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Chocolate Time

作者:Simpson
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第3章 揺れる想い
3-3 雪解け
  雪解け

 その夜、マユミは隣の部屋から物音がするのに気づいて目を覚ました。不審に思い、彼女はベッドを降り、そっとベランダに出て、ケンジの部屋の様子を窺った。灯りの消された暗い部屋の中で動くものがあった。暗さに目が慣れてきたマユミが見たのは、ケンジに覆い被さっているケネスの姿だった。

「う、うそっ!」マユミは口を押さえた。

 二人とも下着だけの姿だった。ケネスはケンジを押さえ込み、脚を絡ませたままで腰を上下に激しく動かしていた。よく見ると、ケンジはいつも自分との夜にそうするように、苦しそうに顔を歪めたままうめき声を上げていた。

 マユミは堪らなくなって急いで自分の部屋に戻り、ベッドに潜り込んだ。心臓の鼓動がなかなか収まらなかった。


 ベッドで寝ていたケンジは夜中、すぐ近くに人の気配を感じて目を覚ました。
「ん……な、何だ、ケニー。どうしたんだ? こんな夜中に」
「ケンジ、おまえ最近カラダ持て余してるやろ」

「え?」ケンジはケネスの言っている意味がとっさによくわからなかった。

「いつもマユミはんとエッチしとったのに、ここんとこ抱けなくてムラムラしてるんとちゃうか?」
「お、おまえ、なんでそんな事を!」
「わいが、おまえのカラダの火照りを鎮めたる」ケネスはそう言うやいなやケンジを抱きしめ、無理矢理唇を奪った。
「や、やめろ……ケニむ……んん……」ケンジは両腕ごとケネスに抱きしめられ、思うように抵抗できなかった。

 ケネスのキスは情熱的だった。口全体を覆い、舌を差し込んでケンジの舌や歯茎を舐め回した。そしてケンジの舌を強く吸って、抱いた腕の力を込めた。「んんんっ! んん……」ケンジは言葉を発する事もできず、身動きとれずに呻くばかりだった。

 観念してケンジが身体のこわばりを解き始めた事を察知したケネスは、ようやく口をケンジの口から離した。「どうや? ケンジ。悪くないやろ?」
「お、俺……」
「安心し。わいに任せるんや。一緒に気持ち良うなろうな」

 ケネスはびっくりするほどの力でケンジを抱え上げると、床に敷かれた自分の布団の上にケンジを横たえた。そしてシャツ、ハーフパンツ、と次々に脱がせていった。ケンジは、なぜかもう抵抗する気を失っていて、顔をそらし、固く目を閉じてケネスにされるがままになっていた。

 ケンジは全裸にされた。

「初めてやろ? オトコに抱かれんの」
 ケンジは目を閉じたまま頷いた。
「大丈夫や、今回は抱き合って二人で射精するだけにしとくからな」



「ケ、ケニー、お、俺の事好みじゃないって言ってたじゃないか」
「マユミはんの前で、おまえの事、好みや、抱きたいんや、なんて言えるわけあれへんやんか」
「本当のところは、どうなんだ?」
「めっちゃ好みのカラダやねん。ケンジ」
「カラダだけかよ」
「いや、おまえのそのシャイなところも、わいに見せる笑顔も、異国人にも親切にしてくれるその優しさも、好きや。初めて会った時から好きやってんで」そう言うとケネスはまたケンジの唇に自分の唇を重ねてきた。しかし、今度はまるで壊れ物を扱うように優しく、ゆっくりと味わうようにケンジの舌を、唇を吸うのだった。

 ケネスは下着一枚になった。
 ケンジのペニスは図らずも大きく、硬くなり、反り返ってびくんびくんと脈動していた。
「嬉しなあ、ケンジもわいに抱かれて興奮してくれてるんやな」
 そして彼はおもむろにケンジの股間に顔をうずめ、大きく脈動しているペニスを躊躇う事なく咥え込んだ。
「うっ! ケ、ケニー!」

「まだ、我慢するんやで」ケネスは一度口を離し、上目遣いでそう言った後、再び舌と唇でケンジのペニスを刺激し始めた。
「あ、あああ……ケニー……」ケンジの興奮が高まり始めた。「も、もうすぐっ! あ、ああああ……」
 ケネスはケンジのペニスから口を離した。ケンジは射精の直前で踏みとどまった。
「ケ、ケニー……」
 ケネスはにっこり笑った。

「ケンジ、横になり」
 ケンジを元のように仰向けに寝かせたケネスは、ベッドに挟まれた白いレディスのショーツを取り出し、ケンジに穿かせた。戸惑うケンジにケネスは顔を近づけて囁いた。
「このままフィニッシュや」
「え?」
「ケンジ、もう破裂寸前やろ?」
「おまえもじゃないのか? ケニー」

 ケネスはケンジの脚を広げ、覆い被さってきた。そしてまるで男女のセックスのように腰を動かし、ショーツ越しにペニス同士をこすりつけた。「あ、ケ、ケニー……」
「イく時は言うんやで」

 二人の怒張したペニスは下着越しに擦り合わされ、ますますその大きさと硬さを増していった。そして次第にその動きが激しくなった。ケンジもいつの間にかケネスの動きに合わせて身体を揺らし続けていた。
「イ、イくんや、ケンジ。こ、このまま、ううう……」
「ケ、ケニー、お、俺、俺っ!」
「イくで! ケンジ、ケンジっ! ぐっ!」
「俺もっ! 出るっ! あああああっ!」

 びゅるっ! びゅくびゅくびゅく!

 二人はほぼ同時に射精を始めた。小さなショーツからはみ出した二人のペニスの先端から勢いよく白いどろどろした液がお互いの重なり合った腹部に大量に発射された。ぬるぬるになりながらも二人はさらに身体を擦りつけ合い、快感の余韻を味わい続けた。



 ケネスが身体を離した後、ケンジは横になったまま目を閉じてぼんやりと考えた。べったりと塗り広げられた二人分の精液のせいで、胸と腹の辺りが冷湿布を当てたようにひんやりとした。
 自分がケネスに身体を許したのはどうしてだろう。自分もバイセクシャルなのだろうか、それとも、性的に興奮させられて突き進んでしまっただけなのだろうか……。今の自分の気持ちは? 身体の快感さえあれば、相手は誰でもいいのか……。

 ふと気がつくと、ケネスの姿がなかった。
「ケニー?」
 起き上がって部屋を見回したが、彼はいなかった。


 マユミは、ケンジとケニーの思いがけない情事を見てしまってから、しばらく動悸が収まらなかった。眠れないままベッドに横になっていると、部屋のドアが静かに開けられる音がした。
「だ、誰っ?」マユミはとっさに起き上がった。
「わいや、マユミはん」
「ケニーくん」マユミは怪訝な顔で続けた。「どうしたの? こんな夜中に」
 ケネスは後ろ手にドアを閉め、臆する事なくベッドに近づいた。

 そしていきなりマユミの肩を両手で掴んだ。

「な、何するの?!」
「マユミはん、わい、あんさんの事が好きや。めっちゃ好みやねん」
 マユミはおぞましい予感がして、身体をこわばらせた。「いや、やめて! 離して!」
 マユミが暴れ出す前に、ケネスは素早くマユミの唇を奪い、そのままベッドに押し倒した。
「ん、んんんっ!」口を塞がれたままマユミはもがいた。



 ケネスはその強い腕力でマユミを押さえ込み、パジャマ代わりの黒いTシャツの上からバストを揉みほぐし始めた。
「んんんーっ!」ケネスに塞がれた口から言葉を発する事ができず、マユミは呻くばかりだった。ケネスは両腕を背中に回し、強く抱きしめた。すると、マユミの身体から力が抜けていった。彼女は観念したようにケネスにされるがままになってしまった。

 マユミの身体が脱力した事を確認すると、ケネスは口を離し、言った。「ケンジよりも、もっと気持ち良うしてやるさかいな、マユミはん」
 マユミの気持ちは拒絶していたが、なぜかカラダは無抵抗状態だった。「そう、いい子や、そのままじっとしとるんやで」

 ケネスはまず自分自身が全裸になると、マユミの着ていたTシャツを脱がせようとした。すると彼女は異常な程に暴れた。「いやっ! これは脱がせないで! お願い!」

 ケネスは肩をすくめた。「わかった。ほな、そのままで」

 ケネスはまたマユミにキスをした。男の割には柔らかな唇だとマユミは思った。そしてその柔らかさが次第に心地よさに変わっていった。

 ケネスの指がショーツの中に忍び込んだ。「あっ!」マユミは小さく叫んだ。
「ん?」ケネスの指が止まった。「もしかしてマユミはん、生理中か?」
 マユミは震えながら黙っていた。
「ナプキンが張り付いとる。っちゅうことは今はどうにか安全期やな。」
 ケネスは口角を上げた。
 ケネスの指は再び彼女の谷間を這い、茂みの入り口の小さな粒を細かい動きで弄びながらマユミの身体を熱くしていった。
「あ、ああああ、ケ、ケン兄……」
「マユミはん、わいの名前を呼んでくれてるんか?」
「ち、違う、ケン兄……」
「ケニーって聞こえるわ。まあええ、あんさんがケン兄って言う度にわいの名を呼んでるて思う事にするわ」
 ケネスはその行為を執拗に続けた。「あ、ああああ……身体が、熱くなって……あああ……」
「そうや、そのまま快感に身を任せるんや」

 しばらくしてケネスはマユミの上半身を起こし、彼女の口に自分のペニスを近づけた。「マユミはん、咥えてくれへんか?」
「い、や……いやっ!」マユミはかぶりを振った。ケネスはTシャツ越しに二つの乳首をつまんで刺激し始めた。
「ケンジのもの、いつも咥えてるんやろ? 同じようにしたらええんや。ケン兄のものや、思てな」そして半ば無理矢理彼女の頭を押さえつけ、大きくなったペニスを口に押し込んだ。
「む、むぐっ!」マユミは苦しそうに顔を歪ませた。ケネスは構わず腰を動かし、マユミの口に自分のペニスを出し入れした。

「んっ、んっ、んっ!」マユミは観念したように目を固く閉じたままケネスのペニスに凌辱され続けた。
「だ、出してええか? マ、マユミはん!」

 マユミは驚いてとっさに両手でケネスの腰を押しやり、口を引いた。そして顔を背けた。

 びゅるっ! びゅくびゅくびゅくっ! ケネスのペニスから勢いよく精液が噴出し始め、マユミの顔や首筋に容赦なくかけられた。
「ああっ! い、いやっ!」マユミは叫んだ。しかし、いきなりケネスに再び押し倒され、無理矢理ショーツをはぎ取られた。
 ケネスはマユミの両脚を力尽くで大きく開かせた。そしてたった今射精したばかりなのにまだ硬さを失わず天を指して大きく脈動しているペニスを、彼女の谷間に宛がい、一気に中に挿入させた。
 マユミの秘部に鋭い痛みが走った。
「い、いや! いやっ!」顔と髪が精液に汚されたまま、マユミは激しくかぶりを振った。しかし、ケネスはしっかりと腰と両手でマユミの身体を押さえつけていた。そしてそのままケネスは激しく腰を動かし始めた。
「今は生理中やから安全やろ? 中に出させてもらうで」
「えっ?! い、いや、ケン兄以外はいやっ!」

 ケンジは隣の部屋から物音が聞こえるのに胸騒ぎを覚えた。彼はベッドを降りると部屋を出て、マユミの部屋の前に立った。そしてドアを少しだけ開けて、隙間から中を窺った。

「イくんや、マユミはんも。遠慮せんとイくんや!」
 ケネスの上気した声にマユミの身体は魔法に掛けられたように熱く興奮し始めた。「あ、ああああ、熱い、熱いっ!」



 ケンジはその場に凍り付き、身体の中から沸騰したものがあふれ出す気がした。妹がケネスに押さえ込まれ、犯されている! さっき自分を犯した男が、今度は自分の最も大切な人を犯している!
 ケネスとマユミが繋がり合った部分の直下のシーツは真っ赤な血に染まっていた。

「イ、イくで、マユミはん、わい、もうイく……」
「あああ、あたしも、ああああああ!」

「で、出るっ! ぐうっ!」びゅくっ! びゅるるっ! びゅく、びゅく、びゅくっ!

「ああああああ、イっちゃうっ!」マユミは悲鳴を上げて身体を痙攣させた。

 二人が一つになって絶頂を迎え、身体を震わせている姿を見て、ケンジは思わず大声を出した。
「マユっ! マユっ!」

 そして彼は愛しい妹の名を叫びながら部屋に駆け込んだ。



「マユーっ!」ケンジは自分のベッドで目を覚まし、飛び起きた。汗びっしょりになっていた。辺りは静まりかえっている。

 床に敷かれた布団でケネスが枕を抱きしめ、丸まって寝息を立てている。



「ゆ、夢?」
 その時部屋のドアが開けられた。「ケン兄……」涙声のマユミだった。
「マユ!」

 マユミは怯えたように部屋に駆け込み、ケンジに飛びついた。「ケン兄、ケン兄! あたし、あたし……」
 泣きじゃくるマユミの髪をそっと撫でながらケンジは言った。「どうしたんだ? マユ、」
「イヤな夢、みた。とってもイヤな夢」
「夢? どんな?」
「ケニーくんにレイプされる夢……」
「な、何だって?!」
「も、もう忘れてしまいたい。自分が許せない。あんな夢をみた自分が、許せない!」
「(お、同じ夢?)」

 ケンジはマユミを抱いたまま囁いた。「マユ、もしかしておまえがみた夢って……」

 話し終わったケンジの顔を驚いた顔で見つめて、マユミは言った。「ど、どうして知ってるの?」
「俺も同じ夢をみたんだ」
「ほ、ほんとに? 信じられない……でも、なんで……」

 ケンジはマユミをベッドに一人で座らせ、部屋の灯りをつけた。そして布団に丸まっているケネスの頭を足で小突いた。「こいつめ! おい、起きろ、この変質者野郎!」
 ケネスはしょぼしょぼと目を開け、呟いた。「え? 何? なんやの」
「おまえのせいで俺たち大変な目に遭ったんだからなっ!」
 ケネスは布団の上に正座して、戸惑ったようにケンジとマユミを見比べた。「わいのせいで?」
 マユミはクスッと笑って言った。「ケン兄、もういいよ。現実のケニーくんに罪はないから」

 ケンジとマユミの話を聞き終わったケネスは言った。「あんさんらが勝手にわいのキャラを創り出したんや。何やの、そのやな性格のケニー」
「本人が言うな!」
「そやけど、話としては萌えるな。なかなか」
「何他人事みたいに言ってんだ」
「他人事やんか。ほぼ」
 マユミが言った。「ケニーくんがバイセクシャルだ、って聞いてしまったから、二人でそういうシチュエーションを創り出しちゃったのかもね」
「ま、そんなところかな」

「しかし良かったやないか」
「何が」
「おまえら、仲直りできたみたいやし」

 マユミは赤くなってうつむいた。「ごめんね、ケン兄。あたしわがまま言っちゃって……」
「お、俺も……おまえに寂しい思いをさせて……ごめん」
 ケンジも顔を赤らめた

「いやあ、初めて見たわ。あるんやなー、こういうコト」
 ケンジがケネスに目を向けた。「こういうコト?」
「兄妹以上の関係の兄妹。おまけに双子。さらに、」
「さらに、な、何だよ」
「一線を越えて愛し合う関係の兄妹」ケネスはにっこり笑った。

 ケンジとマユミは真っ赤になって、互いに顔を背けた。



「わいも普通やないバイセクシャルやから、あんさんらの普通やない状況も理解できる。がんばりや。けど、よう見てたらお似合いやわ、ケンジとマユミはん」
 ケネスはベッドに並んで座った二人の肩を同時にぽんぽんと叩いた。「ほしたらわい、ここで一人で寝直すよってに、あんさんら、出て行ってくれへんか」
「え?」
「マユミはんのベッドで仲良うしたらええやん。もう夜中に起こさんといて。わいも夢の中であんさんら邪魔したりせえへんから。たぶん」
「そ、そうか、済まないな、ケニー」
「早よ出てって」ケネスは手をひらひらさせて二人をケンジの部屋から追い出した。



「いいやつだよな、ケニー」
「そうだね。ケン兄、あの人とライバルでいられて幸せだね」

 二人はマユミのベッドで抱き合っていた。ケンジはマユミの白いショーツ、マユミはケンジの黒いTシャツと少し大きめの茶色のショーツを身につけている。

「ケン兄、変態だよ」
「な、なんでだよ」
「だってあたしのショーツ穿いてるじゃん」
「これ穿いてると、おまえを抱いてる気になるんだ」
「興奮する?」
「するする」
「やっぱり変態じゃん」



 ケンジは照れたように数回瞬きをした。
「俺のTシャツ、使ってくれてるんだ」
「うん。でも……」マユミは眉尻を下げた。
「どうした?」
「ごめんね、嘘ついて」
「何が」
「体育祭で着るから貸して、なんて言って……」
 ケンジは肩を軽くすくめた。「そんなの嘘のうちに入らないよ」
「ケン兄の身に着けてたものを着たかったんだ。それが本当の理由」
 ケンジは顔をほころばせた。「俺たち同じじゃん」
「そうだね。あたしもこのシャツ着てると、ケン兄に抱かれてる気になるよ」
「そうか」ケンジはマユミの髪をくしゃくしゃにして笑った。

「そう言えば、おまえのこのショーツ、いつもと違う感じだけど……」
「これサニタリーショーツって言ってね、内側が防水加工されてるんだよ。生理中用の下着」
「へえ、そんなのがあるのか」
「それにナプキン付けてるから、ちょっとごわごわしてるでしょ」
 マユミはケンジの手を取り、自分の股間に導いた。
 ケンジは指で、そっとその部分を触ってみた。「ほんとだ。大変なんだな、女のコって」

「ケン兄、出したい? 今」
「えっ?」
「エッチしたくない?」
 ケンジは少し考えて言った。「我慢する」
 マユミは切なそうな目で兄を見つめ、言った。「じゃあ、キスして」
「うん」
 ケンジは頬を赤らめ、マユミの頬に指を這わせながらそっと唇を重ね合った。



――明くる8月15日。火曜日。

 空港のロビー。ケネスは大きなリュックを背負って、ケンジの高校水泳部のコーチと握手をしていた。
「今度は来年の夏か? 日本に来るの」
「はい。その予定です」
「楽しみにしてるからな、部員たちも待ってる」
「おおきに。感謝します」
 ケネスはにっこりと笑った。

 カナダに帰国する便を待って、彼と、短期留学していたケンジの高校の水泳部のメンバー、コーチを含む関係者、頭頂の薄くなった教育委員会の教育課長らがロビーの一画に溜まっていた。

 一通り、その見送りの人物にあいさつをして、ケネスは少し離れた所に立っていたケンジとマユミの所にやって来た。
「寂しくなっちゃう」マユミが言った。
「いろいろ親切にしてもろうて、感謝しとるわ。マユミはん」
「こっちこそ、いっぱい心配してもらっちゃって……」マユミはちらりとケンジを見た。
「一年後、待ってるから。今度はずっと俺んちにホームステイしろよ」

 ケネスは二人の肩に手を置き、顔を近づけて小声で言った。「実はな、みんなには内緒なんやけど、」
「どうした?」
「今度はな、わいら家族、永住するするために来日するんや」
「ほんとに?」マユミが大声を出した。
「ずっと日本に住むのか?」
「秘密やで、二人にしか明かさへんねんで」
「そうか! 良かった! 俺、おまえとはずっと親友でいたいと思ってた」
「わいもや」ケネスは笑った。「来年、再会したらよろしゅう頼むわな」
 ケネスはマユミに手を差し出した。マユミはそれを握り返した。



 柔らかくて温かな手だった。

「それまで、アツアツの関係でおるんやで」ケネスは二人に向かってウィンクした。


 ケネスの後ろ姿が出発口のゲートに消えた時、ケンジとマユミの背後から声がした。
「ケンジ」
 振り向いたケンジが言った。「何だ、康男に拓志。どうした?」
「おまえを呼んだが、おまえに用はない」
「何だよ、それ」ケンジは怪訝な顔をした。
「マユミちゃんに訊きたい事があるんだよ」康男が少し赤くなって言った。
「あの……」マユミは困ったような顔でその小太りの男とケンジを交互に見た。
「こいつは、」隣のケンジがむすっとした表情で言った。「俺と同じ部活の康男だ」
「よろしく」康男はぎこちない笑みを浮かべてバカ丁寧なお辞儀をした。

「で、マユに何の話だ?」
「マユミちゃんには、本当にもう彼氏がいるんすか?」
「え? あ、あの……」
「お、俺、コクろうと思ってたんすけど……」康男は真っ赤になっていた。
 マユミは慌てたように言った。「ご、ごめんなさい」
「ほら、やっぱホントの事だったんだよ」後ろに立っていた拓志が康男の肩に手を置いた。「諦めな」
「だ、誰なんすか? その彼って。お、俺たちの知ってる男っすか?」
「どうでもいいだろ、そんな事」横からケンジが無愛想に言った。「マユと彼とはラブラブなんだよ。おまえが首を突っ込む隙はない」
 マユミはケンジの顔を見て恥じらったように笑った。ケンジもその視線を受け止め、にっこりと笑った。

「ちっ! だめか、やっぱり……」
 康男は肩を落とした。
 その哀れな姿の友人の背後から拓志が言った。
「にしても、ケンジ、おまえ妹とずいぶん仲良しだな」
 ケンジは肩をすくめた。
「当たり前だ。兄妹なんだから」
 そしてマユミの肩に手を掛け、二人の男に背を向けた。「じゃ、俺たち帰るから」

 二人を軽くあしらうように、小さくひらひらと手を振りながら去って行くその後ろ姿を眺めながら、康男と拓志は囁き合った。
「あんなとこマユミちゃんの彼氏に見られたらどうするつもりなんだろうな……」
「ケンジも同じだろ。やつの彼女とか言う女があれ見たら引くだろ。あれじゃ思いっきりシスコンだぜ」



2013,7,26 脱稿(2014,6,28大改訂)

※本作品の著作権はS.Simpsonにあります。無断での転載、転用、複製を固く禁止します。
※Copyright © Secret Simpson 2012-2014 all rights reserved 
 

 
後書き
 最後までお読みいただき感謝します。
 『Chocolate Time』シリーズの第1作目である本作品には、シリーズの始まりの話のお約束である、基本設定が詰め込まれています。
 ケンジとマユミは双子の兄妹。双子なので、姉弟でもいいわけですが、二人は幼い頃から兄妹として育てられ、自分たちもそのつもりで過ごしてきました。
 アダルト小説では定番の兄と妹の熱い関係、という意味では、この第1話では『双子』というファクターが大きく意味を持つ場面は少なく、最後まで読み進めても、年齢差のある兄と妹との関係でも同じようなものなんじゃないかと思われたかも知れません。しかし、いくつかの要素は、今後のエピソードで微妙な色彩をもたらしてくれます。その要素とは、①二人が同級生であること。②二人の誕生日が同じ日であること。③二人同時に学校を卒業すること。
 これらは、双子であるが故の特異性という意味で、後のストーリー展開にかなり影響を与えます。

 ケネス・シンプソンというキャラクターも、実は今後、二人に大きく関わっていきます。彼は海棠兄妹が秘密の恋人同士だということを知ってしまった最初の人物であるだけでなく、その二人の関係を暖かく見守る親友として、シリーズの展開に極めて重要な働きをしてくれることになるのです。

 思春期の異性(の身体)への興味が、言ってみれば主人公の行動を決めている感じの第1話です。二人を結びつけているのは『愛』ではなく『衝動』と、幼い頃からの『親しみ』、それに『安心感』です。でも、二人がそうして何度も身体を重ね合っていくうちに、少しずつ『愛のようなもの』や、『慈しみに近い感情』、『癒し合える気持ち』が生まれ出てくるのも自然なことです。それは今後、シリーズが続いていくにつれて次第に深く、大きく描かれていくことになります。

 容赦なく濃厚な性描写が登場します。読者の性的興奮を促すことを無論期待しています。アダルト小説ですから。ただ、こと性的な行為についてはなおさら、個人の趣向、好み、趣味などが大きく違うものです。こんな未成年のエッチシーンに萌える人もいればそうでな人もいる、年齢差があった方がいいなあ、とか、縛ったり鞭打ったりするのがほしいなあ、とか、男同士で絡ませるのはごめんだ、とか、いろいろ思われることがあるでしょう。でもそんなさまざまな要求に細かく応えるのはどだい無理な話です。それでも作者の性癖や嗜好性と、ある程度の読者のニーズとのバランスはとらなければならない、という自分自身への足かせは、ある程度持っているつもりです。

 基本的にハッピーエンドの読み切りシリーズです。需要があれば次作を公開したいと思います。

 願わくば、お読みになった方が、少しでも幸せな気持ちになれますことを。 
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