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Fate/imMoral foreignerS

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始まりから夏休みまで
  復讐の炎と旭の輝きの話

 
前書き
こんにちは、クソ作者です。
ついに姿を現した連続殺人事件の犯人、桐生とアヴェンジャー、へシアン・ロボ
一体なぜ彼がサーヴァントを連れているのかは謎だがそれよりも今はこいつを止めなければならない。
そうして葛城舞達は事件をここで食い止めるべく、復讐の大狼に挑むのであった。 

 
「暮馬くん、隠れてて!後は僕達がやる!!」
「あ、ああ!頼んだ!」

未だ血の滴る足を引きずり、彼は隅の方へと向かう。
さて、問題はへシアン・ロボだ。

「なぁに心配そうな顔してんだい?」
「…!」

勝てるかどうか、そう思ってるのを見透かしたようにお栄ちゃんが振り向いた。

「心配ご無用。何せおれァマイのお栄ちゃんだ。そんじょそこらの犬っころにゃ負けねぇヨ。」
「う、うん…そうだよね。」

そうだ、
こっちが心配なままじゃお栄ちゃんも気になってしまう。
ここは僕も自信を持っていかなきゃ。

「じゃあ行こう…フォーリナー!あのアヴェンジャーを止めるんだ!!」
「おう!任せナ!!」

大筆を振るい、彼女は駆ける。
対するロボも駆け、背中に乗るへシアンに攻撃指示を出した。

「ウゥゥ…ッ!!」

ロボがうなり、へシアンが攻撃を開始する。
マントから伸びたいくつもの刃のような触手めいたもの。
それらは動き出し、お栄ちゃんに襲いかかる。

「それが…なんだってんだ!」

跳び、空中で身をひねって回避不可能な攻撃を避けていく。

「…!!」

着地しても走り、跳び、ロボの猛攻を簡単にかわしていくお栄ちゃん。
ついにはロボも動き出し、その爪と牙で殺しにかかってきた。

「ウゥ!!」
「ハッ!身体が軽いねェ!マイに任されたと思うと、余計に自信がついてくるよ!」

へシアン、そしてロボの攻撃は容易くかわされる。
攻撃はかわされれば当然隙は生まれるわけで

「そらっ!」
「!!」

ロボの顔面に大筆の一撃を叩き込む。
さらに

「それも邪魔だ。」

両手にはいくつもの小筆。
投げられたそれは虹色の軌跡を描き、へシアンのマントをロボの身体に縫い付けた。

「グゥッ!!」

突然の複数の痛みにロボは思わず仰け反る。
へシアンはマントを使用不能にされ、思うように動くことが出来ない。
その手に持った首狩り鎌も、固定されたマントが邪魔をしてうまく振るえないのだ。

「弱い。新宿で戦った時とはまるで別モンだァ。」

恐らくゲームでのことだろう。
確かに、この戦いは互角かと思ってはいたが徐々にお栄ちゃんが追い上げ、今では完全に有利となっている。

「それに、遅い!」

噛み付こうとしてきたロボに下からの大筆による豪快なアッパーカット。
軌跡は波を描き、ロボにクリーンヒットした。

「…!!」

頭部を揺さぶられ、さすがのサーヴァントでもこれには答えたらしい。
だが向こうの闘志は消えない。
頭をブンブン振って気を取り直し、またお栄ちゃんに牙を剥く。

「…。」

しかしその牙が獲物を捕えることはついになく、お栄ちゃんは上へと跳んだ。

「終いサ。寝てろッ!!」

落下の勢いと全体重を乗せた一撃がロボの頭部を襲う。
先程揺さぶられた脳はさらに強い力の衝撃を受け揺らぐ。
強引に地面に伏せられたロボはそのまま、意識を失ったのだった。

「ふぅ…大した事なかったナ。」
「嘘…だろ。」

相手は無傷。
ロボは戦闘不能。
有り得ない光景を目の当たりにし桐生はかたまった。

「そんな…そいつは…そいつは最強なんだぞ!」
「最強だァ?んじゃあそんなモン倒しちまったおれァなんだい?」
「う、うそだ!インチキだ!!ズルをしたんだろう!!」
「してないよ。」

負けたことを受け入れられない桐生に、現実ぶつける。

「キミのロボは負けた。お栄ちゃんが勝った。それだけだよ…。」
「うるさい!うるさいうるさいうるさいぃ!キモヤシごときが俺に説教垂れるな!!何様だお前!」
「おれのますたあ様だ。」

下駄の音を立て、お栄ちゃんは桐生に歩み寄る。
後ずさる彼、恐らくあの時の光景がフラッシュバックしているんだろう。

「なんだよ…また…また俺をボコボコにすんのか…えぇ?」
「ああ、する。最初に言ったろ。おもてに出られねぇようなカオにしてやるって。」
「…!!」

彼の中の恐怖が弾けた。

「ひいいぃぃっ!!!」

今までで聞いたこともないような情けない悲鳴を上げ、走る。
しかしお栄ちゃんとすれ違いざま、足を引っ掛けられ逃亡は無事に失敗した。

「ぐぶぅ…ぐっ…うぅ…!!」
「諦めナ。どうあれてめぇはここでおしまいだ。」
「…こんな…ところで…!!」

かつてのイジメのターゲットに無様な姿を見られ、彼は思わず涙を流す。
これで事件も終わりか、
そう、思った時だ。

「まだ…まだだ…。」
「…!」

彼は、諦めていない。

「折角神父にこの力をもらったんだ…!!」
「しんぷ…?」

彼は今…なんて言った?
いやそれよりも…何か嫌な予感がする!!

「お栄ちゃん!!」
「負けて…たまるかぁぁぁぁぁーーーーッ!!!!」

寒気に似た何かを感じ、お栄ちゃんに今すぐその場から逃げるよう伝えようとする。
しかし遅かった。

「ホクサイ!後ろだ!!」
「なっ…!?」

見れば昏倒していたロボの姿は既になく、
彼は再び透明化し、お栄ちゃんの後ろに忍び寄っていた。

「ぐっ!」

咄嗟に大筆で防いだものの、へシアンの一撃でお栄ちゃんは吹っ飛び、コンクリートの壁に叩きつけられた。

「ってぇ…!」

サーヴァントでもそれは痛い。
背中の痛みに顔をしかめ、目の前の敵を確認する。
けど、

「…あいつ!!」

お栄ちゃんにとってロボよりも、今は僕のことが心配だった。

「マイ!」
「へへ…ざーんねん。これでキモヤシは人質だ!!」

呆気に取られた隙に、彼は走って僕に近づき羽交い締めに。
さらには首に包丁を突きつけられ、僕は完全に身動きの取れない状態になってしまった。

「マイ!」
「おぉっと動くなよぉ?動いたらどうなるか…賢くなさそうなお前でも分かるだろ?」

走り出そうとしたが止まる。
そう、僕は人質となり、桐生に逆転のチャンスを、
そしてお栄ちゃんの足枷となってしまった。

「後ろのお前達もだ。指一本動かしたらこいつのクビをかききるからな!!」
「…!」

友作くんとキルケーもまた、動くことを封じられた。

「どうするマスター?」
「どうするも何も…今は葛城の安全が一番だろ…!」

ダメだ…
これじゃ僕が完全に足を引っ張ってる。
サーヴァントが強くても…マスターがこんなんじゃ…僕は…。

「今すぐマイを離せ!さもないとてめぇを」
「さもないとどうするんだい?何も出来ないくせに。あ!そうだ!」

何かを思いついたのか、わざとらしくそう言うと桐生は

「離してやるよ。」
「っ!!」

背中を蹴飛ばされ、僕は前に倒れる。
開放された、というわけでもない。
なぜならば

「でもまずは報いを受けてもらおう。お前が僕をボコボコにした罪を…こいつが償うのさ。」
「マイが…償う…!?」

なんだ…?
生暖かい空気がかかる
いや、今僕の目の前にロボがいる!

「噛み付け。」

逃げなきゃ。
そう思った次の瞬間、僕の右腕に激痛が走った。

「あっ…が…っ!!ああああああああああああああっ!!うぅああああああああーっ!!!!」

噛まれている。
今僕の右腕は、ロボに噛みつかれている。
万力のような力で、そして鋭い牙が僕の腕にいくつも食い込み肌を突き破る。
想像を絶する痛み。
死にそうなほどの痛み。
でも、これだけでは済まなかった。

「やめろ!!マイが何したってんだ!!」
「俺にたてついたってのもあるが、言ったろ?お前の罪をキモヤシに償わせるって。つまりはお前が悪いんだよ!自分のやらかしたことを精々悔やむんだな!はははははッ!!!!」
「てんめェ…ッ!!」

悔しがろうが、今のお栄ちゃんは動けない。
もし動けば、人質である僕の命が簡単に刈られるからだ。

「う…うぅ…うっ…!!」
「おぉ、痛そうだねぇキモヤシくん。今ロボは透明だから腕がどんな風になってるかよく分かるよ。」

叫んでも、痛みはごまかせない。
息をする度に腕は痛み、激痛に晒される。
しかし、僕の償いはこれだけでは済まなかった

「じゃ…"噛み砕け"。」
「…!!!!」

嘘だ。
万力のような力が、さらに強くなる。
ゴリゴリと骨の折れた音。
ぐちゃりという肉の潰れた音。
そして一気にやってくる、さっき以上の痛み。

「あ…が…っ!!」

かすれた声しか出ない。
気絶しそうになるも、痛みが僕を叩き起す。

「マイ!!」
「うーん。これじゃ右腕は使い物にならないだろうね。さーて、次は左腕っと。」
「もうやめろ!!」

お栄ちゃんの悲痛な叫び。
いいんだ。
僕に構わないで、
早く…桐生とロボを…!

「これ以上マイを痛めつけるな!!マイが罪を償う必要なんざどこにもねぇ!!」
「へー、だったら誰が償うの?」
「…おれだ。」

待ってました。
そう言わんばかりに桐生の顔がパァっと笑顔になる。

「いいねいいねぇ!そうだよ!ようやくわかった!?んじゃあまずは裸で土下座して、それから僕の彼女になってもらおうかなぁ!!」
「…。」
「ほら、武器を捨てろよ。キモヤシ殺すぞ。」

歯を食いしばり、お栄ちゃんは怒りをおさえる。
ここで感情を表に出してはいけない。
僕を守るためにお栄ちゃんは…こうして…。

「分かった…。」

放り投げられる大筆。
カラカラと音を立てて落下し、それは虚しく廃ビル内に反響した。

「ほら、脱げよ。さっさとしないとキモヤシが」
「分かってる…。」

帯に手をかけるお栄ちゃん。
その時だ。

「うおおおおおおーッ!!!!」

雄叫びを上げ、廃材から取ってきたであろう鉄パイプを振り上げて暮馬くんが桐生に突撃してきたのだ。

「邪魔。」
「ぐっ!?」

しかしそれはロボによって阻まれる。
彼はそのまま吹き飛び、廃材置き場に派手にダイブした。

「まだだ…!!」

でも彼はやめない。
また鉄パイプを拾い直し、桐生めがけ走る。

「葛城!!今のうちに逃げろォ!」

鉄パイプを振り回し、また桐生に挑むがロボに再び吹き飛ばされる。
まさか…自分が時間稼ぎをするから逃げろと言いたいのだろうか…?

「まだだ…諦められるかよ!!」

彼だって足を怪我してるはずだ。
なのに何故そうやって立ち上がり、桐生に挑もうとするんだ。
やめろ、やめてくれ。
僕のためにそこまでしなくていい。
お栄ちゃんもだ。
あいつの言うことなんか聞かなくていい。
やめてくれ…!!

「葛城や友作が体張ってんだ…!俺だけ楽して逃げるなんて…出来るかよぉ!!!」

何度ぶっ飛ばされようが、暮馬くんは謎のガッツを見せて立ち上がる。

「それに…言ってくれたしな。友達になろうって…!」
「何?」

ふらふらになりながらも、彼はまだ桐生に向かう。

「友達ってのは…!助け合うもんだろ…!!」
「…くっさ。」

それだけ言い、桐生はロボに命令を下す。

「予定変更。おいクソ犬。あそこの小バエを殺せ。」
「ウゥゥゥ…!!」

唸り声だけが響き、暮馬くんの元へ"死"が忍び寄る。
だがその時だ。

「マスター!!」
「どうしたいきなり!!」

何か打開策はないかと悩んでいた友作くん。
しかしそこにキルケーが慌てた様子で声をかけた。

「サーヴァントの反応だ!じきに召喚される!」
「なんだって!?」
「この反応…アーチャークラス!場所は…ここだ!!」

牙を剥くロボ。
震える足を踏ん張り鉄パイプを振りかぶる暮馬くん。
そんな1人と1匹は、突然眩い光に包まれた。

「な…!」
「あれは…!!」

両手で顔を隠す暮馬くん。
ロボは後ずさり、様子を伺う。
やがて光が消え、二人の間にいたのは

「サー…ヴァント?」

暮馬くんの前に片膝を着いた姿勢で現れた、一騎のサーヴァントだった。
やがてそのサーヴァントは顔を上げ、名乗る。

「サーヴァント…巴御前。アーチャークラスにて現界致しました。」
「巴…御前…!?」

銀色の髪を揺らし、その真っ赤な瞳は暮馬くんを映す。

「あなたが…私のマスターですね?」
「え、え…俺?」

自分を指さす暮馬くん。

「いえ…申し訳ありません。言わずとも心で理解出来ます。あなたこそ、巴が仕えるべきマスター。生前は義仲様に使えた身でありますが…今はあなたに全てを捧げましょう…!!」

つまりは

「俺の…巴御前で…俺は…マスター。」

状況の整理が追いつかない暮馬くんは必死に処理しようとする。
しかし、現実は待ってくれない。

「なんだか知らないが1人増えようが一緒だ!!殺せ!クソ犬!!」

召喚されたばかりの巴御前にロボが襲いかかる。
しかし

「はっ!」

開かれたロボの口。
それは簡単に巴御前に受け止められた。

「成程…躾のなっていない犬のようですね。」
「…!!…!!!」
「ならば!少々痛い目を見てもらいましょう!!」

無理矢理口を閉じさせ、なんと巨大な体躯であるロボを簡単に持ち上げ、そのまま投げ飛ばしたのだ。

「…!!」

無様に地面に落ち、派手にホコリを舞いあげる。

「す…すげぇ…。」

召喚された巴御前の馬鹿力。その強さに唖然とする暮馬くん。

「マスター。」
「え、あ、はい!?」

凛とした横顔に見とれていると巴御前は振り向き、主の名前を呼ぶ。
戸惑いながらも暮馬くんはマスターと呼ばれ、自分がそうなんだと認識する。

「ご命令を。」
「め、命令!?え、えーと…!」

起き上がるロボ、悔しそうな顔をしている桐生。
それを見て言うべきことは決まった。
頷き、キッと引き締まった表情になりサーヴァントに命令を下す。

「よし!アーチャー巴御前!北斎と協力し、あの桐生とへシアン・ロボを倒せ!」
「はい、ご下命のままに!」

地を蹴り、巴御前は走り出す。
復帰したロボの噛みつきを難なく交わし、床に投げ捨てられていたお栄ちゃんの筆を取ると、

「お受け取りください!」
「おうともサ!」

そのままお栄ちゃんの方へ投げ渡した。

「礼を言うヨ。巴御前とやら。」
「はい。あなたがマスターの仰った葛飾北斎…でよろしいですね?」
「お前さんにゃあの犬っころが北斎に見えんのかい?」
「…いえ。」

そういい、何も言わず巴御前は大弓をかまえ、お栄ちゃんはそれに頷いて走り出した。

「ふざけるな…!!ふざけるなよ!!2対1になったくらいで調子に乗りやがってぇ!!」

ロボも走り出そうとするも、目の前をビームのようなものが横切ってそれを阻む。

「残念、実は3対1だ。」

キルケーの援護だ。
結界で精一杯のはずだが彼女は杖を振るい、魔法陣を出現させると次々とビームを撃ち込んでいく。

「よそ見すんなヨ!」
「…!」

キルケーの攻撃に気を取られているうちに目の前にはお栄ちゃん。
大筆の一撃をロボにではなく、今度は上に乗っているへシアンにおみまいした。

「ウゥ…!!」

牙を剥き出しにして怒りを露わにするロボ。
誰に使われていようが、彼に眠る復讐者(アヴェンジャー)としての復讐の炎は消えない。
そう、炎は簡単には消えない。
けど

炎はより大きな炎にのまれることがある。
矢をつがい、弦を引くと矢は炎に包まれる。
放たれた炎の矢はお栄ちゃんのギリギリ横を通り過ぎ、へシアン・ロボの右前脚に突き刺さった。

「お見事です。北斎様。」
「そりゃどうも。」

途端、燃え上がる全身。
脚に灯った業火は立ち上り、たちまちのうちにロボの全身を包み込んだのだ。

「ウゥ…グォォォ…ッ!!」

もがき苦しみ、この火を消そうとのたうつロボ。
それに追い打ちをかけるが如く巴御前はどんどん射る。

「ウゥゥ!!!!」

しかし火は消えない。
焼かれながらもロボは消すことを諦め大元を始末しにかかった。
即ち巴御前。
お栄ちゃんなど気にもとめず走り、弓を構える彼女めがけ真っ直ぐに突き進む。
しかし侮ってはいけない。
先程のようにアーチャークラスとはただ弓を射るだけでなく、

「懐に入り込めば…どうにかなるとお思いですか!」

へシアンのマントから伸びた刃。
両サイドから襲い来るそれを巴御前は大弓を投げ捨て、それぞれの腕で受け止めた。
さらに

「ふんッ!」

力を込めてひっぱり、簡単に引きちぎってみせる。
予想外のことにロボは僅かに後ずさるも巴御前はそれを許さない。

「逃がしません!」

飛び上がり、空中で身体を一回転させるとへシアンめがけ踵を振り下ろす。
全体重と回転の勢いを乗せた渾身の踵落とし。
燃えながらもへシアンは手に持っていた首狩り鎌をクロスさせて受け止めるも、それはいともたやすく砕かれた。

さらにロボの周囲にいくつもの魔法陣が出現。
そこから鎖が伸び、ロボの巨躯を拘束した。
もがくも、頑丈な鎖は壊れる気配はない。
巴御前は着地し、薙刀をかまえてロボを警戒している。
さらに

「キミも大人しくしてもらおうか!」
「なっ…!?」

ロボに視線が集まっているのをいい事に、桐生が包丁を持って何かをしでかそうとしていたがロボと同じように鎖に巻かれ、身動きを封じられる。

「クソ!どうして…どうしてだ!!最強のはずなのに!!」
「お前のへシアン・ロボが最強なら、巴御前や北斎はどうなるんだよ。」

桐生は鎖から逃れようとするも、ロボでもびくともしないのだから当然並の人間の力ではどうにもならない。
ただ無様にもがき、悪態をつくだけだ。

「へぇ…火を消して欲しいってのかい?」

おさまったものの、まだ所々に火が残るロボにお栄ちゃんがゆっくりと歩み寄る。
僕も…このままじゃいられない…!

「う、うぅ…っ!」

出血の止まらない腕の痛みにこらえ、僕はよたよたと立ち上がる。

「マイ!」
「お栄ちゃん…僕のことはいい…宝具だ!宝具でトドメを!!」

左手に刻まれた令呪をかざして叫ぶ。
一気にケリをつけよう。

「ウゥゥ!!!!」
「…マイがお望みならそうさせてもらおうかい。さぁさ絶景を御覧じろ!!」

大筆をくるりと回し、両手でしっかりとかまえたお栄ちゃん。
大狼はうなり、お栄ちゃんは唱え出す。

「オン・ソチリシュタ・ソワカ、オン・マカシリエイ・ヂリベイ・ソワカ…。」

空気が変わる。
お栄ちゃんの周囲に僅かながら波のようなものが見えた気がした。

「…万象を見通す玄帝、北辰より八荒擁護せし尊星の王よ!」

駆け、ロボに向かって思い切り大筆を振り上げる。
巻き起こる大波。ロボをさらう画狂の一筆。

「渾身の一筆を納め奉る!!いざいざご賢覧あれ!」

描く。
多くの人々、時には海を越え、時には国すら超えて魅了した葛飾北斎の代表作を宝具へと昇華させたもの。
それこそ

「『冨嶽三十六景(ふがくさんじゅうろっけい)』!!!神奈川沖浪裏すさびッ!!」

富嶽三十六景。
葛飾北斎が描いた風景画の一つ。
次々と描かれた大波はロボをマスターである桐生ごと飲み込み、炎すら簡単に消して見せた。

「ぐ…っ、ぐうぅ…!!」

ロボと共にビルの隅に流された桐生。
痛むからだに顔をしかめ、起き上がろうとするがあることに気付いた。

「…おい、なんだよそれ…お前消えるのか!?」

ロボは起き上がらず、倒れたまま。
さらに光の粒子みたいなものが各所から立ち上っている。
おそらく…多大なダメージを受けたことによって座への返還が始まったんだ。

「…。」
「おい!!くそ犬!!ふざけんな!!おい!起きろよ!最強なんだろ!?今すぐあいつらを殺せよ!!おい!!起きて殺せ!起きて殺せよボケが!!」
「無駄だよ。ロボは死んだ。」

結界を解除し、キルケーはそう言い放つ。
そう、ロボは死んだ。
もう動かないし殺さない。

「あ…あああ!!!」
そして消えゆくロボの身体。
光の粒子を手で掴んで何とかしようとする桐生だが、それも無駄だ。
やがてロボは消失。
残ったのは桐生のみとなった。

「くそ…くそがあああああぁぁぁッ!!!」
「!」

やけくそかなんなのかは知らない。
ロボを失った桐生はそう叫びながら僕に向けて包丁を突き刺しに突進する。
だが

「そこまでです。」
「がっ!?」

巴御前が包丁を叩き落とし、腕をひねって無力化。

「なんだよ…なんだよお前ら!よってたかって一人をいじめるのがそんなに楽しいか!?」
「そのセリフ、以前のお前に言ってみてぇな。」

友作くんはそういい、冷たい視線で見下しながら携帯を取り出した。
押したダイヤルは110…警察だ。

「すいません…なんか包丁持って暴れてる人がいるんですけど…あ、はい…廃ビルにいるみたいなんですよ…ええ、はい。分かりました。ありがとうございます。なるべく早めにお願いします。」

そういい、友作くんは通話を切った。

「お前…どこに電話を…!!」
「今のお前にピッタリな場所。キルケー、拘束頼む。」

巴御前が離すと同時に友作くんに掴みかかろうとする桐生。
だがキルケーの魔術によって巻かれた鎖に阻まれ、彼は無様に頭から転んでしまった。

「おい待て!どうするつもりだ!!」
「逮捕。」
「ふざけるなよ!!おい狩井くん!友達だろ!?助けろよ!!」

叫ぶ桐生には一切目もくれず、僕達は去っていく。
当然大怪我を負っている僕はお栄ちゃんに担がれる形になるのだけど…。

「あの…お栄ちゃん。」
「なんだい?」
「怪我したのは腕だからさ…自分で歩けるから。」
「いいや無理はよくねぇ。病院までちゃんと送り届けてやるからナ。」
「でもこれはさすがに…!」

お姫様抱っこで病院に送り届けられるのはちょっと…。
深夜だから人目はないかもしれない。けど高校生の男子がこんな女の子にお姫様抱っこされるのは中々精神的に応える。

「確かに酷い怪我だ。念の為応急処置でもしておこうか。」
「お、ありがとナ。確かきるけえ…だったか?」
「共闘したんだから名前くらいは覚えておいて欲しいな!」

とりあえず止血をしてもらい、気休め程度だけどキルケーから治癒と痛覚遮断の魔術を施してもらった。
そして、僕ではないがもうひとつの問題が。

「ところで暮馬。お前はどうするんだ?」
「どうするって…。」

暮馬くんの隣に立っているのは巴御前。
戦いの最中に召喚したあのサーヴァントだ。

「いかが致しましょうか、マスター。」
「え、えーと…と、とりあえず家に帰るよ。巴御前の事は…うん。どう説明しようか…。」

僕は一人暮らし。そして友作くんも今は家に1人ということだからサーヴァントがいることには困らなかった。
けど、暮馬くんには家族がいる。
このまま連れて帰っても、家族達に巴御前のことは間違いなく聞かれるだろう。

「とりあえずなんとかしてみる。葛城も怪我治せよ。」
「うん。それに暮馬くん…。」
「?」
「ありがとう。最初から最後まで…頑張ってくれて。」

桐生を誘い込む時も、僕を守ろうとした時も、
サーヴァントがいない状態だったにも関わらず彼は身体をはって頑張ってくれた。
今回の作戦成功は、彼のおかげと言っても過言じゃない。

「まぁそうだな。俺からも礼を言う。それと召喚おめでとう。お前もFGOやってたなんてな。」

照れ臭そうな暮馬くん。
さて、そろそろ警察が来る時間だろう。
早急にここを去り、僕はまず病院に向かわなきゃ行けない。

そして、
この町を騒がせた連続殺人事件はこうして幕を閉じた。
明日からはいつも通りの日常へと戻る。いや、本当に平和な学生生活が送れる。

でもその前に僕は、腕を治すことに専念しよう。
 
 

 
後書き
サーヴァントの召喚に成功した暮馬くん。
で、この暮馬くんなんですがちょいちょい目立つところがあったりしまして、時々主人公誰だっけってなる時があります。

さて次回はえっちな話書きます。
読者の皆様は射精管理や焦らしプレイは好きですか?次に書くお話はそんな話です。
それでは次回もお楽しみに。 
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