IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第443話】
前書き
ちょい長め
雑誌編集部のある貸ビルに辿り着いた俺達五人、受付の人に今日の取材の件を伝えると直ぐに通された。
エレベーターで雑誌編集部のある階まで移動、初めての取材という事で色々肩に力が入りすぎな気もしなくもないが、取材が始まれば多分問題ないだろう、何事も経験だと思えば――。
エレベーターを降り、ドアをノックする――直ぐに中のスタッフに部屋へと通され、俺達五人は取材の為の部屋へと通された。
部屋は思っていた以上に広く、トマトを半分切り取った様なソファが並んでいた。
辺りを少し見ていると、ドアが開く。
現れた女性はツートーン・チェックのスーツ姿でタイトスカートも似合う眼鏡美人だった――多分彼女が黛先輩の姉だろう、妹である黛先輩と何処か雰囲気が似ていた。
「こんにちは。 私は雑誌『インフィニット・ストライプス』の副編集長をやっている黛渚子よ。 今日はよろしくね」
そう言って一人一人に名刺を手渡す副編集長、黛渚子さん、それの確認を終えた順から自己紹介していった。
「あ、どうも。 織斑一夏です」
軽く会釈する一夏、まあ応対としてはそこそこ悪くないだろう。
「篠ノ之箒です」
篠ノ之は簡素にそう告げるのみだった、黛さんは少し困ったような笑顔を見せたものの直ぐに表情を戻す。
「こんにちは、自分は有坂緋琉人です。 今日は一日ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いします」
「あら? 結構礼儀正しいじゃない。 ふふっ、でも少し肩に力が入りすぎかな? そんなに気負わずにね?」
微笑む黛さんは、俺の肩を小さく何度か叩いた。
気付かない間に色々力が入っていたのかもしれない、軽く一呼吸して力を抜いてみた。
「初めまして、有坂緋琉人の双子の妹の有坂美冬です。 兄共々、今日はよろしくお願いします」
「うん、よろしくね? 本当はもう一人の妹さん、有坂美春ちゃんにも取材したかったんだけど……ね」
美春に関しては色々ボロが出そうな気がするので、このままの方がいいだろう。
美冬が挨拶を終えたのを見計らい、未来が最後に挨拶をした。
「飯山未来です、これまで取材は断ってきていましたが、今回はヒルトがいるって事でお受けさせていただきました。 皆共々、今日はよろしくお願いします」
「うん。 前回のキャノンボール・ファストで下馬評覆して彼ってば善戦していたからね。 うちの編集部も、ちゃんと彼の事を取材してから載せたいもの」
そう告げる黛さんに、美冬も未来もホッと安堵の溜め息を吐いた――美冬も未来も、俺が蔑ろにされたら断るつもりだって今朝も言ってたから、これで取材はちゃんと受けてくれるだろう。
「あ、じゃあ早速インタビューから始めましょうか。 その後で写真撮影って流れで宜しくね」
言いながらペン型のICレコーダーをペン回しよろしく、一回転させると先にソファに腰掛けた。
そして、俺達も促されて各々がトマトみたいなソファに腰掛けると早速黛さんが口を開いた。
「それじゃあ、最初の質問良いかしら? 有坂くんに織斑くん、女子校に入学した感想はどうかしら?」
「いきなりそれですか……」
溜め息交じりに応える一夏、とはいえ誰しもが気になる内容だろう。
実際の所、たっくんや信二からもどんな感じかと前に訊かれたし、知る機会の少ないインフィニット・ストライプスの読者からすれば些末な質問でも訊かずにはいられないのだろう。
それを代弁して、黛さんは小さく唇を尖らせながら――。
「だってぇ、気になるじゃない。 読者アンケートでも男子二人への特集リクエストでこの質問が多いのよ? 個人個人だと織斑くんの方がリクエスト多いけどね」
淡々と最後の方はそう告げるが、リクエスト自体は昔からあったのかもしれない。
まあ一夏はブリュンヒルデの弟って事で、読者も知りたいのだろう、多分。
そう考えてると、一夏が鼻の頭を指でかきながら言葉を口にした。
「えーと……使えるトイレが少なくて困ります」
「ぷっ! あは、あははは! 妹の言ってた事、本当なのね! 異性に興味のないハーレム・キングって!」
一夏の答えが相当ツボだったのか、目尻に涙を浮かべて笑う黛さん。
因みにトイレだが、夏の間に何ヵ所かは工事されて男子用トイレも増えている、それでも女性用ばかりなのが基本なのだが、前は一ヶ所しか無かったのだから文句は言えないだろう。
一通り笑うと、目尻に浮かべた涙をハンカチで拭う黛さん。
「いいわねぇ。 そのキングダム、入国許可証ないの?」
「貴女は弾ですか!」
そんな一夏の謎のツッコミに、疑問符を浮かべる一同――当たり前だが、知らない人の名前を出されてもそう反応するのが人として普通だろう。
黛さんはそんな一夏のツッコミを華麗にスルーすると、今度は俺に同じ質問をぶつけてきた。
「じゃあ有坂くん、織斑くんと同じ質問だけど――女子校に入学した感想は?」
「んと……友達には羨ましいって言われましたが、やっぱり異空間だなっていうのが第一印象ですね。 正直妹の美冬が居なかったらと思うとゾッとしますね」
美冬が居たからこそ、今は女子とも話せる――当初は中学時代の苦い経験故に女子が苦手だったが、後にそれは中学時代の女子――美冬と未来、後一部女子を除いた女子が苦手だという事に気が付いたが。
じゃなきゃ、昨日セシリアと『した』様な事は出来ないだろう。
「成る程ね。 無難な回答だけど、男の子ならいきなり女子校に入ったらそう思うわよね?」
「えぇ、後はやはり周りが女子ばかりというのもあって色々気を使う場面が多々ありますし。 それでも、この学園に来れた事は自分にとっては良かったと思います」
「うんうん、やっぱり学園生活をエンジョイしないとね? その気持ちのまま、織斑くんのハーレム・キングダムを乗っ取っちゃいなさい♪」
「ははは……」
渇いた笑いしか出なかった、隣の美冬からジト目で睨まれたからだ――美冬と関係をもってから、結構美冬の勘の冴えに苦労する。
……去勢だけはされないようにしなければ。
「有坂くん、回答ありがとう。 さて、それじゃあ次は篠ノ之さん、貴女にはお姉さんの話を――」
黛さんの質問を遮る形で立ち上がった篠ノ之、姉の篠ノ之束の話題はタブーなのだろう――姉の篠ノ之博士には俺も嫌われてるし、腹に一撃もらった事も忘れてはいない。
咄嗟に打点をずらした為大事に至らなかったが、ずらさなければ内臓器官にダメージを負っていただろう。
立ち上がった篠ノ之を、黛さんは眼鏡を指で持ち上げ、かけ直しながら――。
「……ディナー券あげないわよ?」
「うっ!」
その一言が効き、大人しくソファにかけなおした篠ノ之、とりあえず物には弱いようだ。
「うふふ、そうこなくっちゃね。 ――それで、お姉さんから専用機をもらった感想は? 何処かの国家代表候補生になる気はないの? 日本は嫌い?」
矢継ぎ早の質問、気になった所を色々質問してみたいのだろう――が、『お姉さんから専用機をもらった感想は?』というのは正しい内容ではない。
篠ノ之は姉に専用機を『おねだり』した――だが、もしかすると報道では姉から専用機をもらった形になってるのかもしれない。
軽く息を吐くと同時に篠ノ之が答え始めた。
「紅椿は、感謝しています。 ……今のところ、代表候補生に興味はありません、各国からの勧誘は多いですが」
この勧誘の多さというのは、唯一の第四世代機という事もあり、その技術の吸収を目論んでるのが各国の本当の狙いだろう――まあ篠ノ之がその事実に気付いてるかといえば、答えはNOとしかいえない。
「日本は、まあ、生まれ育った国ですから、嫌いではないですけれど」
最後の質問に答えた篠ノ之、黛さんはうんうんと頷き――。
「オーケー、オーケー。 篠ノ之さん、答えてくれてありがとう。 じゃあ次は、有坂さんに質問ね? 当初は代表候補生候補という立場上微妙な立ち位置だったけど、改めて代表候補生になった感想は? 後、お母さんである有坂博士が開発した専用機の感想はどうかしら? それと、君のお兄さんである有坂くん、今はどう映って見える?」
篠ノ之同様の矢継ぎ早な質問に、美冬は驚くも、一つ一つ答え始めた。
「代表候補生候補って微妙な立場は、確かに当初は変に感じましたが……それも日本の政府の方が色々気を使ったみたいで。 ……代表候補生の試験の時、私……熱が39度近くあって、色々ミスが重なって代表候補生から落ちたんです。 ですが、適性や熱が出てもある程度の課題をこなせたから、埋もれさせるには勿体無いって形で『候補』という形になったのだと思います。 ……他にも、政府に言われてないだけで代表候補生『候補』は無数にいると思いますけどね」
最初の質問を丁寧に答える美冬、熱冷ましの注射を打つという手もあったが、その後二週間寝込む可能性があったためそれは止め、代表候補生のテストが終わり次第学校の校長先生に送られて帰って来たんだよな。
その後は俺も寝ずに看病して、美冬が食べたい果物何かを買いに走り回ったよな……。
懐かしい記憶が蘇る、その間も美冬は質問に答え続けた。
「専用機は……村雲は、お母さんが最初に作ったISって事で大事にしたいです、技術等はアメリカの通称F.L.A.G.と呼ばれる財団等も使われてますから、日米共同開発といえばそうかも? 何て、向こうの財団の総帥、ナイトさんはあまり日米共同開発って事を気にしてませんが」
あまり俺も詳しくはないが、分子結合殻を纏ったドリームカーの開発が云々って訊いた気がしなくもない。
まああまり考えても仕方ないため、次の美冬の質問の答えに耳を傾けた。
「お兄ちゃんの事は昔から変わらないですよ? 対比させられて、お兄ちゃんもしかしたら美冬の事嫌いなのかなって昔は悩みましたけど、今は兄妹仲も良いですから♪」
そう言って腕をとる美冬、柔らかな乳房に挟まれた腕に、前にパイズリしてもらった時の事を思い出してしまった。
「ふふっ、兄妹仲が良いのね♪ ……じゃあ次、飯山さんに質問。 途中転入だけど、やっぱり有坂くんを追い掛けて学園に来たのかしら?」
「えっ!? ……は、はぃ……。 ど、動機としては不純ですけど、ずっと小さい頃からヒルトと同じ学校で卒業したいですから」
確かに端から訊けば不純な動機だろう、だが俺としては凄く嬉しく思う。
未来の事、ずっと好きだったし、そんな幼なじみがわざわざ俺を追い掛けて学園に来たってのは嬉しいものだ。
未来を見ると、質問の答えが恥ずかしかったのか手で顔を扇いでいた。
「成る程、じゃあ……適性に関してだけど、最初から適性Sなら政府から入学を薦められたんじゃないかしら?」
「は、はい。 結構連日、政府の偉い人からの電話とかもいっぱいあって薦められました。 途中転入で政府以外にも一ヶ月間いた学校にもご迷惑掛けましたが、気持ちよく向こうの生徒の人も教師も転入薦めてくれたので……」
思い出したのか、僅かに瞳が潤む未来。
一ヶ月とはいえ、友達もいただろうし……ってか俺もIS触らなければそこの学校に行ってたんだが。
「質問に答えてくれてありがとう。 じゃあ最後に皆に質問。 これも結構質問リクエストで訊かれてて、貴方達五人の中で誰が強いのかしら?」
その質問に、俺は真っ先に思い浮かべたのが未来だ、次点で美冬、後はどっこいどっこいの為そう答えようとした矢先――。
「私です!」
そう高らかに言ったのは篠ノ之だった、俺も美冬も未来も、目を白黒させ、何度か瞬きしていると黛さんが確認の為に俺達に訊いてきた。
「そうなの?」
「……違います。 勝率ならこの中でのダントツは未来、次点で美冬ですので篠ノ之が【何故】、自分が強いと言い切れたのかがよくわかりません」
「な、何を言うか! この間の模擬戦、私がこの二人に勝利したではないか!」
そう告げる篠ノ之、確かあれは絢爛舞踏を何度も何度も使って勝ったごり押しチート能力のお陰かと思う。
未来に視線を送ると、小さく頭を振った、変なやり取りをするよりかはこのまま篠ノ之が一番強いって事にして争い事を回避しようと思ったのだろう。
美冬も同様で、諦めた様に頷いた。
「……今篠ノ之が言った内容は事実ですから、現時点では篠ノ之が一番強いのかもしれません」
含みのある言い方をする俺だが、やっと認めたと篠ノ之は思ったらしく満足げにソファに座り直した。
「あらあら、じゃあ前までは飯山さんが一番だけど、現在はパワーバランスが崩れて篠ノ之さんが強いって訳ね? ――あー、でも君たち二人、ちゃんと女の子くらい守れないと、ヒーローになれないわよ?」
茶目っ気溢れる笑顔でそう言う黛さんに、一夏は視線を逸らしながら言葉を口にした。
「別にヒーローじゃなくていいですよ……。 俺は単なる一兵卒で」
昔、一兵卒で良いとか言っていた政治家が居たが、お前のような一兵卒がいるかって突っ込んだ気がする。
因にだが、一兵卒程度にISを宛がわれる事はないはずだ、貴重な機体を一兵卒に任せるのは無駄な浪費に他ならない。
「お、いいわね、その台詞。 映画でも撮りましょうよ」
一夏の言葉にのった黛さんは、指で輪を作るとそれをカメラに見立ててにっこりと微笑んだ。
生き生きとしたその表情に、この人はこういった仕事が天職なのだろうというイメージを抱く。
「それじゃあ織斑隊長、戦勝での心得をどうぞ」
「え、えーと……」
何故か篠ノ之や俺、美冬に未来と一度チラッと見てきた一夏、そして発した内容は――。
「仲間は俺が守る!」
「はぁっ?」
思わず出た俺の言葉に、黛さんも目をぱちくりさせていた。
「……一夏、何が【仲間は俺が守る!】だよ。 【正しくは仲間が俺を守る!】だろ? 正直、一夏の今の技術じゃ、壁にすらならないんだし」
「……ひでぇ」
一夏はそう告げるが、事実は事実、訂正が出来るならやる、さっきの篠ノ之のは訂正すれば口論になるから諦めたが。
軽く篠ノ之を見ると、さっきの一夏の言葉に酔っていたのか、僅かに頬に赤みが射していた。
「ふふっ、じゃあ有坂くんの戦勝での心得は?」
「え? ……とりあえず、生きる事、かな……?」
心得と言われても殆ど思い付かず、脳裏に過った生きるという言葉を選んだ。
実際の戦勝では、銃弾が横を抜けていけば何だかんだと考えるのが馬鹿らしくなるって親父が言ってた気がする。
「有坂くんって、言葉のチョイスが無難よね? もっとカッコいい台詞、言ってもいいのよ?」
「それは遠慮します、カッコいい台詞何て、この女尊男卑な世界で言ったら失笑ものですし」
「……ひでぇ」
一夏をチラッと見てからそう言うと、いつもの様にひでぇと呟く一夏。
その後もインタビューは続き、好きな女性のタイプやら男性のタイプ(これは女の子向けの質問)、これからの大会への意気込み等を答えてインタビューは終了した。
「それじゃあ次は撮影だから地下のスタジオに行きましょうか。 更衣室があるから、そこで着替えてね。 そのあとメイクをして、それから撮影よ」
流れを簡素に説明する黛さんに、一夏は――。
「え? 着替えるんですか?」
「うん。 うちのスポンサーの服を、君たちに着せないと私の首が飛ぶもの」
当たり前だがモデルという仕事は基本的に服が主役だと思う、中身の人間に対しては、話題性があるからこそのチョイスだろう、あの【織斑一夏が着た服】と銘打てば売れるだろうし。
とりあえず首が飛ぶといってから自身の首を、手首で切る仕草を見せた黛さん。
流石に笑える状況ではないので、大人しく黙っていると黛さんは――。
「それじゃあ、地下のスタジオに行きましょう」
ニコッと微笑む黛さんに促され、俺達五人は貸ビルの地下へと案内された。
後書き
モッピー知ってるよ。
一夏は私を守るって事。
_/⌒⌒ヽ_
/ヘ>―<ヘヽ
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/ | | //ヽ ヘ
| ハ | /イ | |
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