少年少女の戦極時代Ⅱ
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禁断の果実編
第99話 家族だから許せない
貴虎はベッドに突いた両手を震わせた。
ようやく理解できた、あまりに理解するのが遅すぎた、弟の真意。
光実は己一人に犠牲を留めることで、貴虎たちを守ろうとしたのだ。
貴虎たちを戦いから遠ざけるために、あえて憎まれ役を買って出たのだ。
「――貴様は光実を生かして解放する気はないんだな」
恐れなど消えた。怒り。ただそれだけだ。弟を弄ぶこの怪物を、頭のてっぺんから足の爪先まで刻みたい。
過去最高速度でメロンの錠前を再び開錠し、バックルにセットし、カットした。
《 メロンアームズ 天・下・御・免 》
『弟は返してもらう!! ――ハァッ!』
貴虎は斬月に変身するなり、高くジャンプして無双セイバーでレデュエに斬りかかった。
しかしレデュエは杖槍で無双セイバーの一撃を軽々と食い止めてしまう。
杖槍が無双セイバーを巻き込み、弾き上げる。続くレデュエの一撃を、斬月はメロンディフェンダーで受けてから着地し、落ちた無双セイバーをキャッチした。
レデュエの杖から光弾が放たれた。斬月は光弾を避け、時にベッドを壁にしながら躱した。
(あのレデュエとかいうのと光実の位置が近すぎる。いつのまに。これでは遠距離攻撃ができない。いや、近接戦でも、下手をすると光実を盾にされかねない)
マスクの下の目は忙しなく動き、レデュエの隙を探す。呉島貴虎は、この程度の逆境で諦める男ではなかった。
“たすけてあげるって、お母さんに言ったの”
使命感より、義務より、今は情こそが斬月を衝き動かす。
“みつ兄さんになにかあったら、たか兄さんとヘキサで助けてあげようね。たか兄さんになにかあったら、ヘキサとみつ兄さんがたすけてあげるからっ”
墓参りの帰り道で妹がこっそり打ち明けた。合掌に込めた祈りの内容。
――初めて3人で行った母の墓参り。「呉島家之墓」と刻まれた墓石の前。
小さな光実が、もっと小さな碧沙に、合掌の仕方を大人ぶって教えていた。10代の貴虎は微笑ましく、大事な弟妹を見守っていた。
(分かってる、碧沙。俺が光実を助けてみせるよ。ここにいないお前の分も)
斬月は空のベッドからベッドへ飛び移り、レデュエが放つ光弾を避け続けた。
『ふん。飛び回ったところで、いずれ体力が尽きて終わりだ』
『それはどうか――な!』
斬月が狙っていたのは最初からレデュエではなかった。
斬月は無双セイバーのレバーを引いて――光実と繋がった装置に、照準を合わせた。
自分にとっての泣き所が光実であるように、レデュエにとっての泣き所は、ロシュオのために用意されたこの装置のはずだ。見るからに精密機械、撃てば脆く崩れ去ろう。
トリガーを引く――その瞬間。
ホールの床にはびこっていたヘルヘイムの蔓が伸び、斬月の四肢を拘束した。
『なっ……この!』
抵抗空しく、やがて無双セイバーとメロンディフェンダーが床に落ちた。
オーバーロードはヘルヘイムの植物を自在に操ることを失念した。これは貴虎のミスだ。
無防備になった斬月に、前触れなくレデュエが杖槍で斬りつけた。
一度では終わらない。杖槍が体に叩きつけられるたびに、苦悶の声を上げてしまう。
『ほらほらほらあ! どうした!? ワタシから弟を助け出すんじゃなかったのかい!?』
杖槍が斬月の体を打つ。何度も、何度も。無造作に、あるいは力を込めて。何撃耐えられるかを試す、残酷な人体実験のように。
後書き
原作にはなかった貴虎(斬月)vsレデュエの対戦カード、いかがだったでしょうか?
実力も経験も最高の戦士。ですが貴虎はどうしても何かを「見落とす」イメージが強く、このような戦果と相成りました。
そして、実力も経験もある戦士を相手に、知能派(?)のレデュエが真っ向から戦うはずがない。きっと最大限、貴虎と切り結ばずに決着をつけるに違いない。そんなイメージが強かったので、このようなラストと相成りました。
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