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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第434話】

 
前書き
放課後 

 
 六時限目の授業が終わった放課後、一夏と篠ノ之は五時限目時間いっぱいまで走らされ、額は汗で濡れていた。

 おまけだが、篠ノ之は更にぴしゃりと織斑先生の雷が落とされる、専用機持ちとしての自覚が足りないやら何やらと――そして、反省文用の用紙をどっさりと貰っていた。

 提出期限は量の多さもあり、来週の日曜日までが提出期限だ。

 とはいえ、俺達の取材の日迄が提出期限って訳ではなく、その次の週の日曜日という意味だが――結構紛らわしい。

 それはさておき放課後、今日の授業全てが終わり、生徒も訓練や部活動の為に廊下を行き交う姿が目に見える。

 セシリアは今日は特訓するらしく、チャイムが鳴り次第アリーナへと走っていった――セシリアは案外放課後にタッグを組もうって言ってくるのかと思ったが。


「ヒルト、少し良いかな?」

「シャル?」


 帰り支度をしていると、シャルがやって来た、絶さぬ笑顔で俺を見ながら。


「こ、今度のタッグマッチ大会……ね? ぼ、僕と組まないかなぁ……何て」


 俺の顔を覗き見ながらそう告げるシャル――と、帰り支度を終えたラウラが近付き――。


「シャルロット、ヒルトは今回四組の専用機持ちと組むとの事だ。 諦めろ」

「え――えぇっ!? そ、そんなぁ……本当なの、ヒルトっ!?」


 ラウラの言葉に、信じられないといった表情のシャル。

 まじまじと俺を見つめてくるので、俺は頷くと僅かに涙目になるシャル。


「……ヒルトとまた組めるのかなって期待してたのに……。 酷いよ、ヒルト……」

「ご、ごめん……」


 今にも泣き出しそうなシャルに、ラウラが援護射撃を行ってくれた。


「シャルロット、確かに私もヒルトと組めないのは残念だが――こうは考えられないか? セシリアや未来達と組まれてもっと仲良くなるよりは、四組の更識と組んでくれれば少なくとも他の皆と同じラインには立ってる。 こう考えれば下手に誰かと組まれるよりは良いと思うのだが」


 ラウラの言葉に、何処か感じる所があったのかシャルは頷いた。

 ――というか、ラウラは他の皆より少し進んでる事もあってか、非常に余裕に感じてしまう。


「そ、そうだね。 ……ヒルト、今日部屋に訪ねてもいい? タッグ組めなかったんだし、少しは僕と話ぐらいは……良いよね?」

「あ、あぁ。 ……んと、じゃあ九時前ぐらいでいいか? 八時には鈴音のルームメイトのティナが来るって言ってたから」


 そう告げると、僅かにシャルの表情に陰りが落ちるが、直ぐにいつもの笑顔に戻った。


「そっかぁ。 ……うん、わかったよ。 じゃあ九時前に行くからね? ……ラウラ、良いでしょ?」

「ん? 無論だ、とはいえあまり長話すると織斑や篠ノ之みたいに罰を受ける可能性があるからな、シャルロット」

「わ、わかってるよ。 僕は何かあると、下手したら牢獄に入れられちゃうもん……」


 声のトーンが少し落ちるシャル、言ってる内に現実に起こりうる事態を想像したのか、僅かに手が震えていた。

 そんなシャルの手を掴む――びっくりした表情を浮かべたシャルに俺は――。


「……安心しなよシャル。 そんな事にならない為に、俺が居るんだ」

「……ぁりがとぅ、ヒルト。 ……えへへ、何だか僕、凄く嬉しい……」


 はにかむ笑顔を見せるシャル、これが二人っきりだと甘い雰囲気のままキスという流れだが、生憎とここは学園内で教室だ、まだ中には生徒が話してるしラウラも直ぐ側にいて僅かにジト目で見ているのもある、自重しなければ。


「……まあ大会じゃライバルだが、お互い頑張ろうな」

「そ、そうだね。 ……じゃあ、今回は諦めるよ。 ラウラ、僕と組む?」

「ん……。 それも悪くないな、シャルロットとは同室だ、戦略に互いの呼吸合わせにも同室というアドバンテージは大きいだろう」


 シャルの提案を好意的に受け止めたラウラ、正直……この二人が組むのは一年生ペア最高クラスだとしか思えない。

 まあ、セシリアも鈴音も、美冬も未来も美春もヤバイが――後は上級生組もそうだ。

 ……少しは大会でまともな試合になれば良いのだが――。

 そんな事を思いつつ、俺は時計を見る――先日買った腕時計だ、確か昨日未来が“母さんが俺に何か用事がある”的な事を言ってたからな。


「さて……シャル、ラウラ。 悪いけど俺は何か有坂先生に放課後時間があったら訪ねてくる様にって言われてるんだ」

「そうなの? ……有坂先生が――」

「ふむ、気にはなるがこれはヒルトの問題だろう。 私達二人が行っては邪魔になるやもしれん」

「そ、そうだね」


 少し残念そうな表情のシャル、ラウラは到って普通の声で喋ってるのだが、やはり少し気になるのか右の赤い瞳には好奇心の色が見え隠れしていた。

 喋って問題なさそうなら二人には告げるかな、内容。


「ん、じゃあまた夕食時にでも時間が合えば一緒食べようぜ」

「了解した。 ではシャルロット、まだ組むかは未定だが今日は私と模擬戦を行おう」

「いいよ。 じゃあヒルト、またね?」


 言ってからシャルとラウラは二人仲良く教室を後にする、俺も荷物を纏めて鞄を提げると一路職員室へと足を運んだ。

 そして職員室、その場に居た教師から有坂先生の所在を訊くとISの特別整備室に居ると聞き、俺は一礼してから整備室へと向かう。

 普段、生徒は入れない特別整備室、色々な機材などがあるからだとか噂があるのだがどれも眉唾物の噂で信憑性にかける物だ。

 そんな考え事をしながら歩いていると、吹奏楽部から楽器を奏でる音色が耳に届く。

 吹奏楽部には色々な依頼があるのだろう、運動部の応援やら体育祭やら何やらと、その為の練習で今集まってるのかもしれない。

 徐々に吹奏楽部から聴こえる音色が小さくなっていき、整備室付近に辿り着くとそのまま奥にある特別整備室へと足を運ぶ。

 横にスライドするドアだが、認証装置の為開閉出来ない――と、スライドドアが開いた。


「うふふ。 ヒルト、待ってたわよぉ~」


 整備室の為か、ツナギを着て髪をポニーテールに纏めていた母さんが姿を現した。


「……俺が来たって、よくわかりましたね、有坂先生」

「うふふ。 今はお母さんで良いわよぉ? ……ふふっ、というかお母さんって呼んでくれないと泣いちゃうわよぉ~」


 そんな風に言うも泣くつもりはない母さん、舌をペロッと出して茶目っ気たっぷりな笑顔を見せると俺の質問に答えた。


「ここの特別整備室はねぇ、中に入ってると外から誰かが来たら音で知らせてくれるのよぉ。 後、小型の監視カメラが無数についてるからねぇ。 あくまでもここの特別整備室側の通路に無数にあるだけよぉ? 教室や普段学生が出入りする所は基本的に無いから安心してねぇー」


 そう説明する母さん、多分この様子なら整備室にも勿論あるだろう――寮等は生徒のプライベート空間って事もあるだろうから多分カメラなどは無い筈だ、あればラウラ何かはヤバイだろうし。

 それはさておき、とりあえずの説明が終わると促されて特別整備室へと足を踏み入れる。

 様々な精密機械が並び、整備室の中央にはいつか倉庫で見たコアの無いISと、その隣にはISコアが何かの機械に固定されてそこにあった。


「……母さん、このコアとISは?」

「うふふ。 此方のISは前に見たかと思うけど……イザナギよ。 コアはヒルトが奪還したアラクネのコア」


 説明しながらイザナギに触れる母さん――良く見ると、前回見たときより何やら装備類が増えていて、背部のスラスターユニットが取り替えられたらしく、更に大型化していた。

 機体も気にはなるが、何故ここにコアがあるのかが気になり、俺は口を開く。


「母さん、何でここにコアが?」

「ん? 一応コアを調べてたのよぉ~。 本当は分解したいんだけど、美春ちゃんを見たらそんな気持ちも無くなったから外から解る範囲内で調べてたのよ~」


 机に置いてあったコーヒーを一口飲む母さん――。


「……一応、エネルギーの仕組みはわかったわよー。 エネルギーに関してはその道じゃないけどぉ、とりあえず第二永久機関の体を成すため、特殊なエネルギーサーキットが構築されてるの、まるでメビウスの輪の様にね」


 コアに触れる母さん、触れたコアは僅かに光を放っていた。


「……他だと、コアの材質が特殊なレアメタルと、特殊な製造法で出来てるって事しかわからないわねぇー。 ……あまり知りたくは無いわねぇ、お母さんは。 PPSのコア・エネルギー体とは違うみたいだし……」


 知りたくは無いというのは、ISコアに意識があって美春という存在を見たからだろうか?

 ……まあ確かに、下手に知りたくない気持ちもわからなくはないな、これが。

 あまりコアに関して色々突っ込んでも仕方ないため、今度はイザナギの話題へ切り替えた。


「母さん、何で学園倉庫にあったイザナギがここに運ばれてきたんだ?」

「ん? ……うふふ、とりあえずこの機体の完成も含めて運んだのよぉ。 ……この子、一応ヒルトの新しい機体にって思って」

「え?」


 俺の専用機――だが、俺は既に学園側から用意されている打鉄が――雅がいる。

 今さら雅が居るのに、新しい機体を受理したいという気持ちは湧かない、その思いを、俺は母さんに告げる。


「……母さん、有り難いけどさ……。 俺には今打鉄がある、学園側から用意されてまだ乗った期間が短いとはいえ紛れもなく俺の専用機だ。 それを捨てて新しい機体って事は俺には……」

「……分かってるわよぉ。 ヒルトがそう言うのは、お母さんには分かってたわ。 幾ら乗っていた期間が短くても、貴方の今の機体は打鉄ですものね」


 ニコッと笑顔でそう告げる、せっかく用意してくれていたのだが、やはり雅から乗り換えるのは――と、雅が俺に語りかけてきた。


『……主君、良かったのか? む、無論私は主君が私を選んでくれた事は嬉しい。 ……だが私は、主君に専用改良されたとはいえ、所詮量産型の打鉄……。 主君の事を考えると、やはりここは――』

『……お前で良いんだよ。 雅が俺の事を考えてくれるのは有り難いが、俺は雅が良いんだ。 ……それとも、雅は俺と離れたいのか?』

『……!? そ、そんな訳無いっ! わ、私は……主君をお慕いしてます。 ……だから、主君とはいつまでも共に居たい……のだ』


 最後は掠れ気味の声だが、自分の主張をいった雅、頭を撫でてあげたいが生憎とここは現実世界のため、それは叶わない。


『なら雅、俺に着いてこいよ。 雅が俺の専用機なんだから』

『主君……。 わ、わかったのだ』


 短い返事でそう言う雅、だが声色は非常に嬉しそうに聞こえた。


「とりあえず、機体はこのまま置いておくわねぇ、まだ色々インストールもしないといけないしねぇ~」


 そう言ってまたイザナギに触れる母さん――何度か撫でると、母さんはそのまま近くの椅子に座った。


「ヒルト、お母さんの用事はこれだけよぉ~。 わざわざ有り難うねぇ~」

「あ、うん。 ……そういや母さん、親父が昨日授業の特別講師で来てたんだが、何かは事情知ってる?」

「え? ……うふふ、まあ面接の最終試験みたいなものよぉ。 後、来週の月曜日からここの警備に来るみたいよ? とりあえず、お父さんは基本的にここの学園島全体の警備するみたいねぇ~。 勿論、他の教師も居るけど、お父さんの負担の方が大きいかも? 女尊男卑だしねぇ~」


 そう告げる母さん、親父も例外ではなく、やはり女尊男卑の煽りを受けるのだろう。

 ……そういや、玲に一応ホテルテレシアの事は訊いたが、母さんにも訊いておこうかな。


「なあ母さん、ホテルテレシアのレストランってどんな感じなんだ? 知ってたらで良いから聞かせてほしいんだが――」

「テレシア? ……彼処はねぇ、お客様の前でスタッフを怒るし、ドレスコードもちゃんと把握してないからねぇ……。 テレシア内部に確かショップがあったと思うけど、彼処と共謀してスーツを売り上げてるっぽいのよねぇ……。 女尊男卑になってから、女性は無料なんだけど、男性にはわざわざ高いスーツを買わせる感じだからねぇ。 多分、余程高級な――それも一着数百万はするスーツじゃないと門前払いされるかも……」

「げ……そんな高いスーツを着なきゃいけないのか……」

「因みに、そのショップでスーツを買う場合は安くても十万……。 でも、生地とか見ても明らかにぼったくりな気がするのよぉ……だから、一食食べるだけね、彼処は。 著名人はよく活用してるらしいけど、それは著名な人だからって理由ねぇー。 憶測でお母さん言ってる訳じゃないわよぉ? 確か、先日レセプションで会ったハリウッドスターも其処で食事を摂るって言ってたからねぇ」


 ……憶測なのか憶測じゃないのか、よくわからんがそれよりも母さんが何故にハリウッドスターと普通に話できる間柄なのかが気になる。


「か、母さん、何で母さんは誰かはわからないがそのハリウッドスターと話できる間柄なんだよ」

「……うふふ、彼女とはお友達なのよぉ~。 たまにお母さんも連絡とってるのよぉ、だから先日のレセプションでイギリスの人と話してから彼女と談笑したのよぉ」


 イギリス――その言葉で脳裏に過ったのは先日のニュースでイギリス王家の人と話す母さんらしき後ろ姿の人物……だが、訊けば色々混乱しそうなので今日はこの辺りで止めておこうと思うと俺は――。


「そっか……色々訊きたいけど、そろそろ戻るよ。 もう時間的に今日は訓練出来る時間じゃないし、誰かの模擬戦でも覗き見してみる」

「わかったわぁ。 じゃあヒルト、あまり遅くなっちゃダメよぉ?」

「わかってるって、少し見たら寮に戻ってご飯食べるだけだからな」


 そう言いながらスライドドアの前に立つと、ドアが開く。

 母さんの方へと振り返る――すると、ニコッと笑顔で手を振ったので俺も振り返し、特別整備室を出る。

 廊下は静寂に包まれていて、今日は誰も他に整備室を使ってないのかと思うと、俺は近くのアリーナへと足を運んだ。 
 

 
後書き
シャルもヒルトの部屋へ

とりあえずイザナギが整備室に移されてる 
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