IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第440話】
前書き
また遅れた
自室へと戻った俺、まだ太陽は少し斜めに傾いたぐらいで時刻は一時半を回った辺り、普段なら訓練の一つでもと思うのだが、生憎とそんな気分ではない。
一夏の無神経な一言により、彼女自身堪えきれずに平手打ちをしたのだろう、一夏にはもう少し人への配慮を心掛けてもらいたいものである。
――とはいえ、ちゃんと自己紹介したの【だけ】は評価しても良いだろう、まあその評価も落ちたが。
そんな事を考え、椅子に腰掛けたその時だった、室内に響き渡るノックの音、出向く前に一言その人物に声をかける。
「はいはーい、どちら様ですか?」
そう声をかけると、ワンテンポ遅れて聞き慣れた声が聞こえてきた。
「私よ」
これだけだと、新手のオレオレ詐欺な気がしなくもない、だか声の主はこの学園の長である生徒会長更識楯無その人である。
とりあえずドアを開くと、いつもの制服姿で俺を見上げる形で見つめていた、まあ学園で一番身長の高いのは俺だから仕方ない。
そんな事を考えてると、僅かに楯無さんは頬を膨らませながら言葉を口にした。
「ヒルトくん、今すこーし失礼な事を考えたでしょう?」
ズバリと言う楯無さんに、軽く狼狽する俺、その様子にまた頬を膨らませるが、軽く息を吐くと――。
「んー、まあいいわ。 私も今回、キミにお願いしてる立場だし、ヒルトくんと私の仲だもんね?」
クスッと笑みを溢す、そして後ろ手に持っていた箱を俺の目の前に出して見せた。
「ヒルトくん、シュークリーム買ってきたの。 一緒に食べましょう?」
「了解です、じゃあ部屋へどうぞ」
「うむ、苦しゅうない苦しゅうない」
茶目っ気たっぷりにそう言い、部屋へと入るとさっき俺か座っていた椅子に腰掛けた、ふわりと軽くスカートが舞い、少しドキッとすると悪戯っぽく微笑みを返してくる。
「ウフフ、えっち」
「うぐっ……。 なら皆、短いスカートを止めればいいんだっ」
「アハハッ♪ 嘘嘘っ♪ 男の子だもんね、どうしても気になっちゃうものよ」
言いながら座り直す楯無さん、俺はもう一つの椅子に腰掛けると直ぐ様楯無さんが口を開いた。
「……簪ちゃんには会った?」
「え? 前にも行きましたし、さっきも会いましたよ? ……ただ、一夏が不用意な事を言ったせいで怒りましたが」
「え? 詳しく訊かせてもらえるかしら?」
そう言うので、特に隠さず事の発端を告げる、少し表情に変化が見え、一通りの説明を終えると――。
「……そうなの、織斑くんも少しあの鳥頭をどうにかして欲しいわね……」
ため息がこぼれ落ちる楯無さん、そして――。
「でも、あの子がそういう非生産的な行動にはエネルギー使いたがらない筈なんだけど……。 ……まあでも、織斑くんの不用意な専用機発言が起因よね、どう見ても……。 あの子、自分の機体は一人で組み上げるつもりだし、私もそうしてミステリアス・レイディを組み上げたから。 ……気にしなくていいのに、ね……」
その瞳に寂しさの色が見え隠れする、とはいえ更識さんの成長を止めたのは楯無さん自身だから今回に関しては擁護は出来ない、厳しいかもしれないが、楯無さんが何でもするから更識さんは姉が疎ましくなったのかもしれない。
……まだ憶測の範囲だから言及は出来ないが、とりあえず話題を変えるため楯無さんにミステリアス・レイディを一人で組み上げた事を訊いてみる事にした。
「今少しちらっと言いましたが、楯無さん。 あの機体は楯無さんが自分だけで組んだのですか?」
「え? うん。 まあ、元々が七割方組みあがってたから私でも出来たんだけど」
何気無くそう言うものの、七割方出来上がってたとはいえ機体を組み上げたり出来るという辺り、やはり天才という分類に――否、未来同様の鬼才型なのかもしれない。
世の中天才って呼ばれる事にステータスを感じる人がいるが、天才何てものは鬼才から比べればただの凡才みたいな物だろう、改めて楯無さんの凄さを実感していると更に言葉を続けた。
「でも実を言うとね、私は結構薫子ちゃんと虚ちゃんの二人からも意見をもらってたのよ」
「ん? ……もしかして、お二人とも二年からある整備科なんですか?」
俺の言葉に力強く頷くと、そのまま答える楯無さん。
「えぇ、虚ちゃんはヒルトくんも知っての通りの三年生主席、薫子ちゃんは新聞部のエース兼整備科のエースなのよ」
何度か瞬きをする、瞳が渇いてた訳ではないが、新聞部でいつもおちゃらけたイメージしかない黛先輩が整備科とは思わなかった。
「薫子ちゃん、本当はパイロットに行きたかったんだけどね? でも、そっちの才能は開花しなくて一年生の後半辺りから整備の勉強をしたのよ。 もちろん、IS操縦者としての経験も活かされてるからこそ、二年の整備科エースになれたのよ? ラーメン屋で修行してそっちの道では成功しなくても、もしかしたら蕎麦やうどん屋とかで成功するかもしれない、経験ってものは何処で活かされるかわからないものなのよ。 ふふっ、まあラーメン屋の件は分かりやすく言っただけだから気にしないでね?」
言ってる意味はわかる、操縦者として腕は奮わなかったがその時に気付いた細かな点等が整備で活かされてるのだろう、だからこそ新聞部でも着眼点が活かされてるのかも――まあ噂では、一夏の生写真がネガ付きで新聞部オークション二万でという話も訊いたりしてるからわからんが。
「まあそんなわけで、厳密に言うと、あの二人の意見と力があったからこそ組み上げる事が出来たの。 ヒルトくん、一度君も整備の事、誰かに訊いてみると良いわよ? ほら、本音ちゃんも整備科いくつもりだし、一年生でも他にも既に整備科に転向するつもりの子もいるらしいから」
「そうですね、時間があれば訊いてみます」
「うん、素直なヒルトくんに……はい、ご褒美♪」
そう言って口元にシュークリームを差し出す楯無さん、甘い香りに、お腹の音が鳴るとクスクスと微笑んだ。
「ほら、あーんして? おねーさんが特別に食べさせてあげるから」
「やっ、別にいいですよ。 ひ、一人で食べれますし」
そう言って断るものの、何故か瞳をウルウルと潤ませる楯無さん。
「うぅ……ヒルトくん、何だかおねーさんにだけ冷たくない? 他の子のなら食べるのに、おねーさんだけ断るなんて……」
「あ、いや……は、恥ずかしいんですよ、食べさせるのも、食べさせられるのも!」
事実、これを平然とやってのける一夏の脳みそがおかしいのではと思う。
今は人目が無いものの、だからといって恥ずかしさはあるのだから可能なら遠慮したいのだが――楯無さんの潤ませた眼差しを見てると、断るのも悪いと思ってしまい。
「ひ、一口だけ、ですよ」
「ウフフ♪ おねーさん、ヒルトくんのそういう所好きよ?」
「はいはい、じ、じゃあ口を開けますから……」
好きという言葉を軽く流しつつ、口を開く。
楯無さんはシュークリームを一口サイズにちぎると、それを俺の口元へと運ぶ――指先が僅かに唇に触れ、ドキッとする間もなくシュークリームが口内へと滑り込んだ。
一口サイズとはいえ、甘いクリームの味が口内に拡がるのを感じ、満足に咀嚼をする俺。
その俺が食べる姿を満足そうに見つめ、頷く楯無さん、端から見ればカップルかもしれないが、残念ながら立場的には俺は部下みたいなもので、彼女からは恋愛対象には見られてないだろう――強いてあげるなら、手のかかる弟に見えてるはずだ。
――と、楯無さんが一口シュークリームを頬張りながら。
「ヒルトくん、簪ちゃんの事よろしくね? あ、後、あの子もそうだけど、女の子は皆押しに弱いから、押せ押せで行けば簡単に落城するわよ」
多分嘘だ、押せ押せで簡単にいけば世の中苦労しない。
シチュエーションをイメージしても、多分徒労に終わるだけなので俺はイメージしないようにした、というか押せ押せで女の子に執拗に迫っても下手すれば逆効果の可能性もなきにしもあらずって所だろう、これが。
「はいはい、そんな簡単に女の子が落城したら、女尊男卑じゃないじゃないですか」
「アハハッ♪ それもそうよね♪」
僅かに目尻に涙を浮かべて笑う楯無さん、前に思い悩んでいた頃よりも、やはり笑顔でいる方が楯無さんらしいかもしれない。
「まあその、ね? 色々前途多難かもしれないけど、ヒルトくんは簪ちゃんと組んであげてね?」
「いや、改めてお願いされなくてもこれは自分の意思で決めたことですから。 他の子達はショック受けてましたが、まあ……納得してくれましたし」
僅かに言葉が濁る俺だが、楯無さんはその事には触れずに俺の頭を撫でる。
「ヒルトくん、ありがとう。 ……あ、あと、ついでだし、機体の開発も手伝ってあげてね?」
「了解、とはいえ……自分は手引き書片手に読まなきゃまともに整備も出来ない程のド素人ですがね」
卑下するというよりも事実、実際読んでもわからない所は多々ある、確実に何度も何度も整備をしないと出来ないだろう……母さんを含め、多分他の子もかなりの勉強をしているはずだし。
「うふっ、おねーさんで良ければ個人レッスンしてあ・げ・る♪」
言いながら立ち上がる楯無さん、近寄ると俺に顔を近づけてくる。
ドキッとする間もなく耳に息を吹き掛けられる、ゾクゾクとする中、驚き、俺は椅子から立ち上がってしまった。
「アハハッ♪ ヒルトくんってば、反応がいちいち可愛いんだから♪」
「か、からかわないでくださいよ、楯無さん」
「うふふ、じゃあそろそろおねーさんは帰るわね? まだ書類も少し残ってるし、じゃあね、ヒルトくん♪」
言ってから軽い足取りでそのまま部屋を後にする楯無さん、机にはシュークリームだけが残っていて、勿体無いからとりあえずそれを全部食べ尽くす。
シュークリームの甘さが口内全体に拡がる――疲れた時などはこういうのが一番なんだろう――と、携帯のメールが着信する音が鳴り響く。
見ると相手はセシリアからで、今日のお風呂では水着を着用してからお風呂に入ってとのこと――今更ながら思い出されるセシリアの肢体、豊満な乳房やくびれ、豊かなお尻等を公然的に触れると思うと制服のズボン越しに欲望の塊が突起、テントを張った。
――節操無さすぎだな、俺……。
そう思いつつも、夜の大浴場が待ち遠しく、僅かにソワソワしながら何度も何度も俺は室内の時計を眺めるのだった。
後書き
とりあえず次回がお風呂、その後の話は取材かな
尻が筋肉痛という謎の展開
とはいえ、佐川みたいに全身筋肉痛になって動けないよりは楽だった、時給も千円だし( ´艸`)
ピッキングだけなら楽しいって思えるかも( ´艸`)
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