IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第574話】
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次は屋上――相手は簪だ。
「やっと……私の番。 ヒルト、おなか、いっぱい?」
「いいや、まだ許容範囲内だぞ?」
「そう……。 でも、念のため軽めに……」
そう言いながら簪はウエハース風の菓子パンを取り出した、携帯性は良さそうだ。
「ヒルト、疲れた体には糖分……」
「ありがとう。 糖分か……親父も言ってたな。 疲労回復には甘いもの、糖分が入ったものが良いって」
「うん。 ……糖分を摂れば、とうぶん困らないもの」
……ん?
屋上だからだろうか、風が冷たく感じた気がした。
一方の簪は、顔を赤くしていた。
「そ、そんなことよりも! ……ウエハース、食べて……」
「あぁ」
サクサクのウエハース風の菓子パン、一口かじる。
口内にウエハースの甘味が広がるも、口がパサパサに――これは菓子パンだから仕方ないだろう。
「ヒルト、これも」
まだ顔の赤い簪、バッグから小瓶を取り出すと俺に手渡した。
その小瓶の中は、ラベル越しでもわかるぐらい蛍光ピンクで光っていた。
「……簪、これは何だ?」
「私が……今、開発中の、スーパーエナジーゲル三号『どっこらショット』……詳しくは、Webで……」
ネーミングに疑問を抱く俺だが、簪はそれよりも空中投影ディスプレイを取り出すのに夢中だった。
そしてディスプレイには簪が作ったWebページが表示され、項目をタップすると――。
「じりじりじりーん、じりじりじりーん。 朝だー朝だよー新しい朝だー。 あわわ、寝坊しちゃった。 ご飯を食べる時間もないよう。 でも大丈夫、こんな時は更識印のスーパーエナジーゲル三号『どっこらショット』をスプーンで一杯。 ごっくんごくん。 わー、一日の必要栄養素、必須アミノ酸、カロリーがこの一杯で。 すごーい、おいしーい。 まずは食べてみて」
「…………」
非常に、非常に残念だ――。
開かれたWebページ、ディスプレイに映し出された簪が自身をモデルにしたパペットを使って一人芝居しているのだ。
棒読みに無表情、見ているだけで非常に残念な気持ちにさせられる。
だが簪は自信があるらしい。
「今度、企業に売り込みをかけようと……思って……頑張ったの」
……頑張ってあの出来ならどうしようもない。
頭を抱えそうになる俺だが――。
「む、報われるといいな」
まあ、俺は絶対売れないと思う。
簪には悪いが、これを見た人は購買意欲がわかないのが見える。
「……ヒルト、食べてみて」
「え?」
思わず聞き返す俺、だがどうやら食べなきゃ逃れられない様だ。
小瓶を開けて中を見る――ラメでも入ってるのかキラキラ輝いている。
受け取ったスプーンで軽く掬うと蛍光ピンク色をした『ソレ』は糸をひいて陽光の元に姿を現す。
明らかに体に害しかなさそうな色、高カロリー、栄養素? 必須アミノ酸? なにソレ美味しいの? と言わんばかりソレは主張している。
俺は、不味くても食べる。
だが明らかに体を壊しそうな物は拒否したい、理由は体が大事だから。
だが隣の簪真っ直ぐ俺を見つめていた、世界は残酷だ……時に迫られた選択肢が一択しかない、そんな状況に俺は追い込まれている。
プルプル震える手、簪の真っ直ぐな眼差しに覚悟を決めた。
「……イタダキマス」
鏡を見た皆はこう言うだろう――ヒルト、目が死んでない?――と。
かつてない程の棒読み、俺はソレを口に入れた。
一気に広がる甘味――否、甘味なんてレベルじゃない。
「ヌァアアアアッ!? な、なあぁぁあああっ!? 甘過ぎ!! うぉぉおおっ……」
この甘さは体に悪すぎる――だが簪は。
「糖分は、大事……」
どんなに糖分が大事でも、過剰摂取は毒だ。
今なお溶けていない砂糖が舌の上でジャリジャリいっている。
「と、糖分は……当分こりごり、だ」
「……ぷふっ!」
別に笑わせるつもりで言った訳ではないが、簪には受けた様だ。
彼女の笑いのツボは、多分一夏といい線かもしれない。
ここで時間が来たのかまた携帯が震えた。
「じ、時間だ……。 じ、じゃあな簪」
ふらふらしながら俺は屋上を後にした。
「……ヒルトには、甘過ぎたかな。 ぱくっ」
一口食べる簪――ヒルトが使ったスプーンで食べてる簪。
その事実に気が付くと、一人静かに頬を染めるのだった。
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