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歳の差なんて

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第五章


第五章

「イカ墨のスパゲティ、いいわよね」
「このピザとグラタンもね」
「あとマカロニも」
 随分と食べている二人である。
「どれもいいわよね」
「ねえ。今度は何頼む?」
 美香も奈緒と同じ笑顔で言うのだった。
「何がいいと思う?」
「フェットチーネかしら」
 考えながら述べる奈緒だった。
「ここはね」
「フェットチーネ?ああ、あれね」
 最初は何のことかわからなかったがすぐに何のことかわかり頷く美香であった。
「あのきし麺みたいなあれね」
「そう、あれ。あれも美味しいじゃない」
「ええ、確かに」
「だからあれにしましょう」
 こう美香に提案した。
「それでどうかしら」
「そうね。けれどもう一皿いけない?」
「もう一皿?」
「そう。何かいけそうじゃない?」
「そういえば確かに」
 美香の言葉に自分のお腹の具合を確かめてから答える奈緒だった。
「いけるわ、それ位なら」
「だったらこれもどう?」
「ペンネね」
 美香が指差したメニューの一品を見て言う。見ればそれはペンネアラビアータだった。
「これだとどうかしら」
「いいと思うわ」
 にこりと笑って美香に答えた。
「じゃあそれね」
「あとワインもう一本ずつね」
 ついでにワインも頼むことにしたのだった。
「それでどうかしら」
「いいわ。それにしても」
 ここでまた奈緒は苦笑いになった。
「太りそうね」
「うっ、確かに」
 言われてはじめてそのことに気付く美香だった。
「もうかなり食べてるしね」
「どかんと来るわよ」
 奈緒の今の言葉はおどしではなかった。
「多分これは」
「参ったわね。けれど最後には」
「そう、ジェラート」
 イタリア料理の最後にこれは欠かせなかった。
「それも頼まないとね」
「そうそう、それを忘れたらどうにもならないわ」
 やはりまだ食べるというのだった。
「それだけはね」
「そうなのよね。じゃあこの後どうしようかしら」
「カラオケ行く?」
 美香はカラオケに行くことを提案してきた。
「それだとどうかしら」
「カラオケね」
「歌ったらカロリー消費するじゃない」
「確かに」
 それはその通りだった。奈緒もこのことは承知している。
「だからね。ここは」
「そうね、いいわね」
 自然にその話に乗る奈緒だった。
「少しでも減らさないとね、カロリー」
「ええ、そういうことね」
 話しながらそのフェットチーネとペンネも食べてしまう。気付けばワインも空けて後はジェラートだけだった。そのジェラートを食べていると二人に声をかけてきた者がいた。
「おや、こんな所で御会いするとは」
「んっ!?」
 最初に声に反応したのは美香だった。
「誰!?」
「この声は」
 美香だけでなく奈緒も反応を見せた。しかしそれは美香のそれとは違ったものだった。
「先生ですか」
「はい、そうですよ」
 そこにいたのは温厚な顔をして黒縁眼鏡をかけた温厚な紳士だった。スーツを端整に着こなし髪は七三に分けている。まるで銀行員のような風貌だ。
「ここで御会いするとは思いませんでしたね」
「ええ、本当に」
「あれ、奈緒」
 美香はここで奈緒の反応を見て彼女に問うた。
「お知り合いなの?」
「そうよ。先生なのよ」
「先生っていうと美香の学校なのね」
「ええ、桐谷良明先生」
 ここで美香に先生の名前を教えるのだった。
「そうなのよ」
「そうなの、桐谷先生っていうのね」
「はい、そうです」
 その先生もまたにこやかに笑って美香に応えてきた。
「別府さんの学校に勤めています」
「それじゃあ」
「助教授です」
 先生の方から答えてきた。
「そうですか。助教授です」
「助教授さんですか」
「凄く立派な人よ」
 こう美香に説明する奈緒であった。
「優しくてよく気が利いてね」
「そうなの」
「論文も有名で。そっちの世界じゃ世界的に有名なのよ」
「凄い人なのね」
「あの、別府さん」
 あまりにも褒められて気恥ずかしいのか先生はここで奈緒に声をかけてきた。
「あまり私のことはですね」
「けれど本当のことじゃないですか」
 こう先生に返す奈緒であった。
「論文も。そうですよね」
「そうでしょうか」
「そうですよ」
 奈緒の方が言うのだった。
「この前だってアメリカの研究所から絶賛されてたじゃないですか」
「それはあまり記憶には」
「本当に凄い人なんだから」
 照れ臭そうな先生をよそにまた美香に説明する。
「おかげで私達凄く助かってるのよ」
「助かってるの」
「教え方だっていいし」
「へえ、そうなの」
「何でもできる人なの。人格者だしね」
「褒めても何も出ませんよ」
「そんなのいいですよ」
 やはりこう返す奈緒であった。
「別に何か欲しくて言ってるわけじゃないんですから」
「そうなんですか」
「それよりもですよ」
 奈緒の言葉は続く。
「美香、本当に紹介するわ」
「この先生をね」
「そうよ。桐谷良明先生ね」
 またこの名前を美香に教えるのだった。
「教育学の権威よ」
「教育学?ああ、そういえば」
 美香はここで奈緒がどうして大学に進んだのかを思い出した。
「あんた学校の先生になるつもりだったわね」
「ええ、そうよ」
「あんたがねえ」
 美香は奈緒の顔をまじまじと見るのだった。
 
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