雲は遠くて
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11章 ミュージック・ファン・クラブ (2)
11章 ミュージック・ファン・クラブ (2)
「いや、3人に同じメールというのは、いいんじゃないの?
2人じゃ。まずいと思うけど」
と、幹事長の矢野拓海といって、また声を出してわらった。
「そういうものなんですかね」と、岡。
「男女のつきあいでも、二股かけるって、
ばれた場合、やばいじゃん。
だまされたと思えば、くやしいし、傷つくし。
でも、それが、三股、四股となれば、
ばれたときも、あきれちゃって、笑い話になっちゃうんじゃないかな?
たぶん、ユーモアになっちゃうのさ。たぶん。メールもそんなもんだよ」
矢野拓海が、真面目になって、そういうものだから、
岡と谷村将也は、目を合わせて、
「拓ちゃんのいうことは、ときどき、奇抜というか、独特というか。
まあ、拓ちゃんなら、五股くらい、経験ありそうだな」
と、谷村がいって、声を出してわらった。
「拓さんなら、七股くらいやれる気もしますけど」
と、岡もいう。
「おれの理想は、12股さ」と矢野拓海。
「また(股)、またァ。12股ですか!すげえ!
矢野さんは、なぜか、モテるからなあ」
岡がそういうと、3人でわらった。
MFCの幹事長の矢野拓海は、ピアノも
ギターもベースもドラムもヴォーカルでも、
かなりなレベル(程度)できた。
その器用さと、その独特のユーモアなどで、MFCの部員や、
OBの森川純たち、クラッシュビートのメンバーからも、
信頼があって、慕われている。
特定の彼女はいないが、ガールフレンドはいっぱいいた。
矢野拓海は、たまたま、録画して、テレビで見た、
トム・ハルスがモーツァルトを演じる、映画のアマデウスに、
頭の中を撹拌、かき回されるような、
感動と衝撃を受けたのだった。
その映画では、モーツァルトが、ロックスターのように
描かれているものだからか、
矢野拓海は、モーツァルトのことを、
ロックやポップスの偉大なパイオニア(先駆者)かとも思った。
そして、モーツァルトの曲を、ユーチューブとかで、
聴き込んでいくうちに、
流行のポップスくらいにしか興味のなかった、
矢野拓海の音楽に対する価値観は
一変していった。
モーツァルトのクラリネット協奏曲・イ長調・K.622、や
ピアノ協奏曲変ホ長調・K.271、などを、
ユーチューブで聴いた、矢野拓海は、
その自由で、自然で、愛に満ちている、
その旋律、その音楽全体に、ふかい感動をおぼえた。
・・・1756年に生まれて、1791年に35歳で、
生涯を閉じた、モーツァルト。
そんな、200年以上も前に生まれた天才が、
おれに、いろいろと語りかけてくる・・・。
矢野拓海は、モーツァルトを聴きながら、
ぼんやりと、人生や芸術について、考えてみることが好きになっていた。
・・・へたなハード・ロックを聴くより、モーツァルトって、
セクシー(色っぽい)な感じ。きっと、脳内を刺激してくるんだ。
むらむら、性欲がわきおこるというか、活力がわいてくるし。
モーツァルトの音楽は、すごい・・・。矢野拓海はそう思った。
「おだてんなって。なにもいいものは出ないよ。でもね、マジメな話。
サザン祭りってことで、純さんから、特別ライブを
やろうって、話が来たことで、サークルのみんなも、
俄然元気になって、目の輝きも違うし、よかったよ!」
そういって、MFCの幹事長の矢野拓海が、
ニコニコして岡と谷村、ふたりの肩をたたいた。
大学1年の岡は、MFCの会計を担当していた。
大学2年の谷村将也は、MFCの副幹事長だ。
公認サークルの設立には、会長としての、専任の教職員が1人と、
学生の責任者としての、幹事長、副幹事長、会計が、各1名、
必須条件であった。
「森川純さんの会社は、どんどん大きくなっていて、
ライブハウスも、全国展開してるよね。
音楽ソフトの、モリカワ・ミュージックは、
新人アーチストの育成や発掘に力を入れているしね。
すごいよね。
このごろの、この就職難、
おれの就職先なんかを考えると、
いざとなれば、頼りになりそうで、なんとなく、
おれの未来も明るい感じになってくるんだけどさ!」
谷村将也が、大きな声で、そういった。
谷村は、MFCでも、1番か2番の、声量の持ち主だった。
その声の大きさに、まわりにいる、MFC(ミュージック・ファン・クラブ)
の、女の子や男子の部員たちが、いっせいにふりむく。
≪つづく≫
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