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『外伝:紫』崩壊した世界で紫式部が来てくれたけどなにか違う

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紆余曲折あって、あたしは討伐隊に入る

 
前書き
どうもこんにちは、クソ作者です。
ここから、最終章へとなります。
あとたくさん登場人物が出てきて混乱するかもしれませんが覚えてください(無茶ぶり)
なんとか頑張って覚えてください。

それでは本編、どうぞ。 

 
「はー…ようやっと落ち着いたで…。」

項垂れるように車椅子に座るミッツを見て、shootは一息ついた。

「短くなったな。」
「あぁ、それはワイも思いましたわ。」

その様子を見に来たリーダーが表情一つ変えることなく、そう呟いた。

「多分、もう暫くしたら使えんくなるんやないかなぁと。」
「戦える駒が減るのは何とかしたい的な。」
「モレーとサウザンさんの2人だけとなると心許あらへんしなぁ。」

使えなくなる、戦える駒が減る。
そういった不安なワードを述べていく二人だが、

「ねーねー、次ここ行かなーい?」

そんな中、モレーが会話に割って入る。

「なんだ、今大事な話的なことしてんだが?」
「いやいや、そんなことよりこれこれ!動画のネタ的にもよくなーい?」

モレーが見せてきたのはタブレット端末。
その液晶画面に映っている者は、財団職員なら誰でも知っているであろう

「葛城舞か。」

代表の弟、葛城舞。
代表は捕まえた者には過剰なほどの褒美をやると言っていたが最早財団を抜けた自分達には何の関係もないことである。

「ヤバくない?複数のフォーリナー所持の可能性アリだって。」
「数多のサーヴァントを侍らせてハーレム作ってるってことやろ?やってることは兄貴と一緒。血は争えねぇってことや。」

確か一度姫路町で目撃情報があり、特殊部隊が向かったがその後ロスト。
北斎ともう一騎のフォーリナーを連れていたらしいがどうやら予想外の〝三騎目〟がいたとか。

その後姫路町に葛城舞はいないという連絡があり、今現在その弟はどこにいるか分からない。
余談だが風の噂によれば兄の所持するフォーリナーすら奪ったと聞いた

それに、

「俺達、しばらく動画投稿は休む的な?」

ここしばらく、CH-Zは活動休止することを決めていた。

「え、なんで?」
「しばらく隠れる。隠居的な?」
「えーなんで、隠居する意味ある?」
「ある。」

そんなモレーの問いに対して、リーダーははっきりと答えた

「今現在、葛城財団は関東エリアの侵入を禁止されてる。」
「うん。だからいいじゃん。」
「しかしあの代表がいつまでもお利口に約束を守れるとは思えない。俺はいつか関東エリアに踏み込んでくるって考えてる風だ。」
「だから、今のうちに隠れんの?」

頷くリーダー。
実際、リーダーの危機感知能力はかなり高いし、よく当たる。
臆病者ともとれることもあるが、彼のおかげでここまで動画投稿を続けられてきたこともある。

なのでメンバーは一応リーダーのその直感を信用してはいる
しばらく休止して隠れることにもモレー以外は賛成していたのだ。


しかしモレーは。

「あぁ、そう。」

つまらない顔をし、まだ走行中なのにも関わらず装甲車のドアを開けた。

「おい、何してる?」
「つまんないからいちぬけた。モレーちゃん、脱退してこれからフリーのサーヴァントになりまーす。」
「は?」

一同が振り向く

「おい!待てよ!!」

仮のマスターであるサウザンが呼び止めるも、モレーは反応しない。

「刺激なし、味気もなし。そんな退屈な毎日を過ごすのはゴメンなんだよね。それに、セックス下手な奴の相手すんのも。」
「待てよ!!あそこで俺達が拾ってやらなきゃ、あのクソデブの道具になってたんだぞ!!恩を仇で返すのか!?」
「ふーん…あっそ。」
「俺たちの言葉、響いてねぇ的な?」

止めようとするメンバーの声など一切無視し、モレーは出ていった。


「……。」
「…出て行ってもうたけど。」

戦える駒が無くなるとついさっきまで話していたが、
まさかここで一つ失うことになるとは考えてもいなかった。

「…拾ってやった恩も忘れて……まぁいい的な?女ってのは皆あんなもんだ。」
「はは…せやな。でもどないしますリーダー?」

貴重な戦力を失ったこんな状況でもリーダーは冷静だ。

「まぁここしばらくは休止するんだ。その間に打開策を考える感じ。」

そうしてカメラを起動する。

「とりあえずアレだ。休止宣言の動画撮るぞ。車止めて集合だ。」







『まーという訳でね、俺達CH-Z、長期に渡って休止という形になる的な感じなんだが…。』


場所は変わり、葵紫図書館。

今はゴーレム達が復旧作業中。
図書館の営業もできないため今は別館で何をする訳でもなくのんびりしている。


そのときふと思い立ち、CH-Zに対して何も知らなかったので、折角だから動画サイトで調べてみた。

ちょうど生配信をしているらしく、それを見てみるとなんと休止をするという旨の動画だった。

『先日、図書館に行ったら仲間がボコられてな…。アレやばかった的な。』
『そうそう、なんやろな。本読んでても野蛮人は野蛮人なんやな思たわ。あの金髪ゴリラ。』
「こいつら……好き勝手言って…!!」

カメラに向かって話をするリーダーと関西弁の男。
次に映されたのは怪我をし、腹部や腕などに包帯を巻いてわざとらしく項垂れているサウザンと車椅子に座ったまま動かないミッツだ。

彼らの話し方は、まるでこっちが悪者で、自分達が被害者かのような話し方だった。

襲われたのはもちろんこっち、しかし彼らはあくまで平和的にやろうとしていたと平気な顔をして嘘をつく。

コメント欄には『かわいそう』や『CH-Zいじめるの許さない』とか『だからサーヴァント持ちは嫌いなんだ』とかあまり見たくもない意見が流れてくる。


「俺達サーヴァント持ちが見ても気持ちのいいもんじゃないだろ、ソレ。」

と、後ろからノートパソコンの画面を覗き込んできたのはあたしの学生時代からの旧友。
ゴーレムの製造とレンタル、そして今はここの現場監督を務めている宮本だ。

「うん、そうかも。」

そうしてあたしは、再生途中であるがノートパソコンを閉じる。

ちなみに他の動画も見た。
一言で言うならば酷いものだった。

「なんか…よくわかんないや…最近の若い人ってこういうのが好きなの?」
「二十歳だろお前。感性が違うだけだろ。」

彼らは過去に財団にいた。
その頃の動画も勿論あるのだが…。
サーヴァントを失ったマスター達に対し、取り戻せるという嘘の餌をチラつかせ戦わせる『チー牛ブレイキングダウン』

サーヴァントの耐久実験と称して世界中の拷問を試す『サーヴァントと共に往く世界拷問巡り』

トークメインの動画もあるがそれらは全てサーヴァントの非難、サーヴァントが密接に関わってる施設…言うなればイルカショーや三笠記念艦、ハインド商会などに対する誹謗中傷などがほとんどだ。

後は特定の人物…まぁ詳細は言わないが財団団長の弟のことは特にボロクソ言っていた。

彼らの活動はサーヴァントの捕獲ではなく動画を通して財団の宣伝等を行うこと。
その効果はあったようで職員は増えたらしいと動画内では言っていた。


「まぁ…スカッとするんだろうな。サーヴァントが嫌いな奴…持ってない奴からしたらコイツらは『救い』なんだろ。」
「救い、ねぇ…。」

こういうのが面白いのだろうか。
あたしがそう思った一番の理由としてはやはり登録者だ。
見たところ300万人は超えている。
動画なんてそうそう見ないけどかなりの数なのは分かってる。
200万どころか100万を超える人すらそうそういないだろう。

「当然、炎上はする。てか何回もしてる。SNSでは無修正の拷問動画投下するし、それに特定のヤツらに噛み付いてきたりもする。」
「迷惑千万じゃん…。」

SNSにはイマイチ疎いあたしだが、どうやら彼らはある意味有名人だそうな。

それと、

「そういうのってさ、凍結とかされないの?」

気になった。
このご時世、いくらコンプラが緩くなったとはいえやはり最低限守らなきゃいけないものはある。

それらを違反し、また多くの人々に迷惑をかけ続けた彼らはアカウントを凍結されるのではないか?
そんな疑問に対し、宮本は頷いた。

「されたよ。何度も何度も。でもフツーに戻ってくる。残念なイケメン達は不死鳥なんだとさ。」
「……。」

呆れた。イライラするどころかもう何も言えなかった。

「何?人気者だから?」
「さぁな。動画の運営にCH-Zの熱烈なファンでもいるとか?」

だめだ。
自分で見に行っといて言うのもアレだけど、これ以上このトンチキ集団を目に入れたくない。

小説でも書こう。
そう思った時だ。

「ちょっといいかね?」
「あ、先生。」

ノックの後ドアが開き、宮本のサーヴァントであるアヴィケブロンが顔を覗かせる。

ゴーレム達を指揮しているいわば現場監督だが、何かあったのだろうか?

「何かあったんすか?」
「ああ、特にこれといったトラブルではないよ。君に客人だ。」

そうしてアヴィケブロンが横にどく。
すると彼の後ろにいたのは

「ごめん…大変な時に来ちゃって…。」

舞だった。




「ちーず?」
「そ。なんか有名らしいよ」

場所は変わり外。
そこら辺のちょうどいい瓦礫に腰かけ、ボロボロの図書館を見ながら舞は何があったのかを尋ねてきた。

彼がここに来た本来の目的は小説の挿絵に関しての相談だ。
来る途中、遠くの方から半壊した図書館が見えたので、何かあったんじゃないかと慌てて来たらしい。

「匿ったイリヤちゃんと美遊ちゃんを奪いに来たんだよね。まぁ、追い返したけど…。」
「……。」

まぁ、追い返したのだけれどその代償はあまりにも大きすぎる。

「本はほとんどがダメ。色んなところから寄贈してくれた本も、ぜーんぶダメになっちゃった。」
「葵ちゃんの本は…?」
「一応は…無事。下書きはパソコンの中だからさ。」
「……。」

悲しげな顔をする舞。
あたしだって悲しいが、この悔しさのぶつけ所は分からないし、もうここまでされると笑うことしか出来なかった。

「弱いんだ。あたし。」
「……?」

ぶつけ所が分からない。
だから、自分にぶつけるしか無かった。


「あたしが強かったらさ、まだもうちょいマシな結果になれてたんじゃないのかなーって。」
「そんなことないよ。葵ちゃんは今でも充分強いよ…。」

そうフォローしてくれるけど、現に強くなかったからこうなったんだ。

「アンタみたいに絵を描いて戦ったり、やばい神様と繋がってるわけじゃない。
大和さんみたいにいくつもの死線を潜り抜けてきた猛者でもない。
それと、探偵さんみたいに咄嗟に機転の利く回転の速い頭の良さも持ち合わせてないしね。」
「……。」

と、突き放すようにそう言ってしまった。
イラついてるんだろう。誰でもいいから、愚痴をぶつけたかった。
それに理由は弱いだけじゃない。
要因はもうひとつある。

「あたしは、あたしじゃないのかもしれない。」

あたしは、葵として足り得ているか?

何をもって〝葵〟としているか?

あの時、蘆屋道満に言われたことがずっと引っかかっている。

「何か、あったの…?」
「いろいろ。」

舞が心配そうな面持ちで覗き込んでくる。

「……知らない自分がさ、」
「?」
「ううん、知ってるんだけど…自分とは全く別の何かが自分の中にいたら、舞はどうする?」
「別の……何か?」

二重人格。
他の人には共感されて貰えないであろう、自分特有の悩み。
それを何となくぼかして舞にそう尋ねる。

「別の何かはさ、抑え付けられないで欲望のままに生きる。でも自分自身は生活していく上でそうするわけにはいかないから欲を抑え込んで生きてる。」
「…?」

首を傾げる舞。
何を言っているのか分からない。ってことはあたし自身でもよく分かってる。

でも、よく分からない。
なんで舞にこんなこと話したのか。
いや、誰でもいいから聞いて欲しかったんだろう。
誰にも吐けない悩みを。
近しい人間、もしくは香子でもない、第三者に。

「ありのままに生きるのと、我慢して生きる。それってさ、どっちが自分らしいと思う?」
「……。」

何を聞いているんだろう
話を聞いてもらうだけじゃなくて、彼に何か言ってもらいたいんだ。
どっちが正しいか、
どっちがあたしなのか、
どっちが……本当の〝源 葵〟なのか。

「…わかんないや。」

申し訳なさそうに、舞はそう答えた。

「ごめん…変な質問して。」
「…でもね、」

謝り、この話は早々に切り上げようと思った。
しかしここで舞の話は終わっていないらしく、まだ話を続ける

「別の自分とか…よくわかんないけど…それも〝自分〟でしょ?」
「……。」
「ほら、人間ってさ、色んな面を持つでしょ?甘えたがったり、意地張っちゃったり、無駄にカッコつけちゃったり。」
「……もしかして探偵さんのこと言ってる?」
「……た、例えの話だよ。」

探偵さんみたいに人によってコロコロ態度を変えるのも、全て自分自身だ。
人が持つ側面は1つじゃないし外と内は全く違う面を持つ人もいる。
そういうのは〝ペルソナ〟っていうって、本で読んだことはある。

「その葵ちゃんが言ってる、欲望のままに生きてるのも、我慢してるのも。自分の中に存在してるんならどっちも自分だよ。」
「…どっちも自分、ね。」

あたしも葵、そして(あいつ)も葵。
彼は、そう言いたいんだろうか?

「こんなの違う、自分じゃない。って自分の側面を拒絶しちゃうのは良くないと思うんだ。これも自分、あれも自分。全て自分なんだって受け入れるのが大事なんじゃないかなって、僕は思うよ。」
「……。」
「って、僕みたいな人が言えたことじゃないかもだけどね…。」

拒絶じゃなく、受け入れる。
そんなことをするのはとてつもなく大変なことなのは分かってる。
それを理解している上で、舞はそう言ったんだろう。
彼は最後に苦笑いして、スっと立ち上がった。

「違う自分も受け入れる。お栄ちゃんが教えてくれたんだ。だから今の僕がある。僕が僕らしくいられる。ありのままの全部受け入れたから。」
「ねぇそれってもしかして…。」

違う自分を受け入れる。
抑え込んでいた欲望を受け入れる。
こいつの場合少し話が違ってくる気がする…。

「えへへ…最初は女の子の格好したり、メスにされるのすごく嫌だったんだよね…心の内では悦んでたけど、こんなの自分じゃないって、頭ごなしに否定してた。」
「ほらやっぱそっちの話じゃん!!」

照れくさそうに頭を搔く舞。
結局はそんなしょうもないオチになり、2人して笑い合った。

それからもう少し他愛ない話をして、頑張ってねと言われ彼は帰って行った。




「討伐隊?」

それから数日後…。
図書館は圧倒的なスピードで直りつつある頃、また賢士がやってきた。

「そう。蘆屋道満&森川真誉討伐隊。」
「討伐ってまさか…?」

そのまさかさ、とでも言いたげに賢士はニンマリと笑う。

「分かったんだよ。場所が。」
「場所って…あいつらの?」

頷く賢士
あいつらとは勿論あの二人、
真誉、そして道満だ。

「でもどうやって…。」
「そこからは僕が説明しよう。」

そういってやって来たのは宮本のところのアヴィケブロン。
その他にも、賢士の後ろには宮本を含めた何人かとサーヴァントもいる。

恐らく協力者…その討伐隊とやらだろうか?

「探知すれば呪われるのは実証済み。しかしこちらにはゴーレムがいくらでもいる。」

まずはどうやって居場所を突き止められたか、だ。

確かに探知しようとすれば逆にこちらが呪いをかけられる。
後で分かったがその呪いはサーヴァントもタダでは済まないが人の身となると一瞬で死に至る程の凶悪なもの。

彼らはそれに対しどのような対処を取ったか。

「ゴーレム…?」
「そう。探らせたのだよ。ゴーレムに。」

その答えは至ってシンプルだった。

「人海戦術…いや、ゴーレム海戦術と言うべきか。ともかくゴーレムを量産し神奈川エリア全土を探らせた。」
「…!!」

ゴーレムに探らせる。
探知なんかじゃなく、〝足〟を使って。

怪しいところも、そうじゃないところも。
ありとあらゆる場所全てを徹底的に洗い出す。

現代的では無いし、地味だが最も確実なやり方。

しかしそれをするのに何体ものゴーレムを使役したのだろうか…?

「ざっと500程だ。」
「それほどの数を一度に…!?」
「あぁ。少々骨は折れたがね。」

と、彼自身が疑問に答えてくれた。

ゴーレムの創造、操作が十八番のアヴィケブロンといえど、そんな莫大な数のゴーレムを一度に使役するのは魔力量がバカにはならないハズ。

「まぁ魔力量は彼女の助けがあってこそだ。彼女らが来なければ、このローラー作戦は実行できなかった。」
「彼女ら?」

その疑問は、また別の人物が答える。

「じゃ、そこは私が説明しますんでー。」

アヴィケブロンの隣にやって来たのは面識のない女性のサーヴァント。

「なんかこう、特別なお薬でブワーッとパワーアップさせました。」
「説明になってないって。」

人形を大事そうに抱えているサーヴァントはだるそうにそう言うと、マスターらしき男性がつっこむ。
そうして彼が改めて説明を付け足した。

「あのーあれね。特別に調合した薬で魔力を増強させて、ゴーレム作りは俺らも少し手伝ったんだ。もちろん薬は違法じゃないやつ。合法ね、合法。」

そんな彼のサーヴァントは徐福。
成程、彼女に薬を作らせたのだろう。

「まーお給料は成果に応じて上げてくれるって言ってたんで。それなりに頑張った所存です。」
「はいはいよしよし。」

マスターであろう男性にぽんぽんと頭を撫でられる徐福。
そうして彼はあたしの方へ向き直ると、申し訳なさそうに自己紹介した。

「それと自己紹介が遅れて申し訳ない。俺は春夏冬 秋(あきない とき)。徐福ちゃんと一緒に薬を売り歩きながら旅してる。気軽におじさんって呼んでくれ。」
「はぁ…。」

と、徐福のマスターである秋さんは自らを〝おじさん〟呼ぶように言うも、そのようには見えない若々しい見た目だ。

「源 葵、だったよな。宮本から話は聞いてるよ。ヨロシク。」

そうして右手をさしのべられ、あたしはそれを握り返して握手をする。

それと、

「では私も、ここで自己紹介をさせていただいてよろしいでしょうか?」

前に出てきたのは中年の男性。
片目には眼帯。のこされた片方の目にはあまりにも凄味を感じる男性だ。
さらに顔には斜めに傷が走っており、過去に何かあったのだろうというのは推測できた。

「蘆屋道満、森川真誉の二人を討伐すると聞きやって来ました。山口 信彦(やまぐち のぶひこ)といいます。」
「あ、あぁ…どうも。」

彼の持つ気迫みたいなものに多少動揺しつつも、伸ばされた傷だらけの手と握手を交わした。

「…やはり、目を引きますかな。」

傷だらけの手…人差し指と中指の欠損したその手をジロジロ見過ぎていたんだろう。
信彦さんはそう言った。

「あ、あぁいえ…そんなことはなく…。」
「彼らに…いや、彼らが放った妖にやられたものです。同時に妻と子も失いました。」
「……。」

後から聞いたけどこの山口 信彦という男性、元は京都にある守護局という場所に勤務していたのだという。

守護局とは、世界が崩壊し現在京都には妖が蔓延るようになり、それらから一般市民を守るために作られた組織だ。
サーヴァントや元警官などが集まってできた組織であり、言ってしまえば自警団だ。

そしてその京都を襲った悲劇は、大和さんから聞いている。
蘆屋道満の企みにより妖が都へなだれ込み、甚大な被害を受けたと。

彼は、その被害者なのだ。

「妻を奪い、子を奪い、何もかもを奪われました。私だけが運良く助かってしまったのです。ならばこの命、奴等の首を取るためならば喜んで捧げましょうと…!!」
「山口さん。もういいですって。」

と、力強く握られる手と比例するように語りに熱の入る信彦さんだが、賢士が肩を叩いて止めに入る。

「葵がどう反応したらいいのかわかんない顔してる。それに、復讐のために命を投げ出すのは良くないってこの前も言いましたよね?」
「…すみません…あの外道の話となるとつい…。」

落ち着きを取り戻し、静かになる信彦さん。

「サーヴァントは持ち合わせていませんが、役立たずとは言わせません。奴等を殺すために、必ず役に立ちましょう。」

最後にそう言い、「とりあえず外の空気でも吸って来てくださいよ」と賢士に勧められ出ていった。

「で…あとは…」

徐福、春夏冬さん。
そして信彦さんと。
やってきたのは彼らだけでは無い。
後ろには何やら複数人控えている。

そうしてその集まりから代表者のような男がやって来て、あたしに名刺を渡した。

「俺達、こういうものでして…。」
「…?」

名刺を渡され、見る。
その時あたしはあまりにも不機嫌な表情をしたんだろう。
相手は苦虫を噛んだような、ここにいるのが気まずそうな顔をした。

だって、

「心霊系動画配信者…『御子柴倶楽部』…?」

ここには場違いかつ、あたしにとっては悪い印象しかないいわゆる〝動画投稿者〟と書かれていたからだ。

「何?」
「そ、そんな怖い顔なさらないで…私達、あなたが会ってきたような人達とは違いますから…!」
「余計に怪しいんだけど…。」

と、腰の低い若めの男性が怪しいものでは無いと言うも、やはり怪しさというか胡散臭さは拭いきれない。

「CH-Z…ですよね。あなたが動画投稿者に対してそこまで用心する原因は…。」

という若者。
『御子柴倶楽部』という名前なのだからおそらく彼は御子柴という名前なのだろう。
そうして御子柴は説明を始める。

「俺達も同業者として、あいつらには迷惑被ってます。あいつらのせいで、動画投稿者ってだけでものすごく嫌な顔されますし…。」
「…。」

そういうも、やはり安心はできない。
CH-Zのせい。というのもあるがあのイリヤちゃんと美遊ちゃんの元マスター、尾頭さんと共に訪れたあの配信者、通称『テイマー』の事も原因にはなっている。
まぁともかく、配信者や動画投稿者に関してあたしは悪い印象しかない。

「まぁ安心しろよ。少なくとも、CH-Zやお前が昔会ったテイマーみたいなことはしねぇから。」

そう不安になっていると、賢士が肩を叩く。

「こいつらの動画、後で見てみ。ちゃんとしてるしやってる事は心霊スポットの研究と除霊だぜ。」
「研究と除霊…?」

まぁ彼らの動画は後で拝見しておくとする。
そうしてあたしが未だに疑わしい視線を向けていると、彼らグループを押しのけて1人のサーヴァントがあたしの前にやってきた。

「マスター 安心 心配 不要。」
「えっ」

見た目は女性。
チャイナ服みたいな衣装に身を包んだ彼女のことは知っている。

「ああ、この子は哪吒。俺じゃなくて小倉のサーヴァントなんです。」
「小倉…?」

そうすると御子柴の隣にいた若干背の低い男性が小さく手を挙げた。

「動画編集は俺。除霊関連は土御門。。そして最終兵器の哪吒。おまけの小倉の四人でやらせてもらってます。」
「おい!!おまけってなんだよ!!」

おまけと言われすかさずツッコミを入れる小倉。
哪吒の『最終兵器』という役割も気になるけど、とりあえずこいつらは信頼はしていいのかもしれない。


「まぁ、こんなもんだ。」

と、メンバーの自己紹介が一通り終わり、賢士が締めくくる。
この集まりで、あの二人の計画を阻止するということらしい

「三笠とかオーシャン・ビヨンドとか、近辺のデカい組織に頼み込んでもみたがあっちはあっちで財団絡みで下手に動けない。」
「まぁ…そうだよね。」

三笠防衛戦以降、様々な組織は打倒葛城財団を掲げ同盟を組んだ。

下手に戦力を分散させてしまえば、あちらは隙をついて攻め込んでくる可能性だってある。

だからどこも人員を割けない。
その為か探偵さんや大和さんはそんな彼らに変わって同盟を増やすため、遠方に赴いている。

つまり、援軍は期待できない。
賢士の顔の広さで集めたこの限られた人達で、やるしかない。

「自由人。ゴーレム売り。薬売り。元警官。動画投稿者。んで図書館長。それらでやるしかねぇってこった。」
「……。」

並べてみるとなんとも変な組み合わせだ。
でも、違う。
みんな今日までこの崩壊世界を生き抜いてきた猛者達だ。
誰1人タダモノなんて居ない。

ところで…、

「自由人って…?」
「あぁ、俺。元大学生っていうのもあんまかっこよくないし、それにフリーターってのもなんかアレだろ。。」
「なにそれ…。」


と、ここにこうして討伐隊は結成された。
あいつらが何をするのかはまだ分からない。
けど、きっとロクな事じゃない。
絶対に阻止しなきゃいけないとんでもない計画を、あいつらはやろうとしてる。

それだけは、今の時点でも十分に分かった。
 
 

 
後書き
かいせつ

●討伐隊
蘆屋道満、そのマスターの森川真誉の謎の計画を阻止するため結成された討伐隊。
ニトクリスのマスター、田中賢士が人脈をフルに活用して集められた者達である。


・宮本
アヴィケブロンのマスター。
今回はアヴィケブロンと共にゴーレムを用いて討伐隊をサポートする

・アヴィケブロン


・春夏冬 秋(あきない とき)
徐福のマスター。
自称おじさんの28歳
全国を渡り歩く行商人。
主に特別に調合された秘薬を販売している。

戦闘能力はある事にはあるが護身のために習った杖術、また簡単な魔術のみで強力な怪異やサーヴァントには太刀打ちできない。

・徐福
主に秘薬や道術によるサポートを任されているサーヴァント。
マスターと共に薬を売り歩きながら虞美人を探しているものの、未だ見つかる気配は無い。


・山口 信彦(やまぐち のぶひこ)

元京都守護局。世界崩壊前は警察官だった。
蘆屋道満と森川真誉が起こした結界消失事件にて妻と子を失い、また本人も大怪我を負っている。
その為事件の首謀者である2人に対しては並々ならぬ恨みを抱いている。
サーヴァントは持っていないものの彼自身の力はかなりのもの。
元警察官の為剣道や柔道など護身術は一通り会得しており、また守護局で簡単な陰陽術も会得している。
また、仇の2人を倒すための〝秘策〟を拵えてきたと言うが…



・御子柴倶楽部
御子柴、土御門、小倉、哪吒の四人からなる心霊研究系ユーチューバー。

心霊スポットへ赴き主に除霊などを行う。
なぜ除霊をしているかと問われれば、世界崩壊以降、噂程度だった幽霊は神秘に触れ、実体化しており被害を及ぼしているからだ。

最近はCH-Zが悪い意味で目立ち過ぎるせいで、動画投稿者であるということだけで世間からは悪者のように扱われてしまうことに苦悩している。

・御子柴
リーダーではあるのだが、動画内では身体を張って撮影に臨むことがしばしば。
コンプラに気をつけながら各地の心霊スポットを巡り、除霊を行う。

土御門
除霊専門。
苗字からしてそういった家系の生まれであり陰陽術や結界も使うことが出来る。
それらを活かしてゴーストや小鬼などといった魔性のエネミーを退けたりできるが、逆に魔性特性の付いていないものに対してはどうにもできない。

・小倉
おまけ
哪吒のマスターであり、撮影や動画編集のサポートを行う。
非常に怖がりだが霊感がある為、よく心霊スポットにカメラ片手に一人で放置されたりする。

・哪吒
小倉のサーヴァントにして、御子柴倶楽部の最終兵器。

土御門ではどうにもできない怪異や悪霊が出た場合、彼女に倒して除霊してもらう。
なので最終兵器。
感情の抑揚が感じられず、淡々と話すことから冷たい印象を受けるがマスターの事、そして御子柴倶楽部のみんなが大好き。

リーダー御子柴の気遣いからか、ホテルを借りる際は哪吒と小倉は別の部屋にされる(何故かは察しろ) 
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