ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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コラボ
~Cross world~
cross world:交響
墨汁が垂らされたような、濃密な闇の中で旧《冥王》現《終焉存在》である少年は、ゆっくりと目を開けた。
そこは闇。
上も下も、右も左も軒並み全てが真っ暗闇。
数秒フリーズした少年は、こわごわとでも言うように口を開いた。
「………どこ?…ここ……」
首を左右に振る感覚はあるが、いかんせん視界全てが黒一色になっているために、本当に見回しているのかすら分からなくなってくる。
見下ろすと、この暗闇の中で不自然に浮き上がっている手が見えた。まるで、自分の身体以外の全てが黒に塗り潰されているようだ。
もう一度、改めて周囲を見渡す。
やはり、黒一色の――――いや、僅かながら変化があった。
足元にわだかまる暗闇の中に、小さな光点がいくつも浮かび上がっている。さらに幾千の輝線が、足元の暗闇の遥か下を走っていく。
それらの線が重なり、連なり、繋がりあって、一つの《景色》を完成させていく。
それらの線の織り成すスペクタクルショーを呆けたように眺めていた少年は、ふと、ある事実に気が付く。
「………これ……って――――」
線が連なっていく。
そしてそれらは外殻を形作り、輪郭を浮き彫りにしていく。
あっという間にそこには、光の線だけで作られた高層ビルがあった。テレビなどで見たことのある、3DCGとかあんな感じのものを作成する時とかに画面に出ているアレだ。
輝線はそこで止まらない。
さらなる《景色》の広がりを求め、複雑かつ繊細に絡まりあっていく。
道路や標識、街路樹や店舗に民家。
水面に水滴を落としたかのように、波紋のように円状に広がっていく《景色》はあっという間と言えばあっという間だったし、永遠と言われれば永遠のようにも感じられる時間の後で、ついに完成した。
それは、《町》だったし、《国》かもしれないし、ひょっとしたら《惑星》であったかもしれない。
しかし、少年の足元に広がっているのは、どこにでもあるような町並みであった。
大型マンションやアパートに押され、民家という民家がなくなっている、どこにでもありそうな都心部の風景。
しかしそこには、《人》が存在していない。
人っ子一人いないその《町》の道路の真ん中に、少年は静かに降り立つ。
当然のように、慣性や重力の影響などは一切感じ得なかった。これはこれでかなりの居心地の悪さを感じるが、訴える相手もいないので仕方がなく少年はその感覚を無視する。
その町並みは、あまりにもどこにでもありそうだからか、見覚えがあるような見覚えがないような、そんな曖昧な感覚を持って少年を襲う。
線だけで表せられていて、その模様などがないからだろうか、と適当な事を考えつつ少年は歩く。
別に、目的地があったわけではない。
あろうはずもない。
しかし己の足は、あらかじめ目的地を知っているかのように、気ままのように見えてその実半自動的に動いていく。
ともかく、明確な目的地が―――少年は知らないが―――あるということは、少なからず少年を安堵させた。
真っ暗闇の中で彷徨う事が、人間の精神構造上どれほど危険な事かは薄々理解している。
ウサギではないが、人間は《寂しさ》で死んでしまうのだ。
歩いていると、ふと気が付く。
少年の胸の高さくらいの空中を、何かぼんやりと光るものがすれ違っていった。
それは、例えるなら光るボールだった。手のひらに乗るくらいの、小さな小さな灯火。
それがふわふわと空中を漂い、道路の端を歩いていく。
その数は一つではない。
少年が瞬きをした瞬間、辺りは光の玉が幾つも漂っていた。
その全てが、何の規則性もなく動いている。唯一の共通性といえば、それらの中で止まっているものがいないことだろうか。
一応は道路に沿い、たまにビルの中に入ってく。
その様を見、少年の脳裏に閃くものがあった。
あれは、人だ。
一つ一つが、命ある人間なのだ。
だとしたら、途端に光球達の動きの規則性が浮かび上がってくる。
道路の橋を歩いているのは、おそらく歩行者だろう。そして真ん中で、歩行者とは明らかに別格の速度を出してすっ飛んでいくのは、自動車に乗っているからだろうか。首が痛くなるほど天高く屹立している高層ビルのフロア一つ一つには、よくよく見れば仕事中と見える幾つもの光球が伺えた。
「――――あぁ」
現実世界だ、と。
少年はため息をつくように、囁くように呟いた。
どうしようもないほど、現時世界だ。
これ以上もないくらい、現実世界だ。
人が生き、過ごし、死んでいく世界。
人と人とが、繋がりあっていく世界。
少年は目を閉じ、そして開いた。
足が、止まっていた。
「よお」
「やあ」
交わされた挨拶は、それだけだった。
いつの間にか、周囲には何もない。漂う光も、線で完成された世界も、全部が無かった。
ただそこには、元いた闇があった。
いや、一つだけ違うか。
そこには、あの世界と入れ替わるように出現した、一人の少年がいた。
先ほどまで彼の模造品と、命を削りあうような戦闘をしていたというのに、しかしその顔は全く違うものに見えた。やはり、中身が全く違うからだろうか。
長めの前髪の奥。
闇をそのまま反映したような黒髪の奥の目は、どこまでも見通しているかのようなそこしれない黒と、そして透明さがあった。
黒水晶みたいだ、と思わず胸中で呟きながら、あの戦闘の中では感じ得なかった感覚が、少年の中に芽生える。
それは、既視感。
どこかで会ったような、などという曖昧な感想では済まされない、圧倒的な既知感。
思わず口を開きかけると、対する少年も全く同じタイミングで唇を開きかける。
「「………………………」」
気まずい沈黙が流れる。
耐え切れず、口を開く。
「なぁ、おれ達って、どこかで会った事ってあったっけ?」
「……………」
しばしの静寂の後、眼前の少年はゆっくりと首を左右に振る。
「いいや、会った事はないよ」
「そっか」
そう言われたら、なぜかその通りだと思えるので不思議なものだ。
胸の内を覆っていた、圧倒的な既視感や既知感も、全てが跡形も無く雲散霧消していた。
数瞬前まではあれほど気になっていた疑問が今や、もはやどうでもいいような事になっていた。普段の自分ならば、それ自体を怪しんでいたのかもしれないが、しかし今はそれこそどうでも良かった。
お前が言いたかったのは?と。
目線で訴えかけると、それにも少年は首を振った。
「それも……もういいんだ」
「………………………」
そっか、と言いつつ、少年もかける言葉をなくしていた。
何かが終わった。
奇跡のような確率で成り立っていた砂上の楼閣が、今崩れ始めている。
限界まで張り詰めた絹糸は、今にも千切れそうで悲鳴を上げている。
「バトンタッチの時間だ」
唐突に、少年が口を開く。
「あぁ」
返事を返しながら、少年も大きく首を縦に頷いた。
二人の少年は、全く同時に足を踏み出す。
交錯するように。
交換するように。
交流するように。
交互するように。
交誼するように。
交雑するように。
交語するように。
交信するように。
交角するように。
交手するように。
交差するように。
交響するように。
交際するように。
言葉を交わして交わって、両者はすれ違う。
パァァン!!
右手と右手を音高く叩き合わせ、すれ違う。
交し合う。
後書き
コラボも終わりが近くなって参りました。
どうも、作者です。
今回は一重に謎空間、謎空気、謎会話のコンセプトのもと推し進めました。後悔はしてません←
読者様の中には「はぁ?(怒)」と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、大丈夫それが正常です(笑)
しかし、この謎空間も実はAWをすこ~しだけかじったものだったりするのです。なので、AWを最新刊までご購入な読者様の中には「あれ?どっかで見たことある」程度に感じてくださったら万々歳でございます。
さて、ところかわって今日は何の日かご存じでしょうか?
そう!今日、2014年9月28日は【無邪気な暗殺者】が始まってから、ちょうど二年に当たっちゃったりするのです!
長かったなぁ、と思う反面、まだGGOも始まってない……とか思ったり思わなかったり←どっちだよ
この期に前の一周年の時に更新した話を見ていると重大な事実に気がついたのです。
それは、一周年の時に更新した話の話数が、ちょうど100だったのです!(ババーン←効果音
今日更新したこの話の話数は160…………。
つまり、何が言いたいのかというと。
落ちてる!更新速度がマイナス40%減!!
何ということでしょう。驚異の悲劇的ビフォーアフター…………
そういえば少し前に最近更新速度が遅いと言われていたし(泣)
この件でガチ目に落ち込んでいたダメな作者ではございますが、これからもこの作品をよろしくお願いいたします!
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