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Fate/imMoral foreignerS

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始まりから夏休みまで
  兄がやってくる話

 
前書き
どうも、クソ作者です。
前回にも言ったと思いますがこの話は舞くんの過去掘り下げ回となります。
若干胸糞要素もありますがそこはなんとか、イライラをグッとこらえて読んでいただけると幸いです。
後でお栄ちゃん辺りがスカッとさせてくれるからね。
それでは本編、参りましょう。 

 
東京某所に存在する町、螺歩蔵町(らぶくらちょう)
人口はそこそこ。少し歩けば自然もそれなりにあり首都とは思えないのどかさがある。
当然、東京なので駅の周りはそれはそれはもう賑わっている。
忙しなく人が行き交うスクランブル交差点。ファストフード店に列を作る学生達、喫茶店でお喋りに身を興じる主婦の方々。
最近できたショッピングモールなどは多くの人で賑わっている。
そんな螺歩蔵町駅にて、一人の男がやってきた。
とはいっても電車ではなくタクシーでだ。
駅前に止まり、彼は運転手に数枚の諭吉を渡しタクシーから降りる。

「まったくクソジジイめ。中々口を割らないもんだから苦労したぜ。」

でっぷりとした体型に低い身長。
顔も…お世辞にはいいものとは言えなかった。
世間的にいえば不細工。である。
眼鏡の奥の瞳を光らせ、あちこちを見渡す男。
この男が何をしに来たかといえば、目的はただ1つ。

「待ってろよ…出来損ないの欠陥弟。」

この町にいる、身内を探しに来たのだ。



「なぁマイ。」
「?」

日曜日の朝。
ぐっすり寝ていたいけれど重い身体を起こし、たまった洗濯物などを干していた時にお栄ちゃんが後ろから声をかけてきた。

「なに?」

「これ置いてあったんだが、なんだい?」

振り向けばお栄ちゃんがレジ袋を持っていた。
その中にあるのは…そうだ、昨日買った絵を描くための道具達、ペンやコピックだ。

「あ、あぁそれはその…ほら、プレゼントだよ。」
「ぷれぜんと?おれにかい?」
「うん。そう。いつも楽しく絵を描いてるからさ。」
「ふぅん、そうなのかい…。でもなマイ。」

お栄ちゃんは話しているが、僕は僕で洗濯物を干す作業を続けさせてもらう。
でも、

「お前さん、"何か"隠してるよナ?」
「えっ、」

その一言で、僕の手は止まった。

「隠してるって?」
「妙に思ったんだ。作業部屋のこと。充実した道具、これでもかと用意された筆とぺん。予備なんざ三つはある。それに買ってきてくれたこいつだって、使ってない同じモンが五つもあるヨ。」
「そ、それはお栄ちゃんがたくさん描くかなぁって。」
「いや違うナ。マイ。おれの質問に正直に答えろ。」

手が震える。
何を言われるか分かる。
そうだ。あの部屋の存在、作業部屋の存在理由は

「あの部屋、元はマイの為のモンだろ?」
「…!」

少しだけ、沈黙が流れる。
答えない僕に対してお栄ちゃんは質問の仕方を変えてきた。

「じゃあ単刀直入に聞かせてもらうサ。マイ、絵を描いてるのかい?」

いつかは聞かれると思ってた。
だってあんな部屋、絵を描く人じゃなければまず用意しない。
絵を描いていなければあんなにペンは買わないし、設備だって整えない。
元からお栄ちゃんが来るからあらかじめ用意しておいた。いや、そんなすぐにバレる嘘は通用しない。

「ナァ、答えとくれ。マイは絵を描いてるのかい?」
「か、描いてないよ。そろそろ朝ごはんにしよっか。」
「誤魔化すな。嘘もつくな。おれの質問に答えろ、マイ。」
「…。」

手の震えが止まらない。
でも…決めたんだ。もう絵は描かないって。
それなのに、また描こうかなって思って昨日みたいに道具を買ってきちゃう。
それでも、いざ描こうとすると…"あのこと"を思い出して怖くなって…。

「…っ!!」
「あっ!おい!」

お栄ちゃんから昨日買ってきたものをひったくり、僕は逃げる。

「マイ!どこ行くんだ!おい!!」

必死に僕のことを呼ぶけれど、僕は振り向きもせずそのまま靴を履いて飛び出すように出ていった。
駐輪場まで駆け、自転車に乗ってがむしゃらにこぐ、
どこでもいい、どこかに逃げたかった。
だってそうしないと、お栄ちゃんに絵のことを聞かれるから。

確かに僕は絵を描いていた。
そう、描いて"いた"。
昨日ピンクの髪の変な人にも同じような事を聞かれて、昔のことが嫌でも思い出される。
もういい、もういいんだ。
僕はもう絵なんて描かないし描きたくもない。
誹謗中傷もいやだ。心がボロボロになるまで袋叩きにあうのも嫌だ。
絵は好きだった。
でも、今はもう大嫌いなんだ。



「…。」

それから自転車で走り続けること10分程。
気付けば僕は駅前の広場のベンチに座り込んでいた。
よく待ち合わせ場所に使われるそこは、今の時間スーツを着た人がタバコをふかしていたり、若者が周囲の人達のおかまいなしに大声で笑いながら話をしている。
なんてことない風景だ。

「…。」

思わずお栄ちゃんからひったくってしまった、昨日買ったものを見る。

絵なんて描きたくない。そう思っているのに、また描きたいって思ってしまう。
だからこうして…出来るんじゃないかなって使いもしないペンを買う。
バカみたいだ。描きたいのか、描きたくないのか、自分ですら分からない。
昔から僕は自分じゃ決められない。いや、自分で決めることが許されなかった。
僕は頭が悪いから、あの家で何かを決める権利はない。
認めてもらいたかったら、結果を残しなさい。
恥ずかしいからお父さんお母さんと呼ばないで。
あなたが実の子だと知られたら、一家の恥だから。
あなたに出来るのは尽くすことだけ。
勉強のできないあなたは勉強ができるお兄さんに尽くして全力でサポートしなさい。
兄に尽くすのは弟の役目。
絵を描いてなんになるの?あんなの遊びでしょ?
賞を取ったからって誇らしくしないで。絵描きっていうのは穀潰しと一緒。
ゴッホって人は知ってる?ああなりたいの?
絵を描くのは
絵を描くのは
絵を描くのは
絵を描くのは
絵を描くのは



だめだなぁ…僕。
あんな家が嫌だから出ていったのに、変わりたいって思ってたのに、未だにその家に縛られ、変わらないままだ。
兄ばかり贔屓する両親。
僕を冷たい目で見る母さん。
僕をいないもののように扱う父さん。
そして、僕を道具のようにこき使う…兄さん。
自由になるよりも、あのままの方がそれはそれで生きやすかったのかな。

「バカみたいだ…僕。」
「いや、お前はバカそのものだ。」

抱えた頭をとっさに上げる。
誰の声がした?いや誰とかじゃない。この声は聞いたことのある声。
二度と耳に入れたくないと思ってた、最低な声。
顔を上げるとそこには、二度と見たくはなかったあいつの顔。
噂をすれば影っていうのは本当みたいだ。
目の前にいたのはそう、紛うことなき

「やっと見つけた。さぁ、家に帰るぞ。」

兄だ。

「…っ!!」

子供の頃からの思い出が、ぞわっと溢れ出てくる。
今まで断片的だったものが、丸ごと一気に頭の中に思い出されてくる。とっさに立ち上がり、再び逃げようとする僕だが

「逃げんじゃねぇ!!!」

手首をつかまれ、ぐいと引き戻された。

「もう二度と逃がさねぇぞ。お前は俺の弟。兄に尽くすのが弟の役目。ママもそう言ってたろ?」
「…。」
「そうですって言え!!日本語わかんねぇのかてめぇ!!!」

手を上げる兄。
僕は反射的に頭を抑え、そうですそうです。間違っていたのは僕ですと答える。
そうするしかない。反抗なんて許されない。
だって僕は、彼の弟なのだから。

「どうして…なんで…!」

あの家から僕は逃げた。
両親も僕がいないことを望んでいたし、何より兄から逃げたかった。
逃げたかったのに、逃げきれたのに、
どうして今目の前にいる?

「どうして?当たり前だろ。弟としての役目を放棄したてめぇを連れ戻しに来たんだよ。」
「…?」
「馬鹿なお前には分かんねぇだろうけどな、エリートの俺は日々ストレスたまってんだよ。それなのに発散させる奴も、財布になるやつもいねぇ。だからこっちはイライラしまくって勉強がうまくいってねぇんだ。わかるか?あ?」

僕の兄は、いわゆるエリートだ。
僕と違って成績優秀で、優秀な高校に行き、それでテストとかでも一位を独占し続けてきた。
いずれ医学の道へ進み、医者である父さんが持っている病院を継ぐことだって約束されていた。
そう、紛うことなきエリート。
僕と違い天才で、誰もが羨む。
それが僕の兄、葛城 恋(かつらぎ れん)だ。

「でも僕は…!」
「長男に逆らうんじゃねぇ!!」

でも、嫌だ。
あの家に戻りたくない。
その意志を示そうとしたその時、強烈なビンタで僕の言葉は遮られた。

「…っ。」
「口答えすんなよ弟の分際でよぉ…お前、自分の立場理解してねぇな?それとも低学歴だから分かんねぇのか?」
「そんなこ」
「低学歴だから分かりませんって言うんだよ!!んなこともわかんねぇのかてめぇは相変わらずよぉ!ああ!?」

周りの迷惑も考えず兄は怒鳴りつける。
同じように広場にいた人達はこちらを見ながらヒソヒソ話したり、巻き込まれないようにとそそくさとこの場を去る者もいた。

そして、

「おい、なんだこれ?」

逃げようとした際に落としたレジ袋を兄は拾い上げる。
中身は勿論変わりなくペンだ。
それを見ると兄は溜息をつき、

「はぁ…まだこんなこと続けてんのな…。せっかく俺が兄としてやめさせてやったのに。」
「違う、ぼ、僕はもう…」
「お前、パパとママの言ったこと忘れたか?こっちはストレスためながら頑張ってんのにてめぇは呑気にお絵描きごっこか?絵を描いて何になる?あれ、なんの得にもならない時間の無駄っつったよな?」

絵を描くこと。
それは何よりも無駄な事だし誰の得にもならない。
それしか得意なことがないボクは幼少の頃から両親にそう言われてきた。
そうして兄も、絵しか描けない僕でストレス解消する為の遊びを始めた。

「パパは医者で人々の命を助けるため頑張ってる。ママも議員で、国を良くするため尽力してくれてる。医者も議員も人のためになる仕事だ。けど絵描きは何になる?穀潰しのしょうもねぇ気持ち悪ぃ自己満ナルシストだろ?」
「…。」
「ママも言ってたろ?ゴッホってやつはどうなった?好きなことした結果絵は売れず、穀潰しになって最後は自分の哀れさに気付いて自殺したって。てめぇもそうなるぞ。おい。」
「…。」
「聞いてんのか!?あぁ!?」

掴みっぱなしの手首は離されるが、今度は胸ぐらを掴まれぐいと引き寄せられる。
脂ぎった兄の顔がすぐ近くまで迫り、息を切らしながらまくし立てる。

「いいか!?弟ってのは兄のために全てを捧げんだよ!!折角こうして障害者と変わりねぇお前を拾ってやってんだ!だったらそれに答えて奉仕しろ!俺はてめぇと違って忙しいしストレスもたまんだよ!」
「…さい。」
「あ?」

ふと、ある感情が込み上げる。
兄に対する恐怖しかなかったのに、まるで違ったものがわいてくる。
怖い?何を怖がってるんだぼくは。
目の前にいるのは…縁を切ったハズの兄。
そうだ。ただの兄だ。

どうして僕はこの程度の人間に、ペコペコ頭を下げ、怯え、従わなくちゃならない?
なんだかこいつを恐れるのがバカバカしくなってきた。うん、違う。恐れるのはお前。恐れられるのは僕だ。


「うるさい。」
「…!?」

さっきから胸ぐらを掴んでいるその手を引き離す。
ぷるぷると震える手は、力が入っていることは分かるが今の僕にとってそれはなんてことない。
まさに赤子の手をひねるようなものだ。

「お前…なんだよ…なんだよその目…!!」
「ちょうしにのるな ぼくはもう おまえのあやつりにんぎょうじゃない。」

今度はこっちの番だ。
僕があいつの手首をつかみ、ギリギリと脂肪で肥えたその手首に指をくい込ませる。

「やめろ…やめろ!いてぇいてぇいてぇいてぇ!いてぇっつってんだろうがよ!!おい!!!」
「きたない つばを とばすな 。」

空いている手で兄の口元を掴む。
真ん丸な顔が歪んで、思わず笑いがこぼれそうになる。
でもなんだろう。
まるで、自分が自分じゃないみたいだ。
僕じゃない誰かを、僕が見ているような。
なんでだろう。すごく気分がいい。

「キミ達!何をしている!!」

その時、ハッとして我に返った。
見てみれば僕の方に二人の警官が走ってくる。
多分騒ぎを聞いて誰かが通報したんだろう。
そして隙を見て兄は僕の拘束から抜け出し、

「おまわりさん!!こいつが!こいつがぁ!!」

やってきた警官達に擦り寄り、涙やら鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして助けを求めた。

ああ、いつも、こんな感じだったな。

「分かったから落ち着きなさい。あとキミ!話は交番で聞くから着いてきなさい!」
「…。」
「聞こえてるのかい!?」
「あ…すいません…。」

ボーッとしていた。
さっきまでの僕は、一体なんだったんだろう。
自分では考えられないチカラが出て、そしたらいつの間にか兄を圧倒してて…。
僕は…何をしていた?

「目が!目が光ったんです!そしたらいきなり俺に襲いかかってきて…怖くて…怖くてぇ!!」
「分かった!分かったから!」

年甲斐もなく大泣きし、警官に鬱陶しがられながらも兄は保護された。
とまぁ、警官から見れば悪者は完全に僕だろう。
泣いて助けを求める兄、さっきまで兄を掴んでいた僕。
どちらが正しいか、選ぶのは前者に決まってる。

そういえば、昔もこんな感じだった。
ちょっかいをかけたりイタズラをしたりする兄にさすがの僕だって怒ったりする。
でも、何か少ししただけですぐに大泣きするし、当然兄の泣いてる声を聞けば両親は慌ててやってくる。
やられてたのは僕なのに、怒られるのも僕だった。
そうだ、僕はいつだって悪者だ。
兄を引き立てるための、道具だ。
兄のストレスを晴らすための、人形だ。

変わりたいから逃げてきたのに、
結果は何も変わらなかった。
僕は、あの時の僕のままだ。 
 

 
後書き
とまぁ、舞くんのお兄さん葛城 恋の登場です。
舞くんは兄ばかり贔屓される家庭が嫌で抜け出したんですが今回その兄が自分を連れ戻しに来ました。
答えは簡単、ストレス解消もといやつあたりするためのものがなくなったからです。
あの手この手で現在の舞くんの居場所を調べあげ、この町螺歩蔵町へとやってきた彼はこの後どうするのか、
次回にご期待くださいな。 
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