IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第578話】
最後の相手、未来の元に向かう俺は駆け足だった。
昼休みの大半、走ってたイメージしかないが……。
場所までたどり着くと、体操着を着た未来は柱に凭れ、俺を待っていた。
「未来、お待たせ」
「あっ。 ううん、待ってないよ? って言っても、実は私はもう食べちゃったけどね」
それは仕方ない、未来は最後だし午後からも競技はあるのだから。
「ヒルト、お腹の調子はどう? いくらヒルトが食べれるって言っても流石に厳しくない?」
「ははっ、まあ昼から動くのがヤバいかも、なんて」
まだまだ容量はあるものの、動けなくなるぐらい食べるのは不味い。
そこで未来は――。
「ヒルト、市販品だけどこれなら大丈夫じゃない?」
未来が俺に手渡したのは簡単にエネルギー補給が出来るゼリー状の飲料だった。
「手料理はまた作ってあげられるもん。 でも昼からヒルトが動けないってなるのはまずいしね」
「ん、サンキューな」
受け取った飲料を飲む――ゼリー状の物体が喉を通り、胃に収まっていった。
「未来、とりあえず空いた時間どうする?」
「え? ……ヒルトが少しでも寝たいなら、横になってもいいよ?」
柱に凭れた未来はそのままその場でぺたんっと座る。
そして、軽く腿を叩くと。
「膝枕、してあげよっか?」
「そうだな。 せっかくだし、してもらおうかな」
言葉に甘え、未来の膝の上に頭を置くとそのまま横になった。
未来もだが、下から覗き見る巨峰の絶景は格別だった。
「ん……絶景だな」
「……? 何が絶景なの?」
頭を傾げ、覗き込む未来だったが言葉の意味を理解すると顔を真っ赤にして――。
「ば、バカじゃないの!? ヒルトのエッチ!!」
ぺちぺちとおでこを叩かれるも、未来は膝枕をしてくれる。
「良いじゃん……俺だけの光景なんだし」
「むぅ……。 ……他の男の子にこんな事は出来ないし、確かにヒルトだけ……かな」
耳まで赤くした未来が可愛く見える、セミロングの黒髪は陽光を浴びて艶やかな光を放っていた。
「未来の黒髪、綺麗だよな。 何か特別な手入れしてるのか?」
「え? いきなりだね? ん~、皆と同じ様にシャンプーしてるぐらいだけど……」
「そうなのか? セシリアみたいに特注のトリートメント使ってるとかは?」
「全然使わないよ? 私は既製品で充分だし。 ……てかヒルトだって銀髪綺麗じゃん」
髪を解かすように撫でる未来、撫でる手のひらが心地よかった。
「そうか? ……本音いえば、日本人だし黒髪が良かったけどな。 ほら、俺この毛色で度々問題になってただろ?」
IS学園では問題にならないが、小学校や中学校は度々問題になっていた。
黒染めで染められかけた事もあったが、一応解決してきた。
「まあ、日本の学校は厳しいからね? ……ふふっ、何だか懐かしいな。 小学校なんて四年前まで通ってたのにね?」
懐かしむ未来――小学校は確かに楽しかったな。
とはいえ、やはり女尊男卑になってからは力関係が変わったが。
正直、ISが発表されて直ぐに男女の力の差が逆転したのには違和感しかない。
でも、今はそれが罷り通る世界だ――。
「……ヒルト? 難しい顔してるけど……」
「あ、あぁ。 ちょっとな」
「……ふふっ」
柔らかな笑みを浮かべ、未来は俺の頭を撫で続けた。
「……もう午後の部が始まるな」
「そっか。 ……うぅ、確か最初の一発目がコスプレなんだよね?」
「そうだな、そう聞いてるよ」
「はぁ……コスプレとか憂鬱だよ……」
未来自身、コスプレが嫌なわけではないが、それが人目に晒されるのが嫌なようだ。
「代表者がコスプレだもん。 ……うぅ、やっぱり私になりそう……」
「ははっ、嫌ならセラ辺りに頼んでみるか?」
「……ううん、それは流石に……ね?」
人にさせるなら自分がというのが未来らしい。
「じゃあやるしかないな」
「うぅ……。 せ、せめてまともな服なら良いんだけど……」
期待は薄いかも……そう小さく溢した未来、しかしコスプレ何て誰が考えたのやら。
毎年してるにしても、需要があるのかが分かりにくい――理由を挙げるとここが今年、俺や一夏が来るまで用務員さんしか男が居ないからだ。
まあ、可愛い格好が好きな子はいるからそういうのが目当てって事もなきにしもあらずって感じかもしれない。
二人で話をしてると、終わりの時間がやって来た。
「そろそろ昼休みも終わりだな」
「うぅ……。 憂鬱だよ……」
「いくら憂鬱になっても、コスプレからは逃れられないさ」
「むぅ……。 ヒルトは他人事だから良いんだよ。 ヒルトもコスプレすれば良いんだよ、着ぐるみ着るとか」
少し不貞腐れてるのか未来はそう言う――身体を起こし、俺は不貞腐れていた未来の唇を塞いだ。
「んっ……!?」
いきなりの事に身体を硬直させた未来、何度か軽く口付けを交わすと――。
「ほら、これで元気が出ただろ?」
「うぅ……ば、バカ! 不意討ちなんて、誰が見てるかわからないんだよ!? て、ていうか、私が元気になるよりもヒルトの方が元気になるじゃん!」
顔を真っ赤にする未来、怒るだけの元気が出ただけ良かったかもしれない。
「ははっ、じゃあ昼からは頑張れよー」
「こ、コラー! 待ちなさいよ、ヒルト!」
脱兎の如く逃走する俺、一人残された未来は一応周囲を確認した。
「み、見られてなかった……よね? ……ほっ……」
大声をあげるも幸か不幸か誰にも気付かれてなかった。
ソッと唇に触れる未来――クスッと一人微笑むとさっきより元気になったのか駆け足でグラウンドに戻っていった。
後書き
一応未来で終わりと見せかけて、楯無さんが残ってた
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