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雲は遠くて

作者:いっぺい
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30章 エタナールの兄弟、竜太郎と幸平 (3)

30章 エタナールの兄弟、竜太郎と幸平 (3)

「株式会社 モリカワのみなさま、そのほかの、
ご参加のみなさま、本日は、お集まりいただきまして、
(まこと)に ありがとうございます。
モリカワさんとの、M&A(合併)は、
成立できなかったわけですが、
モリカワさんには、この交渉(こうしょう)を、
検討させていただきながら、数多くの経営に関する
ノウハウ(know-how)を、弊社は学ばせていただきました」

スーツを きちんと 着こなしている
新井俊平(あらいしゅんぺい)社長が、そう語ると、
会場からは割れんばかりの拍手がおこった。

「弊社の沿革(えんかく)と申しますか、成り立ちは、もともと、
わたくしども家族がやっていた、小さな弁当屋(べんとうや)
始まりでした。
モリカワさんも、始まりが、洋菓子と喫茶のお店ということなので、
とても、親近感のようなものを感じているんです」

そういって、微笑(ほほえ)む、
新井俊平(あらいしゅんぺい)社長に、拍手がわく。
新井俊平は、1961年5月2日生まれ、53歳である。

「今回のM&A(合併)のご相談をさせていただきながら、
つくづく感じたことを、簡単にお話しさせていただきますと、
モリカワさんでは、経営理念が、 従業員 思いなんですよね。

モリカワさんが (かか)げる、経営理念では、
社員の幸福を追求しながら、仕事をしていこうという考え方が、
明記されているわけで、そんな理想に向かっていゆく、
勇気のある、積極性や行動に、
わたくしは、驚きとともに、いたく 感心させられているんです。

わたくしにも、若いころには、仕事は、世のため人のため、
そんな思いが強かったんですよね。
それが、(いそ)しさのせいにはできないのですが、
会社を大きくすることばかりに、集中していって、
企業家としての精神の基本といいますか、
そんな初心や正義が薄れていていたわけなんです。
モリカワさんは、そんな、初心を 思い出させてくれたんです。

モリカワさんは、有給休暇の完全消化の体制があることや、
完全週休3日制を、目標にしているところなど、
やはり、モリカワという会社の、すごさを感じています。
正直なところ、弊社では、なかなか、そこまでの、
実現は (むずか)しいのが 現実ですが。

しかし、弊社も、そういう、社員を大切にするの考え方を、
見習わないといけないなと、痛切に感じています。

まあ、会社の躍進(やくしん)は、社員の幸福と共にあることを、
モリカワさんに、あらためて教えられた感じがしています。

社員の幸福と共に、さらなる躍進と成長に向かって、
弊社も、全社をあげて取り組んでまいる所存であります。

本日の 交流パーティーは、そんな、わたくしの個人的な、
感謝をこめて、開催(かいさい)させていただきました。
ごゆっくりと、ご歓談などで、楽しいひとときを
過ごしていただければ、わたくしの歓びでございます」

エタナールの 新井 俊平(あらいしゅんぺい)社長の、
(かざ)らない 挨拶(あいさつ)に、
ダイニング会場のみんなから、熱い拍手がわいた。

モリカワ・ミュージック所属の人気 ピアニストの
松下陽斗(まつしたはると)や、ポップス・シンガーの
白石愛美(しらいしまなみ)も招待されている。

清原美樹 の父親で、清原法律事務所の清原和幸や
美樹の姉の美咲(みさき)岩田圭吾(いわたけいご)
(まね)かれている。

早瀬田(わせだ)大学のミュージック・ファン・クラブ(MFC)の
幹事長の矢野拓海(やのたくみ)や副幹事長の
谷村将也(たにむらしょうや)、会計の担当の
岡昇(おかのぼる)たちも来ている。

美樹の親友の 小川真央(おがわまお)もいた。
小川真央(おがわまお)は、アルバイト程度だが、
モリカワ・ミュージックに所属してテレビタレントの
仕事を始めている。

「では、株式会社モリカワの森川(まこと)社長に、
乾杯(かんぱい)の音頭を頂戴(ちょうだい)したいと思います。
みなさま、お手元(てもと)のグラスに、
お飲物をご用意ください。それでは森川社長、
よろしくお願いします!」

愛くるしい笑顔で、司会の 吉田知美(ともみ)が、そういう。

「わたしと、新井(あらい)社長とでは、7つくらい、
わたしのほうが (とし)をとっているんですが、
このわれわれの外食産業の業界では、
新井(あらい)社長は、大先輩なんです。
その新井(あらい)社長からは、お褒めの言葉を
頂戴(ちょだい)しまして、大変に、うれしく、
光栄に思っております。
では、みなさま、ご唱和(しょうわ) お願いいたします。
みなさまのますますのご繁栄(はんえい)
健勝(けんしょう)祈念(きねん)いたしまして、
カンパーイ!」

(ひげ)(にあ)合う 森川 誠が、満面の笑顔でそういうと、
みんなも、笑顔で、「カンパーイ!」といって、
手に持ったグラスを ()せたり、()わせた。

≪つづく≫ ーーー 30章のおわり ーーー 
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