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少年少女の戦極時代Ⅱ

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禁断の果実編
  第116話 託された果実


 ――ヘルヘイムの奥の城跡地。

 ロシュオは舞たちの前で、おもむろに手を広げた。現れたのは、金色に輝く、リンゴの形をした透明な果実。

「それがあたしたちの世界を救ってくれるの!?」
『使い方次第では。だがあくまでこれは創造と破壊の力。もし救済を望むなら、救われるのは、王か、世界か』
「どういう意味?」
『この果実は、お前たちの世界が“森”に沈んだ後、新たなる世界を治めるためのものだ。しかし、果実の力で“森”の侵略を止めたなら、新たな王はどうなる?』
「そりゃあ行き場を失くすわな」

 舞もヘキサも声がした方向――サガラが歩いてくるほうを見やった。

「新たな世界の創造主は、古い世界にとっての破壊神だ。忌み嫌われるのは当然だ」
「ちょっと待ってよ! 破壊神って何よ。世界を救えばヒーローじゃないの?」
「高司さん」

 ヘキサが沈痛な面持ちで首を振った。

「わたし、咲以外の人が知恵の実を手に入れたらって思うと、少しこわいです。いつ、どんなきっかけで、また“森”のシンリャクをはじめるかわからない、から」
「そんな……」
「それが群衆の意見の代弁だよ。強すぎる力は、畏れしか招かない」

 舞はサガラをきつく睨み据えた。

「そんな危ない物にを手に入れろだなんて、あんた紘汰を一体どうするつもりだったの!?」
「どうなるかはあいつが決める。いや、もう決めちまった後だがな」
「――あの果実の鍵をもらったから、ですか」
「その通り。あいつはもう力の片鱗を手に入れている」

 サガラは歩きながら解説を続ける。

「運命に流されるまま生きるしかないのが人間だ。しかし、世界の運命を一人で覆すことができれば、それはもう人間じゃない」
「葛葉さんに、未来はあるんですか?」
「ああ。二つの未来がな。世界を犠牲にして己を救うか。世界を守って己を滅ぼすか」
「……そんなの、決まってんじゃない」

 分かりきった答えが痛かった。舞は、泣いた。

「あいつは昔からそう。自分のことは後回し。ずっと変わらない!」
「つまり……世界を守って己を滅ぼすと? 葛葉紘汰はそっちを選ぶって言うのか?」

 舞は嗚咽混じりながら、肯いた。そんな馬鹿なくらいのお人好しでなければ、今日まで紘汰はあんなに苦しまなかった。

「まあ、俺はただ見守るだけだ。お前たちがどんな未来を選ぶか。愉しみにしてるぜ」

 サガラが消えた。


「高司さん」

 ヘキサが舞の手を取った。舞はヘキサの手を強く握り返した。

『私はフェムシンムの民を滅びから救うために、黄金の果実を求めた。お前たち人類も同じ。だが全ては無意味。どう足掻いたところで、滅びを免れることはできぬ。ゆえに黄金の果実を渡すつもりはない。――彼女も悔やんでいるに違いない。このような、ぬるい理想で民を救えるなどと思った男に、黄金の果実を託したことを』
「……がう……ちがう」

 舞はロシュオに向き合った。

「みんなを救いたいと思ったあなただから、そんな理想を信じたあなただから、奥さんは全てを託したんでしょ?」

 ロシュオは思案するように俯いた。

「わたしが、王さまの言うジュグロンデョなら、わたしだって王さまを選んで降り立ちます。力、かしてあげたいって思っちゃいます。王さまの理想、とてもやさしいから」

 ヘキサが駄目押しのように告げた。

『お前たちも彼女と同じことを言うのだな』

 ロシュオが手を掲げた。舞はとっさにヘキサを自分の後ろに庇った。
 そこで舞の意識は途切れた。





 ロシュオが手を掲げると、舞は立ったまま気絶したような状態になった。
 もう片方の掌から、ロシュオが黄金の果実を取り出す。

『見届ける役目をお前に託そう』

 すると黄金の果実は、舞の胸に吸い込まれ、一度だけ輝いて消えた。
 ロシュオはさらに、クラックを開き、その向こうに舞を吹き飛ばした。 
 

 
後書き
 ぶつ切りだったロシュオと(とヘキサ)のシーンを繋げたら、王様の台詞がすごく長くなってしまってorz
 足りない情報は皆様の脳内で補完してくださいという有様です(T_T)

 ヘキサでさえ、ロシュオの持つ果実の力を恐れている。それだけ果実という「力」がもたらす闘争を漠然とですが予感しているのです。 
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