真・恋姫無双~徐晃の道~
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第2話 震えと覚悟
村から10里くらい――1里が435mくらいだと思う――ほど歩いただろうか。
4kmちょいってとこか。
俺は短めの小太刀は腰に差し、長めの小太刀は左腰横に差している。
昔の名残だ。
「縁、見えてきたぞ」
前を歩いていた母が足を止めると、前方を指差した。
母の指差す先には、砦があった。
だが、すでに使われていないのかボロボロだ。
「あそこには、40人くらい居るらしい」
「外に出ている可能性もあるんじゃない?」
「ふむ、確かにその可能性もあるな」
野盗が殊勝にも畑仕事をしているとは思えない。
当然ながら、略奪で日々の糧を得ることだろう。
この周辺には他の村もあるだろうし、そこに行ってるかもな。
「なら、さっさと砦に居る奴らをぶちのめして、待ち伏せするぞ」
「わかった。なら、二手に別れて……」
正面と背後から攻めて挟撃しようと提案しようとするが、すでに隣に母の姿は無かった。
身の丈ほどもある戦斧を肩に担ぎ、砦へと突撃していた。
速ぇよ、マザー。しゃあねぇ。
俺は裏に回って、逃げて来るであろう敵を片付けるか。
100m9秒くらいの速さで、裏へと迂回する。
やべぇ、世界陸上出れるわ。
どっかのボルトにも勝てそうな気がするわ。
砦の裏は山に囲まれた感じになっていて、野盗にしては考えた場所ではないだろうか。
まあ、軍隊が相手ならの話だが。
俺たちのように、少数で来る敵にはあまり効果は無いだろう。
特に、母のようにサイボーグが相手だとな。
そんなことを考えつつ、砦の裏側が見渡せる場所に軽々と登っていく。
この世界に来てから、基礎能力も向上してるよな。
その上、女神の特典がプラスされた感じだ。
高さ5mくらいのところに立つと、砦の裏口が丸見えだ。
しかも、裏口が分かり易い。
こういうとこは野盗か。
すると、扉が開いた。
中から、肥満のおっさんが数本のロープを手にして出てきた。
「くそっ!何だってんだ、あの女は!本当に人間か!!」
俺の母はサイボーグです。
そのうち、未来から来たとか言いだしそうだ。
「おらっ、早く歩け!」
オッサンが持つロープは、後ろに居た女性たちの首輪に繋がっていた。
オッサンがロープを引っ張ったことで、女性たちが前につんのめる。
連れて来られたばかりなのか、まだ犯されてはいないようだ。
だが、何人か服装が乱れている女性もいる。
どうやら、ギリギリだったか。良かった、良かった。
そろそろ殺ろうか。
ふと両手を見ると、震えていることに気が付く。
覚悟は決まったと思っていたが、やっぱりか。
情けねぇな、おい。覚悟を決めろよ、俺。
両手を強く握り締め、俺は震えを抑えると同時に覚悟を固める。
「さっさと逃げねぇと。癪だが、別の奴らの隠れ家に行くか」
どうやら移動するみたいだな。
俺はその場からジャンプすると、オッサンの前に飛び下りる。
……痛ぇ。
けど、俺の両足は無事だ。
俺も人のことは言えないかもしれん。
「だ、誰だてめぇは!って、ガキかよ。驚かせやがって」
オッサンはナイフを俺に向けながら、ビビリまくりの声で聞いてくる。
だが、俺が子どもだと分かると、すぐに笑みを浮かべる。
「こんにちは、おじさん」
俺は笑みを浮かべながらオッサンに近付いて行き、自分の攻撃範囲内に入ると同時に一気に地を蹴る。
同時に腰から『倚天』を抜き、オッサンの懐に入ると喉を斬る。
「がっ……」
男はロープを放し、血が流れ続ける喉を両手で抑え始めた。
「ヒュー、ヒュー……」
声帯が潰れたことで声が出せるはずも無く、ただ空気音が漏れ出るだけ。
『青紅倚天』を右手で抜くと、男の近付いていく。
「カヒュー、カヒュー……」
オッサンは首を振りながら俺を拒絶する。
その顔には、まだ子どもの俺への恐怖が見て取れる。
まあ、野盗なんかしてたら、いつかはこうなる運命だったよ。
俺に殺されるか、官軍に殺されるかの違いしかない。
あっ、母もいたな。
俺はオッサンの肩を掴んで固定すると、『青紅倚天』を心臓に突き刺した。
来世では幸せにな。
悪党でも、俺が奪った人間の命。
恨むなら恨んでくれ。
俺は心の中でそう呟くと、一気に『青紅倚天』を引き抜いた。
数秒手を合わせた後、女性たちへと顔を向ける。
「ひっ!!」
……怖がられた。マジでヘコむ。
「縁、良くやった!」
「母上」
母の声がしたので振り返ると、野盗退治を始まる前と何一つ変わっていない母が立っていた。
「おおっ。縁、返り血がすごいぞ」
「えっ?」
顔や服に触ってみると、血がべっとり付いている。
だから、怖がられたのか。
納得。
「ほら、これで拭け」
母は布を投げてくれた。
それを掴むと、とりあえず顔の血を拭く。
「母上。この方たちはどうします?」
「そうね。陽も沈んで来たところだし、今日は私たちの村に来てもらいましょう」
「わかった。じゃあ、早く帰ろう」
その後、まだ怯えている女性たちを母が宥め、村に帰ることになった。
とうとう、この日は俺への怯えが無くなることはなかった。
ヘコむ……。
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