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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第427話】

 
前書き
派遣話 

 
 放課後、場所は武道館、授業も終わって早速剣道部に派遣された俺と一夏――の前に、一夏と篠ノ之だが、ギリギリ反省文を書けたらしく、織斑先生に二人していの一番に届けに職員室に向かって提出したとさっき一夏に訊いた(実際は一夏が一人で話しただが)。

 竹刀の素振りする音と共に武道館に響き渡る女子の声をBGMで訊きつつ、タオルやらスポーツドリンクの準備をし、一夏の手際をチラリと盗み見る。

 やはり家で家事を担当してた事もあり、タオルやらの用意はそれなりに速く見えた。

 ――とりあえず、この後の予定が武道館の清掃の手伝いだったな、終わってからだが。

 メモを確認していると一夏が――。


「ん? ヒルト、メモ何か見てどうしたんだ?」

「さっき言われた内容の確認だよ、一回言われただけで覚えるなんて無理だからな、俺には」

「ふーん、俺はメモ無くても覚えられたぜ、あのくらい」


 ドヤ顔を晒す一夏、例え覚えられても人はふとしたきっかけで記憶の欠落があるのだからメモを録る事自体は悪いことじゃない気がするが――まあ、本人が覚えてるって言う以上、あんまり突っ込んでも仕方ないので放置――と、練習が終わったのか、部長の声と共に身に付けていた防具類を外す生徒達。

 汗が夕焼けの空に輝きを放っていて、早くタオルで汗を拭いたいように見えた。

 準備を終えた俺から先にタオルとスポーツドリンクを目一杯載せたトレイを持って向かう。


「どうぞ、タオルです」

「えー、有坂くんの用意したタオルー? 私は織斑くんの方が良いから向こうにいくー。 ――きゃー、本物の織斑くんだ!」


 キャッキャッとはしゃぐ女子一同が黄色い声援、一夏の周囲に群がると我先にとタオルを受け取っていく。


「こっち! こっちにもタオルちょうだい!」

「はい、どうぞ」


 愛想笑いと共にタオルを手渡す一夏、それを受け取った女子はまるでアイドルと握手でも交わしたかのような嬉しそうな表情を浮かべ、タオルを抱いていた。


「ねえねえ、マッサージってしてくれるの?」


 一人の生徒がそう言うと、一夏は愛想笑いを浮かべながら――。


「そういうサービスはしておりません」


 きっぱりそう告げる一夏に、女子生徒一同唇を尖らせ――。


「ちぇっ。 織斑くんのいけずー」

「たまにはサービスしろー」

「ブーブー!」


 ――等とブーイングをする女子生徒。


「ねえ」

「ん?」


 ふと声を掛けられ、振り向くとオリエンタルな雰囲気を醸し出す褐色肌の女子が面を脇に抱えて真っ直ぐと俺を見据えていた。


「タオル」


 そう一言を発して、手を俺の方へと向けて差し出す彼女に、俺は慌ててタオルを取ると――。


「わ、悪い。 ――どうぞ、タオルです」

「ありがとう」


 一言そう発して、タオルで汗を拭う彼女――褐色に白い胴着のコントラストが、妙に可愛く見えてしまう。

 ――というか、この子ってよく見たら三組の子だな、剣道部に所属していたのには驚きだが……。


「……? 何?」


 俺の視線に気付いた彼女は、不思議そうに俺を眺める。

 俺は慌てて首を横に振ると、小さく「そぅ」と一言発してからスポーツドリンクを受け取り、差されていたストローに口をつけてゆっくりと飲んでいく。

 ――この子、名前何だったかな……確か、臨海学校の時の大広間で見た記憶があるが、名前までは……。


「……セラ」

「え?」

「セラ・アーカニアン」


 短くそう告げる彼女――名前なのだろうか、出身は知らないが良い名前だと思った。


「あ、俺は――」

「知ってる。 有坂ヒルト、一組クラス代表」

「はは、まあそりゃ知ってるよな」

「…………」


 小さく頷く彼女は、またスポーツドリンクのストローに口をつけ、一口それを飲む。

 ――と、元気の良い声と共に、武道館へと入ってくる女子生徒――黛先輩だ。


「やっほー、お待たせ~。 有坂くん、君も傍においで~、取材の件で話があるから」


 手招きして俺を呼ぶ黛先輩、一夏と篠ノ之の二人は一緒に傍に居たため、直ぐに黛先輩の元へと移動した。


「んじゃ、呼ばれたから行くよ。 またな、アーカニアンさん」

「……セラで良い、アーカニアン呼びだと皆疲れる」

「そっか、じゃあまたな、セラ」


 手を振るとそれに応える様に小さく手を振り返すセラ――褐色肌とはいえ、真っ黒ではなくちょうど軽く日焼けした健康的な感じの褐色肌といった感じだ。

 セラ・アーカニアン――その名前を確りと脳に刻み込むと俺は黛先輩の元へと向かう。


「来たわね。 それじゃあ取材の件なんだけど……」


 黛先輩は言いながら持ってきていた手提げ鞄をまさぐり始めるのだが、一夏が口を開く。


「ああ、その事でしたら箒が――」


 そう言葉を口にする一夏だが、黛先輩はそんな事は関係なく言葉を遮ると共に、手提げ鞄からパンフレットを取り出す。


「じゃん! この豪華一流ホテルのディナー招待券二枚が報酬よ。 もちろん、一枚で二人のご招待ペアチケットよ♪」


 人数分のパンフレットを取りだし、篠ノ之、一夏、俺の順で手渡してくる。

 ――のだが、ここのホテル、実はよく知らない、国際的に有名だとは訊いた事はあるのだが……母さんに一度訊いてみるかな。

 そう思いながらパンフレットを眺めていると、篠ノ之がいの一番に言葉を発した。


「受けましょう」


 まさかの肯定の言葉、篠ノ之は絶対断るものだと思っていたのだが……高級ホテルの食事の誘惑にでも負けたのだろうか?

 そんな篠ノ之の言葉に面を食らう一同だが、黛先輩は直ぐに花開く様な笑顔を見せると。


「え、ほんとに? 篠ノ之さん、こういうの嫌かなーって思ったのに」

「いえ、何事も経験ですので」


 さも当たり前の様にそう告げる篠ノ之、だが俺の目には珍妙に映る。

 ――まあ、受けたくなっただけなのかもしれないのでこれ以上深く考えるのを止めた、あまり考えすぎても頭が痛くなるだけだろうし。


「そっかぁ、じゃあ決まりね。 織斑くんもそれで良いよね?」

「あの、えっと……」


 口ごもる一夏に、黛先輩は少しだけ目尻をつり上げると――。


「口ごもる何て、男らしく無いわよ?」

「……っ! わ、わかりましたよ、俺も受けますから!」

「うんうん、やっぱり男の子はそうじゃなきゃね♪」


 若干茶目っ気のある笑みを浮かべる黛先輩を他所に、一夏は男らしく無いと言われてやけくそ気味にそう言い、今はため息を足元に溢していた。


「じゃあ後は有坂くんなんだけど――あのさ、有坂くん? 出来れば妹さんか飯山さん、或いは二人を上手く誘えないかな、モデルの仕事」

「……どうでしょうかね、俺自身は二人を見せ物にしたいとは思わないですが――とりあえず訊くだけ二人に訊いてみます」


 乗り気ではないが、断っても下手すると何度かお願いされる可能性も否定は出来ない。

 そうなると夜の時間の妨げにもなるから、とりあえず訊くだけは訊いてみようと思い、そう返事をすると嬉しそうに頷く黛先輩。


「お願いね? ふふ、実は姉にお願いされてたんだ。 ディナー招待券は二枚しか無いけど……有坂くん、お願いね? じゃあ今度の日曜日に取材だから、この住所にお昼の二時までに来てね、織斑くんも篠ノ之さんも」


 そう言って住所が書かれたメモ用紙一枚を手渡してくる、それに目を通しながら持っていたメモ帳にその住所を書き写すと一夏たちにメモ用紙を渡した。


「それじゃあね~。 有坂くん、妹さんと飯山さんの事、よろしくね~」


 颯爽と現れ、颯爽と去っていく黛先輩はまるで疾風の様だった。

 武道館のドアが閉じる音が聞こえる中、一夏が隣の篠ノ之に。


「箒」

「なんだ?」


 一夏に名を呼ばれて振り向く篠ノ之、だが一夏の目がジト目気味だったのが不満なのか、若干怪訝な表情を浮かべた、そして――。


「主義はどうした」

「……?」


 一夏の言葉の意味がわからず、俺は首を傾げて頭に疑問符を浮かべた、そして、篠ノ之はその指摘に目尻をつり上げると竹刀を持った手をあげると――。


「わ、私は柔軟な物事の考え方をしているのだ! 文句があるか!?」


 ギクッとした表情を浮かべるも、それを誤魔化すように一夏の頬に竹刀の先を当てると力一杯押した――いつも思うが、好きな相手にこんな事をしてて嫌われないと思う篠ノ之の頭の中がどうなっているのかが非常に気になる。


「柔軟な物事の考え方ね、普段は武士に二言は無い的な事言ってた気がするが……」

「だ、黙れ有坂! 柔軟な考え方をして何が悪いというか!」


 若干皮肉に近い言葉に、篠ノ之は普通に怒りを露にした――が、事実、普段は侍だの武士だのと言ってて言い分がコロコロ変わるのはどうかと思う、もちろん改めて考え直した結果で謝るのならわかるが、篠ノ之が頭を下げる所は全く想像出来ないのも事実。

 ――それはそうと、怒りはしたが流石に俺に竹刀を向ける事はしなかった、また反省文――いや、下手すると懲罰室かIS使用禁止令が出るのを危惧したのだろう、一応部活動の真っ最中だし。

 後は部長辺りに念を押されてるか――俺に何かあると一夏の派遣も危うくなるため。

 事実、テニス部には暫く派遣無しの通達が出てる、その事に関してテニス部部長が前に謝罪に来たのだが、一度決まった決定を覆すのは難しいと言うと諦めて戻っていった。

 ――まあそんなに長い間ではないと思うが、時期を見て楯無さんにテニス部の件を伝えようかと思う。

 ――と、そんな考えを他所に、篠ノ之は気を取り直したのか腕組みし、軽く咳払いをすると一夏を見ながら口を開いた。


「こほん。 ところで……だな、このホテルのディナーだが、も、もちろん一夏も一緒に行くのだろうな!?」

「おう。 そりゃ、俺も取材受けるのにディナーに行けなかったら怒るぞ。 てかヒルトも行くんだろ? ペアチケット何だし、せっかくだから皆で食べたいよな」

「…………」


 篠ノ之の意図も知らずにそう言う一夏、貰う分には行くとは思うが、誘うのを誰にするかだな――。

 まあ一夏は皆でって言うが、多分席は離れてるだろう――そうであってほしい、俺としては。

 それはそうと、一夏の言葉が気に入らなかったのか、パンフレットが握り締められ、ぐちゃぐちゃのしわしわになっていた――まあホテル名は覚えたし、場所は調べればわかるだろう――後は母さんがこのホテルについて何か知ってるか訊かないと。

 そう思っていると、いつの間にか周囲に群がる剣道部員達。


「何々、篠ノ之さんってば織斑くんとデート?」

「いいなぁ! 私も行きたいなぁ!」

「あ、このホテルって国際的にも有名な所だ。 へぇ~」


 等といった感じで群がり、しわくちゃになったパンフレットを見る一同だが、一方で一夏や篠ノ之には聞こえないように呟く声も。


「……一学期ずっとサボってたのに、良いご身分よねぇ……」

「……中学の部、全国優勝だから特別扱いなのかしら……」

「……それもあるかもしれないけど、やっぱり篠ノ之博士の妹だからかも……。 ……身内ってだけで専用機ってズルいよね、私なんか結局三年間訓練機使って結果が出なかったもん……。 ……はぁ……」


 主に上級生らしき生徒からの不平不満が耳に届く、勿論これは一夏や篠ノ之には聞こえていないが。

 そんな上級生の愚痴を他所に、篠ノ之は顔を赤くしながら――。


「こ、これは、その……別に、で、で、デート、とか……そういうのではなくてだな!」

「へ~」


 一部関心が無いのか、棒読みが混じっている子も居た。

 そんな中、遠巻きに一団を見る女子が――さっき話したセラ・アーカニアンだ、俺は群がりから抜け出ると、彼女の元へと向かう。


「セラさんは興味ないのか?」

「うん、篠ノ之箒が織斑一夏と付き合ったとしても私の人生に何らかの影響を与えるとは思わないし」


 冷めた言葉で言いつつ、自身の防具類を片付ける彼女、だが――。


「でも、貴方には興味ある」

「俺に?」

「うん」


 じぃーっと真っ直ぐ見据えるスカイブルーの瞳、まじまじと俺の表情を見る彼女に疑問符が浮かぶが――。


「……ヒルトって呼んでもいい?」

「え? あぁ、呼び方に関しては基本的に何でも気にしないからな、まあ流石に馬鹿とかは嫌だが」

「じゃあヒルトって呼ぶ、だから貴方も私の事は呼び捨てにして構わない」

「ん、了解」

「…………」


 俺の返事に頷くと、彼女は着替えるために更衣室へと入っていった。

 今なお一夏や篠ノ之の周囲に群がる剣道部員、少し離れた位置から愚痴を溢す上級生とは違い、自分のペースのセラ、彼女の印象の方が残ってしまった。

 そうこうしている内に部活動も終わり、それと同時に派遣も終わったので俺は早速夕食を摂ろうと寮の食堂へと向かった。 
 

 
後書き
この褐色肌の新たなモブ、実は臨海学校の夕食時にちらっと短い文で言ってたりする、名前無いが(ぇ

モッピー知ってるよ。
人気者だから皆が私に群がるって事。

    _/⌒⌒ヽ_
   /ヘ>―<ヘヽ
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