IS【インフィニット・ストラトス】《運命が変わった日》
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【第577話】
「次は芝生広場か。 ……ラウラだな、後はシャルと未来か。 ……てか未来、じゃんけん弱かったのか?」
駆け足で向かう、エレンの唇の感触が未だに残っている。
出会って間もないのに彼女にキスした俺は、明らかに不味い奴だ。
とはいえ、正直理性が保てない――美冬でまた色々刺激され過ぎた。
芝生広場へたどり着き、ラウラの姿を探す。
暫く歩くとラウラが居た――後、シャルも。
「ん? 何でシャルも居るんだ?」
疑問を口にする、言い方が悪かったのかシャルが悲しそうな表情を浮かべた。
「ぼ、僕が居たら……迷惑……?」
「違うって。 今の時間はラウラとだろ? シャルはこの後だから。 だから迷惑だとか思ってないからな?」
そう言うとホッと胸を撫で下ろすシャル、ラウラはじぃーっと俺を見ていた。
「んと、あのね。 僕が提案したんだけど、折角ならラウラの時間と僕の時間を合わせて一緒に過ごす方がいいかなって思って」
二人が良いなら俺自身は構わないが――ラウラに視線を移すと。
「私に異論はない。 ヒルトと過ごす時間が延びるのであれば断る理由はないからな」
ラウラの表情を見るに不満とかはなさそうだ。
「んじゃ、三人で食べますか。 そういやラウラは何を作ったんだ?」
「つ、作った訳ではないがこれを用意した!」
そう言って大きめのバッグから取り出されたのは軍用レーションだった。
「これって、レーションだよな?」
「うむ、我がドイツ軍の由緒正しき軍用レーションだ!」
由緒正しいレーション、ライ麦パンやソーセージの入ったスープなどのセットが見える。
「レーションか、各国個々に開発されてるが……ドイツのも味が良くなってるらしいな」
「無論だ。 食は兵士の士気に関わるからな」
腕を組み、頷くラウラだがシャルは――。
「ラウラ……折角ならラウラも手料理作らないと」
「そ、それはわかってはいるのだシャルロット。 ……だが、肉が用意できなかったのだ……」
しゅんっと項垂れるラウラ――肉の入手は手間ではない気がするが……。
「因みにラウラ、何の肉を調達しようとしたんだ?」
「そ、その……だな。 ……へ、ヘビの……肉だ……」
ヘビ肉――まあ食べられない事はない。
実際親父とのサバイバル野宿の時は食わされたものだ。
まあ、普通の女の子なら選ばないものをチョイスする辺りはラウラらしいと思う。
レーションを用意したラウラだが、湯を暖めたりすると時間が掛かる。
勿論缶詰めなら直ぐにいけるが――スープ類は流石に火を通したい。
俺はシャルに視線を移した。
それに気付いたシャルは後ろに隠していたバスケットを用意した。
「僕が用意したのはこれだよ?」
バスケットを開くと、中には彩り鮮やかなフルーツが姿を現した。
しかも大半が動物を模していた。
「へぇ、ウサギりんごか」
「うん。 オレンジねこさんやキウイくまさんも居るんだよ。 それからね、ブルーベリーパイいぬさん」
そう言って動物を模したフルーツを出すシャル。
せっかくだからこいつらに名前をつけて心の中で呼ぼう。
ウサギりんごにはレイニー、オレンジねこにはにゃん次郎、キウイくまにはクマ太郎、ブルーベリーパイいぬにはいぬきちだ。
勝手に命名する俺を他所に、シャルは水筒のコップにお茶を注いでいた。
「じゃあヒルト、お茶だよ」
「ありがとう、シャル」
お茶を受け取り一口飲む、一方のラウラはウサギりんごのレイニーに視線が移っていた。
「こ、これを食べるのは……私には無理だっ」
手にとったレイニーを見ながら呟く、俺はとりあえずお茶を飲み干すと――。
「シャル、このお茶は何だ? 成樹ならわかりそうだが……」
「あっ、僕のオリジナルブレンドだよ? 味、気に入らなかったかな……?」
「ううん、飲みやすかったぞ?」
「えへへ、なら良かったよ」
パアッと満面の華を咲かせたシャル、一方ラウラは俺とシャルのやり取りを見て拗ねていた。
「ふん……どうせ私は……レーションしか用意できない……」
珍しく拗ねてるラウラに、俺はラウラの手のひらに乗っていたレイニーを取り――。
「拗ねちゃ駄目ウサ。 ラウラはいつも通りの方がいいウサよ」
目が点になる二人――とりあえず、動物の代弁者として声真似は続ける。
「そうニャッ! 拗ねてる暇があるなら僕を食べるニャッ!」
「そうクマよ。 拗ねてヒルトをクマらせたらダメクマ」
「美味しい美味しい僕達を食べて元気になるわんっ」
各フルーツを持ち、一人芝居をする俺に面を食らう一同。
簪の事を悪く言えないな。
「……ぷっ! くふふ……!」
「……っ! あははっ♪ ヒルト、急にどうしたのっ♪」
瞳に涙を浮かべて笑う二人、俺の一人芝居が面白かったのだろうか。
「ん? ラウラが拗ねてたからな。 てかそんなに可笑しかったか?」
「だ、だって……急に『ウサ』とか『ニャッ』とか、動物さんの言葉を使うんだもん♪」
「く、ふふふっ! す、すまないヒルト。 あんなヒルトを見るのは初めてだったからな――ぷはっ!」
堪えきれずに笑うシャルとラウラの二人。
それにつられて俺も笑い、暫く動物の泣き真似をして二人の笑顔を作った。
そして……。
「おっ、もう時間か」
ぶるぶる震える携帯、時間が来たという事もあり俺は立ち上がろうとするが――。
「む、ヒルト。 私達二人に何か忘れてないか?」
「そうだよ、行く前にちゃんと……ね?」
二人して額を出した――頬を掻くと俺は二人の額に口付けを落とす。
「こ、これでいいか?」
「……本来なら唇と言いたい所だが」
「ま、周りの目もあるしね?」
疎らながらも人通りがある芝生広場、まあキスすりゃ足は止まるだろう。
俺は二人に手を振り、その場を後にして未来の元に向かった。
「……さて、昼からは負けないぞ」
「ふふっ。 僕もこのままトップは譲らないよ、ラウラ」
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