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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第537話】

 
前書き
早めな更新 

 
 真っ白に染まった視界は直ぐにクリアに戻る――ぽっかりと開いた空間には陽の光が降り注いでいた。


「……未来? 皆……?」


 周囲を見渡すも、誰も居ない――と、チャネル通信が開いた。


『ヒルト? よかった……』

『美春? 皆は何処に居るんだ?』

『ヒルト以外は皆現実世界に戻ってるよ。 ヒルトだけが何故かわからないけど、皆より遅く帰還したみたい。 ……一時は大変だったんだからね、皆が皆、ヒルトにキスしたら目覚めるだの何だのってさ』


 僅かに不機嫌そうに呟く美春――だがそれを気にしていても埒があかないので話題を変える。


『それよりも美春、俺も元に戻りたいんだが――』

『うん。 ……でもね、ヒルトを回収できる場所がちょうどシステムの中枢部なんだ。 だからそこまで移動してもらえる?』

『…………』


 押し黙る俺――ここに来たときみたいな化け物が居たらと脳裏に過るのだが。


『あ、大丈夫だよ? 来たときみたいなことはもうないから、敵の攻撃も止まったしね』

『……なら良いんだ』


 ……そうでなくてもさっきの夢……まだ手に残る嫌な感触とセシリアやシャル、一夏の絶命する時の表情が脳裏にこびりついて離れない。

 頭を振り、必死にそれを払拭するように俺は森の中を駆け抜けていった。

 しばらくすると森を抜け、視界に拡がる真っ白な砂浜と蒼い海原が俺を出迎えた。


「……ここが中枢部?」


 一人ごちる俺――ここが電脳世界という事も忘れそうな、そんな光景が拡がっている。

 しばらく進むと、砂浜に一人の少女が立っていた。

 銀髪が降り注ぐ陽の光を浴びて輝きを放つ――一瞬ラウラにも見えたのだが直ぐに違うことに気付いた。

 近づく俺――足音に気付いたのか振り向く少女、だが瞼は閉じられていて瞳の色まではわからなかった。


「御初に御目にかかります、有坂ヒルト。 私の名前はクロエ。 クロエ・クロニクル」

「クロエ……クロニクル」


 年端もいかない少女、パッと見ても中学生ぐらいにしか見えない少女が閉じた両目のまま名乗った――閉じている筈なのに、まるで此方を見据えているような不思議な感覚。


「本来、貴方ではなく織斑一夏がこの事態を解決する予定だったのですが、やはり……あの方が言っていた様に貴方はイレギュラーの様ですね」

「あの方……? いや、それよりも今回の事態は君がしたことなのか?」

「ええ、あの方の望む事ですから」


 声色一つ変えずに告げる彼女、とはいえこの言葉から今回の犯人は彼女――の筈だが、最後に聞こえてきた男の声の説明が出来なかった。


「そして、これもあの方の望む事」

「……?」


 そう言って歩み寄るクロエと名乗った少女――刹那、間合いを詰め、懐へと飛び込もうとしてきた。


「ここで貴方には果てていただきます」

「……!?」


 着ていた服の袖から刃渡りの短いナイフが飛び出してきた、咄嗟に反応が出来なかった俺を強襲するクロエ――だが。


「……残念だが、彼を殺させる訳にはいかないな」

「……!!」


 光の粒子が集まった瞬間、それはいきなり人の形を形成し、クロエの振るうナイフの一撃を指二本で受け止める。


「大丈夫かね、有坂ヒルト君」

「え……貴方は……」


 見覚えがあった、以前ホテルテレシアで出会った仮面の男――確か名前はウィステリア。


「どうやら覚えてもらっていた様だね。 光栄だよ」


 白い歯を見せて小さく笑う仮面の男に、クロエは――。


「ずっと感じていた視線――貴方ですか。 ……まさか、時々此方を妨害していたのは――」

「フッ……『彼女』に淫靡な夢は似合わない、故に彼女には【別の夢】に代えさせてもらったよ」

「…………」


 有り得ない――『ワールド・パージ』は私だけの――そう考えていたクロエに、仮面の男は呟く。


「フフッ、どうしたのかね? 有り得ないといった表情だが?」

「っ……」


 ナイフを手放すと一旦距離をとるクロエに、仮面の男は指で挟んだナイフを見てから海原へと腕を横に振るって投げた。

 空気を切り裂く刃の音が小さくなり、海原へと消えていった――そして、クロエは。


「……新たなイレギュラーの発生。 ……あの方に報告を――」

「フッ……報告など無駄さ、直に君のいうあの方とは会う事になっている、それは必然ってやつさ、これがな」

「………………」


 言葉語らず暫く張り詰めた空気が流れる――そして。


「……此度はこれにて退場致します。 有坂ヒルト、いずれまた相まみえる事でしょう」


 そう告げるや、クロエの姿は自身の影に沈んでいく。


「え……?」


 言葉をかける前に消えていった彼女、残されたのは俺と仮面の男ウィステリアだけだった。


「……さて、すまなかったね。 君の幼なじみに私は怒られてしまったよ」

「……では貴方が今回の騒動の真犯人……?」

「……いや、だが君と幼なじみの彼女……そしてもう一人だけに私は介入させてもらっただけだよ。 幼なじみの彼女には『特別な夢――いや、体験』にさせてもらったがね」

「…………」


 言葉がうまく出てこない中、俺は一つの疑問を呟く。


「……貴方も、ISに乗れるのですか?」

「無論だ。 世間一般に広まっているのは君と織斑一夏君の二人――だが、世界が知らないだけで男の操縦者もまだ居るのだよ。 無論秘匿情報なのだがね」

「他にも……」


 過るのは赤い髪の亡国機業に居た男――なら今少なく見ても四人の男の操縦者がいる……。

 そう考えていた俺にウィステリアは――。


「すまないが時間だ、君とはまた会う事になるだろう」

「え? ま、待ってくれ! 聞きたい事があるんだ!」

「……良いだろう、言いたまえ」

「何で……こんなことを……?」

「……これから先に起きる最悪の未来、それを避ける事が私の使命だが、君自身にも試練を与えたつもりだ。 ……今は休みたまえ、では【京都】で会おう」


 言ってから光の粒子となって四散するウィステリア――残された俺はただ一人砂浜に取り残された。


『――ルト、ヒルト!? よかった……中枢部に入ってから連絡つかなくて心配したよ?』

『え? ……美春、今のやり取り……』

『……? 何かあったの?』

『……いや、何でもない……』


 そう呟き、天を仰いだ俺――暫くすると視界は真っ白に染まり、意識が遥か彼方に吸い込まれる様な感覚に襲われ、意識を失った。

 一方――。


「……ふぅ」

「……兄さん」

「……シルバーか、ここではボスだとあれほど――」


 そう咎めようとしたウィステリアだったが、シルバーは言葉を続けた。


「単一使用【覚醒(アラウザル)】したでしょ……?」

「……さて、な」


 そう呟き誤魔化すウィステリア・ミストにシルバーは腕組みしてため息をはいた。


「…………もう」

「そんなことよりもだ、今夜出掛けるぞ」

「……わかったわ、カーマイン、スレートの二人は?」

「カーマインは向こうで合流する手筈だ、スレートに連絡を」

「了解。 ファントムとウサギの会合に……よね、兄さん?」

「無論だ」


 二人のやり取りはそれで終わり、シルバーは部屋を後にした。


「未来……か」


 そんな呟きが静かに室内に消えていった。 
 

 
後書き
アラウザル……直読みしただけやね

wake upでもよかったが

そして連絡なしは続く 
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