IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第七十三話】
あれから少し時が流れ、六月の最終週。
IS学園は月曜日から学年別トーナメント一色に変わった。
その慌ただしさは俺の想像の遥か上を行き、今こうして第一回戦が始まる直前まで、俺も一夏も――というか、全生徒が雑務や会場の整理及び来賓の誘導を行っていた。
――そして、それらから解放された生徒たちの順から急いで各アリーナの更衣室へと走る。
男子生徒である俺達三人は、使うには広すぎる更衣室を三人で占拠している。
――正直、申し訳ないとも思うのだがシャルルの性別的に見れば一夏にバレないので、これで良かったのかもと思わなくもない。
因みに一夏は、俺の隣に居てる。
今日も今日とてシャルルと一緒に着替えようと迫っていたので、無理矢理引き離して俺と着替えることにした――じゃないと、尋常じゃない迫り方だからマジで色々ホモホモしく見えてくる。
――幾らなんでも、ここまで一緒に着替えたがるのは異常とも思える。
――と、そんな隣の一夏が――。
「しかし、凄いなこりゃ……」
――と、映し出される更衣室のモニターから観客席の様子を見ていた一夏。
「そりゃそうだろ?何せ唯一のISを教える学園なんだし――っても、ある程度のIS教育は各国各々が行ってるが。――話を戻すとして、今年の目玉である俺達三人の男子生徒への注目もあるだろうしな、これが」
そう告げ、俺もモニターを見るとそこには各国政府関係者、IS関連の研究所員及び企業のエージェントやスカウトマン、その他諸々の顔触れが一堂にかいしていた。
――そこへ、着替えを終えたシャルルがやって来た。
「三年にはスカウト、二年には一年間の成果の確認にそれぞれ人が来ているからね。一年には今のところあまり関係ないみたいだけど、それでもトーナメント上位入賞者には早速チェックが入ると思うよ」
「ふーん、ご苦労な事だ」
「……おいおい、あの人達も仕事で来てるんだからそんななげやり的な発言はどうかと思うぞ?」
「いや、あんまり興味ないし」
「……………」
――俺としては遠い国から良く来たなって思うのだが、俺がおかしいのだろうか?
こういう大会で各生徒達のチェックが後々に繋がるのだし、自身の給料にも響くと思うのだが――。
「……お前さ、もしかしてラウラとの対戦だけが気になるのか?」
「ん?まあな」
「……対戦相手はラウラだけじゃないぞ?それに直前でレギュレーションが少し変わったんだし」
――そう、今年は専用機持ちが圧倒的に多いため、直前にレギュレーションが少し変わった――とは言うものの、専用機持ちの機体性能をラファール・リヴァイヴや打鉄ぐらいまでにリミットをかけるだけなのだが――。
装備には制限がかかってないからまだ多少は専用機持ちが有利――となるのは実はシャルルのみで、他の量産機にも生徒の申告により、追加装備が与えられるそうだ。
そして何と、パッケージ装備も許可されるらしく、一部女子生徒はそちらを選択しているとか――。
因みに俺と一夏の優位性があるのはバリア無効化攻撃が可能な雪片と天狼、後は単一仕様と第三世代装備のみだ。
――まあ一夏の場合、対人戦で零落白夜はやめてほしいが、主にいつか大怪我させそうで、雪片の無効化攻撃だけでいけると思うし。
――話は変わるが、セシリアと鈴音は専用機でのトーナメント参加の許可は下りなかった。
量産機での参加は可能だったのだが、代表候補生として、専用機持ちとしてのプライドなのか、出場を辞退をした。
――まあ専用機のトーナメントにおける稼働データとかは貴重だと思うし、国としては代表候補生のデータよりもISの稼働データを注視するのは必然だろう。
――俺に言わせれば、それを運用する彼女達の戦闘データを重視する方がとも思うがね、これが。
――しかし、トーナメントに出場出来ない=結果を出せないというのはセシリアや鈴音の立場を悪くする要因になるかもしれない。
「……セシリア、鈴音も出たかっただろうな…」
……因みに美冬は問題なく出られる、怪我も他の二人より治りが早かった為、直ぐ様参加登録した。
未来ももちろん参加するのだが、美冬、未来共にランダム抽選でパートナーを決めるとか――。
何でも、美冬と未来曰く、その方がランダム要素が強く、新たに誰かと仲良くなれるかもしれないからだとか――。
まあ、二人が選んだんだから俺はそれで構わないがな、これが。
それはそうと、俺は無意識に左手を握りしめていたらしく、手が真っ赤になっていたのに気づいたシャルルがそっと手を重ねてきた。
そして、そのままほぐすように――。
「ヒルト、感情的にならないでね。彼女は、恐らく一年の中では現時点での最強だと思う」
「機体込みでだろ?ISの扱いに関しては未来の方が一枚上手だったと思うが」
――そう、実際未来は強い。
瞬時加速も使いこなし、器用にも後方への瞬時加速等の離れ業を普通に使ってその動きに俺は翻弄された。
未来曰く、基本的な瞬時加速が出来るならその応用した瞬時加速もそれほど難しくないとか。
――瞬時加速にも、色々な種類があるようなのだが…使えない俺には知識として覚える以外に有効な手はないのが状況だ。
「……ヒルトっていつも飯山さんの話をするよね?」
「ん?そりゃ幼なじみだからな、普通に凄いと思うし――」
「ふーん……」
と、不意にシャルルに腕を指でつねられ――。
「いてぇっ!?」
「お、おいヒルト、どうしたんだよ?」
いきなり声を上げたからか、一夏がモニターから視線を俺の方へと移した。
「あ、何でもないぞ?はははっ…」
「そうか、まあ大丈夫なら心配なさそうだな」
言い終わるや、またモニターへと視線を移した一夏。
そして俺はシャルルの方へと顔だけを向けると明後日の方向へ向いていた。
「……なんだよシャルル、いきなり腕をつねってさ」
「……別に、ヒルトが飯山さんの話ばかりするからだよ…」
「……未来の事、嫌いなのかシャルル?」
そう言うや、直ぐ様シャルルは顔を横に振って否定し、身体事俺の方へと向き直すと――。
「そ、そうじゃないよ…っ。だって…ヒルトっていつも飯山さんの話するし――も、もしかしてヒルトって飯山さんの事……好き…なの…?」
――と、そう告げたシャルルの表情は何故か不安そうな表情だった。
「うーん…。好きってどういう好きなのかで意味が変わるが、シャルルが言ってるのは女の子として未来の事が好きなのかって聞いてるのか?それか幼なじみとして?」
「……お、女の子としての飯山さん…」
「……うーん…幼なじみって距離が近いからな、近すぎてわからない事もあるって事で答えにはならないか?」
「……ならないけど…、でも……それならまだ僕にもチャンスがあるよね…」
――と、ぼそぼそした小声でほぼ聞き取れなかったのだがチャンスという言葉だけは聞こえたので――。
「チャンス?」
「ふぇっ!?な、何でもないよっ!!」
――と慌てふためくシャルル。
一夏もその様子が気になったのか、シャルルに視線を移していた。
「そういや一夏、結局お前さ、誰と組んだんだ?」
「え?――箒だよ、箒もパートナーが決まって無かったからそれなら一緒に組もうぜって誘ったんだ」
「篠ノ之と組んだのか?――あいつ、喜んでただろ?」
「ん?よくわかったなヒルト。あいついつもは難しい顔してたりしてるけど、たまにああいう表情するんだよな。何でだろうな?」
「さあ?そこまではわからんが、昔馴染みと一緒に組むのが篠ノ之にとっては良かったんじゃないかと思う」
――理由は何となくというか、ほぼ確定してるだろう。
篠ノ之が一夏に好意を抱いてるというのが。
――俺には、こいつの良さが全くわからないが、色々あったんだろう――変な名前で苛められてたのを助けたとか。
――てか親も何で篠ノ之に箒ってつけたんだろうか?
もっと雅とか凛とかあっただろうに――。
――って言ったら俺も緋琉人って変な名だが。
等と考えていると、シャルルの口が開き――。
「ヒルト、一夏、そろそろ対戦表が決まるはずだよ」
理由はわからないが、突然のペア対戦への変更がなされてから、従来まで使用していたシステムが正しく機能しなかったらしい――てか予め、そういうプログラムの構築は済ませてないと。
――何にせよ、本当なら前日には出来ているはずの対戦表も、今朝から生徒たちが手作りの抽選くじで作っていた。
俺と一夏は主に力仕事メインでこき使われ、シャルルは事務系の方に回されていたが。
「一年の部、Aブロック一回戦一組目なんて運がいいよな」
――と、唐突に一夏が言ったのをきょとんとしながら俺は聞いてるとシャルルが――。
「え?どうして?」
――と、至極真っ当な疑問を一夏に言った。
「待ち時間に色々考えなくても済むだろ。こういうのは勢いが肝心だ。出たとこ勝負、思い切りの良さで行きたいだろ」
「……俺としては、最初は避けたいがな。てか出たとこ勝負とかやめた方がいいぞ?それでいい結果になったやつ見たことないし」
「そうだね。僕も一番最初は嫌かな?――手の内を晒す事になるのは対策を練られちゃうかもしれないし」
――と、シャルルらしい考え方だと俺は納得する。
――シャルルとはあれから普通に接している、シャルル自身も同じように接してくれてるのはありがたいが、たまに二人一緒に思い出すのか変な空気になってしまうが、それでも、シャルルは良く俺の気持ちや考えを汲んで気を利かせてくれる。
「あ、対戦相手が決まったみたいだよ、ヒルト、一夏」
一度考えるのを止め、モニターへと視線を移してそこに表示された文字を見つめた――。
「「――え?」」
「……成る程、誰が決めたか運命ってのは残酷だな、一夏」
――表示された第一回戦Aブロック一組目――
有坂緋琉人&シャルル・デュノア対織斑一夏&篠ノ之箒。
――そう、いきなりの初戦の相手は一夏&篠ノ之ペアだった。
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