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魔法少女リリカルなのはINNOCENT ~漆黒の剣士~

作者:月神
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第8話 「小鴉丸からの招待状?」

 T&H対ダークマテリアルズの対戦の結果だが、僅差ではあるもののT&H側が勝利を収めた。
 後半戦が始まった当初は、ディアーチェの大魔法によってターゲットの大半が殲滅されダークマテリアルズ側が有利だった。しかし、2周目に出現した巨体型と高速型のエクストラターゲットによって状況は一変することになる。
 高速型は高町が魔力弾を使って殲滅し、巨体型はアリシアがハリセンで粉砕。その姿に触発されたレヴィがゴールを目指すのやめてターゲット破壊に向かってしまい、T&H側が上位を占めることになった。結論から言えば、レヴィのミスでダークマテリアズは負けてしまったということになる。
 ――まあこんな日もあるよな。
 対戦を終えた俺達は軽食コーナーへと移動した。ディアーチェは月村のことを気に入ったらしく、現在は楽しそうに話している。その姿を見ているバニングスはどことなく面白くなさそうだ。やきもちでも焼いているのだろう。
 再度意識を会話中のふたりへ向けると、ディアーチェと目が合った。だが彼女は少し慌てたように視線を月村へと向けてしまう。
 対戦が終了してからというものディアーチェはこのような反応ばかりしている。おそらくだが自分達でも勝てると言い切ってしまったのに負けたことが原因だろう。俺が彼女の立場だった場合、恥ずかしさと何かしら言われるのではないかと不安に思い同じような反応をするに違いない。
 ただ俺としてはディアーチェに何も言うつもりはない。どんな強者でも必ず勝利を収められるわけでもないし、対戦内容は充分に観客を沸かせるものだった。彼女のチームメイトでもない俺が責めたりするのはお門違いだ。

「ばあっ!」
「ぶっ……ごほっ、ごほっ!」

 隣の方から聞こえた声に釣られて視線を向けると、むせているバニングスが視界に映った。彼女の隣には「にっしっし」と笑っているレヴィがいる。どう考えてもレヴィが脅かしたに違いない。

「な……何なのよもう。なにょはならあっちよ」

 ここであえて『なにょは』と言うあたり、この子も月村同様イイ性格をしている。まあ彼女のように笑顔の裏に何かがありそうなタイプではないので怖いといった感情は抱かないが。

「王さまは気に入った子と話すの好きだからね~、イタダキマス」

 レヴィ、それは謝るどころかバニングスの言葉に対する返事ですらないぞ。というか、対戦前に食事はしたはずなのにまた食うのか。しかもさっきと同じカレーを。
 彼女がよく食べる人物であることは知っているが、せめて違うメニューを頼めよと思ってしまう俺は間違っていないだろう。

「アレでしょ、え~と……焼きオモチ?」
「やきもちよ! って、ちっ、違うわよ。すずかに友達が増えることは良いことだし……!」

 誤魔化そうとしてるけど必死すぎて墓穴を掘ってるな。まあ普段はからかってる側みたいだし、慣れてないんだろう。
 そう思う一方で、バニングスは素直になれない子なんだろうとも思う。個人的に彼女は悪い子ではないと思うため、そのへんも可愛らしく思えてしまう。会話相手のレヴィは、カレーを食べることに夢中で全く話を聞いていないが。

「第一私は……聞きなさいよ!」
「ん?」
「何なのよもう……その制服」

 レヴィを見ていたバニングスの顔が俺のほうへと向いたが、彼女が何を考えているのか予想がついた俺は無反応を決め込むことにした。

「もしかして……ショウさんと同じ私立天央?」
「んう? そだよ……そういえば自己紹介がまだだったね。ボクはレヴィ・ラッセル、天央中学校の留学生さ!」

 元気なのは良いことではあるが、中学生なのだから小学生よりも状況に合わせた対応をしてほしいものだ。まあバニングスはレヴィの性格、容姿がフェイトと似ていることもあって同い年と思っていたのか、やばいと思った顔をしているので彼女の元気を煩わしいとは思っていないようだが。

「ちなみに王さまもおんなじガッコだよ~」
「どうもご丁寧に。私立海聖小学校4年のアリサ・バニングスです」

 お辞儀までするバニングスのほうがレヴィよりも格段に丁寧だろう。
 それにしても、小学生にしては綺麗なお辞儀だな。彼女くらいの年で礼儀作法がここまでのレベルとなると……どこかのお嬢様という考えが真っ先に浮かぶな。
 ただバニングスの言葉遣いを考えるとその考えに霧がかかってしまう。月村ならば問題なく納得ができるのだが。口にするのは失礼だろうし、今会話しているのはバニングスとレヴィだ。第3者の俺は大人しく静観しておこう。

「えーと……レヴィさん? それともレヴィ先輩って呼んだらいいですか?」
「レヴィ先輩?」

 レヴィは先輩という呼び方が気に入ったのか、瞳を輝かせながら笑顔を浮かべた。彼女はバニングスに眼前まで顔を近づけながら返事をする。

「センパイ……なんかカッコイイ。ボク、センパイがいいな!」
「はぁ……それがいいなら……」

 レヴィの反応にバニングスは呆れてしまっている。おそらく「この人……何でこんなに喜んでいるんだろう?」とでも思っているのだろう。
 先輩呼びにテンションが上がったレヴィは、強いだの凄いだの先輩だの言いながら凄まじい勢いでカレーを食していく。喋りながら食べているせいで口の周りが汚れてしまっているのは言うまでもないだろう。

「やれやれ……」

 俺はレヴィの隣へと移動し、空いているイスに腰掛けながらレヴィの顔をこちらに向けた。彼女はきょとんとした顔を浮かべたが、俺は気にせず取り出したハンカチで口の周りを拭き始める。

「食べながら喋るなよ」
「えへへ、ありがと~」

 無邪気な笑みを浮かべるレヴィの顔は何ら昔と変わらない。それだけに、体はきちんと成長しているのに精神年齢は変わっていないように思えてならないのだが。
 ふと視線を横にずらすと、レヴィ越しにだがこちらを眺めているバニングスの姿が見えた。表情を見る限り、何かを思い出しているような感じである。

「前言撤回、やっぱりレヴィって呼ばせてもらうわね」
「なんでぇ~! センパイ、センパイがいい!」

 レヴィの駄々をバニングスは華麗に聞き流している。
 この子、会ったばかりのはずなのにレヴィの扱いが上手いな。もしかして家で犬でも飼ってるのだろうか。レヴィは人間だけど犬っぽいところがあるし。

「ショウ、何でこの子はボクのことをセンパイだって呼んでくれないの!」

 それはお前に先輩だって呼べる要素がないから。
 と、言ってしまうのは簡単であるが、レヴィはこう見えて傷つきやすい子だ。ばっさり切り捨ててしまうと下手をすれば泣いてしまうかもしれない。現状で泣かれるのは困るので、俺は彼女の意識をカレーのほうへ戻すように促した。
 作戦が功を奏したのか、自棄食いを始めたのかは分からないが結果から言ってレヴィは再びカレーを食べ始めた。

「レヴィの扱い慣れてるんですね」
「まあね。こいつやディアーチェとは昔からの付き合いだから」
「そうなんですか……あれ? でもレヴィって留学生って言ってましたよね。ということは出身は海外のはずなんじゃ……」

 バニングスの疑問は最もだ。
 俺の名前はレヴィと違って漢字が用いられているし、見た目も黒髪に黒目。留学生である彼女と付き合いがある理由は気になって当然だろう。

「あぁ……俺の叔母が彼女達と知り合いだったんだよ。だから昔から何度か会う機会があってね」

 それに俺は、少し前まで海外で両親と一緒に暮らしていた。ただ生まれた頃からというわけではなく、小学生の途中からだ。
 海外で暮らすことになった理由としては、父親が叔母やグランツ博士にも負けない技術者であることに加え、母親がそれなりに有名なパティシエだからということが挙げられる。
 日本に戻ってきたのは俺だけであり、両親は今も海外で暮らしているわけだが、別に一人暮らしをしているわけではない。父さんの妹、つまり叔母と一緒だ。
 叔母は技術者としては優秀なのだが、家事といった能力は極めて低い。下手をすればそのへんの子供の方が上なのではないかと思うほどに。そのため俺は彼女のために日本に戻ることになったとも言える。まあ純粋に日本の方が暮らしやすいことと、ブレイブデュエルの件があったのも理由ではあるのだが。

「へぇ~、ショウさんって帰国子女だったんですね。日本語以外にも話せたりするんですか?」
「少しは……でも暮らした時間がここもあっちも微妙だから。それに空いた分の勉強もしてる真っ最中だから、そのうちあっちの言葉は忘れるかも」
「何ていうか……大変ですね」
「まあね……今度勉強を教えてもらえると助かるんだけどな」
「あたし小学生なんですけど……」
「さっき言ったように俺は途中から海外だったからね。小学生で習う範囲のことが抜けてたりするんだよ」
「あっ……じゃあ、あたしに分かる範囲でいいなら。その代わりブレイブデュエルのこと教えてくださいよ」
「助かるよバニングス先輩」
「そっちのほうが先輩なんですから先輩はやめてください」

 やめろと言われたものの少女の顔には笑みがある。出会ってから1番話していなかったことに加え、年が離れているために不安もあったが、どうやらそれなりには打ち解けられたらしい。
 私生活や学校生活、ブレイブデュエルといった話題で話している内に名前で呼ぶことを許可された。向こうから呼べと言っているのに呼ばないのもあれなので素直にアリサと呼ぶことにする。ただ急に変えるのは難しく、何度もバニングスと呼んだり言いかけてしまったが。

「な、なのは!」

 突然発せられた声に俺は意識を向ける。そこまで大きいものでもなかったのだが、声を出した人物がフェイトだけに気になったのだ。

「お、お願いがあるというか話が……あるんだけど」
「う、うん」
「わ……私のチームメイトになってくれないかな?」

 その言葉に内心驚いた。
 俺はT&Hのチームに入ってほしいと誘いの言葉を言われたことがある。だがそれは全てアリシアからのもので、フェイトから誘われたことは一度としてない。そんな彼女が自分から人をチームに誘うとは、高町に思うところがあったのだろうか。まあ才能がある子だとは俺も思ってはいるが。

「あっ……ブレイブデュエルは元々個人競技と5人で一組のチーム競技があって。T&H(うち)は私とアリシアしかいないから。それで……なのはと一緒になりたいんだけど…………ダメかな?」
「ダ、ダメじゃないよ。ダメじゃないけど……私、フェイトちゃんみたいに上手くないし」
「そんなことない。さっきのデュエルだって凄かった。とても2回目だとは思えないし。何より空を飛んでるなのはの姿は凄く楽しそうでとても素敵で……だから一緒にって!」

 ……おかしい。
 あの子達は女の子同士であるはずなのに、どうしてか王子様とお姫様のように見える。それにあそこから発せられる雰囲気も何というか甘く感じる。俺の感覚が狂っているのか、それともあの子達が狂わせているのか……。

「はいはいそこまで。ふたりの世界に入らないの」
「あやつらは……何だ……いつもこうなのか?」
「えーっと、会ったときからあんな感じだった気がするから……そうかも?」

 聞こえてきたディアーチェ達の会話からすると、俺の感覚は正常のようだ。
 乱入の一件の後はあの子達のことはフェイトに任せて店の手伝いをしてたけど、その間に今みたいな感じになってたんだな。今はまだからかわれるくらいで済むだろうけど、大きくなってからもあれじゃあ周囲にだって本気で誤解する人が出てくるだろうな。
 アリサ、さっきからかわれたからかイイ顔してるな。まあフェイトもああ見えて良い反応するし、高町については言うまでもない。……にしても、何でレヴィはアリサに乗っかってるんだ?

「五人一組ってことは、あとふた~り足りないんでしょ? あたしたちは誘ってくれないのかしら?」
「誘ってくんないの~?」
「そっ……そんなことないよ! 2人にもお願いしようってアリシアと話して……って、レヴィはもう別のチームに入ってるでしょ!」

 慌てふためいてるときのフェイトは元気だな。普段からあれくらい元気なら周囲から人間関係やらで心配されることも少ないだろうに。まあ個人的にはアリシアほど元気なのは困るので今のフェイトのままでいいのだが……。
 ふと思ったが、アリシアはいったいどこに行ったのだろうか。先ほどから妙に静かだとは思っていたが、周囲を見渡しても彼女の姿はない。

「なあディアーチェ」
「――っ!? きゅ、急に話しかけるでない!」
「……悪かった」
「いや、別に怒ってはおらん……それで用件は何だ?」
「あぁ、アリシア見てないかって思ってさ」
「ちびひよこか……そういえば先ほどから見かけんな」

 ディアーチェが見ていないなら一緒にいた月村も見ていないだろう。ふたりだけの世界に入っていた高町とフェイトは当然見ていないだろうし、やきもちを焼いていたアリサや食事に夢中だったレヴィも見ていないはずだ。
 いつもは必要もないのにそのへんをウロチョロしているのに、こういうときに限っていないと不安になってしまう。何かしらの問題に巻き込まれた可能性は低いだろうが可能性はゼロではないのだから。

「フェイトぉ、アリシア……アリシアがいないの。店内カメラのどこを……どこを見てもアリシアがいないのよ」

 突然現れたプレシアさんに一番驚いたのは、彼女に抱きつかれたフェイトだろう。

「もしかしたら誘拐なんじゃないかって……いいえそうだわ。こんな急に消えるなんて」
「そ、そんなまさか……」
「アリシアの可愛さだもの……充分にありえるわ。あっ、もちろんフェイトも可愛いわ。母さんなら両方お持ち帰りだけど。でもアリシアの方がコンパクトだし……」

 娘の姿が見えなくて不安なのは理解できるのだが、店内カメラでずっと娘の動向を見ているような発言や自分ならふたりとも連れ帰るという発言からして危ない人だと言わざるを得ない。
 ――何かブツブツ呟き始めたし、本格的にやばくなってきてるよな。気の弱いフェイトじゃ正気を取り戻すのは難しいだろうし、俺がやると変な方向に拗れる可能性がある。こういうときあの人がいてくれたら助かるのだが。
 そう思った直後、普段よりも格段に低い声でプレシアさんを呼ぶ声がした。その声の主は彼女の首根っこを掴むとこの場を去り始める。

「まったく……娘のことになるとこれだから」
「ちょっと待って! 待ってちょうだいリンディ。アリシアがいないの。本当に一大事なのよ!」
「それなら心配ないわよ。フェイトさん、そこに置いてある手紙を見てちょうだい。居場所が分かるわ」
「あ、はい」
「ふぇいとぉ~、お姉ちゃんのことよろしくね~」
「ほら、事務処理とか溜まってるんだからさっさと歩く!」

 リンディさん……本当に苦労してるな。
 慣れのある俺はそのように思うが、他のメンツはというと呆気に取られてしまっている。プレシアさんの娘であるフェイトは、恥ずかしそうに顔を赤くしているが。
 気を取り直した俺達は、とりあえず置かれている手紙を見ることにした。内容はというと

『いとしの王サマと剣士さんへ。T&Hの看板娘、八神堂が頂戴しました。by小鴉丸』

 といったものだった。
 八神堂の主の絵と「返してほしいなら遊びに来てね」というセリフも書いてあるのだが、アリシアが危ない目に遭っていないと分かったので遊びに行かなくても問題はないだろう。
 でも遊びに行かなかった場合、あとで確実に文句を言われるだろうな……って考えてないで耳を塞いでおかないと。

「……あのうつけぇぇぇぇぇぇっ!」


 
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