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願い事が叶う前に

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第2話 願いの破壊はプレゼント!?

「くそっ!ちょこまかと!」
「敵も自分の思うとおりに動くと思ってると、ロクなことにならないわよ」
 私は後輩への人生論を語りながら術力弾の雨あられから逃げ惑っていた。  
 真っ向から戦っても勝てない。1回術力勝負に持ち込んだけど、惨敗した。
 確かに、明らかに術量と術力がおかしい。それに、ボスっぽい人以外誰も動かない。彼位の術力があるなら、加勢すれば私は一気に夜空の星になる。丁度明日は煌星祭。私が死んでも大した術石にならないでしょうけど。
「なら、これでどうだ!」
 ボスっぽい子は、獣型の魔法生物を生み出した。追っ手が増えたか。
「さぁ!殺戮ショーの始ま……」
「待て」
 崩壊し興奮しているこの場にそぐわない、落ち着いた声。
 私とボスっぽい子は声のほうを向いた。すると、居木実が少年の片腕を縛り上げていた。
「い、居木実……」
 確かに、何らかの影響でやけに強いのは多分ボスっぽい子だけ。だからそれ以外を狙うっていうのは戦術的に合ってるんだけど、合ってるんだけども!
「こいつがどうなってもいいのか?」
 居木実は目線でボスっぽい子を刺す。
「き、貴様!卑劣な!」
 はい、返す言葉もございません。
「ふん、負け惜しみか。キサマらに道理を語る資格は無い」
 それは誰にでもあると思うけど正直それ以外にいい手立てが浮かばないので私は静観していた。
「くそっ!ならばやつらもろとも死んでもらう!」
 ボスっぽい子は手のひらを突き出した。
「……」
 居木実は感情の感じられない眼でその様を見つめている。
「今なら恩情を考えてやらないこともないぞ?」
 ボスっぽい子はその構えのまま静止している。
「殺せよ。こいつらもろとも」
 居木実は微動だにしない。
「うううう……」
 ボスっぽい子の手がプルプル震えている。
 なんていうか凄い、大人げない。お姫様になりたいっていう女の子に国の職務押し付ける感じ。
「……」
「……」
 ……で、この膠着どうすんの?
 『私』としては、早くこの人達を教師達の前に突き出して終わりにしたいんだけど。
「ちょっとこれ何とかしなさいよ……」
 私はそう呟いた。
 まるでそれが合図だったかのように、
 ガラガラガラガラガラガラガラ
 天井が崩れた。
「ななななんだ!」
「魔法!」
 私は取り乱しているボスっぽい子に咄嗟に叫びかけた。
「そうだっ!」
 ボスっぽい子は術力弾を上に放った。私はそのボスに駆け寄る。あそこは多分安全だから。
 だから私には見えた。彼が術力弾を放ったか放ってないか位の時、彼の胸ポケットに小さな青い光が入っていくのが。
 だけどそれがなんなのかなんてどっちでもいい。とにかく彼の近くにいないと。
 ガシャガシャガラガシャガシャガジャ
 天井が抜けて、暮れかかった太陽が見える。
「さっきまで大切って言っていた仲間はどうしたんですか?」
 そして上から聞こえるのは、この廃墟の中に似合わない、涼しい声。
「貴様がやったのか!」
 ボスっぽい子が上を見ている間に私は居木実達の方を見る。
「なんだこれ……」
「長がやってくれたんだ!」
「有り難う御座います、長!」
「……」
 あっちは半球状のバリアで守ってたみたい。
「天井のような大きい物が降ってくる時は、崩す分量を間違ってもいいように自分達にも防護壁をはっておかないと。それが嫌なら、いっそのこと全員を転移させてもいいんですよ?あなたの術量なら、それ位出来たでしょう?」
 杏舎が師匠か何かのようにボスに語りかけた。
「……それで、私達を煙突へ突き落としたことへの謝罪は?」
 私は白い目で杏舎を見る。
「煙突から吸い上げればいいですか?」
 杏舎はニコッと微笑んだ。
「是非ともお願いしたいけどどっかの馬鹿が煙突毎天井を崩したの」
 私は『入口』に目を向けた。
「では、その人に代わって私が煙突を作りましょう」
 杏舎はそう言ってピエロのような態とらしく恭しいお辞儀をした。
 すると、周囲が一瞬で透明になり、真っ白になった。
 そしてそこに、茶色い四角や赤や青の球がくっついていく。
「では、ご賞味あれ」
 杏舎はそういうと外壁の赤い球を私に投げてきた。
 大きさは卵の長い方の辺位。グミみたいな光沢を放ってる。ん?ご賞味ってことは……
 私はそれを杏舎に投げ返した。
「うぎゃあああああ!」
「ひいいいいい!」
 あっちの方で悲鳴が上がってる。
 大方、お菓子の家(大量のわさび入り)とかそんなのでしょう。初歩的ね。その手はもう10回は引っかかってるからもう簡単には騙されない。
「……ってあなたこんなことも出来たの?」
 こいつらが、不自然な位強大な術力をもってして行ったことを?
「貴様!よくも騙したな!」
 やっぱりボスだった子が術力弾を放つ。
 ぽひゅう
 けど、その勢いは年相応か、もっと酷いものだった。術力に何もコーティングせずに撃てば普通はすぐに減速する。そしてその通り、何もせずに簡単に消えてしまった。
「な!?」
 ボスは鍵でも探すように胸ポケットを漁った。
「あ!?ぁあ!?」
「そんな失くしやすい所に置いとくと、不慮の事故の時にすぐに落としてしまいますよ」
 今回の不慮の事件の加害者らしき人がニコニコしながら語っている。
「返せ!人のものを盗るなよ!」
「……えっと、そのあんたが盗んだ物が、彼の術力を高めてたの?」
 ボスの意見を取り敢えず無視して、私は杏舎に確認を取った。
「はい。あなた達が頑張って走り回っている間に、彼の術力の流れを見ていました。すると、胸ポケット辺りで異様な術力が流れている。これが原因でしょう」
「あなたに無理矢理走らされた甲斐があったわね」
 私は恨みっぽく睨みつけた。
「ええ、見ていてつい応援したくなりましたよ」
 杏舎は子供の運動会を思い出すようにニコニコしている。
「観戦してる暇があったら術力の流れとやらを早く見なさいよ」
「失礼な。僕は自分で言うのもなんですが、仕事熱心なんですよ?」
 杏舎が態とらしく頬を膨らませた。
「ちゃんと術力の流れを調べてから観戦してました」
「分かった。殴っていい?」
「どうぞ。捉えられるならば」
 杏舎はニッコリ微笑んだ。
「それで、もうこいつは神の石(ゴッドストーン)を持ってないのか?」
 不良チームの中で一番体格がでかい子が、もうボスじゃないっぽい子を指さした。
「そうですね」
 杏舎はあっさりと頷いた。
「……よしっ!じゃあ限壊邪制の次のボスは俺だ」
 でかい子が自分を指さした。他の子は何も言わない。
「つーわけでお前ら、これから俺がビシバシしごいてやる!ついてこい!」
「お、おう!」
 ボスだった子は走り出したボスっぽい子についていく。
「あ、俺達も!」
「待ってくれぇ!」
 残りの2人も、それを追って走り出した。
「……ってさりげなく逃げようとしてんじぇねぇよ」
 居木実が全員に回し蹴りを浴びせた。彼らは膝を折って地面に伏せる。
「ううううううううううう!」
「ぶああああああああ!」
 そしてわさびか何かの餌食になる。



「……さて、彼らの運搬は僕の魔法生物に任せます。それより、あなた達に頼みたいことがあります」
 不良達を術力の檻に閉じ込めた後、杏舎は私達の方を見て言った。
「煌星祭の前に降ると言われている術石を今から破壊しに行きましょう」
「はぁ!?」
 私はつい変な声が出てしまった。
「待って煌星祭って何日前よ!そんな宇宙まで届く程の魔法なんて使えないわよ!ってそもそもなんでそんなの破壊しないといけないのよ!」
「限壊邪制のボスの方の持っていた術石、あの正体が分かりますか?」
 杏舎が急に話を変え、てないの?
「もしかして、煌星祭の時に降った術石?」
 私の疑問に似た答えに、杏舎はゆっくりと頷いた。
「ま、待ってよ。煌星祭は10日後よ。未来から降ってきたって言うの?」
「いいえ。過去から降ってきましたよちゃんと」
「過去って、前の煌星祭は数年前よ。術石はどうして術力を失っていなかったの?」
「いいえ。ちゃんと失っていたんじゃないですか?」
「え……」
 私は言葉を失った。鍵をかけたドアを、鍵ごと粉砕されたような。
「失ってなお、あれだけの術力を持っていたんです」
「じゃ、じゃあ、誰かがもう1年早く見つけてたら……」
「……煌星祭の伝説、知ってますか?」
 杏舎が、話を始めた。多分変わっていない。
「伝説って、あぁ、それって、夢の跡で願ったことが叶う……」
「まるで、とても凄い魔法のようじゃないですか?」
「魔法、あ!」
 私は思わず叫んだ。
「魔法の使用の号令をかけるのは脳。その脳が願ったことを膨大な術力が叶えてしまうんでしょうね」
 杏舎はニッコリと微笑んだ。
「じゃあ、その術石を破壊するっていうのも、」
「術石に願ったことが叶ってしまうからです。それに、術石の欠片を拾ったらその人が力を持ちすぎてしまう。数年間術力を失い続けた、今まで誰も気づかなかったような小さな欠片を、まだ右も左も分からない学生が使って、どうなるか分かったでしょう?」
「煌星祭の直後に、小石くらいの大きさの欠片を、そこそこ術力と経験のある悪人が使ったら……」
「というわけで、地球に欠片が届く前に破壊しますよ。前回みたいに漏れがあると面倒ですから」
「長い話が終わったか。それで、どうやって宇宙に行く?」
 欠伸混じりに話を聞いていた居木実が混ざってきた。
「今の僕の術力なら、宇宙服とロケットを創る位余裕ですよ」
「す、凄いわね……」
 私達は地球を飛び立った。地球の青さを確認する間も無く、紫色にぼんやり光る隕石に出会う。
「で、でかい」
 そりゃ隕石だから当然なんだけども。
「あいつらを壊せばいいのか?」
 居木実は隕石群を指さした。
 術石に近づけば、術量と術力が増すので、破壊出来るようになる。杏舎はロケットに乗る前にそう言っていた。
 ちなみに音声の伝達も杏舎が創った無線機で出来るようになってる。
「よっしゃ!思いっきりやってやろうじゃん!」
 私は術石群に泳ぎ出た。
 術力で威力を増した居木実の拳が術石を砕き、杏舎の小さな魔法生物達が術石を何度も貫き、見たことないような莫大な術力を手に入れた私は術石を次々と粉々にしていく。
 夢の中のような派手な体験は、10分程で終わった。



「お疲れ様ー」
「お疲れ様です、先輩」
 簡単に言えば、私達が出向く必要なんてなかった。
 阿莉亜先輩と鍊城先輩が大阪に行くなんて嘘で、本当は宇宙に行っていた。
 今回の術石群は特に数が多いらしいので、毎回術石を破壊している人達から、生徒協議員の2人が術石の破壊を依頼されたらしい。それも杏舎にすら内緒で。
 だけどそれこそ最初は、阿莉亜先輩と鍊城先輩ですら術石のことを知らされてなかったらしい。
「ごめんね、騙してて」
「いえ、隠さないといけなくなる事情は分かりますから」
 そう言って、私は私達が宇宙に来た理由を話した。
「へぇぇ、お菓子の城かぁ」
「でもわさびかからしか何かが入ってるっぽかったですよ」
「私、甘いのも辛いのも好きだったから食べてみたいかも」
 私達がこうして話に花を咲かせていると、
「そこの2人」
「へ!?」
 私が振り向くと、鍊城先輩がネックレスを手に持っていた。
「杏舎君が術量も術力も殆ど無い術石をくれたんだけど、いる?」
「え!?是非!って阿莉亜先輩いります?よね……」
 私はうなだれた。
「私はいいよー。漆音ちゃん頑張ったから、もらったら?」
「いいんですか!?」
 私は叫ばんばかりだ。
「あっ、じゃあ居木実君にも欲しいか聞いてみるよ」
 私は駆けてく鍊城先輩を目で追い、居木実をじっと見た。
 とっても優しく、とぉっても平和的な眼差しで。
「……………漆音にあげればいいんじゃないですか」
 居木実は棄権した。どうしてかは私は何も全く知らない。
「……じゃあ、居木実君もいらないって言ってたし、空鳥さんにあげるよ」
「有り難う御座います!!」
 私は賞でももらったかのように頭を下げながら受け取った。


 煌星祭の日に術石は降らなかった。誰の願いも聞き入れなかった。
 私はただの夜空を清々しい眼差しで見つめていた。 
 

 
後書き
さるとんどる、おみのづえSPです。
はい、短編です。
これを書くきっかけはツイッターの診断メーカーだったりします。診断メーカー出してから何日もかかってしまいましたが。
うー、個人的に不満だったのが、こういう感じじゃなくてもっと右も左も四も五も無いようなとんてんかんなコメディー書きたかったことですね。これでも漫才フェイズとシリアスフェイズに分かれてしまいましたから。
え?裏生徒会?遊戯王?ままま待って下さい!今、裏生徒会書いておりますので!
だけどこれ終わったら友人にSS書かされたからそれ消化しないと……大丈夫本編も書きますからぁ!
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