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スーパーロボット大戦OGAnother

作者:TACHIBANA
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第一部「数奇なる騎士」
  第08話「猪の叫び」

 
前書き
たいへん長らくお待たせいたしました。
今回タカヤの搭乗機が一応の専用機扱いになります。
時期としてはOG2開始時くらいまでは固定で行きます。

これもう(どっちが主人公だか)わかんねえな。


それではどうぞ! 

 
ヒリュウ改の医務室内の個室安静部屋。
先の戦闘で負傷したタカヤは、ここで絶対安静となっていた。
「…あー…」
アダムとラッセル、そしてなんとイングラムの進言により、カチーナと同じく営倉入りを免れた彼は、こうして寝る日々を送っていた。
しかし、彼にとって身体を動かせないことほど辛いことはない。
簡単な筋トレをしようにも、ベッドが狭いせいで思うように出来ない。
最も、そんなことをすればラーダに怒られるのが関の山だが…。
暇だ…。
そんなことばかり考えていた。
そこへ、コンコン、と小気味のいいドアを叩く音が聞こえた。
「はい、どうぞ…」
タカヤが重苦しそうに身体を上げながら応えた。
「…どう?具合は?」
「ミナミ…」
やってきたのはミナミだった。
「…ぼちぼち、いや、ご覧の有様だ。ラーダさんが良くしてくれてるんだがな…」
タカヤが両の掌を天井に向ける。
「そっか…」
ミナミは静かに呟き、イスに腰掛けた。
「…俺が担ぎこまれた時、お前泣いてたんだってな?」
タカヤが笑った。
「な…!?誰のせいだと…!」
「俺のせいだよ、言われなくても分かる。」
ミナミが言い切る前に、タカヤが遮る。
「分かってるよ、そのくらい俺でも…お前らに迷惑かけたってのは…」
タカヤは続ける。
「寝てる間にも、考えることはあった。如何に俺の頭に血が上ってたかも、これでもかって理解できた。正直、情けない限りだ。こんな…」
タカヤの声から、だんだんと力が抜けていく。
「こんなんじゃ、アマテラス2は返上しなくちゃならないな…こんな……すま…。」
バシン。
言い切る前に、今度はミナミの平手が飛んだ。
「何柄にもなく弱気になってんのよ。何こんなことで一人で沈んでんのよ…!」
ミナミの声には、涙が篭っていた。
「あんた、私が言ったこと忘れたの!?それをなんで副隊長を献上するなんて言うのよ!このバカ!そんなことしても…ライトには…ぅっ…」
「ミナミ…」
「あんたは…あんたは…!」
「ミナミ…ごめんな、ミナミ…」
ミナミは、無意識にタカヤにすがった。
タカヤもまた、その求めに答え、ミナミの細い身体をぎゅっと抱きしめていた。

















***

















「……」
「…入りづらいね。」
病室の外。
ライトとミナミが立っていた。
「外まで丸聞こえだというのに…」
「まあ…いいんじゃない?」
ナナは苦笑しているが、ライトは変わらない。
「まあ、あいつが立ち直るのであれば、な。」
そう言って、ライトは立ち去った。
「もう、こんな時までつれない…」
ナナは益々苦笑した。

















***
















「ん?あれは…ビルトシュバイン…?」
ブリットが格納庫の慌しさに釣られて顔を出す。
その言葉通り、ハガネからビルトシュバインの搬入が行われていた。
「なんでまた…」
「なんでも、アダム中尉が頼み込んだらしい。」
タスクが横から声をかけた。
「アダム中尉が?でも中尉にはReaps(リープス)があるだろう?どうしてかな?」
ブリットが顎に手を当てる。
「やっぱり、ゲシュペンストじゃ物足りないってか?あの人、経歴の割には相当な腕だぜ?」
「いや、あれだけ手足に出来ていれば、このタイミングで乗機を変えるなんてことしないさ。ベテランであるなら尚更な。」
2人が議論を重ねる間に搬入が終わり、メカニックマンがチェックに入る。
「ん?サークルザンバー?もう左手には付いてるのに…」
タスクの言うとおりだった。
その目の先では、右腕にもう一基のサークルザンバーが取り付けられようとしていた。
「いや、間違ってはいない。元々速さと堅さ。言うなればヒュッケバインとシュッツバルトが同居してる機体だ。格闘戦に特化させるのも一つの手だ。」
ブリットはそういって頷く。
「そういうもんかね…。ま、俺もジガンに乗る手前、そういうのも嫌いじゃないけどな。」
タスクが笑った。

















***
















数日後の夜、ハガネ、ヒリュウ両艦で警報が鳴り響いた。
「何事だ!?」
ダイテツが言う。
「少数のAMの機影を確認!DCのものと思われます!」
エイタが告げた。
「機種確認急げ!各機動部隊、戦闘準備!」
テツヤが艦内に通達した。
「敵機影、映像でます!」
「こ、これは…!」
「ヴァルシオン…!!」

















***

















「シラヌイ!」
アダムがライトを呼び止めた。
「はい。」
「少し頼まれてくれるか?」
「なんでしょう?」
「私は少し野暮用で出撃が遅れる、その間、アマテラス小隊をまとめてはくれないか?」
アダムが言う。
「自分は構いませんが…野暮用とは…」
ライトは無表情のまま尋ねた。
「ビルトシュバインの件だ。」
「…、大体把握しました。了解です。」
ライトはそう言うと、ヘルメットを被ってグランバインに乗り込んだ。
「アマテラス3より各機、アダム中尉の命令でまた俺が指揮をとることになった、サポートを頼む。」
ライトが言った。
「アマテラス4了解。私達はヴァルシオンの迎撃を!」
ミナミが言う。
「アマテラス5了解!それじゃ、行こう!」
「ああ。」



















***




















「…戦闘だってのに…」
艦内に警報が鳴り響く中、タカヤの病室禁錮は続いていた。
「クソッ…」
タカヤは悔しさを紛らわすかのように天井を仰ぐ。
傷は癒えている。
もう戦える。
だが、タカヤも分かっていた。
――機体がない。
先の戦闘で、自分のゲシュペンストを事実上失ってしまった。
「…ははっ…」
自嘲気味に笑う。
そこへ
「ハスナカ。」
「!?」
思わぬ来客だった。
「ア、アダム中尉…!」
ドアを開け、アダムが入って来る。
「調子は…その様子では問題なさそうだな。」
「はい…」
タカヤは力なく答える。
「…今すぐに行って自分も戦いたい、か?」
「…はい。」
タカヤの返答を聞くと、アダムはふっと笑って立ち上がった。
「パイロットスーツに着替えて格納庫に来い。プレゼントだ。」
「えっ…!?」
タカヤはあまりの驚きに立ち上がった。
「早くしろ、戦闘は始まっている。」
「は、はいッ!」
















***
















「来たか。」
アダムがタカヤを待ち受けていた。
「はい。」
タカヤが力強く返事をした。
「こいつだ。」
そう言ってアダムは、聳え立つその機体に目を向ける。
「ビルトシュバイン!」
タカヤは、歓喜の混じった声を上げた。
「イングラム少佐にダメ元で頼んでみたが…案外頼んでみるものだな。」
アダムが笑い、続ける。
「サークルザンバーを二基、それとアーマーブレイカーを拝借した。謂わば格闘・白兵戦特化型PT。…お前好みな1機だ。」
「…すげぇ…」
タカヤが歓喜のあまり呟く。
「お気に召したか?なら早く行くぞ。シラヌイ達…何よりツキタニを待たせるな。」
「ミナミ…。はい!タカヤ・ハスナカ曹長、出撃します!」
そう言うとタカヤは、新たな自分の愛機に乗り込んだ。
「ビルトシュバイン…必要な技量は教導隊…。乗りこなしてみせる!」
タカヤはヘルメットを被り、パンと拳を叩いた。
機体はカタパルトにセットされ、発進シーケンスに入った。
「アマテラス2!発進する!!」
猛々しい声とともに、猪が飛び立った。
















***
















港沿いの戦場。
テンペストの操るヴァルシオン改が猛威を奮っていた。
「クソッ!ダメージがうまく通らねぇ!」
リュウセイが悔しそうに言う。
「やはりヴァルシオンはヴァルシオンということか…!」
ライもまたリュウセイに続く。
「随分としぶといな、流石はビアン総帥とマイヤー司令を屠った連中といったところか…だが!」
テンペストは言い終えると、次の動作に移行する。
「このクロスマッシャーで終わりにさせてもらう!」
ヴァルシオン改の腕から、赤青二色の粒子が螺旋状に絡んでいく。
「マズイ!」
マサキが声を上げる。
「…!」
ライトが無言のまま、かざされた腕の前にグランバインを飛ばした。
「邪魔をするなヒュッケバイン!」
「撃たせはしない。グラビティ・ウォール最大出力…。」
ライトは、機体前方に重力障壁を展開してクロスマッシャーの直撃を受け止める。
「…くっ…」
しかし、あれだけ高出力、高威力のものを凌ぎきれるはずもなく、余波で吹き飛ばされながら右脚部に直撃を喰らい、地に伏した。
「ライト!」
ブリットが叫んだ。
「まずはお前から葬ってやる。消えろ、凶鳥!」
テンペストの叫びとともに、ヴァルシオン改がディバイン・アームを振り上げた。
「ここまでか…」
ライトが口にした。その矢先。
光り輝く輪の刃が、ヴァルシオン改の右腕を斬り裂いた。
「何…!?」
テンペストは一度後退する。
「間一髪だな、シラヌイ。」
アダムのReapsがグランバインの肩を掴んでこちらも後退する。
「ええ、助かりました。」
ライトは例によって無機質に答えた。
破損箇所を確認すると、直撃を受けた右脚部は膝から先が消し飛んでいた。
「どうだシラヌイ?」
アダムが尋ねる。
「着陸は不可能ですが、テスラ・ドライブがあるので問題ありません。飛び続けさえすれば。」
ライトがコンソールを指で弾きながらグランバインを宙に浮かせた。
「上出来だ、そうでないと奴に笑われるぞ?」
「…ええ、それは避けたいところです。」
奴、即ち…猪。
「よう、ライト。待たせたな。アマテラス2、本当の意味で帰ってきたぜ。」
タカヤが微笑した。
「幽霊が蘇って猪になったか。…悪くない。」
ライトは、無表情だがどこか喜々とした声で答えた。
「そのビルトシュバイン…タカヤか?」
キョウスケが通信に入る。
「はい、先日の借りは、この戦闘で返させてもらいますよ!」
タカヤが力強く答えた。
「では、あてにさせて貰う。行くぞ!」
キョウスケがさらに重ねた。
「タカヤ!」「タカヤくん!」
ミナミとナナが通信に割り込む。
「ミナミ、ナナ…。行くぞ!!」
「「了解!」」
タカヤは一度通信を切り、両腕のサークル・ザンバーを起動した。















***
















「増援…しかしたったの2機、問題ではない!」
「この程度で止まる私では…かっ!?」
テンペストの身体、厳密には脳に衝撃が走る。
「…そうだ…連邦に与する者に死を…」
ぬらり、と、テンペストの身体が動く。
「ッ…?」
ライトの脳が、何かを感じ取った。
(怨念…哀しみ…怒り…。何故俺は感じ取れる…?)
ライトの頭の中に、テンペストの意思とも取れるものが流れ込んでくる。しかし、ライトにはどうしていいか分からない。
「ライト?どうかしたの?」
ナナが呼びかける。
「…いや、何でもない…。」
ライトは応えたが、動揺を隠せていないことは自分でも分かっていた。
「それより、ヴァルシオンを…」
「え、うん…!?こ、これって!」
ナナはコンソールカメラを見て驚愕した。
「ヴァルシオンの出力が…」
「これは…」
アダムも絶句した。
ヴァルシオンの出力は、通常特機の限界点を軽々と超えていた。
「あの人は…」
ラトゥーニが呟く。
「テンペスト少佐!もうやめてください!こんなことをしていては、人類の未来も…」
レオナが叫んだ。
「人類の未来…?そんなものは必要ない!レイラもアンナも連邦に…人類に殺されたのだ!その人類に!未来など必要ない!」
「そんな…」
「あの子達にあった未来は失われたのだ!その未来が、他の奴等にあってたまるものか!こんな世界滅びてしまえぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
テンペストの鋭い目からは、血涙が迸っていた。
「!…この気迫は…」
イルムでさえも、身震いをする。
「…へっ、元教導隊が、揃いも揃って地に墜ちたモンだぜ。」
タカヤが言った。
「黙れぇぇぇぇ!貴様のような若造に!この俺を侮辱する資格はなぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」
テンペストは切り落とされた右腕からディバイン・アームを抜き取る。
「消えろ狂人…、お前は俺達の未来の、邪魔だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
タカヤが突撃した。



「この空域に接近する者有り!」
エイタが告げる。
「機種確認…ストーク2隻、及びAM・戦闘機多数!」
「各機、警戒を怠るな!」
ダイテツが指示を飛ばす。



「フン…相変わらず成長のない…」
ストークの1隻から通信がなされる。
「あ、あんたは…!」
ミナミが怒気と嫌悪を込めた声を上げる。
「ハンス・ヴィーパー…」
キョウスケの目の色が変わった。
「なんだ、まだ生きていたのか。あ?」
いつものように嫌見たらしい威圧が、ハンスから飛ぶ。
「生憎、貴様同様しぶといからな…。」
「だが…出てきてくれたのは好都合だ…!」
ライト、キョウスケが言葉を重ねる。
「フン、誰かと思えば…以前に私を逃した出来損ないか。」
ハンスは怯むことなくライトに口撃を行う。
「ハンス!貴様、シャイン王女をどこへやった!?」
ライから怒号が飛ぶ。
「王女?ああ、そんな娘もいたがさてな…。」
「今頃、アードラーに酷い目に遭っているだろう…。考えただけでも胸が痛む…フフ…。」
ハンスは、言葉とは裏腹に嘲笑じみた態度を取る。
「そんな…!」
ナナが手でバイザーを覆った。
「貴様ァァ!」
ライが激昂する。
「どこまでも見下げた男だ…」
ライトが無感情に言い捨てた。
「だがそんな男だからこそ…ということか。」
キョウスケが続いた。
「私怨で戦うつもりはない…だが貴様は別だ、ハンス!」
「元はと言えば、タカヤとの確執も貴様が原因だったな…逆恨みかもしれんが。」
「「貴様にはここで、死んでもらう。」」
キョウスケ、ライトが声を合せて宣言した。
「フン!死ぬのは貴様らだ。いつまでも礼儀のなっていない連中が…」
ハンスが吐き捨てる。
「前にも言ったが、貴様のことを上官だと思っている人間は一人もいない。これ以上妄言を吐くな。」
ライトが説き伏せた。
「聞いていれば図に乗りおって…!各機進撃!あの連中の息の根を止めろ。」
ハンスが指示を発し、にらみ合いが破られた。
「キョウスケ少尉、AMと戦闘機は引き受けます。少尉はあの男を。」
ライトが言うと同時にチャクラムを放ち、F-32のコックピットを叩き潰した。
「ライト、有象無象は、俺の方でも手伝おう!」
ライがライトに続き、同じようにビームチャクラムでF-32を撃墜した。
「了解した。エクセレン、リュウセイ、援護を頼む。」
「了解よキョウスケ、派手にやっちゃいましょ。」「俺も了解だ!行くぜ!!」
2人がそれぞれ快諾し、キョウスケと共にハンスのストークへ向かった。
「フォトンライフルの威嚇…」
ライトは行動を声で確認しながら動作をする。
「そこへチャフ・グレネードを発射。」
言葉通りの行動でガーリオン2機の動きを止め。
「接近してチャクラム…終わりだ。」
続いて2機をチャクラムで絡めて中央から刃で両断し、撃破した。
「片足のない状態でやるな…。では、俺も負けられん!」
ライは微笑すると、眼前に2機のランドリオンを捉えた。
「行け!光の戦輪よ!」
光の戦輪、即ちビーム・チャクラム。
その刃は1機のランドリオンの腕脚を奪い、行動不能にした。
「てえい!」
もう1機に対してはツイン・マグナ・ライフルで応戦し直撃を浴びせた。
「お見事です。」
ライトが称賛した。
「そちらもな。」
ライも微笑で返した。
















***

















「はあああああああ!」
「おおおおおおおお!」
ディバイン・アームとサークル・ザンバーが激しくぶつかり合う。
実体剣対エネルギー刃ではあるが、ほぼ互角。
そこは、流石はディバイン・アームといった所か。
「がッ…!くぅゥッ!!」
つば競り合いの末パワー負けしたのか、ビルトシュバインが後ずさった。
「なんてパワーだ…!」
タカヤが歯軋りした。
「タカヤ曹長、私がカバーします。もう一度!」
レオナが呼びかける。
「ありがたい!それじゃあ、もう一撃…!」
「おおおおおおおお!!!連邦!死ねぇぇぇぇぇぇ!!!」
なおも執拗な攻撃が続く。
「タカヤ!」
アーマリオンのリョウトがビルトシュバインの前に入り、攻撃を凌ぐ。
「リョウトさん!」
「僕は大丈夫だ!早く接近を!」
「りょ、了解!」
「タカヤ!俺も行くぜ!!」
タスクが遊撃のガーリオンを片付け、タカヤに続く。
「!!…ジガンスクードォォォォォォォォォォォ!!貴様のその赤は血の紅!妻と娘の血を返せえええええええええええええッッ!!」
悲痛な咆哮が響く。
血涙の滴るその目が、凄惨さを物語る。
「くっ、なんて気迫だ…!」
タスクが呟く。
「だが怯んでる暇はねえ!一気に突っ込む!!」
タカヤは、両腕とともに二基のサークル・ザンバーを振りかざし、文字通り猪突猛進ヴァルシオンへ突撃した。

















***
















「何をしている!早く撃ち落せ!」
ハンスの顔に焦りが見られる。
「今更、気づいたか?でももう遅いぜ!!」
イルムがそう言ってストークとの距離を詰める。
「くっ、2番ストークに援護要請を!」
「残念ながらもう遅い…」
ライトが冷たく言い放つ。
その言葉通り、グランバインの腰の銃身からは粒子が漏れ出していた。
「くっ…バランスが、いつにもまして…」
しかし、空中であっても足のない状態での姿勢制御は至難の業であり、重力下の地球であればなお更だった。
「シラヌイ!カバーは私がする。撃て!」
アダムがそう告げて2番ストークに突撃する。
「了解、Gバスターレールガン、シュート。」
ライトの言葉とともに、腰のバレルから二つのエネルギーが放たれ、一つに収束してストークに向かう。
「く、ぬかったか。」
しかし、そのライトの言葉通りビームの軌道はややずれ、格納庫と左翼を貫いたのに留まった。
「上出来だシラヌイ、後は私が。」
「俺も続くぜアダム、同時に行こう。」
イルムがReapsの横にグルンガストを付けて言った。
「OKイルム、では…」
アダムがブーメラン・ザンバーを右手に取り、イルムはグルンガストの胸部を開く。
「テクニカルロック、完了。沈めぇッ!!」
「ファイナル・ビィィィィィム!!」
2つの光が天を駆けた。
先ずファイナル・ビームが右翼と尾翼を撃ち抜き、続いストークの遥か上空、Reapsの手から放たれた光輪は、ストークの動力部を切り裂き、機能を止めた。
「うおおおおおおおおっ!?」
ハンスの叫びが木霊する。
「俺が最後だ!」
残ったブリッジの真正面、鋼鉄の孤狼が牙を研いでいた。
「―――ステークッ!!」
その一撃の速度たるや、
ハンスに悲鳴をあげる暇も与えなかった。
「やったわ!」
援護に回っていたエクセレンから歓声が上がった。
「…借りは返したぞ。」
キョウスケが静かに言い放った。











***










「タスク!」
叫ぶタカヤの目の先
「クソっ!離せ!!このぉぉ!!」
「返せ…血を返せジガンスクードォォォォォォォォォォォ!!」
割り込んだタスクのジガンスクードがヴァルシオン改に捕まってしまっていた。
「これじゃ迂闊に手が出せない!」
ミナミがぎりと歯を食いしばった。
「返せ返せ返せ返せかエセかえせかエセ返せ返せかエセかえせかエセ!!」
もはや正気など、理性など一欠片も残ってはいない。
憎しみだけで動く、戦闘マシーン。
「ぎぃっ!?こ、こいつ!」
タスクが一瞬青ざめた。
ヴァルシオン改はジガンスクードの分解を始めようとしていた。
理性がなければ、人もまた獣。
しかし機動兵器に乗っているのであれば、こんな原始的な攻撃も驚異となりうる。
「タスクゥゥッ!クソ!このままじゃ!!」
タカヤが声をあげた。
迷っている暇はない。
友を、死なせるわけにはいかない。
「俺は!」
タカヤの目が変わった。
そこに、未熟な男の面影はない。
恐れを捨てた、―――戦士の目。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
雄叫びをあげながら、猪突猛進。文字通り猪が獲物に飛び掛かった。
「!、ええイ邪魔をスルナあああああああ!!」
突進に気づいたテンペストは、その進路にチャフグレネードをばら蒔く。
「くっ、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
チャフを振り切り、フルスロットルで猛進するビルトシュバイン。
微妙な動きで爆発を避けきり、真正面のチャフはどちらかのザンバーで切断する。
ビルトシュバインの機動性、そしてタカヤのアダム仕込みの格闘センスのなせる技だった。
「これでっ!」
機体の前方で両腕を交差させ、触れ合うザンバーがバチバチと火花をたてる。
「てああああああああああああああッッ!!」
体当たりと共に両のザンバーを突き立てて左腕を斬り裂き、コックピット付近を抉った。
「ぬおおおおおおおおおおおおおお!!」
操縦系統に異常をきたし、コックピット内で血を吐くテンペスト。
その一撃は深く、そして致命的だった。
ビルトシュバインは落下の衝撃を防ぐために再加速し、海へと落ちた。
「タカヤ!」
ミナミが悲鳴に似た叫びをあげた。
「…俺は大丈夫だ!早くトドメを!!」
ややあって、タカヤが言った。
「分かった!俺が決める!!」
体勢を立て直したタスクが、今度はヴァルシオンを捕らえた。
「ジガンテ・ウラガーノ!!」

巨体がヴァルシオン改を直撃し、機体が崩壊を始めた。
「ぐおおおおおおおぉぉぉぉぉ…おのれぇ、ジガン…スクードぉぉぉ……」
「!…すまねぇ…」
タスクが呟いた。
「ぐがあ…がっ…はっ…」
機体に呼応するかのように、テンペストの全身から血が噴き出した。
「消えて…しまえ…」
腕が、足が、顔が、みるみるうちに崩れていく。
「消えてしまええええ…こんなっ、世界ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ…………………………………!!!」
悲痛な断末魔。
復讐鬼の最期である。
「………」
タカヤは何も言わなかった。
タカヤだけではない、ヴァルシオン改、そしてテンペスト・ホーカーの最期を見届けた者は誰一人として声をあげなかった。












***













残存敵機の撤退を確認し、各機が帰艦を始めた。
右脚の膝下が消し飛んだグランバインを、ライトがじっと見つめていた。
「…」
らしくない動きではあった。
あの時、自分が何を思ったのかも、今のライトには何故か分からなかった。
「…………」
「よう、お疲れ。」
タカヤが声をかけた。
「よく受け止めきったな、こいつも」
「ああ…ブラックホールエンジンでなければ、Gウォールの出力をあそこまで上げるのは不可能だった。機体に助けられた。」
無感情な声でライトが答えた。
「ま、そのお陰で被害が抑えられたわけだ。誇っていいんじゃないのか?」
タカヤが微笑む。
「そうかもしれん、が、どうしたものかな。こいつの修復にはゲシュペンストGⅡフレームを1度解体してヒュッケバインMk-Ⅱのものに変えねばなるまい。サーボモーターとは勝手が違う。」
ライトの言う通りグランバインは、Hフレームの胴体にGⅡフレームの手足が付いているという変則的な機体である。
故に内部機構であればともかく、外側もとなると少々修復が面倒なのである。
「009の余暇パーツでどうだ?、いっそのことHフレームに戻しちまえよ。チャクラムだって換装できるだろう」
イルムが歩み寄る。
「規格違いをつけてるよりは動かしやすいだろう。テスラドライブのことを考えたって少しでも安定している方がいいだろ?」
「…確かに、しかしそれだけの改装となると次の出撃での自分の乗機がなくなります。」
ライトが返した。
「同じタイプの機体でよければ009ならば出せる、それでいいか?」
イルムが笑った。
「…了解しました。では今のうちに調整を、それとタカヤ。」
「ん、なんだ?」
答えるタカヤにライトがパターンディスクを手渡す。
「こいつに、今日の最後の一撃のパターンを頼む。あのパターン、組み込むだけで戦い方がグッと変わる。頼んだぞ。」
ライトが微笑みを見せた。
「…おうよ、任せろ!」
タカヤも満面の笑みと共にサムズアップで答えた。
猛々しい猪の見せる、最初の、心からの笑みであった。
 
 

 
後書き
第08話、ご覧いただきありがとうございました。
実を言うとタカヤ機をビルトシュバインにすることはこの話を書きながら思いつきました。
この段階なら確かR-GUNが使えたのでそっちはイングラムはそちらに乗せることにしました。
まあ間違ってたら間違ってたでそこはヴィレッタ経由でどうにかなったことにしますww
それにしてもタカヤ同じこと繰り返してますね・・・
まあ成長途中、どうにかなるということで!

さて次回は008Rに続いて009が日の目を見ます!

ライトの反応にもご期待ください。 
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