ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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GGO
~銃声と硝煙の輪舞~
現実の弾丸
一瞬、言われた言葉の意味が処理できなかった。
結果的に、小日向蓮と紺野木綿季は何のリアクションも返せず、中途半端に開いた口も伴ってポカンという擬音語がそのまま当てはまるような表情を浮かべた。
本当に、本当に眼前にいる老人が何を言っているのか分からなくなった。
重すぎる数秒の後、先に金縛りから解けたのは意外にも木綿季のほうだ。
しかし、放たれた声は彼女の心の動揺をそのまま体現したように若干掠れているように感じる。
「………シゲさん、現実の鼓動って――――」
戸惑ったように。
あるいは単に、言いたくなかったのか。
一瞬の間の後、木綿季は振り切るように口を開く。
「死ぬ……ってこと?」
「…………………………」
木綿季の問いに、重國は肯定も否定もしなかった。
ただ一つ、古めかしい煙管を吸い、紫煙を深々と吐き出した。
しかし、さすがにそれが肯定と同義な事くらい理解できる。
つまりこの老人はこう言ったのだ。
仮想世界で銃撃されたら、現実世界で死ぬ。
それを信じるか、と。
この時点になって、初めて少年の硬直が解けた。蓮なりに、重國の言葉を咀嚼した結果である。
「それは………ホントなの?」
答えは動作。
A4サイズの紙がすっかり入りそうなほどの大きな茶封筒が、ぞんざいに投げてよこされた。封はあらかじめされてなかったようで、畳の上に滑ると同時、中身がこぼれた。
中に入っていたのは、二枚の紙。
見たこともない男の胸から上写真が上に貼り付けられていて下には住所などのプロフィールが書かれ、履歴書みたいだな、と少年と少女は思う。
二人してその紙をしげしげ眺めながら、眼で先を促す。
大きく頷き、重國は口を開く。
「二人とも、GGO――――《ガンゲイル・オンライン》は知っておるか?」
「少し」
「あ、ボク知ってるよ。あれだよね、プロの人がいるFPSでしょ」
ガンゲイル・オンライン。略してGGO。
仮想多人数FPSのそのゲームの特異性はゲームの内容にはない。注目できる要因はそのシステム面。
日本で稼動しているVRMMOゲームで唯一、ゲームコイン現実還元システムを採用しているゲームだ。
要するに、ゲーム内コインを現実の電子マネーに換える事ができるのだ。還元レートまでは詳しく知らないが、それによって生計を立てている《プロゲーマー》がいるらしい。
まぁ、ただの廃人と同じなのだけれど。
「先月の十一月十四日、中野区のアパートで掃除をしていた大家が異臭に気付いた。発生源と思われる部屋のインターホンを鳴らしても、電話を鳴らしても出ない。だが部屋の電気は点いておる。不審に思った大家は電子ロックを開錠して踏み込んで――――」
蓮が持っている方の紙を指差す。
「その男、茂村保二十六歳が死亡しているのを発見したそうじゃ。部屋は散らかっていたが荒らされてはなく、遺体はベッドに横になっていた。そして頭には――――」
「「アミュスフィア………」」
金属リングを二つ重ねたような形のヘッドギア型フルダイブ機器を二人して思い起こしながら、少年と少女は老人の話に耳を傾ける。
「その通りじゃ。すぐに家族に連絡が行き、変死ということで司法解剖が行われた。死因は急性心不全となっている。しかし、その原因は今でも解かっておらん」
何で民間人。しかも関係者でもないシゲさんがここまでの情報を、という疑問ははっきり言って超今更感なので、あえて何も言わない。
「それで、その茂村さんとGGOと、何の関連があるの?」
その通り。
正直その手の話は、VR技術が普及した今日では、あまり珍しい話でもない。
何せ、現実世界で何も食わなくても、向こうで仮想の食べ物を詰め込むと偽りの満腹感が発生し、それは数時間にもわたって持続するからだ。
廃人級、と呼ばれる超コアなゲーマーにとっては、飯代は浮くしプレイ時間は増やせるしで、一日どころか二日に一食という人間も珍しいものとはなっていない。
しかし、当然という事実として、そんな事を続けていれば身体に悪影響を及ぼさない訳がない。
栄養失調というのはザラで、発作を起こして倒れ、一人暮らしゆえにそのまま――――というのも全くありえない話ではない。
ふぅ、と。
紫煙をゆるゆると吐いて、老人は長い年月が年輪のように刻み込まれた顔をクシャリと歪ませた。
「この茂村君は、プロのGGOプレイヤーだったのじゃが、亡くなった時はどうも《MMOストリーム》にアバター名《ゼクシード》として出演していたらしい」
彼が言ったのは、結構有名なネット放送局の名前である。
今の放送局というのは、かなりの割合で仮想世界に移行しつつある。その理由としては単純で、仮想世界で撮影したほうが安くつくからだ。
MMOストリームもその例に漏れず、ほぼ全て仮想世界で撮影する放送局だったはず。
その内容は現実世界でも見れるのだが、しかし同時に無数のVRMMOワールド内でも宿屋や酒場などで常時放送されており、やはりプレイヤー達は《中》で視聴する事を好む。蓮や木綿季もたまにALO内の家にて見ることがある。
あの局の番組中で、そんなプレイヤーを招き入れるとすれば一つ。
人気コーナー、《今週の勝ち組さん》であろう。
「え?じゃあ、番組に出演してる最中に亡くなったってこと?」
困惑げに放たれた少女の問いに、重國は大きく頷く。
蓮と木綿季は顔を見合わせて眉根を寄せる。
それでも、それでもだ。
亡くなった茂村氏は残念な話ではあるが、まだよくある話。ただ単に、彼にとっての不幸な瞬間が訪れたのがMストに出演している最中だったというだけだ。
二人の思いが分かったからか、老人は「この話にはまだ続きがある」と言った。
「実は茂村君が――――Mストから《ゼクシード》が回線切断で消滅した時刻とほぼ同時刻。GGO世界の首都、《SBCグロッケン》という街のとある酒場で、一人のプレイヤーがおかしな行動をしたらしいんじゃ。ほれ、あの番組は酒場で中継されてるじゃろ」
「うん」
「その酒場の中で――――大勢のプレイヤー達がいる中でたわけた戯言を吐いて、画面に映っているゼクシードに銃撃したそうじゃ」
そこまで言い切った老人は、うっかりシミでも作ってしまったらクリーニング代だけで一生を費やす事になってしまいそうな紋袴の袖口から、テレビのリモコンみたいなものを取り出した。
ポチッ、と。
ボタンを押したその瞬間、機械が立ち上がる時のようなラグを一切感じさせずに、だだっ広い部屋一杯にザワザワという低い喧騒が響き渡った。
「シゲさん、これは?」
「その銃撃を見ていたプレイヤーの一人が偶然音声ログを取っていた。………まぁ、面白半分だったと思うんじゃがな」
木綿季と重國の会話の最中にも、音声データは流され続けている。
と、いきなりざわめきが消えた。
気味が悪くなるほどの一瞬の沈黙を、鋭い宣言が貫く。
『これが本当の力、本当の強さだ!愚か者どもよ、この名を恐怖とともに刻め!!』
それは、どこか非人間的な、金属質の響きを帯びた声だった。
『俺と、この銃の名は《死銃》………《デス・ガン》だ!』
それでいて、その叫びの向こうにいる生身のプレイヤーの存在を、まざまざと感じさせるような声だった。
それは蓮自身、かつてそこにいた身として感じる事。
生々しい、粘つくような殺人衝動。
その声にはそれが――――いや、それだけで構成されているようだった。
黙り込む二人に、老人は口を開く。
止めを刺すかのように。
「………このファイルには日本標準時のカウンターも記録されていた。それによると、酒場での発砲が、十一月九日午後十一時三十分二秒。そして、茂村君が番組中に回線切断にて消滅したのは――――」
嘘だ。
そんな。
まさか。
顔を強張らせる少年と少女の前で、老人は受刑者に向かって死刑宣告を宣言するかのように
「同じ日の、十一時三十分十五秒」
言った。
後書き
なべさん「はいはい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「説明パート長くない?なんで何話もまたぐのさ」
なべさん「それはひとえに読者様を配慮しているからサ。説明口調でずっと読んでくのは退屈だろう?」
レン「……して、その本音は?」
なべさん「書いてるうちになんとなく」
レン「やっぱり……」
なべさん「はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださーい」
――To be continued――
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