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Ball Driver

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第三十一話 スガタの姿

第三十一話



<南十字学園、シートの変更をお知らせ致します。ピッチャー品田さんに代わりまして、新道くん。4番ピッチャー新道くん。>

姿が公式戦初のマウンドに上がる。
紅緒が完投にこだわった為に、これまで出番が無かった。背が高く、野外スポーツをしてるとは思えないほど肌が白い。端正な顔立ちは、学園にファンクラブができる程だ。投球練習では、見た目の美しさと同じくらい、その投球動作も美しく、教科書通りのフォームがそのまま具現化したようである。

「良いピッチャーっぽいな」
「何でぇ、投げ方良いだけじゃ抑えられねぇぜ」

姿はいきなり、帝東クリーンアップに相対する事となる。初登板でこの相手は、正直かなりキツい。

「……これは」

リラックスムードの帝東の中で、姿の登場にピク、と表情を動かしたのは楠堂。楠堂は南十字学園硬式野球部、南十字シニアとの対戦経験があり、勿論姿も知っていた。

(まだまだ楽しめそう。)

楠堂は表情を引き締めた。






<2回の裏、帝東高校の攻撃は3番ファースト榊原くん>

筋骨隆々の榊原に対し、典型的細マッチョの姿が振りかぶる。その姿勢一つ一つが美しい。

(女形でもすりゃ、映えるんだろうな)

榊原は不敵に笑いながらタイミングをとる。
対照に、口を真一文字に結びながら姿が初球を投げ込んだ。







ズバァーーン!!
「……へっ?」

榊原は、その球の軌道、ジャガーのミットの音、全てに目が点になった。何が起こっているのか、一瞬分からなかった。

「……おい」
「マジか」

観客席も一瞬で静まり返る。
皆、口をあんぐり開けてスコアボードを見ていた。

150km/h

電光掲示板のスピードガンには、その数字が確かに表示されていた。

「おいおいおい……」
「誤作動じゃねぇの?1年でこんな速い訳が」

帝東ベンチでは、あまりに荒唐無稽な数字に驚愕というより、スピードガンの方を疑っていた。

(な〜に言ってやがる……明らかに、ウチの浦中よりも速ぇよ……)

前島監督は、そう内心で呟きつつも、信じられずに自分の頬をつねっていた。




ズバァーーン!!
「ストライクツー!」

しかし、半信半疑の帝東サイドも、2球目も150km/hを出されると、いよいよ信じざるを得なくなる。

(バカッ……何だよこれ……何でこいつが先発じゃねぇんだよ!)

唯一、打席で球を見ている榊原だけは姿の圧倒的な投球に、恐れすら抱く。姿のストレートは、マシンで見た事がある150キロよりもずっと速く見え、ストライクゾーンの端を掠めるような角度がついて、打席からでもまるで光線に見える。

ズバァーーン!
「ストライクアウトォ!」

流石に帝東の三番、いつまでも驚いておらず3球目はバットを出すが、そのバットの上を“光線”は通過していった。クールな姿が投じる、火の玉ストレートとはこれいかに。

(南十字シニア……唐突に人数不足や旅費不足で辞退するけど、何回かあった大会では無敗。そのエースが新道姿。……更にできるようになったわね。)

帝東ベンチでは、これまたクールなはずの楠堂が武者震いしていた。

(試合を支配し……流れをこちらに引き寄せる……それがマウンドに立つ者……王の力だ……)

姿は無表情の中に気迫を滾らせ、8点差のゲームで熱投を見せる。



「ストライクアウトォ!」
「ストライクアウトォ!」

三者連続三振。帝東のクリーンアップを完全に抑え込み、姿はマウンドを颯爽と降りる。

「こりゃあすげぇ隠し球だなぁ、おい!」
「なんだよ、まだサザンクロスはこんなピッチャー持ってやがったのか!」

観客席はその圧倒的ピッチングに大喝采を送る。
帝東応援団はどよめきをもって、得体の知れない一年生投手の登場に応える。

「姿先輩、参りました。すんませんっした。何で俺がリリーフじゃないんだって、一瞬でも思って、誠にすいませんっした。」
「ちょっと、権城さん、卑屈にならないで下さい」

南十字学園のブルペンでは、権城が何度も何度も土下座して、タイガーを困らせていた。







「何が150キロよ、アタシの方が、打ちにくさは上なんだから。」

帝東の飛鳥が、姿に刺激をビンビン受けてマウンドに上がる。攻撃陣は8点とって気楽でも、飛鳥にとってはまだ試合は始まったばかり。姿の投球に呆れ返っている先輩をバックに、1人燃えていた。

 
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