『外伝:紫』崩壊した世界で紫式部が来てくれたけどなにか違う
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踏み込んだアタシは、ボクになる
前書き
かいせつ
⚫テイマー
動画配信者。法律の死んだ崩壊世界にてモンスターを操り、日々攫ってきた女性を強制的に"ゲーム"に参加させそれをエンターテイメントとして動画サイトにて配信している。
主な内容は女性がモンスターから制限時間内まで逃げ回る『鬼ごっこ』闘技場にてモンスターと戦わせる『デスマッチ』
当然、このゲームに負けた者はモンスターに容赦なく犯されるし、死ぬまでオモチャとして弄ばれる。
さらに死んでしまった場合は自分が死姦してみせるなどどれも常軌を逸したものばかりだ。
と、色々とヤバイものばかりだがそんなものでも需要はあるらしく、登録者は100万人を目前に控えている。
とある陰陽師らしき人物からモンスターが言うことを聞くようになる御札をもらったらしいが、果たしてその陰陽師の正体とは…?
「ふっ…。」
ため息混じりに息を吐き、周囲に転がる大鬼の死骸を見下す。
とても、少しは骨のある奴かと思ったが拍子抜けした、それはとても他愛のない相手だった。
「で?次の相手は誰なんだ?テイマーさんよ。」
監視カメラに向けまだまだ余裕の態度を見せつけるがテイマーからの返事はない。
なんだ?品切れになったからシカトでも決め込むつもりか?
「…。」
「返答がありませんね…。」
カメラを見て、取材に来た葵とかいうやつのサーヴァント、紫式部がそう言った。
そして監視カメラのあるポールに触り、何をするかと思えば
「? 何してはるん?」
「逆探知です。カメラを通して映った映像がどこに向かうのか、その大元を辿ります。」
驚いた。さすがはキャスターだ。そんなことも出来るんだな。
今度イリヤや美遊にも出来ないか聞いてみよう。
「…。」
探知中なのだろう。
彼女は目を瞑り、ポールを握ったまま動かないでいる。
幸いモンスターが来ることはなく、彼女を邪魔するものは何も無いし俺達がそれを排除する必要もなかった。
「…!」
そして、彼女が目を見開いた。
こちらを振り向いた表情はどこか不安げであり、切羽詰まっているようにも見える。
「どうした?」
「いけません…!早く向かわなければ…!」
そういい紫式部はドレスの裾を上げ、とたとたとどこかへと走り出す。
「おい!どうした!?」
「申し訳ありません!今はそうしている時間すら惜しいのです!!ともかく私についてきてください!!」
「ったくしょうがねぇな…!」
状況が分からないまま走らされるのは多少イライラするが、余程の事なんだろう。
表情から察するに一刻の猶予もないと見える。
「簡潔でいい!説明しろ!」
「襲われています!葵様とイリヤ様が!大量の土蜘蛛に!!」
⚫
地下室。
「このォッ!」
ガサガサと音を立てながら接近する土蜘蛛に蹴りを浴びせる。
しかし小鬼程弱くはなく。一度蹴っただけでは大したダメージも入らず少し仰け反るくらいだ。
「イリヤちゃん!」
「いきます!!フォイアー!!!」
イリヤちゃんに呼びかけ、あたしは跳ぶ。
空中で身体をひねり、背後で放たれたビームは身体スレスレを通って土蜘蛛に命中する。
何匹かの土蜘蛛は弾け、息絶えるがそれを補うかのように新たな土蜘蛛がぞろぞろとどこからともなく這い出てくる。
「葵さん…!」
「ダメだ…キリがない…!!」
ちまちまと相手していてはこちらがやられるのは確定だろう。
いつまでもイリヤちゃんに頼っているわけにもいかないし、何か打開策を見つけないといけない…。
こんな時…香子がいてくれれば…!
「これはマズイですねー。チャレンジャー2人の顔にも焦りの色が見えてきています。もう犯されるのは時間の問題。待たせたな視聴者!」
「ちっ…。」
上からうるさい声が集中力を削ぐ。
殺してやりたい。
殺してやりたいが、このままでは殺されるのはあたし達だ。
「くっ…!!」
迫る土蜘蛛を蹴飛ばす。
だが
「…!」
「なっ…!」
咄嗟に前に出した鎌にそれは阻まれ、大きな隙を晒すことになる。
そのまま片足を絡め取られ、あたしは振り回されると
「葵さん!!!」
投げ飛ばされ、そのまま壁に激突した。
「あ…が、はぁっ!?」
土蜘蛛の凄まじい力で背中と後頭部に鈍い痛みが走る。
さらに後頭部という守るべき大事な部分を強打したせいだろう。
「ダメ…だ。」
意識が薄れてきた。
脳を揺さぶられ、立ち上がることはおろかこうして意識を保つ事すら困難になる。
「起きて…戦わ…ないと…!」
手を伸ばす。
こちらを心配しながらイリヤちゃんは土蜘蛛達を撃退しつつ、あたしに何かを呼びかけている。
だが分からない。なんて言ってる?
だめだ、どんどん声が遠くなっていく。
これじゃ…イリヤちゃんを守れない。
あのムカつくテイマーとかいう配信者を…
【ぶっ殺せない?】
…?
【あーあ、見てるだけで退屈だったんだ、アタシ。お前がぶっ殺さなくても、アタシがあいつをぶっ殺す。】
お前…お前は…!
【根性の無いお前は心の奥底でのびてなよ。バトンタッチだ。アタシがケリをつけてやる。】
…!!!
⚫
「葵さん!!!葵さん!!!」
『イリヤさん前!前見てください!!』
土蜘蛛に投げ飛ばされ、気絶した葵。
動かなくなった獲物に襲いかかろうと土蜘蛛達は葵に群がろうとするがイリヤはそれを全力で阻止している。
ニンマリとした悪意に満ちた笑みを浮かべたようにも見える土蜘蛛達。
怖くてたまらないが、ここで逃げてしまってはいけない。
「ルビー!何かないの!?」
『あることにはありますが宝具をブッパするのにはマスターの支援がないと出来ません。それに今のイリヤさんでの魔力量では…!!』
「お願いなんとかして!!じゃないと葵さんが!!」
宝具や強力な広範囲魔術で土蜘蛛を一掃する。
そう出来ればカンタンだが今のイリヤにそう魔力は残されていなかった。
「ここで1人がリタイヤだ!さぁ残りのサーヴァントはどうする!?生き残るか!?死ぬか!?それとも1人を囮に逃げるか!?」
「そんなこと…しない!!」
「へぇ…健気な嬢ちゃんだ。いいのかい?逃げる以外に残されてんのはここで魔力が尽きて土蜘蛛達に犯されるって道だけだぜ?」
「…!!」
しかしイリヤは逃げない。
ここで置いていって自分だけ逃げてしまうのはそれは何よりも恥ずかしいことだから。
しかし
「あっ!」
何か強い力で引っ張られ、イリヤは転倒してしまう。
一体何があったんだろう、
そう思い足に目をやると
「なにこれ…!?」
白い糸。すなわち土蜘蛛の吐いた糸が足に絡みついていたのだ。
そして驚くイリヤだがそんな猶予も与えず、糸を吐き出した1匹の土蜘蛛はゆっくり、ゆっくりとその糸を己の元へと手繰り寄せ始めた。
「…!」
やられる。
そう本能で感じ取ったイリヤは糸をなんとかしようとするが、ビクともしない。
土蜘蛛の糸は頑丈であり、サーヴァントとはいえ子供のイリヤでは膂力で引きちぎるのは難しかった。
ならば魔術で焼き切る。そう思ったが。
「…!!ルビー!!」
それを見透かしていたかのように土蜘蛛がルビーを糸で絡め取り、奪いさる。
攻撃手段を奪われ、八方塞がりとなるイリヤ。
打つ手はない。逆転の手段もない。
自分はただ怯え、やってくる恐怖をその身で受け止めることを恐れることしか出来ない。
しかし
「…!!」
土蜘蛛の顔に、突然何かが突き刺さった。
「…。」
「それは良くないでしょ。年端もいかない女の子をよってたかって虐めるのはさぁ…。」
土蜘蛛に刺さったのは鉄骨。
そう、工事現場にてよく見かけるあの鉄骨だ。
突き刺された土蜘蛛は即死。
力無く倒れ、動かぬ死体となる。
そしてそれを難なく投げたのはサーヴァントではなく
「あ、あおい…さん?」
イリヤの後ろで気絶していたはずの葵であった。
しかし、何かが違う。
姿は同じ、声も同じ。
しかしさっきまでの彼女とはまるで違う何かをイリヤは感じ取ったのだ。
「葵…違う。アタシは菫だ。」
「す、すみれ…?」
「そ。」
ニッコリと笑いかけ、イリヤの足にまとわりついた糸を引きちぎる菫と名乗った葵。
「はい、あとこれ。」
「あ、ありがとうございます。」
奪われかけたルビーを奪還し、持ち主のイリヤに返す。
そして周りにいる土蜘蛛達は何かを感じとったのか、少しずつ後退していた。
「あ、あの…すみれ…さん?」
「アタシの事はすみれちゃんでいいよ。あれ、待てよ?"アタシ"っていうのはなんかやだな…自分の呼び方が葵とカブってややこしいし。」
イリヤを助けた葵もとい菫はどこかへと歩き出す。
向かった先にはガラクタの山。
あれやこれやとぶつぶつ言いながら菫は端の方にあるガラクタの山に手を突っ込んだ。
「じゃあ"ボク"だ。アタシはこれからボク。ボクは菫。ほら!これでますます個としての確立が出来たぞ!」
手を引っこ抜き、ガラクタを押しのけてそこに握られていたのは巨大なチェーンソーだった。
「それと、これならボクでも使えそう。うん。ボクぴったりの武器。ボクだけの、ボクだけにしか使えないとっておきの武器。」
「お前…!!それは大鬼用の…!?」
テイマーが驚くのも無理もない。
今菫が片手に持つ身の丈ほどもあるチェーンソーは本来大鬼に持たせるものなのだから。
つまり、並大抵の人間が持てる代物ではない。
だけど彼女は、簡単に持って見せた。
そして、
「お前…見てたよ。色んなモンスターを操って香子を虐めるやつだ。」
「は?」
「悪いことして、女をダシにして金儲けしてるって。そんな男には後でボクがお仕置しないと。でもその前に。」
ニッコリしていた顔は殺意に染まる。
チェーンソーを踏みつけ、スターターロープを思い切り引っ張った。
燃料は入っていたらしく、その巨大なチェーンソーはけたたましい産声を上げた。
「お前らをやっつける。」
駆動を始めるチェンソー。
菫がそれをかまえると、エッジが激しく回転し始めた。
「イリヤちゃん?だよね。」
「え、あ、はい!!」
「ぶっ殺そうよ。ここにいる奴、一人残らず。」
「…。」
イリヤはただ黙って頷く。
ついさっきまで話していたのに、まるで別人と話しているようなこの違和感。
あれだけ大人っぽかったのに、今の彼女はどこか自分と同じような幼さを感じられた。
「さっさとかかって来いよ虫けら。ボクは君達と違って…暇じゃないんだ!!!」
重いものを持っていると思わせない身のこなし。
自慢の脚力で一気に急接近し、じりじりと後ろに下がる土蜘蛛に向けて菫はチェーンソーを振るう。
エンジンの音。そして肉が強引に切り裂かれる音。
「そうだよこれだよこれ!!こういうのが欲しかったんだ!!こういうぶいーんてやつ!!あっははははははは!!!!」
返り血に染まろうが気にしない。
むしろ積極的に浴びに行っているようにも見える。
子供が遊ぶ時のような純粋な笑みを浮かべながら、
菫は土蜘蛛の蹂躙を心から楽しんだ。
『驚きですね。まさか葵さんが二重人格だとは…。』
その光景に唖然とし、最早自分の援護は必要ないのではないかと思うイリヤに、ルビーが口(?)を開いた。
「二重…人格?」
『抑圧された欲望が溜め込まれ続け、そして何らかのキッカケで誕生したもう1人の葵さん、と言いましょうか。それとともかく不思議なことがありまして。』
「不思議なこと?」
暴れる菫を傍目に、ルビーは話を続ける。
『葵さんは運動神経が良いことを除けば至って普通の人間であるハズ。なのに何故、あの菫と名乗った葵さんからは魔力を感じるのでしょう?』
「…ごめん。わかんないよ。」
キャスタークラスのサーヴァントとは言ってもイリヤ自身は小学五年生だ。
魔術云々など知らないし、答えも当然知らない。
「でも、どうしてだろう。」
『おや?何か感じるんですか?』
「うん。変なの。あれだけの事をしてても、私はあの菫さんのことを不思議と怖く感じない。」
チェーンソーが、ガチンと地面に突き立てられる。
周囲に転がるのは、物言わぬ死体となった土蜘蛛達。
「はい。おしまい。」
サーヴァントの力も借りず、彼女は土蜘蛛を全滅して見せたのだ。
「おい…ウソだろ。」
確実にやられるはずだった。
普通の人間ならば土蜘蛛にはかないませんと、例の御札をもらった陰陽師からそう言われていた。
しかしこれはなんだ?
サーヴァントはおろか人間にやられ、さらに相手は返り血に塗れて分かりにくいが無傷だ。
まさか騙された?いいや違う。
あちらが、普通の人間ではないからだ。
「…ッ!」
「あっ!待てこら!!」
このままではヤバい。
寒気に似たようなものが背筋を走り、テイマーは走り出す。
しかし
「ぎゃあぁあ!?」
突如ふくらはぎにはしる痛み。
バランスを崩し、転びながら何事かと思いそこに目をやれば鉄筋が貫いていた。
そして下の方には、
「…逃げんなよ。」
それを投げたであろう、彼女がいた。
「が、あぁっ!?」
とっさに手すりに捕まろうとするも錆びて脆くなっていた為、テイマーは手すりごと下に落ちていく。
ホコリを巻いあげながらテイマーは落下し、落ちた際にぶつけた頭をさすり、パソコンが無いことに気付くと彼は必死にそれを探した。
しかし、
「はい、おしまい。」
パソコンはあった。
しかしそれはとうに、踏み潰され使い物にならなくなっていたが。
「…。」
「どうだった?登録者何人くらい?1万?10万?死ぬ前に教えてよ。」
「ひ、ひいぃー!!!」
そして目の前にはあの土蜘蛛を倒した女。
大鬼用のチェーンソーを片手で軽々と扱った、菫がいる。
恐怖に駆られた男は足を引きづり、なんとか後ずさりして逃げようとするも
「逃げるなって、言っただろッ!!」
「ぎゃあああああ!!!!!」
無事な方の片足。
それは拾い上げた鉄筋によって地面に縫い付けられてしまった。
「いてぇ…いてぇよぉ…!!おれが、おれがなにをしたっていうんだよぉ…!!」
テイマーは涙を流すが、そんな物に興味はない。
菫は地面に突き刺して置いていたチェーンソーを手に取ると、彼の前まで戻ってきた。
「なにをした?え?キミがそれ言うの可笑しくない?」
「…!」
「きっと陵辱され、殺されてった女の子達もみんなキミにそう言って死んでったハズだよ?聞いてないの?いや、撮りながら聞いてたよね?きったない笑顔浮かべて、さぁッ!! 」
鉄筋を踏みつけ、串刺しにされた足により深く刺さる。
テイマーは声にならない声を上げ、挙句の果てには。
「ー…!!ーーっ、…。」
「…くっさ。大の男が情けな。」
痛みのあまり漏らしていた。
「じゃ、脚切るね。」
想像を絶する痛みに意識が飛びそうになるも、菫の放った一言でテイマーは一気に現実へと引き戻される。
今、なんて言った?
脚を切る?
「ま、待て、待ってくれ。金ならやる!俺いっぱい持ってんだ!ほら、あっちの方に金庫があるから!」
「興味ないから。ボク、早く終わらせて今日こそ香子とえっちしたいんだよね。その為のチェーンソーだから。」
チェーンソーが唸りを上げる。
あんなもので脚を切られるとなれば、それは並大抵の痛みでは済まないだろう。
歯が震え、ガチガチと音が鳴る。
まともに言葉を発せられない。
許しの言葉、命乞いの言葉、反省の言葉、
どれだけ言ったってもうこいつには届かない。
しかし逃げられない。手持ちのモンスターももういない。
こんなことならもっと陰陽師から御札を貰って、もっとモンスターを増やせばよかった。
「菫さん!!もうやめて!!」
「…?」
しかしここで、思わぬ救いの手が。
「その人はもう…充分反省したと思うの!だからもうその必要はないんじゃないかって!!」
「…イリヤちゃん?」
彼女にそう言われ、菫は一旦チェーンソーを置く。
「なんで?なんでそんな事言うの?」
「そ、そんな事は…できればしないで欲しいかなって…!」
「…。」
歩み寄り、ちょうどイリヤの目線に合わせてしゃがみ菫は彼女をじっと見つめた。
「あいつは最低だよ。色んな女の子をオモチャにして殺した。そんな奴は死んでいい。殺していい。何よりボクがあいつをぶっ殺したいんだ。楽しいし。」
「でも…ダメ。」
「…。」
「そんなことをしたら葵さ…じゃなかった。菫さんも同じになっちゃうから…!ただ楽しいからって、自分がしたいからって理由で人を殺したりなんかしたら…その人と同じになっちゃうよ!」
「…!」
瞬間、彼女の中で何かが動いた。
ゆっくりと上げられる手。
イリヤは何かが来るのではないかと思い反射的に目をつぶって身構えるも。
「…分かった。」
「…え?」
その手は、頭に優しくポンと置かれた。
「イリヤちゃんがそういうのなら、ボクはそうする。あいつと同じはやだよ。香子に嫌われちゃうからね。」
「そ、そうなの…?」
「そう。それに友達にそう言われたのなら、ボクは友達の約束は守るよ。」
「と、友達…?」
「そ。友達。ダメ?」
首を傾げる菫に大し、イリヤは必死に首を振った。
「ううん!ダメじゃない!いいよ!友達!友達になろう!菫さん!!」
「菫ちゃんでいいよって言ったのになぁ。友達なんだなら、遠慮はいらないんだよ。」
「じゃ、じゃあその…菫…ちゃん。」
そう言われ、嬉しくなった菫はそのままイリヤを抱き上げる。
待ってください、自分で歩けますから!という言葉も聞かず、菫はそのままイリヤをお姫様抱っこし降りてきた階段を駆け上がっていった。
今の菫にとって、殺人犯を殺すことよりも初めてできた友達と一緒に帰ることが何よりも大事なことになっていた。
⚫
「この辺りに…ありました!!」
一方その頃。
映像を辿りとある廃屋の中へとやってきた紫式部一行。
床にある重い鉄の扉は開け放たれ、自分のマスターがここに入っていったことは分かった。
先程見えた映像の一部。
大量の土蜘蛛に囲まれた葵とイリヤ。
間に合ってくれと願いながら紫式部は地下に続く階段を降りようとするが…
「待て。」
「…?」
尾頭が、それを止めた。
「な、何故です!?」
「何か来る。」
彼はそれだけ言い、ショットガンをかまえる。
「漂って来るわぁ…濃ゆい血の匂い。それも妖の類やね。」
「…!」
酒呑童子の言う通り、確かに血の匂いがする。
それと共に感じる気配。
まるで子供のように純粋で、しかも獣のように凶暴な気配。
いや待て、これは感じたことがある。
「お待ち下さい尾頭様。銃を下ろしてください。」
「あ?なんでだ?」
「この気配…敵ではありません。」
「…?」
そうしてやがて地下から響いてくるカツーン、カツーンという音。
誰かが階段を登ってきている。
それと同時に、話し声らしいものも聞こえてきた。
「あーあ。汚しちゃったなぁ…香子に怒られたらどうしよ。」
「だ、大丈夫だよ!菫ちゃんは頑張ったし!私も何か言ってあげる!」
「ほんと?ボクに味方してくれるの?」
「…?」
「やはり、そうでしたね。」
地下への階段から姿を現したのは血塗れで背中に物騒なものを背負った葵。
そして、そんな彼女にお姫様抱っこされたイリヤだった。
「イリヤ!?テイマーはどうした!?」
「た、ただいま…。す、菫ちゃんと一緒にやっつけて来ました…。」
「菫?」
菫に下ろされ、イリヤは己のマスターの元へと駆け寄る。
そして
「香子だ!!ただいま香子!!悪者はぶっ殺さなかったけどきちんとやっつけてきたよ!!」
パァっと明るい笑顔を浮かべ、菫は飛び込むように紫式部の胸へと抱きついた。
「その様子ですと、菫様ですね。」
「うん、そうだよ。それと聞いてよ香子!ボクにお友達ができたんだ!!」
イリヤという友達が出来たこと。
地下でテイマーを殺さず、適度に痛めつけて反省させた事。
テンション高めであれやこれや嬉しそうに紫式部に話す菫の様子はまるで、学校であった出来事を母親に話す子供のようだった。
「あの…菫様。"ボク"と言うのは?それに背中のものは…?」
「ボクはボクだよ。それにこっちの方があいつと被らないし良いでしょ?あとこっちはボクの宝物。気に入ったから持ってきちゃった!」
「はぁ…。」
何故一人称をボクに変えたのか、やたらと大きいチェーンソーをどう気に入ったのかは分からなかったが、ともかく2人がテイマーを倒したことは分かった。
「まぁ何はともあれ、テイマーはもう二度と同じことは出来ないわけだな?」
「うん。イリヤちゃんと一緒に壊したもん。ねー!」
「ね…ねー!」
互いに顔を見合わせ、笑顔で頷く2人(イリヤは苦笑い)
イリヤと菫は帰る際、テイマーは生かしたままだが機材は全て破壊したことを尾頭に伝えると彼は納得して撤収することになった。
「殺さんで、ええの?」
「俺達が殺さなくとも、身動きが取れないのであれば運悪くモンスターに食われて苦しく死ぬか、飢えて苦しみ抜きながら餓死するの2択だろ。犯罪者にはそっちの方がお似合いだ。」
「ふふ、せやね…。」
そう言い、重い鉄の扉を閉め、尾頭はそばに転がっていた鎖で取っ手を雁字搦めにするとダ・ヴィンチが待っている装甲車に帰ることにした。
⚫
数時間後。
廃工場の地下。
「くそっ…くそっ!くそォッ!」
あれからそのまま放置されていたテイマーだが、なんとかここから抜け出すべく悪戦苦闘していた。
「抜けねぇし…いてぇ…どんな馬鹿力だよあのゴリラ女…!」
串刺しにされた足。
鉄筋を抜かなければ自由にはなれないためなんとかして抜こうとするも数時間経った今でもその鉄筋はびくともしなかった。
とても強い力で突き刺されそう簡単には抜けない。
さらに引き抜こうとすれば激痛が走る。
最早テイマーと言った男にはここで死ぬくらいの未来しか残されていなかった。
この廃工場に人が来る可能性自体少ないし、もし通ったとしてもこの地下室に気付くのは奇跡でも起きない限り無理だろう。
さらに男は知らないが、出入口は鎖で雁字搦めにされている為もう二度とここからは出られない。
ここにはもう人は来ない。
そうとしか考えられないが
「おや?何やら随分とひどくやられたようで。」
彼の目の前に、"人"が現れた。
あたかも前からそこにいたかのような、その男は平然とそこに立っていた。
「ア、アンタは!!」
「如何でしたでしょうか?拙僧特製の御札は。」
「そんなことはいい!!早く俺を助けてくれ!!」
「ふむ…レビューは付けてくれないのですね。拙僧、丹精込めて作ったというのに…。」
男はわざとらしく肩をがくりと落とし、ため息をつく。
何がなんでも今は助けて欲しい男にとって、それは煽りにしか見えなかった。
「とっとと助けろってんだよ!!お前のおかげで大儲け出来たのは感謝してる!だから助けろ!もっと御札を寄越せ!そうすりゃ今度こそあいつらを…!」
「ンン、それは無理ですね。」
「…は?」
男の言ったことを理解するのに、テイマーは少し時間を要した。
「今、なんて…?」
「無理。と言いました。というか助けるのも札を送るのも遠慮します。まぁ拙僧自身貴方のようなお方はあまり好きではありませんので。マスターの慈悲があったからこそ。あなたはそうやっていきがることが出来たのですよ。」
男は…その陰陽師はテイマーを助けなかった。
「今回はたまたま様子見に来ましたが、いやまぁ哀れなもので。盛者必衰。欲に溺れる者もまた滅びゆく運命。ンン、いつの時代も世の常でありましょう。」
そう言い、陰陽師は踵を返す。
それと同時に落とした二枚の御札からは、何かが出てきた。
「おい…どうすんだよ!?なんだよこいつら!!」
「穢れ神。あなたを喰らう者です。」
こちらはちらりとも見ず、陰陽師はそれだけ言いそこから消え去った。
「おい、おい!待てよ!待ってくれ!!」
ケガレガミはヨダレを垂らし、爪を研いでゆっくり、またゆっくりと動けないテイマーへと近付く。
「お願いだ!!頼む!分かった!お前の御札は最高だった!レビューするよ!!星5だ!100点満点だ!!だから助けてくれ!!頼む!!お願いします!!俺はまだここで死にたがっぎゃあああああああああぁぁぁ!!!!!!!」
「源 葵。そしてサーヴァントの紫式部ですか…。」
テイマーの悲鳴が木霊する廃工場。
その1番上。
煙突の上にて陰陽師は悪意のある笑みを浮かべながらそう独り言を漏らした。
「これは面白いことになりそうで!ンンンンン!こうしてはいられない!早くマスターに報告せねば!!」
後書き
謎の陰陽師…一体何屋何満なんだ…?
コラボはこれにておしまい。
コラボ元である八雲ネムさんはこの作品は見ていないでしょうが、これで何か救いになれたらいいなと思います。
傭兵ってのは、人を殺すってのは悪い仕事じゃないんだよ。
誰かのためになる良いことをするってのも、傭兵はできるんだよって言うのを伝えられればクソ作者はそれで満足です。
まぁほぼ自己満なんですけどね。
それはそれてして八雲ネムさん、ハーメルンにて新しい崩壊世界シリーズを書き始めましたね。
なぎこさんこと清少納言がいるんでコラボ申請しに行きたいですがハーメルンには入れませんし何より本人がコラボはしませんって言ってましたね。
ああ、なんとかなしきことか…。
と、お話はここまでにして、
それでは次回でもお会いしましょう。
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