IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第280話】
沈黙した一夏を道場の端へと移す。
一応、脈も取るが気絶してるらしく、呼吸に乱れを感じることもなかった。
「……時には引くのも勇気だってのに……無茶しやがって。 ……いや、やっぱりただの無謀だな」
そう呟くと、少し乱れた袴を正す楯無さんは――。
「そうね。 ……織斑君、男の意地って言ってたけど……意地でどうにかなるのなら、誰も苦労はしないわよね」
そう言って屈むと、ツンツンと一夏の頭をつつき始める楯無さん。
……と、俺自身、楯無さんがいつ頃から始めたのか気になり、直球で聞いてみる事にした。
「……楯無さんはいつから武術等を始めたのですか?」
「ん? ……ふふっ、ヒルト君はお姉さんの過去に興味があるのかな?」
悪戯っぽく微笑む楯無さんに、俺は黙って頷く。
「……物心ついた時からかな? ……勿論、小さい頃からお姉さんは最強じゃなかったわよ?」
おどけた感じで言う楯無さんに、俺も思わず笑みを溢す。
「ふふっ……、でも子供の頃からの鍛練で彼処までの技のキレがあるのでしょ? カポエラの足技とか、俺から見てもキレの良さがわかりましたから」
そう素直に言うと、笑顔を見せて口を開く。
「ありがとう、ヒルト君♪ ……ふふっ、毎日じゃないけど、今も各武術の訓練や基礎訓練は怠ってないからね、お姉さん♪ 実は、これでも努力家なのよ?」
雰囲気からはとてもそうは思えないが、少なくとも嘘はついていない。
目を見れば大体は嘘か誠かはわかる、俺でも。
「努力……か。 ……俺程度の努力じゃ、なかなか追い付けないよなぁ……」
「ん? ……ふふっ。 悩める少年の悩み、このお姉さんが聞いてあげよう~♪ なんてね」
柔らかな笑みを浮かべる楯無さんに、不思議と姉が居たらこんな感じなのかなと思ってしまった。
「……ありがとうございます。 ……昨日、クラスの子と模擬戦を行ったのですが……。 やっぱり、皆才能があるなって思いまして。 ……勿論、努力を怠って無いからこそ輝く才能だと思います」
「ふむふむ」
俺の言葉を、頷きながら聞く楯無さん。
……聞き上手なのだろうか?
「まあそこで、結構苦戦して第四戦目は負けたんです。 ……負けた事は悔しいですが、何と無く……今までやって来た訓練が本当に役にたってるのか……何ていうネガティブ思考に陥ったりしてます」
「……ふふっ。 大丈夫よ? キミは四月のあの頃から比べても遥かにレベルアップしてる。 勿論、勝負するからには負けることもある。 ……ちょっとだけナーバスになってるだけ。 自信を持ちなさい、男の子♪」
そう言って背中をバシンッ!と叩かれる――。
「ぐぉっ!? ――じ、地味に痛いのですが……?」
「あはっ♪ 悩める少年にお姉さんからの叱咤激励よ♪」
華が満開に咲き誇る様な、今日一番の笑顔を見せた楯無さん。
ヒリヒリ痛む背中を優しく擦ってくれる。
流石に強く叩きすぎたと思ったらしく、擦る手付きは優しいものだった。
「も、もう大丈夫ですから擦らなくて良いですよ? ……少し、元気も出ましたし、ありがとうございます」
「……ううん。 悩みがあったらいつでも言いなさい。 お姉さん、キミより一つ年上だからね」
そう言って軽く俺の背中を叩くと、まだ気絶している一夏をツンツンとつつき始めた。
「……なかなか起きないわね。 ……こう起きないと、織斑君の顔にマジックで悪戯書きしたくならない?」
小悪魔の様な微笑みを溢す楯無さんに、苦笑しつつ――。
「また一夏が怒りますよ。 ……というか、次はどうするんです? 生身での試合は楯無さんの圧勝でしたが、ISも楯無さんが行うので?」
「うーん……。 問題はそこなのよねぇ……」
そう言って天井を見上げ、顎に人差し指を当てる楯無さん。
「……この前、キミと模擬戦したのは機体のテスト込みだったけど。 ……一応お姉さん、国家代表って立場だから試合以外ではあまり模擬戦行えないのよ」
「えっ? ……そうだったのですか? もしかして現日本代表?」
そう聞く俺だが、現在の日本代表が誰だか知らない。
だから楯無さんがそう言ったから日本代表だと思ったのだが――。
「……ううん。 お姉さん、訳あって自由国籍権を取得してるの。 ロシアの国家代表よ。 ……まあ、そのおかげでネットでは尻軽女って書かれちゃってるけどね」
何でもないように言う楯無さんだが、謂われない誹謗中傷等がネット上で飛び交ってるのかもしれない。
「……まあ、お姉さんのそんな状況はいいとして、国家代表という立場である以上、指導はしても問題ないけど、簡単に模擬戦行えないって訳」
「……成る程」
事情はある程度わかったが、それよりも謂われなき誹謗中傷で傷ついてるかもしれないと思うと――。
「……楯無さん。 例えネットで誹謗中傷が飛び交ってても、自分は貴女の味方ですから。 少なくとも、俺や布仏姉妹は貴女の味方です」
「……ヒルト君、もしかしてお姉さんを口説いてる?」
「へ……?」
思わずすっとんきょうな声を出す俺に、楯無さんは可笑しかったのか――。
「ぷっ……、あはははっ♪ キミのそんな声が聞ける何てねっ♪ ……うふっ、さっきの顔とか……♪」
目尻に涙を浮かべる楯無さん、余程可笑しかったのか笑いを堪えるに必死だった。
「……そんなに可笑しかったのですか?」
「え、えぇ♪ ……ふぅ……、笑いを堪えるの大変よ。 ……ありがとう、ヒルト君。 キミも私に味方してくれるなら、百人力ってね♪ あはっ♪」
口元を隠すように笑みを溢すと、立ち上がった楯無さんは――。
「とりあえず、制服に着替えてくるわね? 模擬戦の事は、アリーナに着くまでに私が考えておくから。 それまでに織斑君が起きたら、着替えるように言ってね?」
「了解です」
そう言って楯無さんは更衣室へと消えていく。
未だに意識が戻らない一夏のおでこをデコピンしながら、俺は目覚めるのを待つことにした……。
後書き
駄文かも
そして筋肉痛ががが
まあ心地良い筋肉痛ですが(ぇ
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