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リリカルなのは~優しき狂王~

作者:レスト
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2ndA‘s編
  第十一話~在り方~

 
前書き
お久しぶりです。
やっと執筆できました。

前回、戦闘回と言いましたが、突入できませんでした。申し訳ない!

ですが、必要な描写と思い今回のような展開にしました。
では本編どうぞ 

 
海鳴市・裏路地


 曇天の空のせいで薄暗かったビルとビルの間にあるその空間は、結界による街の光源の消失によりその暗さを増していた。
 その一般的に裏路地と言われる空間で唐突に青緑色の魔法陣が現れる。一時の間それが光源となりその場所を照らし出す。そしてその光がほんの数秒で収まると、その魔法陣のあった場所に五人の魔導師の姿があった。
 その五人とはライの言葉に従い、夜天の書の管制人格から離脱してきたリンディ達である。

「はぁ……やっぱりこの人数を纏めて転移させるのは疲れるわ」

 魔力が枯渇気味のクロノや気絶している三人では転移魔法を使えない為、今回リンディは速度優先で短距離の転移を行いライたちのいる場所から十キロほど離れた場所に移動していた。
 言葉にすれば簡単なように聞こえるが、元々負担が多い転移魔法をしかし、自分を含め五人と言う人数を即座に転移させた彼女の魔導師としての能力の高さが窺える。だが、その負担は大きかったらしく、彼女の額には少なくない汗が浮かんでいた。

「さて、クロノ。貴方のデバイスを貸しなさい。それとアースラの座標を――」

「母さん、さっきの人は誰ですか!」

 彼女が長距離転移の為にデバイスの演算能力とその目的地の座標を貰おうと声をかけると、それを遮るようにクロノの大声が響く。その彼の表情は焦りと困惑と言った感情で溢れ、傍から見れば置いてきぼりをくらった子供のようだ。
 リンディは自分の息子の困惑に無理もないと思う反面、今はそんな事を行っている場合ではなく、もっと柔軟な対応をすべきであるとも思ってしまっていた。

(もっと子供らしく育てればよかったのかしら……)

 息子に母と呼ばれたことで、緊急時だというのに育児関係の思考を持ってしまったが、それでも現状をある程度理解している彼女の言葉は明瞭である。

「私が何故ここにいるか――それ自体はそれほど重要ではないわ。今重要なのは私たちが迅速にアースラへ行くこと」

「しかし!このまま戻っても――」

「クロノ執務官」

 噛み付いてくる息子に対して、先ほど自分がされたように言葉をかぶせるリンディ。その表情は母が息子に向けるものではなかった。

「甘えるつもりならやめなさい。私には貴方を諭すつもりも、励ますつもりもない」

 突き放すような言葉にクロノは息を呑む。自分の目の前にいるのは母親ではなく、一人の管理局員であり、それ以上に人の上に立つ上官であると理解させられる。
 それと同時に頭が冷えたため、クロノもある程度今の状況を客観的に把握する。このまま魔力の尽きた自分がここに残ることに何も意味がなく、アースラに戻るほうができることが多いということに。

「…………すいません。取り乱しました」

 一度深呼吸してから言葉を吐き出す。それと一緒に展開したままのデバイスであるS2Uをリンディに差し出した。

「とにかく今はアースラに戻ってこれからの事を検討、実行を行います。異論は?」

「ありません。座標データはデバイスの中に」

 簡素なやり取りの後、再びその裏路地には青緑色の光が瞬いた。



海鳴市・とあるビルの屋上


(肉体の損傷度一割二分……蒐集の強制中断が原因か)

 ビルの屋上に吹く風は、冬という事で生身の顔の部分を撫でると言うよりは切りつけてくる。そして地形的に海が近くにある為にその風には磯の香りが含まれ、海辺の波を連想させる。

(チューニングシステムの最大稼働時間は十八秒、それ以上は負担が大きすぎてAI自体にダメージが起きるか)

 風に吹かれる中、ビルの屋上に立っているライは気軽にビルの淵に寄るように歩く。その姿は本当に散歩をするような様子で、危機感というものを全く感じさせない。

(…………ダメだな、どうしても意識が荒事中心になってしまう。浅慮且つ短慮だ)

 淵までたどり着くと同時に、ライの体全体が一瞬光に包まれる。すぐさま光が収まるとそこにはバリアジャケットではなく、私服にコートを着た当人の姿が見えてきた。
 一旦バリアジャケットを解いたライは、それこそ友人に挨拶をするような気軽さで口を開いた。

「やあ、現実の世界では初めまして」

「……」

 内心、気障ったらしい言葉だと苦笑し、緊張が解けそうになる表情筋を引き結ぶライの表情は少しだけ歪になってしまっていた。
 ライの視界の先には、夢の中で会った時と違いバリアジャケットを纏い、黒翼を生やした夜天の書の管制人格がいた。更にその横には複数の蛇が絡みつき、球状になっている夜天の書があるのだがライの視線はあくまで管制人格の方に向いている。
 先程まで驚きの表情を見せていた管制人格も、今はどこか冷めた目でライを見ている。彼女のその目を“知っている”ライは、内心で少しムッとしながらも彼女を見つめる。お互いに見つめ合う形になる二人。そこにどんな意味があったのかは、当人たちにしか分からないが、先に沈黙を破ることになったのは、意外にも彼女の方であった。

「何故、お前が?」

「先ほど言った事が全部。それ以上の理由も、思惑も、目的も今の僕には無い」

 刺すような寒さの中で、本人も驚く程滑らかに言葉が口から出て行く。これまで複雑に考えていたのが馬鹿らしく感じるほど、それが自分の本音であるとライ自身再確認できるセリフであった。
 ノータイムで返された言葉に、管制人格が示した反応は驚きでも、喜びでもない。そこに浮かんでいたのは、明確な――――『苛立ち』である。

「お前が普通の魔導師ではない事は知っている。だが、それだけで私を救う事はできない」

 力強い断言。
 彼女の―――正確には夜天の魔導書についての知識を持つ人間が居れば、重く受け取るであろうその言葉をライは受け流す。
 それがどうした、と。

「関係ない。過去がどうであれ、それは既に知識であり経験である。それは確かに『今』を構成する為の要素だ。でもそれを言い訳にするのは間違っている」

「経験したからこそ、その結末を知るからこそ、破壊を生み出すことが止められないからこそ、今自らができる主の願いを叶えるという最善をなしているのではないか!」

 それは既に慟哭であった。
 幾度も経験した終焉を超えても、擦り切れる事ができなかった彼女の感情の発露である。
 彼女は覚えている。幾度も求めた救いを。
 彼女は知っている。自らの存在が消してしまった命を。
 彼女は見てきた。自分という存在が狂わせてしまった主たちを。
 そして彼女は願った。闇を振り払う光を、と。

「違うな、間違っているぞ」

 その光は告げる。
 自らも闇を抱えるからこそ。
 背負ってきた命があるからこそ。
 彼女の言葉を否定する。

「願いというのは自らの在り方だ。他人の願いを言い訳に使うのは自分を偽っているだけだ。そんなモノは最善ではない、ただの依存だ」

 彼女の表情は“苛立ち”から“困惑”に変わる。まだ、変えることができる。

「君の本当の願いはなんだ?過去も罪も関係ない。今ここにいる君の望みはなんだ?」

「……っ、私は……」

 彼女の瞳から感情が溢れる。それは涙という形をなして、彼女の感情を表現する。

「わた、しは…………」

 どれだけ身勝手でも、どれだけ非難されようとも、願うことは間違いでないとライは知っている。それがなければ、自分が自分である意味が無くなってしまうのだから。

「私は!」

 彼女の言葉に力が宿る。
 そこには、懺悔も罪の意識も後悔も含まれない。子供のようにただ純粋な想いが込められる。

「生き……たい…………生きていたいっ……」

 そっと呟かれるように絞り出された言葉。泣きながらの発音の為、それはお世辞にも綺麗な台詞とは言い難いものかもしれない。しかし、その言葉はライにとってどんな詩よりも綺麗と感じることができた。

「その<願い/ギアス>確かに受け取った」

 その誓いの言葉が彼女の耳に届く。それは彼女がこれまで経験した根拠のない自信に溢れたものに聞こえたかもしれない。だが、その言葉を信じたいと思う彼女は確かにそこに存在した。
 彼女は感謝と願いの意を込めて笑顔を贈ろうとした。それが泣き笑いであったとしても、それがどんなに歪な笑顔であっても、目の前の光は自分を照らしてくれると信じて。
 しかし、彼女が笑顔を浮かべようとする前に、彼女の意識は闇に飲まれた。



地球衛星軌道上・アースラ


 緊急事態を告げるアラームが鳴る中、リンディは歩き慣れたブリッジまでの通路を走っていく。彼女はアースラに戻ってきてから、医療班に四人を預け、制服に着替えることもせずに行動をしていた。
 普段、デスクワークが主な役職であるため、訓練生時代程の身体能力がないことにやきもきしながら、目的地の扉を目指す。そして走りにくいスカートを破いてスリットでもいれようかと思い始めた頃、目的地の扉に到達し、ブリッジに入ると同時に声を張り上げた。

「状況は?!」

 艦長として声を出すことが多いため、走った直後であってもその声はよく響いた。
 ブリッジクルーは彼女の声が聞こえる前から忙しなく動く手を止める事なく、作業を続けていく。

「艦長、現在闇の書の管制人格は……あー、えっと……所属不明の魔導師と対峙しています!」

 一瞬言葉に詰まりながらもしっかりと報告してきたのは、クロノの副官でもあるエイミィ・リミエッタであった。
 彼女の言葉通り、ブリッジの投影型正面スクリーンには管制人格である女性とビルの淵に立つライの姿が映し出されていた。
 その映像を見据えたリンディはライがバリアジャケットを纏っていないことに息を呑むが、なんとかその動揺を部下に悟らせることなく艦長席に座る。その動きはごく自然で、彼女の感情が私情を切り離している事の証明となった。

「彼らの会話を拾える?」

 座席についてから改めて画面に向き直ると、開口一番そう告げる。スクリーンに映し出されている映像は二人を同時に映し出しているが、音声までは拾えておらず、更に言えばその映像も解像度が綺麗とは言い難い。かろうじて二人の口元が動いているのが分かる程度だ。

「サーチャーで音声は拾っていますけど、ノイズが多くて……」

 エイミィからの申し訳なさそうな声に、内心で苦笑しながらもその視線はスクリーンから離れることはない。

(せめて、彼――ライ・ランペルージがどのような結末を望んでいるのかさえ分かれば……)

 現場に立つ唯一の魔導師がどう動くのかさえ予測できないアースラ側からすれば、今現在指を咥えて見ていることしかできない。アースラ側の主戦力である魔導師達は軒並み魔法戦闘ができる状態ではないのだから。

「エイミィ、サーチャーを近づけて音声を拾えるように。それと彼との通信を――――」

 手早く指示をし始めると“ソレ”は起こり始めた。

「…………………食べた?」

 ブリッジクルーの誰かがそう呟く。
 スクリーンを見ていた人間が発したその言葉を否定するものはいなかった。
 これまで動くことなく対峙していた二人。その片方である管制人格を、隣に浮いていた闇の書が纏う蛇の群れが飲み込んだのだ。取り込むように。彼女を否定するように。

『これ以上亡くさせるものか!!』

 初めてまともに拾えた音声は青年の叫びであった。



海鳴市・結界内


 目の前で起きたことを理解するのに自分でも情けないほどに時間が掛かっていると、そう頭が理解するよりも先に身体が動き出していた。
 これまで沈黙を保っていた闇の書の蛇が突然増殖し、膨れ上がると隣にいた管制人格を取り込んだ。それと同時に濃密な魔力が光を放ち膨れ上がり始めると、ライはそのまま前に踏み込んだのである。
 もちろん、バリアジャケットも展開せずにビルの淵に立っていたライはそのまま自由落下を始める。傍から見れば投身自殺以外の何ものでもないのだが、ライの本能の部分があの場から一秒でも早く、逃げ出すことを選択していたのだ。
 そして頭から落ちながらも、その機械的な音声はライの耳に届いた。

『管制人格、機能不全――闇ノ書完全起動マデ自己防衛権ヲ防衛プログラム、ナハトヴァールニ移譲――コレヨリ脅威認定個体ノ殲滅ヲ優先』

(機能不全?彼女が生きたいと望んだことが?ただ当たり前を望むことが?)

 言葉を理解した瞬間、何かタガが外れるのを自覚する。
 皇歴の世界でも、数える程しか経験したことのない激情。それを確かに自分の内に感じる。

「――――っざけるな……」

 落下スピードが増していき、とうとう地面まで数メートルという高さになったところで、蒼月が自己判断でバリアジャケットを展開する。
 それに合わせるように、ライは落下に沿うようになっていたビルの壁を蹴りつけると、真横に飛ぶようにして大通りへ滑るように着地した。

「これ以上亡くさせるものか!!」

 着地と同時に顔を上げると、浮かんでいる蛇の塊に向けて、ライは叫びを上げた。



 
 

 
後書き
と言う訳で、次回から本当に戦闘回です。

前回、感想をいただきモチベーションが上がりとても嬉しく、そして有難かったです。
本当にありがとうございました。m(_ _)m

このまま行くと、なのはとフェイトの出番が少しだけになってしまいそうなのが、最近の悩みです。個人的に原作の二人の戦闘をライが全て取っちゃいそうになるので、それは二次創作のマナーである、「両作品をリスペクトする」に反する気がしてちょっと悩んでいます。

では、次回も更新頑張ります。

ご意見・ご感想を心待ちにしておりますm(_ _)m
 
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