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地味でもいい

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第三章


第三章

「猪木さんは否定しねえがあまりな」
「何よ、面白くないわね」
「まあ馬場さんも悪くないけれどね」
「猪木様を好きじゃないってのはちょっとね」
「とにかくな。俺はあんた達とプロレスの話をするつもりはないんだ」
 いい加減うんざりしてきてそれを止めるのだった。
「それでな」
「ええ、不死身よね」
「今来たけれど」
 プロレスの話をしているうちに、であった。
「ああ、こっちよ」
「このでかいのがあんたに話があるんだって」
 三人はこうその冬美に対して言うのであった。その眼鏡をかけた地味な女の子にである。確かに三人と同じくスカートの丈は短いがそれだけである。制服の着こなしも地味で化粧もしていない。アクセサリーも付けておらず本当に地味な女の子であった。
「はい、こっち」
「このでかいのね」
「あのな、いい加減俺も怒るぞ」
 彼女達の今の口調に流石に頭にきだした涼平だった。
「今度はでかいのかよ」
「だって一九〇近くあるし」
「ねえ」
 三人が今度言うのはそのことであった。
「それだけの背があってでかくないっていうのは」
「無理があるわよ」
「ちっ、まあいいさ」
 こう言ったのはもうこれ以上付き合っていたら話が終わらないと判断してのことである。
「それでな。冬美ちゃんさ」
「どうしたの?」
「いきなりで悪いけれどさ」
 微笑んで彼女を見る。身長の差は三十近くあり完全に見下ろし見上げる形になってしまっていた。だが彼のその顔は微笑んでいた。
「俺と今日の放課後デートしない?」
「デート?」
「そう、デートね」
 今の彼の言葉に驚いたのは涼平以外の全員であった。冬美はその目を大きく見開いて唖然とした顔になるだけだったが三人はそれこそいきなり目の前に北朝鮮の工作員が出て来た様な顔になっていた。
「へっ!?」
「あんた今何て」
「本気なの!?」
「だから俺は嘘はつかないんだよ」
 ここでもこう三人に言う彼だった。
「絶対にな」
「絶対にって」
「嘘じゃないってわかっていても」
「だからな。デートな」
 それをまた言う彼だった。
「デートしないか?俺と」
「山川君とデートって。私が」
「あっ、俺の名前覚えてくれてるんだ」
 冬美の今の言葉を聞いて微笑んだ彼だった。
「じゃあ話が早いね」
「デートするの」
「嫌?」
 微笑みをそのままにして彼女に問うた。
「嫌だったらいいけれど」
「私でいいの?」
 ここで彼女が言うのはこのことだった。
「本当に私で」
「いいから今こうして言ってるんだけれど」
 また言う涼平だった。
「それじゃ駄目かな。俺じゃあ」
「私なんかでよかったら」
 おずおずと応える冬美だった。
「本当にいいのよね、私で」
「何度も言うけれどいいよ」
 涼平の言葉は変わらない。あくまで言うのだった。
「本当だよ、首をかけてもいいよ」
「それじゃあ」
 そこまで聞くとだった。彼女も安心できた。そうして遂に言うのだった。
 
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