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IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》

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【第599話】

 夕方、時間はあっという間に過ぎ、俺と刀奈はアーケード街を歩いている時だった。

 突然携帯を取り出した刀奈、普段使う携帯とは違うタイプの携帯だった。


「……もしもし。 ええ。 ……ええ、そう……わかったわ。 今すぐ向かいましょう」


 電話をする刀奈の表情は真剣そのものだった、通話を切ると刀奈は振り向く。


「ヒルトくん、ちょっと急用が出来ちゃったの。 デート、楽しかったわ。 じゃあまた学園でね?」


 一方的にそう告げて立ち去ろうとする刀奈の手を咄嗟に掴む。

 驚きの表情を見せた刀奈――。


「事情はわからないんですけど……俺じゃ、力になりませんか?」

「え? ……で、でも……」


 俺の中の直感が告げる、刀奈は何かを一人で行おうとしている。

 ……先日の襲撃事件だって拐われかけたのだ、この人は一人にさせたら永遠に会えなくなる――そんな予感がした。

 戸惑いを見せる刀奈に俺は――。


「……迷惑ならそう言ってください。 ……でも俺は、貴女の力になりたい……」

「ヒルト、くん……」


 一瞬迷いを見せた刀奈――だが頭を振り、俺を見つめた。


「う、うん……。 ヒルトくん、手伝ってくれる?」

「もちろん。 何てったって、生徒会副会長ですからね、俺は」


 おどけてそう告げると小さく笑い「ふふっ、何それ?」っと笑顔になる刀奈。

 詳細は知らされず、俺は刀奈に付き従ってIS学園から近い臨海公園に向かった。

 到着した臨海公園には人が一人も居なかった、というか制服のまま来たのだが良かったのだろうか。


「ヒルトくん、下にISスーツは着てるかしら?」

「え、ええ。 てか朝からそのままでしたからね、一昨日のままISスーツっす。 正直着替えたいけど……」


 流石に何日も着たいとは思わない俺だが、刀奈は気にする事なく頷く。

 しかし……連れられた臨海公園に誰も居ないのは違和感を感じる。

 だがそれを今気にしても仕方ないので俺は目的地を聞いた。


「それで、何処に行くのですか?」


 そう聞いた俺に、刀奈は笑みを浮かべて水平線を指した。


「海……?」

「ええ。 ここから約三〇キロ、太平洋に停泊しているアメリカ国籍の秘匿空母、今回は其処に潜入するの」


 そう告げる刀奈――国際問題になりかねない、不法侵入行為を行うのだ、謂わば犯罪行為。

 だが刀奈がむやみやたらに犯罪行為を行う人間じゃ無いことは理解している――それに、力になりたいといった手前、投げ出すつもりもなかった。


「わかりました。 ところでどうやって離れた空母に向かうんですか? IS使用は不味いですし、まさか泳ぐわけにもいかないですから」

「うふふ、ちゃんと用意してあるわよ」


 そう言って近くの茂みからアタッシュケースを取り出した刀奈、二つある内の一つは俺に渡された。

 というか、あらかじめ二人分用意してたのだろうか。

 中を開けるとウェットスーツに足鰭、シュノーケルにボンベと一式あった、しかも本格的なタイプだ。


「ヒルトくん、制服はここで脱いでそれに着替えて」

「了解です」


 手早く脱ぎ、俺はISスーツの上からウェットスーツを着、足鰭、シュノーケルにボンベを担ぐ。

 刀奈も同様に制服を脱ぎ捨てるとウェットスーツに着替えた――もちろん下はISスーツだ、残念何かじゃない。

 しかし――この格好だと泳いで行くような気がしなくもないのだが。


「ヒルトくん、この下に個人用小型潜水器があるの、それを使って行きましょう」

「わかりました。 ……てか使い方わからないんですけど――」

「うふふ、難しくないわよ? 簡単にレクチャーするから、お姉さんを信じなさい」


 笑顔でそう告げる刀奈――なんとかなるだろうと思い、割りきる。

 ペタペタとペンギン歩きする俺と刀奈――足鰭は非常に歩きにくい、何とか柵を乗り越え、桟橋から海へ着水。

 海中には二基の小型潜水器があった――刀奈は潜ると、ハンドサインで俺に合図をした。

 俺も潜る――海中にはやはり魚の姿が見え、海底に沈むテトラポッドから魚の群れが現れた。

 プライベート・チャネル通信が届く――刀奈からだ。


『ヒルトくん、私の隣の小型潜水器を使って。 使い方はこのまま教えるわ』


 チャネル通信を繋いだまま、刀奈のレクチャーを受ける俺――前も思ったが彼女は説明が上手だ、バカの俺にも分かりやすく説明してくれる。

 一通りの説明を終えた刀奈――チャネル通信は繋いだまま告げる。


『ヒルトくん、道案内は私に任せて。 夕方でも海底は暗いから見失わない様に。 ……じゃあヒルトくん、行くわよ!』


 そう言って先行する刀奈、俺も後を追うように小型潜水器を稼働させて後を追う。

 深度約三〇メートル――海上から注ぐ夕陽で何とか見失わずに済むも、ちょっとでも目を離せば刀奈を見失いそうで不安だった。

 静寂が包む海底――通り過ぎる魚群、時折鮫も見るが興味がないのか通り過ぎるだけだった。


『ヒルトくん、平気?』

『ははっ……ぶっちゃけると物凄く不安ですよ。 ……どれだけ進んでも景色は変わらないですし、刀奈を見失ったらって……』

『……ヒルトくんもそんな一面、あるのね?』

『もちろんですよ……。 ……だから、必死に見失わずに着いていきますよ』

『うふふ、偉い偉い。 もし不安だったら暫くお姉さんとお話しましょうか? 予定時間では後一時間ほどって所だし』


 一時間――それは長旅だ、不安な気持ちを押し殺し、俺は刀奈と会話を選んだ。


『刀奈の家って、どんな所ですか?』

『え? ……んと、昔ながらの日本屋敷よ? つい先日もテレビに取り上げられたばかりかしら? ほら、『今日の豪邸』って特集』


 そういえば――夕方辺りにそんな特集をしてるニュース番組があった気がした。


『……テレビに取り上げられるぐらい有名なんですか? はは……ちょっと萎縮しそうっす』

『あら、大きいだけの屋敷よ。 良かったら一度遊びに来なさい、歓迎するわよ』

『そうですね、近い内にお願いします』

『ええ、勿論よ』


 そんな約束を取り付けた俺――一方の刀奈はテンパっていた。

 何しろ好きな男を家に呼んだのだ、キスは済ませてあるのだからもしかしたらもしかするとそれ以上の事をするかもしれない。

 ブクブクと泡が漏れる刀奈――それを見ていた俺は首を傾げる。

 深度約二〇メートル――臨海公園から約二八キロ辺りの地点。

 他愛ない会話を続けながら秘匿空母に向かう俺と刀奈――二九キロ地点に達した辺りで刀奈は告げた。


『ヒルトくん、そろそろ小型潜水器の燃料は無くなるわ』

『え? ……帰りはどうするんですか?』

『帰りは空母から小型潜水器を貰うわ。 泳いで帰りたくないし、IS展開したら日本、アメリカのISに囲まれちゃうもの』

『うげ……じゃあ何にしても、空母に潜入したら探さないとダメですね』

『ええ』


 そうこうしてると小型潜水器のスクリューが止まる――元々使い捨てだから気にしなくていいとは言われたが……既に小型潜水器から離脱した刀奈を追い、俺も小型潜水器を捨てて海面へと泳いでいく。

 ウェットスーツを着た刀奈を見失わない様に着いていき――海面から上がると少し離れた場所に空母が停泊していた。


「さあヒルトくん、彼処までは泳いでいくわよ」

「了解っす。 てか潜水して行きましょう。 ……波が――わぷっ」


 若干波が高く、下手したら辿り着けない気がした。

 刀奈は同意するとシュノーケルを咥わえ、潜った。

 俺も同様に潜る――海上は波が高いが、やはり海中は影響がなかった。

 暫くすると錨が見えてくる――錨付近で海面へと出ると、残り少ない酸素ボンベを捨てて俺と刀奈は空母へよじ登っていくのだった。

 その少し前、空母に着艦する一機の機影――鮮やかな着地と共に周囲を確認していた。


『あれ? 出迎え無しかよ……。 おーい、誰か居ないのかー』


 甲板の上でのチャネル通信を介した呼び掛けに誰も答えない。


『かぁぁっ、着艦許可ももらってるのに誰も出迎えないのかよ……って、お?』


 集音装置が誰かの足音を捉えた――姿を現したのはイーリス・コーリングだった。

 未確認機の確認に上がってきたイーリスだったが、見慣れた機体だったこともあり、警戒を解いた。


『よぉ、ジャックや司令は居ないのか、イーリス?』

「アタシもさっき着いたばかりなんでな。 良かったら艦内に入らないか? ……有坂陽人」


 そう言ったイーリス――漆黒の機体のフルフェイスヘルムが透けて有坂陽人の顔と首が現れた。

 ISの部分展開とは異なる技術クリアモード――PPSを纏ったまま姿を現す事が出来る。

 身体全体が姿を現した有坂陽人、断る理由もなく陽人はイーリスと共に艦内へと入っていった。 
 

 
後書き
原作だと泳いでいくという脳筋仕様だけどちゃんと此方は用意してますぜ( ´艸`) 
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