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ドリトル先生と伊予のカワウソ

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第八幕その九

「欧州の妖怪よりもずっと大人しいですね」
「悪魔よりもですね」
「そう思います、欧州の妖怪は物凄いですから」
「狼男等ですね」
「あれは日本で言う狼憑きですね」
「その通りです」
 まさにとです、先生は狼男について加藤さんに答えました。
「狼男になる理由は様々ですが」
「狼に憑かれて」
「ああなると言われています」
「吸血鬼とも縁があるとか」
 狼男は、というのです。
「そうも聞いていますが」
「吸血鬼、ドラキュラ伯爵もですが」
「ああ、狼に変身したりもしますね」
 このことは映画にもあります、吸血鬼は霧や蝙蝠だけでなく狼にもその姿を変えることが出来るのです。
「そういえば」
「そうです、狼男は吸血鬼の眷属ともされています」
「左様ですね」
「フランスには恐ろしい話が実際にありましたし」
「ジェヴォダンの野獣ですか」
「ご存知でしたか」
「何でも多くの人を襲い殺したとか」 
 こう言うのでした、ここで。
「そう聞いています」
「あの野獣は特別でして」
「特別ですか」
「狼にない習性もあります」
「ではやはり」
「狼人間ではなかったという噂もあります」
 先生はその野獣について真面目なお顔でお話します。
「訓練された大型犬とも」
「その辺りは様々ですか」
「そうなのです、僕も研究したことがありますが」
「野獣が何者だったかわからないのですね」
「誰もその正体は知りません」
 今も尚、というのです。
「倒され死体は確保されましたが」
「何処かに行ったのでしたね」
「はい、腐敗が酷かったので捨てられたとか」
「だからですか」
「今は残っていません」
 最も手がかりになるその死体がなくなってしまったのです。
「頭が何処かにあったとか」
「その頭蓋骨が」
「ですが今も尚野獣の正体は不明です」
「恐ろしい話ですがね」
「まことに」
「そうした話も欧州にはありますね」
「あの野獣が妖怪だとしますと」
 それならとです、先生はここでは野獣が妖怪、つまり狼男だったらとする仮定のうえで加藤さんにお話しました。
「やはり恐ろしいですね」
「日本の妖怪よりも」
「酒呑童子のお話は読みました」
「あの鬼の」
「あの鬼も恐ろしいですが」
 それでもというのです。
「野獣の方が恐ろしいですね」
「実在していましたしね」
「しかもまだ正体がわかりません」
 それ故に、というのです。
「ですから酒呑童子より恐ろしいですね」
「私はかなり本気で狼男ではないかと思っています」
「加糖さんは、ですね」
「どう考えても狼ではないかと」
 本物のそれでは、というのです。
「狼は人を襲いません」
「実はそうなのですよね」
 先生もこのことはよく知っています、そうしたこともよく知っているからこそ動物達に深く愛されているのです。
 そしてです、ジップも実際に先生に言います。
「狼さん達は僕達のお兄さんだから」
「犬は狼から生まれたからね」
「うん、だからね」
 それでだと先生にお話するジップでした。 
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