雲は遠くて
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37章 川口信也の妹の美結(みゆ)、やって来る (2)
37章 川口信也の妹の美結、やって来る (2)
4月19日、土曜日。夕暮れどきの6時を過ぎている。
新宿の高層ビルが、パノラマのように遠くまで見渡せる、
12階ビルの最上階のレギャン・トーキョーのメインダイニングは、
男女のカップル、夫婦、女性同士の客たちで華やいでいる。
信也や竜太郎たちが寛ぐテーブルには、ライトアップされた
ガーデンテラスとプールが隣接している。プールの水が幻想的に揺れる。
「どうも、みなさん、遅くなっちゃいまして……」
竜太郎の弟の幸平が、シャンパンを楽しみながら盛り上がる、竜太郎、
信也、詩織、麻由美、美結たちのテーブルに現れる。
仕事も順調なのだろう、若者らしい涼しげな眼差しの幸平は、
グレイの縦のストライプ(縞模様)のスーツがよく似あう。身長176センチ、
1991年3月16日生まれ、23歳。
「こう(幸)ちゃん、久しぶり!元気そうだね」
「しん(信)ちゃんも、相変わらず、お元気そうで」
すうっと、信也は立ち上がって、幸平と握手をする。信也は、
新井兄弟とは妙なくらいに気が合う。兄の竜太郎は
信也と同じ早瀬田大学の卒業生で先輩でもあった。弟の幸平は
慶応大学の出身であった。
仲のよい三人には、酒道楽とでもいえそうな
共通の趣味がある。3人とも、楽しく酒を飲みながら、気の合う同士で、
いろいろと語り合う、コミュニケーション(意思疎通)が好きなのである。
三人は、どんな話題も、音楽でも芸術でもビジネスでも、自由気ままに、
気も遣わず、心の思うまま、語り合える。
信也は、1990年2月23日生まれ、24歳、身長175センチ。
モリカワの本部の課長をしながら、モリカワの事業部の1つの
モリカワミュージックからメジャーデヴューしたロックバンド、
クラッシュ・ビートのギターリスト、ヴォーカリストをやっている。
現在、アルバムやシングル、合わせて30万枚以上売れて、
その印税の収入によって、急に金持ちになっている。
新井竜太郎は、1982年11月5日生まれ、
31歳、身長178センチ。東証1部上場の企業エタナールの、
IT システムの構築や、IT プロジェクト 戦略の指揮をとる、
IT の屈指のプロであり、エタナールの副社長である。
弟の幸平は、1991年3月16日生まれで、
22歳。身長、176センチ。エターナルの M&A事業部で、
企業の合併や買収の仕事を主にしている。
「えーと、美結さん、初めまして。新井幸平です。
お誕生日、大学のご卒業、おめでとうございます!」
そういって、幸平は、美結の美貌に、ちょっと照れて
頭をかきながら、赤や白、イエローやオレンジのバラの花束を、
差し出した。
「わぁ、きれいなバラですね、ありがとうございます、幸平さん!」
美しい姿勢にも色気を感じさせる美結は、長めの前髪に
隠れそうな澄んだ瞳を輝かせて、幸平に微笑む。
「バラって、本当、いい香りですよね」
美結はバラの花束に顔を近づけて、目を閉じる。
「こんなにきれいなバラを自分ひとりだけのものにしては
いけないわ。詩織ちゃんと麻由美ちゃん、あとで、
バラの花束は分けましょうね!」
美結は隣の椅子に、バラの花束をおいた。バラの花束が
竜太郎から贈られた真紅のバラとで、2つになった。
美結は,4月16日に21歳になったばかり。19歳の詩織
や同じ21歳の麻由美とは、2時間ほど前に会ったばかりなのに、
たちまち仲良くなって、幼な馴染みの友のようである。
「うれしいわ、美結ちゃん」と、喜ぶ 詩織。
黒のワンピースがよく似あい、胸のあたりもふっくらと女性らしい。
「わたし、バラが大好きなの」と、シャンパングラスを片手に
少し酔って陽気な麻由美。軽く柔らかなジャージー素材の
ピンクのワンピースが、胸やウエストや腰まわりのラインを
はっきりとさせていて、ふんわりとした上品な色気を感じさせる。
川口信也と交際している大沢詩織は、1994年6月3日生まれ、
早瀬田大学、文化構想学部、2年生。詩織は、モリカワ
ミュージックからメジャーデヴューしたロックバンド、グレイス・ガールズの、
ギターリスト、ヴォーカリストでもある。そのアルバムやシングルは、
40万枚近く売れて、詩織の銀行口座には、大金が振り込まれてくる。
秋川麻由美は、1993年3月6日生まれ、身長167センチ。
東京都渋谷区の、多くの客で賑わう商店街の、竹下通りの衣料品店、
Gapフラッグシップ原宿に勤めているところを、今年の1月、その店へ
買い物に寄った竜太郎に、スカウトされた。現在、麻由美はエターナルの
芸能事務所のクリエーションで、バラエティ番組などに出演するタレントとして
順調に仕事をしている。
2014年1月に、竜太郎は、エタナールの事業部の1つとして、
芸能事務所・クリエーションを設立したのであった。それは、
モリカワとのM&A(合併、買収)は不成立がきっかけとなっていた。
竜太郎は、モリカワの事業部のモリカワ・ミュージックのような、
俳優、歌手、モデルなど、ジャンルにとらわれない、マルチな
タレントの育成をする芸能事務所を始めたいと思ったのである。
タレントへの給与の支払い方法は、モリカワ・ミュージックの
システムをモデルとした。いつでも自由に、歩合制か給料制を、
個人が選べるという、働く側を本位としたシステムだった。
売れないときは、生活を保障してくれる給与制を選べて、
売れてくれば、その出演料などを、芸能事務所と決める割合で
分配するという、歩合制を選べる、そんな良心的なシステムである。
雑誌やテレビなどのマスコミやインターネットなどの口コミで、
エターナルの設立した良心的な芸能事務所として人気も広まって、
現在、クリエーションに所属するタレントやアティーストやモデルは
60名を超えていて順調である。
≪つづく≫
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