雲は遠くて
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38章 信也と美結、いっしょに暮らし始める (1)
38章 信也と美結、いっしょに暮らし始める (1)
5月4日の、よく晴れて暖かな日曜日。下北沢の信也の
マンションに、妹の美結が山梨から引っ越してきて、
2人で暮らし始めて、2週間が過ぎている。
「お兄ちゃん、ピザトーストができたわ!」
「おいしそうな匂いがするなぁ!美結の
ピザトーストはいつも最高!」
信也は寝転んで、NHKの日曜討論『どう向き合う、
少子化・人口減少』を見ている。
高さ25センチのTVボードの上に、40型のテレビがある。
9.5畳のリビングは、冬は暖かく夏は涼しいウールのカーペットを
敷いて、ひのきのローリビングテーブル(座卓)にして、テレビを
見ながらでも寝転がれる床座にしている。
入居したころは、この部屋はキッチンとして、普通のテーブルと
椅子を置いていたのだが、落ち着かないので、
テーブルと椅子は売ってしまい、いつでも寝転がれる床座の
リビングルームに変えたのである。そのほうが部屋も広く感じられた。
「どうしたの?お兄ちゃん、朝から、むずかしそうな番組を見て」
美結が、ダイニングの北側の引き戸越しの
システム・キッチンにいる。システム・キッチンの窓の外は通路である。
「はっはは。いつもは、こんな番組は見ないけど。
日本の少子化や人口の減少って、深刻な課題なんだろうな。
でも、それよりか、きれいな女性が出ているんだ」
「そうなんだ。きれいな女性が出ているの。誰なのかしら?」
「小室淑恵っていう女性で、ワーク・ライフバランス
とかいう会社の社長さんなんだってさ。まだ若いのに、すごいよね。
育児休業者の職場復帰をサポートしたり、職場の労働条件の改善の
サポートしている会社の社長さんだってさ。女性が活躍する時代かな?
こんなきれいな人がいたら、おれだったら、マジメに議論なんかできない
だろうね。ハイヒール履いている、足元なんかが、映っていて、
それがまたセクシーに見える。これって、カメラマンのサービス精神っぽいな」
「やだーぁ、お兄ちゃんってば!」
美結は、料理の先生のように、手際もよく、
ピザトーストを作る。食パンに、粒マスタードやケチャップ、
おろしニンニクを塗ると、とろけるチーズをのせて、きざんだ玉ねぎ、
ベーコンとパセリをのせる。そしてオーブントースターで、
信也と美結の二人分をこんがりと焼きあげた。
「お兄ちゃん、お味はどう?おいしい?」
「うん、美結のピザトーストは最高」
信也はピザトーストを両手に、口の中いっぱいに頬ばる。
「よかった。もう1枚焼いておくからね」
「うん。ありがとう」
信也は、2012年の10月からこの下北沢のマンションに住んでいる。
リビングの西側には、洗面所とバスルームがあり、南側には、
6.5畳の洋間が2つあった。その2つの洋間の南側には、
掃出しの窓があって、外はベランダで、洗濯ものが干せる。
青緑色系のグレーのカーテンからは、五月のおだやかな陽の光が
差し込んでいる。
東側の6.5畳の洋間は、信也の部屋である。こたつテーブル、ノートパソコン、
フェンダーのテレキャスターというエレキギターと、ギブソンのアコースティック・
ギターの2本が、ギタースタンドに立てかけてあり、小型のアンプがある。
そしてベッドがある。金持ちになっても、それ以前と、まったく変わらなかった。
西側の6畳の部屋は、美結の部屋になっている。愛用のベッドがあり、
気分の落ち着ける、よく整理整頓されている明るい感じの部屋である。
「お兄ちゃん私が来ちゃったから、詩織ちゃんも、ここに来づらくなったかな?」
「そんなことないって。美結は、そんなことは気を使わなくていいんだから」
「わたしね、詩織ちゃんとは、とても気が合うのよ。それは安心したわ」
「詩織ちゃんは、美結の1つ年下だよね。詩織ちゃんは、好き嫌いが
はっきりしている子だから、美結とは、どうだろうかって、ちょっと心配して
いたんだけどね。でも、美結とは仲よくしているから、おれもすっかり安心だよ」
≪つづく≫
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