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整備士の騒がしい日々

作者:ヒノカマ
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頼る相手を間違えてませんか?

「初めまして、白波烈震さんですね。私はIS学園学園長代理の・・・」

 日は変わり、各交通機関を使い難なくIS学園に辿り着いた俺はこうして学園長室にまで案内され、説明を受けていた。説明役が代理なのは、学園長が織斑一夏の件での対応が忙しらしく俺の相手をする時間がないみたいだ。いずれ会う時間を作ってはくれるようだ。
 さて、代理の方の話を聞くと、どうやら俺はこのIS学園の整備士として、さらに世界初である男のIS操縦者、織斑一夏の相談役として呼ばれた様だ。
 ISは女性にしか扱えない。だからISの使い方を教える事ができるのは女性でなければならない。よってこのIS学園の教師は9割が女性であり、男性教員は数える程しかいないとの事。
 何の為に呼ばれたのはわかったが、疑問がある。

「それ、自分じゃなくても大丈夫では?」

 ISの整備は先に述べた理由からも男性より女性の方がいい。いくら男性が整備しても自分で動かして確認することができない。かわって女性であれば整備、動作確認等々すべて一人で行える。さらに織斑一夏の相談役だが、わずかながらも男性教員はいるのだからそいつ等に任せればいい。わざわざ俺にしなくてもいいはずだ。

「白波さんは織斑一夏くんがどのような存在かご存知ですね?」
「・・・世界初の男のIS操縦者ですよね?」
「そうです。そして彼は法的に守れるIS学園に入学してきます」

 それはそうだろう。織斑一夏はIS学園に入らなければ各研究機関によってモルモットとされてしまう可能性があった。だからISに関わる全てを守る事ができるIS学園に入学することになったのだ。これにより織斑一夏は三年間、安全が保証される。
それに三年あれば、第二第三の男操者が現れるかもしれない。

「ですが、IS学園に入ったからと言って安心できません」
「まぁ、そうですね」

 なんとなく、話の内容が見えてきた。
学園に入っていても身柄を確保するだけなら幾らでも手はある。簡単に言えば拉致だ。それだけの術を世界中の国々は持っている。
 要は拉致などから織斑一夏を守る為にボディーガードをつけるという事なのだろう。それは良い事だと思うし、話もわかる。しかしだ。

「頼る相手を間違えてませんか? 自分はただの技術者、ボディーガードではないですよ」

 確かに世界中を旅をして、危ない国にも行った事はある。その時に自分を守る術を身につけはしたが、それだけ。他人を守る技術など持ち合わせていない。

「我々も最初に聞いた時は疑問に思いましたが、推薦人が無視できない人でしたので」
「推薦人って」

 なんか、すぐに想像できてしまう。俺をここに来るように仕向けた張本人。そしてISを開発した稀代の天才。

「篠ノ之束、ですか?」
「よくわかりましたね」
「腐れ縁ですから。良く引っ掻き回されてます」

 それに助けられている。あいつがいなかったら今の俺はいないだろう。多分なにもかも普通のサラリーマンをしていたに違いない。

「それで、博士から織斑一夏の護衛には自分が最適と言われたわけですか?」
「えぇ、博士が言うにはあなたは織斑くんとも面識はあるみたいですし、初対面よりはいいかと思いましたので」
「そうですか」

 面識はあるにはあるが、1、2回会ったぐらいだ。どちらかと言うと俺と接点があるのは織斑一夏の姉、織斑千冬の方。ただし、今一番会いたくない相手でもある。

「そういう理由から白波さんと決まったのです。わかって頂けましたか?」
「はい、いくら文句を言っても無駄だとわかりました」
「それはよかった。では次に・・・」

 それからまた別の説明を始める代理人。それをボーっと聞き流しながら、頭の中では祈っていた。織斑一夏と会うという事は、織斑千冬と会う機会が増えるという事だ。今会えば確実に殴られる。できれば、今日から一週間会わないことを願いたい。



 と思っていた俺の祈りは神に届かなかった。

「では白波先生」
「あーはい、初めまして白波烈震です。よろしくお願いします」

 一礼して職員室を改めて見回す。そして意図的にある方向だけ見ない。というか見れない。凄まじくこちらを睨んでいる瞳があるのだから。
 学園長室で行われていた説明が終わり、代理人と共に職員室へと向かった。どうやら本当にここは男が居ることが珍しいようで、廊下に居た女子生徒達が俺の事をチラチラと見てきた。
 そして職員室に辿り着き中に入った時、俺の視界に奴が織斑千冬がいたのだ。一瞬見間違いかと思ったが千冬も俺を見てビックリしていた。そして睨みつけてきた。

「白波先生には学園にあるISの整備と施設の調節、さらに一年生 織斑くんの相談員の仕事をしてもらいます。また、織斑君に関わる問題がありましたら白波先生に相談、報告してください。では、先生のデスクはあちらです」

 そう促された先は、運が良く千冬とは真逆の場所。よかった、隣とか真正面とかだったらどうしようかと思った。そして席に腰をかけ、両隣の先生方に軽く挨拶をして朝の会議が始まった。

 会議が終わるとガタガタと先生達は立ち上がり、それぞれが受け持つクラスへと向かっていく。そんな中、俺はこれから行く場所の確認をしていた。
 IS整備格納庫。ISの数は世界で467機しか存在しない。それはなぜか? ISの中心たるコアを作る技術が一切開示されていないからだ。さらに篠ノ乃束が一定数のISコアを作ることを拒否している為であり、おかげで各国は割り振られたコアで開発・研究などを行っている。
 そしてIS学園が所有するISは生徒の使用するIS、教師陣のIS、専用機を合計すると約30機ぐらいになるらしい。それで、格納庫にある生徒が使用するIS打鉄を見に行こうと思っている。

「うし、場所はわかったし、さっそく行くとっ」

 イスから立ち上がり、反転した先にいたのは鬼の形相をした鬼だった。つか、鬼そのものだな。

「・・・」

 さて困った。知らない顔として挨拶すべきか、知り合いとして挨拶するべきか。いや、間違いなく後者が正解なのだろうが、どっちを選んでも不正解な気がしてならない。

「久しぶりだな、ち・・・織斑先生」

 昔なじみで千冬と言おうとしたら視線で封じられてしまった。

「お久しぶりですね、白波先生。いつこちらにお戻りになられたのですか?」

 出てくる言葉はとても丁寧だが、顔が笑っていない。なぜ彼女がこんなにも怒っているかと言うと、原因がわかりすぎている。
数年前、俺は彼女との約束を破りそれ以降、彼女とは会っていなければ連絡さえ取っていなかったのだ。

「昨日の午前中にな。そちらは相変わらず元気そうで」

 向かい合う俺たちをクラス持ちでない、職員室に残っていた先生達が、ある者はチラチラと、ある者は直視、ある者は物陰から、視線を向けてくる。それ以上に目の前で俺を睨みつける千冬の視線の方が痛い。

「えぇ、私は元気ですよ」

人を見下ろしながら睨むなよ。
周りの野次馬、見ているぐらいなら助けてくれ。

「で、何か用か?」
「・・・ハァ、昼頃時間を空けておいて欲しい」
「(なぜ溜息を吐く?)昼頃ね、了解。多分ここにいると思う」
「わかった」

 そう言って千冬は職員室から出て行った。
 出て行ったのを確認してからゆっくりと背もたれに身を預ける。さっきまで目の前にいた千冬を思い出す。会ったのが数年ぶりとはいえ、相変わらず美人だよな。

「って何を思ってんだか。さっさと行くとしますか」

 ここから俺の新しい日常が始まる。長くても三年間。
 自分に宛がわれたデスクに手を置き撫でた。

「これからよろしくな、IS学園」


 
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