ポケットモンスター ホープロード
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第五話 転校生
ツヴァイはいつものように学校に通う。
友達はあまりいない。むしろ、あまり親しい関係にならないようフュンに言われているのだから。
もう、あの頃の自分達じゃない。
「ツヴァイ、おはよう。」
「うん、おはよう。」
学校で唯一というべき友。
クールなためなかなか人が寄ってこない中、彼女だけはツヴァイに話しかけてくるのだ。
「知ってる?今日転校生が来るらしいよ?」
「転校生?」
「うん、男の子らしいよ。元々はホウエン地方の子だったらしいよ。」
「フーン…。」
「全く、興味なさそうなんだから。アンタもポケモンだけじゃなくてもう少し人にも関心を持つようにしたら?」
「興味ないものを興味もてるようになるって大変だよ?人間、すぐに歩けるわけじゃないようにさ。」
「何そのたとえー!ウケる。」
「なっ、何がおかしいの!?」
そんな他愛のない話をしているとチャイムが鳴った。
「時間だね、私は席に戻ってるから。」
「うん。」
皆が一斉に机に座ると教師が入って来た。
「今日は転校生が来ているので紹介します、入ってきて。」
教師がそういうが、転校生は戸惑っているのかなかなか入ってこない。
「大丈夫、緊張しなくても大丈夫だから。」
そう言われて、ゆっくりと教室に入って行く。
その姿にツヴァイは驚いた。
「あいつ…!」
「ジトリンです…よろしくお願いします。」
ジトリン…ミナモシティのコンテストでリザードンを持っていた少年だ。
「どうして…ここに。」
「ジトリンくんはお父さんの仕事の関係でこの学校に転校してきました。皆、仲良くしてくださいね。」
ざわざわクラスがざわついた。
「あの子ってさ、あのミナモシティのコンテストに出てたらしいよ。」
「ええっ、あんな暗そうな奴が?」
一番後ろ、とても狭い…急遽作ったような席にジトリンは座らされた。
よくある話では偶然ツヴァイの隣で座って学校案内…なんてものはない。これが現実である。
ホームルームが終わると周りは一斉にジトリンのもとへ集まって行く。
しかし、大人しいジトリンは質問責めにあっていた。
どれも答えることができない…ジトリンはただうなづいているだけだった。
「はぁ…。」
ツヴァイだけは自分の席に座って読書をしていた。
クールに興味なさそうにしているが兄弟が多いツヴァイは皆でわいわいやるのは本当は大好きな人間である。
「ジトリンってさー、どんなポケモン持ってるの?」
「俺とバトルしてみない?」
「えっ……。」
バトルしようという言葉に反応こそしていたが何も言えないジトリンにまた深いため息をツヴァイは吐いた。
コンテストよりバトルが良いって言ったのは嘘だったのか…と。
それにあのリザードンとも対戦したい気もしなくはなかった。
ガタッと席を立ってジトリンの席に近づいた。
あのクールなツヴァイが誰かに近づくこと自体が珍しいためジトリンを取り囲んでいたクラスメイト達はジトリンの席を離れた。
端から見ればクラスのボスである。
まあ、ポケモンバトルの実力的には中学生離れしているのだが。
「…君、僕とバトルしないか。」
「えっ…どうして…。」
「人を知るにはバトルが一番だ。お前、バトル好きなんだろ?」
「…。」
そう言われてうつむいたまま黙り込んでしまった。
「それじゃあ、ポケモン達が可哀想だ。なんにでも臆病になってたら……大切なものを失うよ──。」
どこか含んだような言い方にジトリンは顔を上げた。
「…。」
「バトルだ。」
すぐに何事もないようなクールな喋り方に戻っていた。
それに後押しされたのか、ジトリンは立ち上がった。
「わかった…バトルしよう。」
「…じゃあ放課後、バトルフィールドでバトルしよう。案内ならしてあげるから。」
そうしてツヴァイが自分の席に戻ったあと、クラスがざわついた。
「まじかよ…。やめとけって!ツヴァイは学校で二番目に強いんだぞ!」
そう、ツヴァイは去年行われたポケモン祭…いわゆる体育祭のような競技で上級生や教師を差し置いて準優勝をする程の実力を持っている。
ちなみに優勝は兄のドライである。
クラスメイト達は忠告するが今更断ることなんてできない。
自分のボールを見た。
リザードンがこちらを見つめていた。
「リザードン…。」
放課後になり、再びツヴァイはジトリンの席に近づいた。
今日の任務は無いとドライから連絡が入った。一応、休日出動の振替でもある。
今回はあまり事件・事故が無いというのもあるが。
一階の廊下をしばらく歩いて体育館に来た。
「ここは…体育館…?」
広い…体育館のようだ。
しかし、周りは人が観覧できるように防弾ガラスと客席が用意され、クラスの人間だけではなく他のクラス、学年が見に来ていた。
「先生、お願いします。」
「はいよ。」
ツヴァイが教師に声をかけると教師は個室に入って行った。
するとゴゴゴゴゴという音と共に体育館が揺れた。
「なっ、何…!?」
ウィーーーンという音で体育館の床がひっくり返り、傷が多いフィールドに展開した。
「これが体育館兼バトルフィールドだ。」
「す、すごい…。」
カントー地方は公立の学校でさえ、ポケモンバトルの設備が整っている。
プロのポケモントレーナーという職業も多い。
それ故か、多少バトルができないと職業に就く場合でも不利になることもあるため現在はカントーはバトルの設備が整っている。ジョウト、ホウエン、シンオウも都会では整備が整っている。
「じゃあ、始めようか。」
「うん。」
ツヴァイは奥の方へ行ってスタンバイをした。
戦闘方式はオードソックスに三対三。
そして、先手に出すポケモンを考えていた。
ジトリンは自分がフローゼルとサーナイト使いであることを知っている。
ジトリンのポケモンはリザードン。先鋒役のフローゼルには相性がいいがエースをいきなり出すとは考えにくい。
そう考え、先鋒を決めた。
「行くよ、サーナイト!」
「出番だ、エーフィ。」
エスパータイプの二匹が繰り出された。
「ふぅん、エスパータイプ同士か…面白い。サーナイト、シャドーボール。」
「こっちもシャドーボール!」
サーナイトがシャドーボールを放ち、エーフィもシャドーボールを放った。
シャドーボールが相殺され爆発が起きた。
「サーナイト、十万ボルト!」
「エーフィ、光の壁!」
爆風に紛れて追撃しようとしたところ、光の壁を張られた。
「くっ…。」
十万ボルトを食らったエーフィだったが光の壁で威力が半減され、ピンピンしていた。
「くっ…光の壁が使えるのか。だが十万ボルト!」
エーフィに十万ボルトを再び浴びせた。
だが、やはりあまりダメージはない。
麻痺でもさせたかったがこれでは埒が明かない、
「サーナイト戻ってくれ。」
サーナイトをボールに戻した。
「光の壁は特殊技を半減する。だったら物理系かつ相性のいいポケモンは…この子しかいない、ドンカラス、出番だ!」
「ドンカラーーーーースッ!」
元気に登場した。
やる気満々だ。
『ん?おやおや?かわいい子じゃないか。お嬢さん、バトルなど野蛮な行為はやめて私と一緒にデートでも。』
『はい?』
エーフィにナンパするドンカラス。
「おい、ドンカラス…。」
ジーッとツヴァイが睨み付けていた。
『おっとと…仕方ない。私も漢だ。バトルは紳士にやらなければ。』
「ごめんね、変な鳥で。」
「いや…。」
「と、とりあえず…戻れエーフィ。」
『なあああああ!?エーフィちゃーん!!』
エーフィは戻されてしまった。
「行くよ、ミミロップ!」
男としては珍しいミミロップだ。
ぴょんぴょんと飛び跳ねている。
『ふぉぉ、まーたかわいい娘じゃねぇか…。』
そうやってドンカラスが浮かれていると後ろからとてつもない視線を感じた。
『あら…?』
「ドンカラス、辻斬り。」
ドスが利いた声でドンカラスに指示を出した。
『わわっと、はいよ!可哀想だが…辻斬り!』
猛スピードでミミロップに近づくがぴょんぴょんと跳ねて間をとられてしまう。
「くっ…こうなったら空を飛んで間を取るんだ。」
ドンカラスは空を飛び間をとった。
この高さならジャンプ力のあるミミロップでも届かないでろあろう。
「ミミロップ、飛び跳ねる!」
ミミロップが飛び跳ねるとドンカラスの上に乗った。
目にも止まらないスピードでドンカラスの上に乗ったのだ。
「なっ、…ドンカラス、振り落せ!」
「ミミロップ、雷パンチ!」
この隙にミミロップは雷パンチを撃ち続けた。
振り落そうにも雷パンチで振り落す力もない。
「くっ、戻れドンカラス!」
ドンカラスを戻すとミミロップは華麗に着地した。
「あのツヴァイが苦戦してるぞ。」
「信じられない。」
観戦している生徒達が大騒ぎだ。
彼女が苦戦しているのを見るのは親族相手以外初めてであろう。
「グレイシア、頼んだ!」
エースであるグレイシアを出した。
ここでリザードンに変えられてしまったら不利になるがドンカラスはリザードン戦まで持ちこたえないと厳しい相手になるだろうと思い、交代した。
「でも光の壁の効果は続いてる。ミミロップ、炎のパンチだ!」
「知っているさ…だが!グレイシア、水の波導!」
グレイシアは水の波導を放ち炎のパンチの炎を打ち消した。
「ミミロップ、恩返し!」
ぴょんぴょんと飛び跳ね、恩返しを食らわせた。
「グレイシア、吹雪!」
恩返しを食らったかと思うとゼロ距離から吹雪を発射した。
カチコチと凍っていき、手足が凍ってしまった。
「くっ…光の壁を張っておきながらこの威力…時期に光の壁の効果も…。」
「氷の礫!」
休ませず氷の礫を放ち、ミミロップを追いやって行く。
凍り状態でこそないが手足が凍りつき、半ば凍り状態だ。
「くっ、戻れミミロップ!」
ミミロップをボールに戻し、次のポケモンを迷うようにボールに触れていた。
ツヴァイは来るのか、リザードン…と交代の準備をしていた。
「エーフィもう一度!」
次に出たのはエーフィだ。
もう一度守りを固めるつもりだろうか。
「エーフィ、光の壁。」
やはり守りを固めていくつもりか、光の壁を張った。
「そのままいけ、サイコキネシス!」
サイコキネシスにグレイシアは締め付けられた。
「グレイシア!…そうだ、それでいい。」
「…?」
サイコキネシスの締め付けが終わった途端、激しい光がエーフィを襲う。
「ッ…エーフィ!?」
光の壁を張っているにも関わらずエーフィは大ダメージを受けていた。
「ミラーコート…。アナタのエーフィのサイコキネシスが強くて逆に助かった。光の壁もものともしない威力のミラーコートが打ち出せたんだからな。」
「くっ…。」
「グレイシア、シグナルビーム!」
特攻がとても高いグレイシアから放たれるシグナルビームに大きなダメージを受けるエーフィ。
どうやらグレイシアでごり押し作戦のようだ。
「グレイシア、吹雪!」
吹雪が放たれ、エーフィは光の壁で耐えているようだが次第に吹雪の勢いに負け、凍り状態になっていた。
「エーフィ…!くっ、交代だ。」
次こそ来るか…とツヴァイは構えた。
「ミミロップ!頼んだ!」
次に出たのはエーフィ。余程リザードンを出し惜しみしているようだ。
「フン、出し惜しみして…。その余裕、どこまで続くかな?グレイシア─」
「ミミロップ、癒しの願い。」
「なっ…!?」
自分が瀕死になる代わりに他のポケモンの状態異常と体力を回復する技だ。
どうしてもエーフィを失いたくないらしい。
「なるほど、守りを固めておく手段はとっておきたいってわけか。そして次に来るのは…。」
「いけっ、リザードン!」
エースであろうリザードンが出てきた。
「来たなリザードン…。グレイシア、戻ってくれ。次は…ドンカラスだ!」
グレイシアを戻しドンカラスをだし飛行タイプの戦いに持ち出した。
「リザードン、火炎放射!」
「ドンカラス、不意打ち!」
後ろにドンカラスは回り込み不意打ちに成功した。
「グオオオオ!」
怒ったリザードンはひたすら火炎放射を放つがドンカラスは華麗にかわしていく。
「リザードン、落ち着いて…。落ち着いてドンカラスをとらえるんだ…。」
リザードンを出した途端、ジトリンは弱腰になり始めた。
さっきまでの勇ましさはどうしたのだろうか。
「……もしかして…。」
出さなかったのではなく、「出せなかった」のではないだろうか。
「…リザードン、苦しんでる…。」
リザードンは自分の攻撃がなかなか当たらずさらに焦るばかりだ。
「…ドンカラス、辻斬り。」
ドンカラスは炎を避けつつリザードンに近づくと辻斬りを放った。
それを受けて苦しそうにする。
「り、リザードン…。」
「ミミロップを犠牲にしたのはお前のミスだな。リザードンは大型だから小回りの利く相手は分が悪いんだ。ミミロップだったらドンカラスを倒す算段はあっただろうに…。」
ミスを指摘されうつむいていた。
確かに強いが、どこか自信がない。
だからエーフィの守りに固執したり回復技を使ったりする「守り」の方だ。
だが、守っているからといってそれが武器というわけでもない、中途半端な守り。
バトルが好きだと言っていたが、その中途半端な心がコンテストの件やリザードンの時の件も出ているのだろうか。
「…リザードン!戻れ…。」
「ドンカラス、追い打ち!」
リザードンはボールに戻ろうとした時、ドンカラスの追い打ちを受けてしまった。
「リザードン!」
大きなダメージを受けつつもボールに戻っていた。
「本当にボールに戻して良かったのか?エーフィでドンカラスを倒せるのか?」
「…エーフィ!」
そう言われたのを聞こえないと言うようにエーフィを出した。
「エーフィ…目覚めるパワー!」
「目覚めるパワーだと!?」
目覚めるパワーをドンカラスは受け、大ダメージだ。
効果は抜群のようだが、何タイプの技かはわからない。
「岩か氷か電気か…。そんな技があったなんてな…。」
「エーフィ、目覚める─」
「不意打ち!」
速攻の不意打ちを放ちなんと一撃で倒れてしまった。
「そんな…エーフィ…。」
「ドンカラスの特性、強運。急所に当たりやすくなってるのさ。それに不意打ちが加わってダウン…ってところかな。」
「くっ…。」
リザードンのボールに触るがなかなか出そうとしない。
「来いよ!!お前がリザードンを信じなくてどうするんだ!」
「……。」
ギュッとリザードンのボールに触れ、ボールを投げた。
出たと同時にリザードンは暴れまわった。
「リザードン、落ち着くんだ…落ち着いて…。」
「何もしてこないなら行かせてもらう。ドンカラス、辻斬り!」
「そうだ、それでいい!」
「?」
リザードンは辻斬りを受けた。
「今だ、リザードン!ブラストバーン!!」
口から放たれた炎。
猛火の特性も手伝い威力は増し、とてつもない威力の炎がドンカラスに浴びせられた。
ミミロップ戦のダメージもあったのか、ドンカラスは倒されてしまった。
「……よくやった、戻れ。」
ドンカラスを満足したようにボールに戻した。
そしてさらに観戦していた生徒達は声を上げて盛り上がる。
彼女のポケモンを倒したのだ。
「さすがエースだな。楽しくなってきた、サーナイト!」
次に出たのはサーナイト。まだ光の壁の効果があるとはいえど猛火が発動したからにはもう厳しいだろう。
「サーナイト、十万ボルト!」
「リザードン、火炎放射!」
十万ボルトを火炎放射で打消し、さらにリザードンは火炎放射を放った。
「サーナイト、テレポートでかわして十万ボルト。」
テレポートでリザードンの後ろにまわりこみ、十万ボルトを放った。
「リザードオオオオオン!!!」
リザードンの名前を叫ぶ。
負けてほしくない…その思いはリザードンに届いた。
リザードンは振り返りブラストバーンを放った。
「テレポートッ!」
ツヴァイは慌てて指示を出した。
受けたか、受けていないか…この煙が収まった瞬間だろう。
「グオオオオン!」
リザードンは電撃に苦しんでいた。
「リザードン!?」
バタンとリザードンは倒れた。
リザードンの後ろにはサーナイトがいた。
「…負けた…。」
どうやらサーナイトはツヴァイの指示の前に自力でテレポートしたらしい。
ツヴァイの指示の前にサーナイトはツヴァイの気持ちを察知してテレポートしたようだ。
「ここまで苦戦するのは久しぶりだよ。ありがとう。」
そう手を伸ばして握手を試みた。
「僕もだよ。色々とありがとう。」
ジトリンも手を伸ばして握手をした。
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