IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第570話】
午前の部が終了し、今は昼休憩の時間。
次の競技は何でもコスプレ生着替え競争という誰得仕様の競技らしい。
まあ女の子が可愛くコスプレするなら構わないが、中継されてるんだから親御さん見たら泣きそうな気もするが。
「会長、此方です」
「えぇ、ありがとう」
「やれやれ、やっと入ることが出来たか……」
声が聞こえるので何事だろうと覗き見ると、明らかに外部からのお客が親父に案内されていた。
若い女の人一人を除いては後はおっさんが五人程――何の集団だと疑問に思うが、それよりも腹が減って死にかけてる事に気付いた俺はその場を後にした。
絶好の運動会日和の天気という事もあり、上級生含めて皆外で食べていた。
特にここ、学園外縁部にあるリラクゼーション・エリアは人気が高く、備え付けのベンチで食べてる子も居れば芝生にシートを広げて食べているグループも居た。
「あっ、有坂くーん! さっきは凄かったよー!!」
俺に気付いたグループの一人が手を振ってくれた。
何が凄かったかはわからないものの、無視しては意味がないので手を振り返し、俺は歩く。
「……そういや、俺飯作ってなかったな」
まさか昼抜き――そう思った矢先、背中に何かが乗っかってきた、それとは別な声も聞こえてくる。
「ヒルトっ、見つけたわよ♪」
「ヒルトく――」
「ん?」
乗っかってきたのは鈴音だ、相変わらず身軽に乗っかってくるなと思っていると。
「ほら、わざわざあたしが捜しに来て上げたんだから。 感謝しなさいよ、感謝」
そんな事を言ってくる、それはさておき――もう一人の声の主である楯無さんは佇み、何だか羨ましそうに此方を見ていた。
「楯無さん。 良かったら一緒に行きませんか?」
「え? ……そ、そうね。 お邪魔しようかしら」
さっきまでと様子が違い、楯無さんは複雑な表情を浮かべ、視線を地面へと落としていた。
「じゃあ行きましょう、楯無さん」
「あ……」
自然な形で俺は楯無さんの手を取る――気恥ずかしそうに視線を逸らした楯無さん。
背中に乗っかってる鈴音はそれが面白くないらしく――。
「ほら! 早く行かないと首を絞めるわよ!!」
そう言って首に腕を回してチョークスリーパーを決めてきた鈴音。
首が絞まる中、俺は楯無さんを連れてリラクゼーション・エリアを歩いていく。
少し歩くと大きめのシートの上に皆が集まっていた――とはいえ一夏はいないが。
「あ、お姉ちゃん」
簪が先に気付いた、楯無さんは何故かばつが悪そうな表情を浮かべた。
「てか一夏は居ないんだな」
「織斑くんなら、さっき何かおじさん達に囲まれてたよ?」
美冬がそう言った、おじさん――さっき見た謎のおっさんの事だろうか?
居ないなら居ないで構わないが……箒は何も思ってないのだろうか?
それよりも――。
「鈴音、そろそろ降りないか? てか何で背中に乗ってるんだ?」
「ん? ……あ、あんたの背中、見晴らしが良いからに決まってるじゃん!」
鈴音はそう言うが、正直健康的な太ももに触れていると邪な気持ちを抱きそうだった。
改めて皆を見る――普段は制服だが今日は運動会という事もあり、皆が体操着を着ている。
眩しいプロポーション、たわわに実った二つの巨峰(一部枯れた平原)、ブルマ故の肌の面積の広さ等明らかに思春期男子の目の毒だ。
無論俺自身、既に身体を重ねてる子もいるが、それとはまた話が違ってくる。
「しょうがないわねぇ。 不本意だけど、降りてあげるわよ」
そう言い、背中から軽やかに飛び降りた鈴音、しなやかな仕草を見るからに前世は確実に猫だろう。
「相変わらず身体能力高いな」
「ふふん。 それほどでもあるわよ」
無い胸を張る鈴音、とはいえ以前よりは僅かに膨らみが増した様に見えた。
枯れた平原――本人に言えばぼこぼこにされるだろうが、実際に揉んでみるとちゃんとその膨らみは有り、柔らかな感触が堪能出来るのだから女の子は不思議だ。
「それよりもお兄ちゃん、いつまでも立ってないで座らないと。 楯無さんも、一緒に食べましょ?」
痺れを切らしたのか美冬が手招きし、俺と楯無さんを座らせようと促した。
「え、えぇ。 でも、私二年だし……」
いつもなら遠慮しない楯無さんが遠慮しているので俺は――。
「二年とか関係ないですよ。 ほら、一緒に食べましょ? 楯無さん、料理上手だから楽しみでもあるんですよ」
事実彼女の料理は美味しい――勿論作ってくれる子皆美味しく作れる。
セシリアも俺が夏休みや時間がある時に指導してからメキメキ技術をあげている、だから不安などない。
「そ、そうかしら?」
褒められて照れくさそうにする楯無さん、そんな姿も凄く可愛かった。
それはさておき、よく見ると大きめのシートに様々な弁当が並んでいるが、その弁当が座る場所を占拠していた。
「楯無さん、座ってください」
「え? で、でもヒルトくんの座る場所――」
「俺は――ん、ハンカチ敷いて其処に座ります」
空いてるシートがあるなら楯無さんを優先――女尊男卑だからではなく、やはり芝生にハンカチの上よりかはそちらの方が良いだろうし。
「楯無さん、どうぞ。 んで俺はハンカチ――あれ?」
楯無さんを座らせて俺もハンカチを敷こうとジャージのポケットを探るが、どうやら肝心のハンカチを忘れてしまった様だ。
「む。 ……君、私ので良ければ使ってくれないか?」
「え?」
そう言ってエレンがハンカチを手渡してきた。
簡素な物だが、大事に使われてる様にも見える。
「エレン、良いのか?」
「ああ。 死んだ母の形見だが、君に芝生の上に座らせるわけにはいかないさ」
さらっと形見の品だとか言うエレンに、俺は――。
「ば、バカ! そんな大事な物、俺の尻に敷かせる訳にはいかないだろ!」
「む? バカとは何だ――いや、それよりも……やはり君をそのまま座らせるわけにはいかない」
一瞬表情を変えたエレンだが、俺がハンカチを受け取らないとわかると困ったように頭を傾げた。
――と、楯無さんが扇子を取り出すと口を開いた。
「このままじゃ埒があかないし、こうしましょう。 ヒルトくんが座れないなら、各自持ち時間を設け、ヒルトくんと二人で昼食をとるのはどうかしら?」
何故いきなりそうなるのか、頭が痛いものの反対する者はいない所か賛成する者が多数居た。
「名案ですわね、一時とはいえ、こうしてヒルトさんと二人っきりで食事を食べられる機会は少ないですもの♪」
手を合わせ、嬉しそうにそう喋るセシリア――というか、人数が人数故に俺が大変なんだが。
そんな俺の考えを他所に、目の前の女の子達は誰が先に一番をとるかじゃんけんを始めた。
その光景に満足そうに頷く楯無さん、だが何処からか携帯を取り出すとその画面を見て、軽くため息吐きつつシートから立ち上がった。
「楯無さん、どうしました?」
「え? えぇ、少し別件の用事が出来たの。 私と一緒に食べたい気持ちはわかるけど。 ヒルトくん、またの機会にね」
そう言って楯無さんは携帯で連絡を取るためかその場を後にした。
「ヒルト、何処見てるのか知んないけど――最初はあたしと一緒に食べるわよ!」
「え?」
振り向く俺、するりと腕を取る鈴音は俺がちゃんと靴を履く前に引っ張っていく。
どうやら最初は鈴音と食事の様だが……。
少し歩き、リラクゼーション・エリアに空いていたベンチがあったため、鈴音は其処に腰掛けると持ってきていた弁当箱を自信満々に開いて見せた。
「じゃっじゃーん! 今日はね、鶏肉とカシューナッツの甘辛炒めよ!」
「甘辛炒め? 美味しそうだな」
「ふふん、ヒルト。 美味しそうじゃなく、美味しい! のよ」
腰に手を当て、ウインクする鈴音――小さくツインテールも揺れた。
中華料理屋の娘だから勿論期待して良いだろう――一夏もちゃんと気持ちに気付いてやれれば、美味しいご飯にありつけたものの。
とりあえず俺もベンチに腰掛け、早速頂こうと箸をとろうとするのだが――。
「せっかくだし、あたしが食べさせてあげるわよ」
俺が箸を取る前に鈴音は箸を掴み、そのまま鶏肉を一つつまんで俺の口元へと運ぶ。
「はい、あーん♪」
手で受け皿を作り、向日葵の様な眩しい笑顔を向けた鈴音。
快活で元気一杯、料理上手――胸こそ小さいが、少なくとも彼女は尽くしてくれそうな気がする。
せっかく口元まで運んでくれてるという事もあり、俺は口を開くと鈴音は嬉しそうに口の中に入れた。
咀嚼――自信満々と本人が言うだけあって無論美味しい、だが少し不安なのか鈴音は俺の反応を伺うように覗き見ていた。
「うっ!?」
「え!? ち、ちょっと、どうしたのよ!? ……あっ! その手には引っ掛からないわよ、どうせその後旨いって言うんでしょ?」
見破ったわよと云わんばかりの表情を浮かべた鈴音。
「ゴホッゴホッ!」
「え? 演技じゃないの!? わ、わあっ、お茶、お茶飲みなさいよ!」
慌てた様に水筒からコップにお茶を注ぐ鈴音――其処で俺はニヤリと表情を浮かべた。
「何てな。 旨かったぞ、鈴音」
ケロッとした表情で俺はそう告げると、徐々に顔を赤くし、目尻を吊り上げながら――。
「ば、バカ! マジで心配したじゃん! ヒルトのバカバカバカァッ!!」
ポカポカと肩を叩く鈴音に、俺はしてやったりと満足そうに頷いた。
鈴音も本気で怒ってる訳ではなく、騙された恥ずかしさで顔を赤くしていた様だ。
「もう……今度騙したら、怒るからね? はい、あーん」
「んぐっ。 モグモグ……」
鈴音に食べさせられ、頷く俺――幸いにも他の生徒がいない状況。
自分が食べるよりも鈴音は俺に食べさせる事に夢中な様だった。
四個目の鶏肉が口内へと入る――軽く咀嚼し、俺は鈴音の方へと振り向いた。
軽く頭を傾げた鈴音に、俺は――。
「え――んむっ……!?」
口内に鶏肉を入れたまま鈴音の唇を奪った。
硬直した鈴音は、俺にされるがまま――咀嚼して小さく咬みきった鶏肉を口移しで鈴音に食べさせる。
「鈴音、美味しいか?」
「……ぅ、ぅん。 ――じゃ、じゃなくて! いきなり何すんのよ!!」
「嫌だったか?」
「い、嫌なわけ……ないじゃん。 ……で、でもでも、外じゃ誰が見てるかわからないじゃん! ヒルトの……バカ……」
本当に恥ずかしかったらしく、両手で顔を覆う鈴音。
「鈴音」
「な、何よ……」
「ごちそうさま」
「……ば、バカ」
そんな甘酸っぱい空気の中、もう一摘まみ鶏肉を食べると、携帯に入っていたメールを確認し、二人目――セシリアが待つ学食カフェへと向かった。
「ヒルトのバカ……。 えへへ……」
残された鈴音はそっと唇を指でなぞると鶏肉の甘辛炒めを食べるのだった。
後書き
後半は鈴音が可愛く( ´艸`)
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