愛は勝つ
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第十一章
第十一章
「確か合気道は自分からは仕掛けませんね」
「知っているのだな」
「一応は。つまりここで合気道の服を着るということは自ら攻撃を仕掛けたりはしない」
「あくまで自らを守るもの」
「その通りだ」
尚志のその言葉に満足したように頷く。頷いた後でまた言葉を続ける。
「だから娘に近付く男にはまずこの服を着ることにしている。そうして試していたのだ」
「心をですか」
「それをわかっている者がいなかった。ずっとな」
「ずっとですか」
「あげくの果てには言い寄る男までいる。全く以ってな」
嘆きの言葉に半ばなっていた。それは武道家として、父親として、二つの顔を持つ言葉だった。そうしてやり取りを続けるのであった。
「しかし今やっとだ」
「やっとですか」
「君が合気道の服を着てきたのはそれだな。武道とは強さを求める」
これは確かにそうだ。しかしそれは身体を強くさせるだけではないのだ。矢吹は今それを尚志と彼の横にいる若菜に対して語っていた。
「同じく心の強さを求める。この合気道こそがまさにそれだ」
「合気道にある武道の心ですか」
「心の強さ、それがあるからこそ武道なのだ。それがない者には娘を任せるわけにはいかないのだ」
「そうだったの、お父さん」
「そうだ」
娘に顔を向けて答える。
「御前は私の大切な娘の一人だからな。それがない者にどうして任せられるんだ」
「それで今まで」
「君の合気道、そして武道を確かに見た」
また尚志に顔を向けて述べる。
「君はまだ身体は弱い。それでも心は備わっている」
「はあ」
おぼろげに何かを感じながら着たのだがそれが僥倖だったようだと思いながら話を聞く。話を聞いているだけの尚志に矢吹はさらに言葉を続けるのであった。
「娘を任せよう」
遂にその言葉を出してきた。
「いいな」
「いいんですか」
「私も男だ」
殺し文句が出た。
「言葉を偽ることはない」
「有り難うございます」
「よかったね、矢吹君」
若菜は彼の側にやって来て声をかける。今にも抱きつかんばかりであったが目の前に父がいるのでそれは止めていた。流石にそれはまずかった。
「私達これで」
「そうだ。ただしだ」
「ただし?」
「条件がある」
彼は尚志に対して言ってきた。
「その条件は」
「何なんですか?」
話はこれで終わりではなかった。尚志は矢吹の口からとんでもないことを聞くのであった。
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