一年一組相川清香、いっきまーす。
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その二
クラス代表にと推薦を受けた織斑くん、自薦の私とオルコットさんの中から代表を決めることになる。
決める方法はというと、ISの模擬戦を行い優勝者が一年一組のクラス代表になる。
試合は一週間後だそうだ。
イギリス代表候補生であるオルコットさんは専用機があるからいい。
織斑もデータ収集を目的として学園側が専用機を用意してくれると織斑先生は言っていた。
世界で唯一の男子のIS操縦者ということもあって国の支援を受けられるのだろう。
私はというと、代表候補生なく、唯一の存在でもない。
織斑先生と山田先生に相談してみた結果、クラス代表が終了するまで学園のISを使えるようにしてもらうことになった。
じゃないと、まともにISを動かしたことのない私が、クラス代表を決める試合に出たところで何もできず試合が終了なんてことになりかねない。
まともに戦うこともできず一方的にやられて試合終了なんてのは誰だってイヤだろう。
私もそんなのはイヤなので、まともに動けるようになるまで先生方の特訓を受けることになった。
時はあっという間に過ぎ試合当日。
放課後になると一年一組のクラスメイトたちはクラス代表を決める試合を観るためアリーナへと足を運ぶ。
今頃、アリーナの観客席で試合が始まるのを待っているだろう。
織斑くんのISがまだ学園に到着していないということで、まずは私とオルコットさんの試合をするとこになった。
この試合を観たクラスメイトたちからのちに一年一組のG兵器なんて不名誉極まりない名を賜ることになった。
全然嬉しくない名だけど、何でそんな名なのか聞いてみれば、私の空中でのISの機動が台所にいる黒光りしたヤツを連想させるかららしい。
どうせなら、妖精とか精霊とかのほうがよかったって私が言うと、黒光りするG妖精か黒光りするG精霊、どっちがいいかと選択を迫られた。
私はどっちもイヤだったので丁重にお断りした。
私が操縦しているISはフランスのISメーカーのデュノア社製『ラファール・リヴァイブ』だ。
このIS学園には日本のISメーカー製の『打鉄』もあるけど、操縦のしやすさからこちらのほうがいいだろうと先生方が進めてくれた。
私には見た目しか違いがわからなかったけど、先生方がそう言うんだからそうなんだろう。
アリーナ上空でオルコットさんと向かい合ううようにして浮かぶ私。
お互いの距離は百メートルも離れていないだろう。
オルコットさんの専用機『ブルー・ティアーズ』は一対多数の戦闘を目的として開発された遠距離射撃型の機体らしい。
主兵装はレーザービームライフル。
本体から切り離して相手を攻撃可能なビット兵器四機とミサイルビット二基搭載されていたはずだ。
近接戦闘用の武器もあるようだけど、オルコットさんが操縦する『ブルー・ティアーズ』の機体特性上あまり考慮に入れなくてもいいかもしれない。
今回の試合で近接戦闘をする可能性はそう多くないだろうと私は考えている。
試合開始を待つ間、オルコットさんがオープンチャネルで話しかけてくる。
『あなたのような素人がたかだか一週間程度ISの訓練を受けたからといってもたかがしれています。イギリスの代表候補生であるこのわたくしセシリア・オルコットとまともに試合ができるとは思えませんわ。今すぐ試合を棄権なさることをお薦め致します』
確かに普通なら私がイギリスの代表候補生であるオルコットさん相手にまともな試合をできるとは思わないだろう。
だけど、この一週間、どんなことがあったのかは割愛するけれど、織斑先生や山田先生の熱意溢れる指導というやつで血尿が出るくらいには私は頑張ってきたんたよ? だから私はオルコットさんに何て言われようと試合を棄権する気はないし、簡単に負ける気も更々ない。
私は右手に量子化してある銃身の短いマシンガン系の武器を呼び出すと銃口をオルコットさんに向けることで返答とした。
ふぅ……とため息をついて見せたオルコットさんは、私に対してライフルの銃口をこちらに向けた。
『仕方がありませんわね。でしたら、これから代表候補生と一般人の実力の差というものをイヤというほど相川さんの身体に刻み込んで差し上げますわ』
しばらく待っているが試合開始の合図が未だない。
そこでこの時間を利用して考えてみる。
オルコットさんと私の違いは、まずは専用機を持っているかどうかだろう。
操縦者に対して最適化される専用機と違って多人数が使う私が使う機体にはそれがない。
自分がしようとした行動に対してISが思ったところにスパンッとハマる感覚がない。
これは大きい差だろう。
しかも、ISの起動時間という歴然とした差がすでにあるんだから。
それとこれは自分自身の問題だけど、操縦者を守るために絶対防御という昨日をISは持っているが、攻撃を受けたとき何もかもすべてを無効化してくれるわけではない。
熱意溢れる指導で受けた人を傷つけることができる武器で攻撃を受ける恐怖を私はまだ克服できないでいた。
オルコットさんがライフルの銃口を私に向けたとき内心ビビりまくりだ。
織斑先生の言によれば、今時期の生徒たちはIS操縦の技量にそう差はないと言っていたけど……ホントにそうなの? と私は思う。
多少疑ってはみたものの、他に信じるべき何ものも持たない私は、織斑先生の言葉を取りあえず信じてみることにして自分に気合いをいれる。
すると、私が気合いを入れるのを待ってくれていたかのように私たちに試合開始の合図が告げられた。
試合開始の合図とともに私は機体を左に滑らす。
私の行動に合わせオルコットさんが構えるライフルの銃口が動くのが見える。
オルコットさんとの攻撃が来る! と直感とか予感とかそんなものが私の頭をよぎる。
背筋がざわめくような感覚があるが、どうにもこれには慣れそうがない。
私はスラスターを吹かし自分が空中に描こうとしていた曲線から軌道をずらす。
すると私の左を青い光が通り過ぎた。
オルコットさんのライフルから放ったレーザーの光だろう。
私は機体を減速し身体を翻す。
そして今度は右へと機体を降った。
ついでにオルコットさんを攻撃しようと狙いを定めるが、またイヤな感覚が私を襲う。
またオルコットさんの攻撃が来るの? オルコットさん、私が思っていたよりも照準速度が早いと感じた私はしようとしていた行動をキャンセルしてオルコットさんの攻撃を回避することに専念する。
私はスラスター吹かし機体を加速させる。
オルコットさんの背後を取れれば最高だけど難しいだろうな。
私はまたスラスターを吹かし軌道を修正。
横移動から縦移動へと軌道を変える。
私の右側を再び青い光が掠める。
私がこうして忙しく動いている間もオルコットさんの機体は最初の位置から動いていない。
「なめないでよ!」
私は叫ぶと同時にマシンガンの引き金を引く。
銃口が三度炎を吐き、軽い衝撃が身体に伝わってくる。
曳光弾を含む銃弾が飛んでいく軌跡を光によって私に教えてくれる。
銃弾がオルコットさんへとまっすぐ向かっているのが見えたが、それがわかってでもいたかのようにオルコットさんは動き出す。
その動きは上昇しているように見えるが距離を取るような動きに感じた。
『驚きましたわ。とても素人の動きには見えませんわね』
なんてオルコットさんの言葉が聞こえてくる。
戦いながら話をする余裕があるなんてさすがはイギリスの代表候補生といったところか。
私は結構ギリギリでガンバっているっていうのに……。
「当たり前でしょ? 私は織斑先生と山田先生のあの地獄のと……じゃなかった、熱意溢れる指導を一週間も受け続け、天国に逝くときにみるという走馬灯を何度も、何度も、何度も見るハメになったんだから」
「それくらいしていただかないとクラス代表を決める試合がすぐに終わってしまってはつまらないですわ。あなたの努力はわたくしが認めて差し上げます。お遊びはこれくらいにして、イギリス代表候補生であるセシリア・オルコット、本気を出させていただきます」
とオルコットさんが言った瞬間、機体から何かが切り離される。
本体から切り離されたそれはビット兵器だろう。
広範囲に展開、こちらに向かってくる。
不規則軌道を描く四つのビット兵器からは何かピリピリとした緊張感のようなものが伝わってきた。
オルコットさんが言った本気という言葉は嘘ではないと私には解る。
スラスターを吹かし軌道を修正、出力全開でオルコットさんに向かって突っ込んでいく。
私がオルコットさんに近づけば近づくほどビット兵器のような誘導兵器を使う場合、私に向かってした攻撃が自分の近くを通ることになるだろう。
私の行動はISの訓練を受けているとしても自分に攻撃が当たることに恐怖を感じ、攻撃するのを躊躇ってくれたら儲けものくらいの行動だ。
ビット兵器の攻撃をバレルロールし交わした私は、オルコットさんに向かって引き金を引く。
銃口からは三発の銃弾。
私の攻撃を交わすため右へと動いたオルコットさんの横をそのまま通り過ぎ、頭を下に地面に向かって降りて行く。
見る間に迫る地面。
私は機体を起こし急速に減速する。
地面スレスレを数秒飛行したのちオルコットさんに向かって上昇を開始する。
このタイミングで私は織斑先生から教わったあるものを使った。
それはISのスピードを瞬時にトップスピードまで持っていくイグニッションブーストだ。
教わったはいいがぶっつけ本番だったため自分で想像していたよりも物凄い加速度が私の身体に襲いかかってくる。
途端、目の前が暗くなってきた。
「あれ? 私……どう、なった……の」
何かに激突した感覚がかり、そのまま私の記憶は完全に途絶えた。
気がつくと目の前には白い世界が広がっていた。
ぼんやりとした意識の中、私はそれを眺める。
「相川さん、気がつきましたの?」
頭を動かし声がした方向をみれば私を見下ろすオルコットさんがいた。
「ここは、どこ?」
「医務室に決まっていますわ」
「何で私はここにいるの?」
「試合中にアリーナのシールドバリアーに激突して地上に落ちましたのよ。まったく覚えておりませんの?」
「ああ、えっと……うん。何となく、だけど……覚えてる。試合はどうなったの?」
「わたくしの勝ちに決まっていますわ」
「そう、だよね」
何だろう心の中に悔しさが込み上げてくる。
最初は織斑くんとお近づきになりたくてクラス代表に立候補したはずなのに、今の私の心中にはオルコットさんに試合で勝ちたいという思いが強あった。
だから私は……、
「ねえ、オルコットさん。また私とISの試合をしてくれないかな」
と言っていた。
私を見下ろすオルコットは絵顔を作ると、まずは身体を治すのが先だと言い、そのあとならまた試合をしてくれると言ってくれた。
それから私とオルコットさんは試合のことを話し、オルコットさんが医務室を去る頃にはだいぶ仲良くなったと思う。
オルコットさんが帰る姿を眺めながら、心の中では今度は負けないからねと呟いた。
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