

モンスターが表か裏かの違いだけだ。

「お前と万丈目さんを一緒にするな! 半端者のラーイエローが!」

半端者‥‥。

オシリスレッド(落ちこぼれ)オベリスクブルー(エリート)の間だからか?

意外と上手いじゃないか、座布団1枚だな。

俺は少し感心したように取巻きAを見る。

「俺のターン、ドロー! 半端者のイエローめ、俺を舐めた事を後悔させてやる!」

取巻きAはドローしたカードを手札に加え、別の手札を取る。

「俺は《サファイアドラゴン》を攻撃表示で召喚!」

取巻きAのフィールドに美しい青いドラゴンが現れた。


《サファイアドラゴン》ATK1900


《サファイアドラゴン》か。

コイツが出て来たって事は、取巻きAのデッキはドラゴンデッキか、もしくはバニラデッキってトコだろう。

低級で高打点、しかもバニラのドラゴン族と、中々に使い勝手がいいモンスターだ。

──けど、そいつじゃあ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「まだだ! さらに俺はフィールド魔法《山》を発動!」

取巻きAがデュエルディスクの端の部分にカードをセットすると、辺りの景色が高々とした山々に変化した。

随分とまあ懐かしいカードだ。

──っと、それより、守備力上回ったな。

「フィールド魔法の効果で、俺のドラゴン族モンスターの攻撃力は200ポイントアップする!」


《サファイアドラゴン》ATK1900→2100


「これで《サファイアドラゴン》の攻撃力は2100だ! 行くぞ! 《サファイアドラゴン》で壁モンスターを攻撃! サファイアブレス!!」

《サファイアドラゴン》の放ったブレスが、俺のフィールドにセットされていたモンスターに被弾する。

結果、宝石の甲羅を持った亀のモンスターが(あらわ)となり、そのまま破壊されてしまった。

「《ジェムタートル》のリバース効果発動! このモンスターがリバースした時、デッキから《ジェムナイト・フュージョン》を手札に加える事が出来る!」

俺は効果テキストを読み上げた後、デッキから指定のカードを手札に加えた。

「チッ! リバース効果モンスターか、小賢しい奴だ。カードを2枚伏せて、俺はターンエンドだ」


章刀 LP4000
手札5枚
モンスター0体
魔法・罠1枚
《セット》

取巻きA LP4000
手札2枚
モンスター1体
《サファイアドラゴン》
魔法・罠2枚
《セット》×2

フィールド
《山》(取巻きA)

「俺のターン! ドロー!」

さて、キーカードも来た。

早速行くか。

「俺は魔法カード《ジェムナイト・フュージョン》を発動! このカードはジェムナイト専用の融合魔法で、手札またはフィールド上のモンスターを素材として、融合召喚を行う事が出来る! 俺は手札の《ジェムナイト・ガネット》と《ジェムナイト・オブシディア》を融合!」

俺のフィールドにオレンジ色の鎧を纏った戦士と黒い鎧を纏った戦士が現れ、そのまま渦の中へと消えた。

「現れろ! 紅玉の騎士、《ジェムナイト・ルビーズ》!!」

渦が消え、俺のフィールドには新たに真紅の鎧を纏い、ハルバードのような武器を持った戦士が現れた。


《ジェムナイト・ルビーズ》ATK2500


「おお! 俺と同じ融合か!」なんて声が隣から聞こえてくる。

俺のデッキ──【ジェムナイト】に興味を持ったらしい。

十代とのデュエルはこのデッキを候補に挙げとくか‥‥。

「さらに俺は、融合素材とした《ジェムナイト・オブシディア》の効果を発動! オブシディアが手札から墓地へ送られた場合、自分の墓地に存在するレベル4以下の通常モンスターを特殊召喚する事が出来る! 俺は墓地から、ジェムナイト・ガネットを特殊召喚!」

先程一瞬だけ姿を見せたオレンジ色の鎧を纏った戦士が、再び俺のフィールドに現れた。


《ジェムナイト・ガネット》ATK1900


「まだ行くぜ! 俺は墓地の《ジェムナイト・フュージョン》の効果発動! このカードが墓地に存在する時、墓地の『ジェムナイト』と名のつくモンスター1体をゲームから除外する事で、手札に戻す事が出来る! 俺は墓地のオブシディアをゲームから除外し、《ジェムナイト・フュージョン》を手札に加える!」

俺は再び手札に加えた《ジェムナイト・フュージョン》を取巻きAに見せる。

「そして再び《ジェムナイト・フュージョン》を発動! 手札の《ジェムナイト・サフィア》とフィールドの《ジェムナイト・ガネット》を融合! 現れろ! 蒼玉の騎士、《ジェムナイト・アクアマリナ》!!」

青白い鎧を纏った戦士とオレンジ色の鎧を纏った戦士が渦に飲まれ、そこから青い鎧を纏い、剣と盾が合わさったような武器を持った戦士が現れた。


《ジェムナイト・アクアマリナ》DEF2600


これで融合モンスターが2体。

俺の残りの手札は2枚。

1枚は『ジェムナイト』の通常モンスター。

そしてもう1枚は──

「俺はサフィアをゲームから除外し、再び《ジェムナイト・フュージョン》を手札に加える! そして、魔法カード《輝石の宝札》を発動! このカードの発動時、『ジェムナイト・フュージョン』または『ジェムナイト』と名のついた通常モンスターを合計2枚捨てて、デッキからカードを3枚ドローする事が出来る! 」


《輝石の宝札》(オリカ)
通常魔法
「輝石の宝札」は1ターンに1枚しか発動できず、このカードを発動するターン、自分は「ジェムナイト」モンスターしか召喚・特殊召喚できず、バトルフェイズを行うことができない。①:手札から「ジェムナイト・フュージョン」または「ジェムナイト」通常モンスターのいずれか合計2枚を捨てて発動できる。自分のデッキからカードを3枚ドローする。


「俺はさっき回収した《ジェムナイト・フュージョン》と手札の《ジェムナイト・クリスタ》を捨て、3枚ドロー!」

俺はドローしたカードを一瞥し、手札に加える。

「さらに俺はクリスタをゲームから除外し、再び《ジェムナイト・フュージョン》を回収! そして《ジェムナイト・フュージョン》を発動! 手札の《ジェムナイト・ルマリン》と《ジェムナイト・アレキサンド》を融合! 現れろ! 黄玉の騎士、《ジェムナイト・パーズ》!!」

黄色い鎧を纏った戦士と白い鎧を纏った戦士が渦に飲まれ、そこから黄金色の鎧を纏い、トンファーのような武器を持った戦士が現れた。


《ジェムナイト・パーズ》ATK1800


「融合モンスターが1度に3体だとッ!?」

俺の連続融合召喚に(おのの)く取巻きA。

元いた世界ではこれでも少ない方だが、この世界では驚かれることなのだろう。

もっと驚かせてやりたいところだが──

「ここらでバトル!‥‥と行きたいが、《輝石の宝札》を発動したターンはバトルは出来ない。俺はルマリンをゲームから除外して《ジェムナイト・フュージョン》を回収。カードを1枚セットして、これでターンエンドだ」


章刀 LP4000
手札1枚
モンスター3体
《ジェムナイト・ルビーズ》、《ジェムナイト・パーズ》、《ジェムナイト・アクアマリナ》
魔法・罠2枚
《セット》×2

取巻きA LP4000
手札2枚
モンスター1体
《サファイアドラゴン》
魔法・罠2枚
《セット》×2

フィールド
《山》(取巻きA)


「くっ! 俺のターン! ドローッ!」

状況的に自分が不利だと感じているのか、カードを引く手に力が入っているのが傍目から見てもわかる。

しかし、ドローしたカードを見た瞬間、その顔に笑みがこぼれた。

「ハハハッ! 俺の勝ちだな!」

「っ!?」

その言葉に俺は思わず動揺してしまった。

「俺は《エレメント・ドラゴン》を召喚! 《山》の効果で攻撃力アップ!」

取巻きAのフィールドに薄い赤色のドラゴンが現れた。


《エレメント・ドラゴン》ATK1500→1700


「《エレメント・ドラゴン》は、フィールドに特定の属性のモンスターが存在する時、効果を発動する!」

知っている。

確か炎属性がいる時は攻撃力アップで、風属性がいる時は2回攻撃だったハズだ。

それがなんだと言うのだろうか?

「俺のフィールドには風属性の《サファイアドラゴン》がいる。よって《エレメント・ドラゴン》は1ターンに2回の攻撃が可能だ! さらに、《デーモンの斧》を《エレメント・ドラゴン》に装備! これで攻撃力が1000ポイントアップする!」

《エレメント・ドラゴン》に悪魔の顔が装飾された斧が装備された。


《エレメント・ドラゴン》ATK1700→2700


ドラゴンに斧とは‥‥なんともミスマッチな光景だ。

竜人ならまだしも、《エレメント・ドラゴン》は四つん這いだからな‥‥。

攻撃力は確かに俺のフィールドのすべてのモンスターを上回ったが、取巻きAの頭の中にはどんな勝利の方程式ができているのだろうか?

「これでお前のフィールドのモンスターは全滅する! 俺の勝ちだ!」

‥‥なるほど、そういう事か。

アニメの世界ならではの考えだ。

けど、その理論はちょっと無理があるだろう‥‥と俺は思う。

「さらに俺は永続罠《竜の逆鱗》を発動! ドラゴン族モンスターは貫通能力を得る! 行くぞ! まずは《エレメント・ドラゴン》で《ジェムナイト・アクアマリナ》を攻撃! エレメントブレス!!」

《エレメント・ドラゴン》が灼熱のブレスを放つ。

──斧は!? まったく意味無ぇじゃん!

そんなツッコミを内心で叫んでいる間にも、灼熱のブレスによってアクアマリナが焼き尽くされてしまった。

「ぐっ!」


章刀 LP4000→3900


取巻きAはそこから連続攻撃するつもりだろうけど、ここで一旦ストップだ。

「破壊されたアクアマリナの効果発動! アクアマリナがフィールドから墓地へ送られた時、フィールド上に存在するカード1枚を手札に戻す! 俺は《エレメント・ドラゴン》を選択する!」

破壊されたアクアマリナの盾から大量の水が噴出され、目の前のドラゴンを押し流した。

「くっ‥‥小賢しいマネを! だったら《サファイアドラゴン》で《ジェムナイト・パーズ》を攻撃だ!」

《サファイアドラゴン》が放ったブレスに被弾し、パーズは破壊されてしまった。

「っ!!」


章刀 LP3900→3600


「1体倒し損ねたが、まあいいさ。ターンエンドだ!」


章刀 LP3600
手札1枚
モンスター1体
《ジェムナイト・ルビーズ》
魔法・罠2枚
《セット》×2

取巻きA LP4000
手札1枚
モンスター1体
《サファイアドラゴン》
魔法・罠2枚
《竜の逆鱗》、《セット》

フィールド
《山》(取巻きA)


「俺のターン! ドロー!」

いきなり融合モンスターを2体も破壊されるとは驚いた。

しかし〝驚いた〟だけであって、所詮は想定の範囲内だ。

それにこの手札なら、このターンで決められる。

俺のドローも、中々どうして奇跡を起こすのかもな。

「俺は《死者蘇生》を発動! その効果で墓地から《ジェムナイト・アクアマリナ》を復活!」

俺のフィールドに再びアクアマリナが蘇る。


《ジェムナイト・アクアマリナ》DEF2600


これが同じ融合デッキの【HERO】に対する利点だと思う。

融合召喚でしか特殊召喚できない〝融合HERO〟に比べ、〝融合ジェム〟を融合召喚しなければならないのはエクストラデッキからのみ。

その他の場所からの特殊召喚に制限は無い。

まあその分【HERO】には《ミラクル・フュージョン》や《平行世界融合(パラレルワールド・フージョン)》があるから、一概に【ジェムナイト】の方が使い勝手が良いとは言えないが。

まあそれはさておき、ここでもう1体。

「さらに俺はセットしていた装備魔法《D(ディファレント)D(ディメンション)R(リバイバル)》を発動! 手札の《ジェムナイト・フュージョン》をコストにして、その効果でゲームから除外されている《ジェムナイト・クリスタ》を特殊召喚する!」

次にフュージョンのコストで除外していたクリスタを俺のフィールドへと呼び起こす。

何故に装備魔法をセットしていたのかは‥‥まあブラフとでも考えておいてくれ。


《ジェムナイト・クリスタ》ATK2450


「墓地のアレキサンドを除外してフュージョンを回収。そして再び《ジェムナイト・フュージョン》を発動! 俺はフィールドのクリスタとアクアマリナを融合! 現れろ! 紫水晶の騎士、《ジェムナイト・アメジス》!!」

クリスタとアクアマリナが渦に飲まれ、そこから紫色の鎧を纏い、SFを思わせる剣と渦状の盾を持った戦士が現れた。


《ジェムナイト・アメジス》ATK1950


「墓地に送られたアクアマリナの効果発動! 《サファイアドラゴン》を手札に戻す!」

再度アクアマリナの盾から大量の水が噴出され、今度は青いドラゴンを押し流した。

残るはセットカードのお掃除だ。

「いよいよ大詰めだ! 俺はルビーズの効果を発動! 1ターンに1度、『ジェム』と名のつくモンスターを生け贄にする事で、その攻撃力分、自身の攻撃力をアップさせる! 俺はアメジスを生け贄にして、ルビーズを強化する!」

アメジスが眩い光と共に消えると、ルビーズがその光を纏い、武器を構える。


《ジェムナイト・ルビーズ》ATK2500→4450


「こ、攻撃力4450だとっ!!?」

「それだけじゃないぜ! 生け贄となったアメジスの効果発動! アメジスがフィールドから墓地へ送られた時、セットされた魔法・罠をすべて手札に戻す!」

「何ぃっ!?」

フィールドの真上にアメジスの残像が現れ、手に持っていた剣を横薙ぎに振るった。

すると、剣から水の斬撃が放たれ俺達2人のセットカードを押し流そうとする。

「くっ! なら、それにチェーンしてリバースカードオープン! 罠カード《威嚇する咆哮》! これでこのターン、お前は攻撃宣言が出来ない!」

やっぱり防衛用のカードを伏せていたか。

しかも初手で。

よくもまあ他人(ひと)のことを臆病者なんて(なじ)れたモンだな。

どっからどう見ても普通の戦略だろ。

‥‥まあその戦略も、無意味になるんだがな。

「俺もそれにチェーンしてリバースカードオープン! カウンター罠《ジェム・リジェクション》! このカードは自分フィールド上に『ジェムナイト』と名のつくモンスターが表側表示で存在する場合、ライフを半分払って発動でき、その種類に相応するカード効果を無効にする!」


《ジェム・リジェクション》
カウンター罠
①:自分フィールドに「ジェムナイト」モンスターが表側表示で存在する場合、ライフを半分払い、そのモンスターの種類によって適用できる効果を以下から選択して発動できる。●通常モンスター:相手フィールドで発動した効果モンスターの効果を無効にして破壊する。●融合モンスター:相手フィールドで発動した魔法・罠カードの効果を無効にして破壊する。●Xモンスター:相手の手札または墓地で発動したカードの効果を無効にし、そのカードをゲームから除外する。


章刀 LP3600→1800


「俺の場にいるルビーズは融合モンスター! よって、お前の罠カード《威嚇する咆哮》は無効だ!」

「なっ!!?」

俺のカウンター罠によって取巻きAのカードが打ち消された為、俺はこのターン、普通に攻撃できる。

さらに、アクアマリナとアメジスの効果で相手の場はガラ空き。

ライフは4000。

そして唯一俺のフィールドに存在するルビーズの攻撃力は4450。

Do you understand?

俺は笑みを浮かべ、取巻きAを一瞥する。

「お前の負けだ」

「ひぃっ!!」

「《ジェムナイト・ルビーズ》で相手プレイヤーに直接攻撃(ダイレクトアタック)! クリムゾン・スラッシュ!!」

「うわあああああああっ!!!」


取巻きA LP4000→0


「ま、こんなモンか」

俺はデュエルディスクを待機状態に戻し、デュエルフィールドを降りる。

「章刀くんスゴかったっス!!」

「ええ。まったくもって見事だったわ」

翔といつの間にか来ていた明日香から思わず賞賛を受ける俺。

アニメキャラに褒められる日が来るなんて、現実世界にいた頃は夢にも思わなかっただろうな。

その時、

「俺の引きは奇跡を呼ぶぜ!」

十代が高らかに宣言する。

この台詞が出たって事は、そろそろタイムアップだ。

十代がカードをドローし、引き当てたカードを見て勝ちを確信した瞬間、明日香が声を上げた。

「ガードマンが来るわ! アンティは校則で禁止されてるし、時間外に施設を使ってるから校則違反で退学になてしまうかも!」

明日香の言葉を聞いた十代から『そんな校則あるの!?』という驚きの声が上がる。

どこの世界に『生徒間の賭博(アンティ)』や『学園施設の時間外及び無断使用』を許可する学校があるというのだろうか。

十代の言葉に、盛大に呆れてしまう俺。

しかし改めて考えてみると、明日香は耳が良いな。

ソリッドヴィジョンや当人達の声などの雑音があるのに、ガードマンの足音が聞こえたんだから。

逆に考えると、ガードマンは耳が悪い。

さっき述べたような音に気づかないのだから。

「今夜はここまでだ、俺の勝ちは預けておいてやる」

そう言って万丈目はデュエルフィールドを降りていく。

おっと忘れてた。

「あ、そうそう、取巻きA──「太陽だ!!」──‥‥どっちでもいいだろ、別に。それはそうと、あのパシリの件だけどな、俺別にパシリとか要らないから」

「っ!!!」

俺の言葉聞いた取巻きAは、まるで苦虫を噛み潰したかのように顔を歪め、そのまま万丈目ともう1人の取巻きと一緒にデュエル場を出て行った。

その光景を、俺は何ともなしに見ていた。

──っと、そんな場合じゃないな。

その後、俺達もデュエル場を後にした。

‥‥のだが、十代が呆れる返る程デュエルに執着した所為で、危うくガードマンに見つかりそうになったのはココだけのお話‥‥。



「いや~、助かったっス。ありがとう、明日香さん、章刀くん。僕だけじゃアニキを運べなかったよ」

「いいさ。あそこで十代が捕まってそこから俺の事までバレたら面倒だからな」

とばっちりなんて本当に笑えない。

いや俺も施設の無断使用やアンティルールのデュエルをやっていたのだから同罪なのだけど。

まあ今回はバレてはいないし、セーフだろう。

「チェッ、余計な事しやがって‥‥」

「余計なって、お前なぁ‥‥」

恩人に対して何たる口ぶりだろうか。

内心で呆れツッコむが、言ったところで十代が聞くとも思えないので、敢えて口にはしない。

「でもあのまま続けてたら、大事なカードを失うところじゃなかったの?」

「いや、今のデュエル、俺が勝ってたぜ」

明日香の言葉に、十代は得意満面で答える。

そして、不思議そうにしている明日香と翔、ついでに不思議そうにしていなかった俺にも、自分が最後に引き当てた逆転のカード、《死者蘇生》を見せてきた。

カードを見た瞬間、明日香がハッとしたが、俺のリアクションは違う。

俺は前々から思っていたことを確認するため、十代に声を掛ける。

「なあ十代、ちょっとフレイム・ウイングマンのカードを見せてくれないか?」

「ん? ああ、いいぜ」

俺は十代からカードを受け取ると、そのテキストに目を通す。

すると、俺の知ってるカードテキストと違っている点があるのに気づいた。

先刻も述べたが、〝E・HERO〟の融合モンスターは、融合召喚でしか特殊召喚できない。

俺が知ってるすべての融合ヒーローのカードには、その旨がちゃんと明記されている。

そのため、十代は最後の場面でフレイム・ウイングマンを蘇生できず、万丈目との初デュエルは結局十代の負けだった、というのが二次創作では割と多い。

しかし、今し方十代から手渡された融合ヒーローには召喚条件の文面が無い。

つまり、少なくともこの世界のフレイム・ウイングマンは《死者蘇生》でも特殊召喚ができるし、さっきのデュエルもやはり十代の勝ちだった、という訳だ。

「なるほどな、さすがに全部が全部思ったとおりじゃないって訳ね‥‥」

「あ? 何のことだ?」

「何でもねーよ。ホイ、サンキューな」

「お、おう」

俺の呟きに十代は首を傾げていたが、俺は気にせず、十代にカードを返す。

「けど、あなたもすごかったわね。僅か数ターンであれ程の展開力を見せるなんて‥‥」

「ああ! あの宝石の戦士達も融合カードが何回も何回も戻ってくるのもカッコよかったぜ!」

「それに、結局1回しか攻撃しなかったしね」

「まぁ、あれがこのデッキの基本的な動きだからな。もうちょっと回れば、もっと融合モンスターを並べられたんだが‥‥」

俺が使ったデッキ、【ジェムナイト】の基本は、十代の言う『何回も何回も戻ってくる融合カード』──《ジェムナイト・フュージョン》にある。

あれが来なければ【ジェムナイト】は始まらない。

回収コストである〝除外〟も、俺が実際に使った《D・D・R》や現実で禁止カードに指定されている《異次元からの帰還》と組み合わせれば、さらなる展開へと繋げることができる。

《D・D・R》の手札コストもフュージョンで(まかな)えるしな。

現実でも使っていたデッキだ。

──けどまあ、〝一軍〟じゃないんだけどな。

しかし、ジェムナイトシリーズに《輝石の宝札》や《ジェム・リジェクション》みたいなオリジナルカード──いわゆる〝オリカ〟があるとは思わなかった。

女神様が言ってた『OCG化されていないカード』というのは、てっきりアニメや漫画で登場したオリジナルカード──いわゆる〝原作オリカ〟のことかと思ってたが‥‥。

まぁ結果的に役に立ったし、中々面白かったから文句は無いのだけれど。

これに関してはもう、女神様々だな。

「それじゃあ、俺は帰るわ。明日遅刻すんなよ」

「おう! じゃあな、章刀! 俺達も帰ろうぜ、翔。寮まで競争だー!」

子供か‥‥。

「え!? あ! ま、待ってよアニキー! 章刀くんも明日香さんもおやすみー!」

──おやすみ。

どうせ聞こえないだろうから口には出さなかったが、走り去る2人に軽く手を振っておいた。

「ったく。元気だな、アイツ等は‥‥。じゃあまたな、明日香」

今度は明日香に軽く手を振り、俺はイエロー寮まで歩いて帰る。

初日から色々あった所為で、俺には十代達みたいな元気は無い。

《帰ったらもう寝ちゃうんですか?》

「ああ。さすがに疲れた」

今まで存在を潜めていたヴェールの問いに、俺は軽く肩を回しながら答える。

《お疲れ様です♪》

「おう、ありがとな」

ヴェールの労いが心に沁みる。

可愛い女の子の労いが嬉しいってのは、俺も男の子なんだな‥‥。

《もう、マスターったら‥‥》

「お前またか‥‥」

もはや常時発動中なんじゃないかと思うヴェールの読心術。

もう諦める事にした。

──と言うか俺、さっき何気に〝明日香〟って呼び捨てにしてたな‥‥。

十代のことを〝フレンドリー過ぎる〟なんて評したけど、俺も存外そういう気があるのかも知れない。

ただ女の子に対していきなり下の名前で呼び捨ては、それはちょっと恥ずかしいな。

──馴れ馴れしい奴って思われなきゃいいけど‥‥。


◆◇◆◇◆◇◆◇


【3人称side】

微かに夜風が舞う月明かりの許‥‥。

章哉、十代、翔の3人の去っていく姿を、明日香はただ1人その場に残って見つめていた。

そして、僅かにその口元を緩めた。

「遊城十代、光凪章刀‥‥。面白い奴」

去って行く3つの内、深い興味を抱いた2つの背を見据えながら、楽しげに女王は微笑んだ。


─ To Be Continued ─ 
 

 
後書き

いかがでしたでしょうか?

ちゃんと納得できるようなデュエルになってましたかね?

‥‥まあオリカとか使っといて納得も何もあったもんじゃありませんが(汗)

そのオリカですが、現在は本文中にカードテキストを載せてますが、邪魔であるようならば以降はこの〝後書き〟に載せていきます。

もし邪魔と感じるようであれば、感想またはユーザーコメントにてお願いしますm(_ _)m

では最後にいくつか説明を‥‥。

まずターンの区切りごとに載せるデュエル状況ですが、


??? LP4000←メインプレイヤーとライフ
手札?枚←自分手札の枚数
モンスター?体←自分モンスターゾーンのカード数
《???》←モンスター名またはセット
魔法・罠?枚←自分魔法・罠ゾーンのカード数
《???》←カード名またはセット

??? LP4000←相手プレイヤーとライフ
手札?枚←相手手札の枚数
モンスター?体←相手モンスターゾーンのカード数
《???》←モンスター名またはセット
魔法・罠?枚←相手魔法・罠ゾーンのカード数
《???》←カード名またはセット

フィールド
《???》←フィールドカード名(???)←発動者


といった具合に載せます。

次に今回主人公が使用した【ジェムナイト】ですが、本文中でも言っているように〝一軍〟ではありません。

ですので、この先再登場する機会が来るかどうかは未定です。

デュエル内容含め、【ジェムナイト】ファンの読者様、すみませんm(_ _)m

それと、これまでは毎週日曜に更新してきましたが、これからは不定期となります。

基本的には土日辺りに更新しますが、場合によってはかなり間が空いてしまうかも知れません。

それでも更新は必ずいたしますので、何卒ご容赦ください。

次回は本作のメインヒロインが登場します。

お楽しみに!

本作に関する感想・指摘・意見・質問・要望等、お待ちしております。

では今回はこの辺で‥‥。


次回、TURN-04『もう1人のイレギュラー』 
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