『自分:第1章』
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
『いたみ』
28歳の社長さん。
ほんまに来てくれた。
サービスじゃなくて、ゆっくり飲みながら話すのが目的らしい。
『記憶を塗り替えることが可能なら、どうしたい?』
その問いに答えは出んかった。
愛が溢れる理想家族?
有り得ん。
友達や恋人と充実した時間?
無理無理。
想像できん。
何処迄、過去を遡れば良いのか、其れすら不明。
何をどう足掻いても結局は此の汚い人生になる。
運命は決まってるらしいから。
愛されて笑って生きてる自分なんか想像も付かん。
そんな自分、気色悪くて見たくも無いわ。
『自分の意志では、過去を棄てん。過去を棄てたら価値観も考えも変わる。其れが怖い。』
ほんの少しくらいは自分を大事にしてる証拠なんだろうか?
いや、単純に『自分』を失うのが怖いだけなんだろうか?
誰に大切にされても申し訳ない気持ちしか生まれん。
好意を素直に受け入れれん。
家に帰る度、母さんは酒飲みながらテレビ観てる。
その姿は、大阪にいた頃に毎日見てた姿。
放置されっぱなしで、いつ死んでもおかしくなかった頃...
娘が何してるか知らん。
散々犯罪犯してきたんも知らん。
知ろうとも思わんねやろなぁ。
幼少期から絶望や裏切りは見てきた。
知ってた。
解ってた。
此の体と心で実感してた。
親の愛なんか知らん。
無償の愛なんか無い。
優しさも知らん。
抱かれたことすら無い。
人間の温かさなんか知らん。
居場所すら無い。
生きたくない。
楽になりたい。
でも、愛されたい...
其の手で優しく抱きしめて欲しい...
叶うことは無い想い。
綺麗に崩れ去った想い。
愛を知らん。
だから歪んだ愛が生まれた。
愛と情の区別が付かん。
情に流される。
常識ではなく感情で動く。
世の中の『普通』の常識すら知らんから。
ビール買って帰って母さんと一緒に飲んだ。
母さんの愚痴を聞こう。
聞き流す。
母さんの幼少期の話。
7人兄姉。
母さんは末っ子。
母さんと、ひとつ上の兄が、上5人とは異父兄姉。
その事で上5人のうち、女2人から壮絶なイジメに遭ったらしい。
階段から髪持ったまんま頭から引き吊り落とされたり。
殴られたり蹴られたり。
でもそんなん結局は子供同士のイジメ。
自分から言わして貰ったら『おどれの旦那にされたことより断然マシ』やと思う。
でも、母さんは未だにこの事を言うくらい傷が相当深い。
娘が受けた傷より自分...
自分が可愛いもんね...
結局、そこなんよ。
人間そんなもん。
親子とか兄弟とか...
血の繋がりとか...
意味なんか無い。
無条件に、無償の愛を与え合う存在なんか有り得んのんよ。
自分は母さんより強かっただけ。
我が子のイタミが解らん親なんか、ほんま願い下げ。
乗り越える。
独りで。
こんなイタミなんか...
絶対負けん!
ほんの少しでも誰かのイタミに気付いて、ほんの少しでも其のイタミをやわらげたい...
そんな自分になりたい...
毎日フェリーに乗り、潮風に吹かれる。
ふわふわ綺麗に漂い流される海月を数える。
海月になりたい。
感情を持たず流されて生きて、融けて消えるとか美しい。
綺麗な人生...
オッチャンは毎日指名で来てくれる。
後少しのとこで取り立ては来んなった。
封筒は膨らむ一方。
残りの額を越えまくってる。
でも、一生、二度と顔見ずに済むなら安いもんや。
ページ上へ戻る